俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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番外編になると途端に解像度が下がってる気がして頭を抱えているので初投稿です。
映画上映が終わってしまう……長い一週間だったなぁ……でもネトフリては引き続き見れますからね!まだ見れてない皆も見よう!超かぐや姫!


32話 Welcome to Earth!

 

 紆余曲折……本当に紆余曲折あったが、彩葉がかぐやと隣にいる為に決意を固めたことで、俺達の研究が本格的に始まった。

 とはいえ、学生の俺達にできることはたかがしれている。照兄さんや帝アキラ──酒寄朝日を頼ることも考えたが、あの二人とて暇では無い。

 当然、必要とあれば手を借りることに躊躇はないが、今はまだ堪える。焦ったとて、それで結果がついてくることは往々にしてないのだ。

 故に俺たちが学生の本分を果たし、理転したことくらいしか大きな変化は無い。

 

「そういえば光、月のテクスチャと通信番号。結局あれはどうなったんだい?無事に目的は達成できた?」

 

「あぁ、改めて見つけてくれて助かった。今はヤチヨの方でそれらをツクヨミの一室に投影して、月との交信を試みている」

 

「月と交信かぁ……なんとも浪漫のある話だね。……ちなみに、ヤチヨさんの手伝いとかって行っても……?」

 

「ツクヨミの一室とはいえ、月のテクスチャを貼り付けるためにデータの深いところまで変えねばならんらしいからな……機密も多かろうし、無理じゃないか?」

 

「そんな……これほど頑張ってデータを展開し、言語を理解し、テクスチャと番号まで見つけ出した僕への報酬は、無いのかい……?」

 

「改めて聞くと凄まじい功績だな……というか、報酬が仕事になるが、それは構わないのか?」

 

「僕の仕事って趣味と実益を兼ねてるからね。むしろ難しければ難しいほど、不思議であれば不思議であるほど燃えるね」

 

「気になったがあまりハッキングし始めたり、権限の一部を盗む者は言うことが違うなぁ……ヤチヨ、どうする?」

 

『うーん、手伝って貰えるなら助かるけどにゃ〜……機密保持、ちゃんと守ってくれる?』

 

「勿論、僕は機密を盗むことはしても、機密を広めることはしないからね。安心して!」

 

「ヤチヨ、信用ならんとは思うが、照兄さんは機密は絶対に守る。行き過ぎた知的好奇心と行動力があるだけで、倫理観も常識もある……あるって言うのか?……まぁ、あるのだ」

 

『ライトの発言で余計不安になっちゃうな〜!……でも、他に手伝えそうな人は居ないし、お願いしようかな。よろしくね、テイル』

 

「任されたよ!さぁ、どこから手を付けようかな〜!」

 

「ヤチヨの指示には従えよ……?」

 

『前途不安なのですー……』

 

 という話をしていたのが1週間ほど前。

 

『▌▌:▃▃▇▂▃▃▄──▃▇▉▌▃▁』

 

「ヤチヨ、なんて言っているか分かるか?」

 

「『確認:ここが地球か、興味深い』だってさ」

 

「そうか……滅茶苦茶色違いのかぐやに見えるが、かぐやではないのだな?」

 

「違う」

 

「違うよ〜」

 

「うむ、彩葉の方が早かったことについては何も言うまい……して、俺達の言葉は伝わるのか?」

 

『回答:支障なし。提示:こちらの言語は理解した』

 

「らしいよ?」

 

「そうか……月の技術は凄いからな、そういうこともあるだろう。……少しだけ整理させてくれ」

 

『許可:許可』

 

「おぉ……うん……ありがとう」

 

 目の前に座るのはヤチヨよりも鈍い白銀の髪を持ち、かぐやのようなあどけなさの残った美貌は無表情に固められている。

 かぐやが月に帰った時の服装よりも、なお豪奢な着物を引き摺る姿はどこか子供らしく感じる。

 かぐやを迎えに来た月人達とは全く違った、人間に近い容貌をした月人。

 ヤチヨの話が正しければ、彼女こそが月の技術屋、オーバーテクノロジーの元、俺達が最も欲していた存在そのもの。

 

 月の姫

 

 かぐやと似た顔をしながらも似ても似つかぬ無表情に感情を宿さない機械チックな返答。月という超技術を持ちながらも温度や味覚のない世界で生きていれば、情緒的な成長が無いだろうから、仕方ないのかもしれないな。

 だとすれば、感情豊かで破天荒の塊だったかぐやは、月人の中では相当浮いていたのだろうな。

 

「……よし、落ち着いた。時間をくれた事、感謝する」

 

『良いよー』

 

「すまない、もう一回落ち着かせてもらってもいいか?」

 

『許すー』

 

 なん、なんだ?

 なんか凄いラフというか、ユルくなってないか?

 さっきまでの機械チックな返答はどこに行ったんだ?俺が落ち着くための数十秒でそこまで学習したとでも言うのか?かがくのちからってすごい……。

 

「ヤチヨ、彩葉、どういうことだ。なぜ話し方が突然変わったんだ?」

 

「いや、私にもわかんない……光が黙ってる間にちょっと話してたら、こんな感じになってて……」

 

「姫って元々月人の中でも浮いてる……というか上位だったけど、こんな感じではなかったかな〜……」

 

「なるほど、原因は分からないと……なら、最早そのような個性として受け入れ流すしかない」

 

 そうだ。冷静に考えれば、話し方が変わったとて問題にはならん。寧ろ、話しやすくなったのだから良い傾向だと思えばいい。

 

「何度も話を遮ってすまなかった」

 

『良いよー』

 

「ありがとう。さて、早速本題に入っても構わないか?」

 

『良いよー』

 

 ツッコまん、ツッコまんぞぉ……!話が進まなくなるからな……!

 

「俺達はかぐや……一か月前に月へ戻った友達との再会を望んでいる。そのために、月の技術を提供して欲しい」

 

『……』

 

 先程までの軽快な返答はなく。光の薄い緑の瞳がじっと俺達のことを見つめている。いや、見定めている。

 

『なぜ?お前たちの言うトモダチは、そこにいる。目的は達成されているはず。なぜ?』

 

「それは……」

 

「それは違う。ここにいるのは、かぐやじゃなくてヤチヨ。かぐやが……私の友達が8000年も待ってくれた、同じだけど同じじゃない人なの」

 

『???』

 

「……こればっかりは感情的なものだからな。説明が難しい。俺たちは今ここに居る未来のかぐやと、俺達と過ごした過去のかぐやを、同時に今に存在させたい。という話だ」

 

『……なるほど、端末が観測した人間と感情というのは、こういうものなのか。理解不能……いや、不思議、だ』

 

「それが、私達人間だからね」

 

「不思議で難儀だが、持ってみると良いものだぞ」

 

「持っちゃったらもう忘れられないよ〜☆」

 

『それは、良いなー。……わかった。月の技術、教えよう』

 

「本当っ!?」

 

「ありがとう!これで大幅に近づけた!」

 

「ありがとう、姫!」

 

『その代わり』

 

 思わず体が強ばる。

 月の技術とは言わば月人にとっての生命線。それはタダでくれてやれるほど軽いものではない。だからこそ、対価が必要である自体ことは考えていた。

 問題は、何を求められるか分からなかったことだ。

 ヤチヨ曰く、そもそも感情が薄い月人に欲求というのはほとんど無い。例外はかぐや自身と、この月の姫くらいのものらしい。

 その月の姫も、全くと言っていいほど外に出ることなく、黙々と新技術を生み出していただけらしいため何を求めてくるか分からないらしい。

 故に、俺達にできるのは応えやすい要求であることを願うことと、交渉だ。頼むぞヤチヨ、彩葉、月人については貴様らの方が詳しいのだからな……!

 

『地球の文化を楽しませてほしい』

 

「……ん?」

 

『地球の文化……より詳しく言うのであれば言語、技術、娯楽、食、歴史、人の積みあげたそれらを体験したい』

 

「食、についてはまだ難しいけど、それ以外なら用意できるかな……」

 

「ツクヨミだからネットにアクセスできるし、ヤチヨ達で色々持ってくるのもできるね」

 

「本当に、それで構わないのか?」

 

『こちらにとっては、その方が重要』

 

 俺達からすれば願ったり叶ったり……彩葉の言う通り食はまだ難しいが、それ以外はツクヨミでも十分に用意できる。その上、いずれは味覚も実装するつもりだ。月の姫の要求に答えることは容易い。

 慈悲と見るか価値観の相違と見るか……いや、単純に地球のことが気になっているだけな気もするな。かぐやも気になったことはすぐに行うタイプだったし、案外似ているのやもしれん。

 

「では、それで行こう。こちらは地球の文化を、そちらは月の技術をこの一室で提供し合う。一室の管理はヤチヨに任せる。これで問題ないか?」

 

「りょー」

 

『りょー』

 

「突然発言が緩くなった理由がわかった気がするな……」

 

「私たちの会話から学習してたわけね……。あっ、月の姫って忙しいのかな?こっちとの時間を合わせるの、難しかったりとか……」

 

『問題なし。そちらの言うかぐやが残していったコピーのように、私にも作業用の機体がある。常にここにいても問題ない』

 

「……そっか、うん。じゃあ良かった」

 

「基本はヤチヨに頼んで色々用意してもらってくれ。俺達も良さそうなものがあれば持ってくる」

 

『りょー』

 

「それじゃあ、早速で悪いけど色々教えてもらおうかな」

 

『任されたー』

 

 こうして、月の姫と俺達の技術と文化の交流が始まった。

 

***

 

『この変数はさっきの式で出た係数を入れて更に計算していけば出る』

 

「……計算量か膨大になりそうだな」

 

 

『これが、古典の世界……いとあわれ』

 

「面白いよね。詩が人を繋いで来たんだよ」

 

 

『地球の音楽は、賑やかー』

 

「いぇーい!まだまだ盛り上げちゃうよー☆」

 

「ヤチヨぉぉ!!!」

 

「いや貴様が夢中になってどうする……」

 

***

 

『ミナモト、私は完全に理解したよ』

 

 月の姫と交流を重ねて2年。大学に進学し、月の技術と既存の技術を合わせることで、無事ツクヨミに味覚を実装できた。

 時代の功労者たる月の姫も随分と自然に話せるようになり、手に持ったプリンとスプーンも相まって自由奔放な姫様感とでもいうものが出てきているように感じる。

 

「何をだ?」

 

『地球、おもろすぎるンゴ』

 

「掲示板を見せたのはヤチヨだな!?後で説教だっ!」

 

 姿形が表情に乏しい色違いのかぐやだというの言動が掲示板に入り浸るあれらと同じとか嫌すぎる……!

 

『冗談だよぉ。いや、掲示板見せてきたのはヤッチョだけどさー。私が強請(ねだ)ったから許したげてー』

 

「それなら、まぁ……それで?突然俺を呼び出してどうした?」

 

『うむ。ここ2年16日8時間16分7……8秒過ごしてわかった、地球は自由で面白い!』

 

「おぉ……秒数まで覚えているのは流石月の姫と言うべきか……それで自由、自由か」

 

『うん、自由。全員が好き勝手動いて、率いて、続いて、駆け上がって、引き摺り落とす。綺麗なところも汚いところも、白黒はっきりしてるようでグチャグチャ。でも、だからこそ尊くて、素敵で、面白い』

 

「……傍から見たらそうなだけで、入ってみれば汚くて目も当てられないかもしれんぞ?」

 

『かもしれない。だから、この傍から見た考えを……想いを、大切にしたい。それもまた、私の自由だと思う』

 

「全く……月にいる姫というのは、皆このような奴ばかりなのか?眩しくて、目も向けられん……」

 

 理想論だとしても、都合の良いところに目を向けているだけだとしても、これほど真っ直ぐに言われては、この星に生きるものとして、胸を張り誇って生きることしかできないではないか。

 

『だからさ、ミナモトやイロハちゃんの願いが叶った後もさ……ここに居て、いいかなぁ?』

 

「何を言うかと思えば……」

 

『……ダメ、かなぁ?』

 

「──良いに決まっているだろう!寧ろ、目的が叶っただけではいさよなら、できる程、俺達が薄情者に見えるか?貴様が帰りたいと言っても、最早帰さんぞ!」

 

『っ!よっしゃー!まだまだ地球を満喫するぞー!』

 

「クハハッ!飽きて腹がいっぱいになるまで楽しみ尽くすが良いわ!人はまだまだ進化する!貴様の言う自由のままになぁ!」

 

『最高じゃん〜!なら、私は地球外知性体として外野から楽しませてもらおうかなぁ』

 

「寂しいことを言うでないわ。勿論、貴様も巻き込んでやるとも」

 

『?でも、私はここでしか居られないじゃん』

 

「地球が楽しすぎて忘れてしまったか?俺達が何のために月の技術を研究していると思っている!」

 

『何って、カグヤちゃんの体を作るため……』

 

「その技術を使えば、ヤチヨや……貴様の体を作ることもできるだろう」

 

『あ、そういうこと……?』

 

「データでは得られぬものも多いぞ?それらを堪能せず、外側から眺めて満足するなんぞ無欲なことを言うでない!」

 

 外から見て自由だと言うのなら、中に紛れて自由の中にある不自由というものを堪能するがいい。そうすれば、いっそう貴様の尊ぶ自由が輝いて見えるだろうさ。

 

「地球はまだまだ広いのだ。この程度で満足していては、勿体ないぞ?」

 

『……はぁ〜、全く。ミナモトはとんでもないことを考えるなぁ。そもそも私、ここにいるように見えて実際は月にいるんだけどぉ?』

 

「貴様が貴様自身のデータを送るなり、件の『元光る竹』に乗ってくるなりすればよかろう。寧ろ、竹に乗って来るなら体を作る必要もないからな。願ったり叶ったりだ」

 

『そんなに簡単に飛ばせるものでも無いんだけどなぁ……まぁ、メンテはしてあるし、地球で言う2世紀くらいの休暇は取れるんだけどさぁ

 

「ならば何時でもくるがいいさ。貴様を匿う程度の場所はあるつもりだぞ?」

 

『……そんなこと言っちゃっていいのぉ?私、マジにしちゃうよ?』

 

「本気も本気だ。貴様も俺の友だ。ならば、友の一人くらい受け入れられず何が俺か!」

 

『アッツ、熱いなぁ……完敗だよ完敗。いつかこっちに来るからさ……その時は、よろしくねぇ』

 

「クハハッ、待っているぞ。……あ、やはりかぐやの体ができてからでもいいか?それまでは少し立て込みまくっているからな」

 

『んぇ〜?!台無しだよミナモトォ!』

 

「すまないとは思っている。だが、事実だからな!許せ!」

 

『はぁ〜……まぁ、いいや。どうせここで交流はできるし、カグヤちゃんの体ができてから考えるよー』

 

「あぁ。いつか、貴様とリアルで出会えることを楽しみにしている」

 

『……ミナモトさ、いつか刺されるよ?』

 

「誰にだ!?」

 

***

 

 結局、研究が難航して7年もかかってしまったが、ようやくかぐやの肉体が完成した。

 それによって狸共との腹の探り合い化かし合いが始まってしまったが、必要経費だ。彩葉やヤチヨに任せる訳にも行くまい。まして、かぐやなど尚更だ。

 あやつらは、8000年と7年ぶりの友情と愛情を堪能すべきなのだ。

 空を見あげれば、夏の夜空が広がっている。

 三日月は青白く輝き、点在する星々はビル群の輝きにも負けない光を放つ。快晴だという今日の天気は、天体観測にピッタリだ。

 

「──む、流れ星か?」

 

 三日月の下を撫でるように白い光が流れていく。

 青緑の奇跡を夜空に残して、流れる星は美しく、ビルの光では太刀打ちできない煌めきを伴っていた。

 

「願い事……ハッピーエンド、ハッピーエンド、ハッピーエンド……なんてな?」

 

 狸や狐に化かし化されを繰り返して疲弊した心が少し癒された。明日もまた、友のために──ハッピーエンドに向けて頑張るとするか。

 

***

 

 ミナモトが家路に着くと、なんと!

 元七色に輝く、ゲーミング電柱なん一筋ありける

 

「……は?」

 

 怪しがりて寄りて見るに、電柱の中光たり

 

「おいおい、まさか──!」

 

 それでミナモトはこう言ったんだよぉ!

 

「──クハハッ!地球へ、ようこそ。月の姫」

 

「ぁーう♡」




コソコソ裏話
月の姫が一番話したのはヤチヨ。ヤチヨの昔話もよく聞いていた。
そのうえで、2番目に長く多く関わっていたのは光。
光が関わりに行ってたのは技術を取り込み、情緒赤ちゃんの月の姫に色々教えてあげたくなっちゃったから。そして、ネットの海の中で比較的な綺麗なところを見せてあげたかったから。
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