俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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上映が終わったら上映が始まるので初投稿です。
最後のファンサかと思ったらかぐやがもう1回し始めたんですが……もう1回!みんなも見よう!超かぐや姫!


33話 Your name is──

33話

 

「さて、無事……無事?竹によって地球に来てもらった訳だが……これ、育てねばならんよな?」

 

「おぅあー!」

 

「あぁ、うん。そうだな。そうだなぁ……よし、彩葉に聞くか」

 

 彼奴も昔はかぐやを育てた訳だし、子育ての先輩として頼るべきだろう。まぁ、高校時代の彼奴には頼れる先輩なんぞいなかった訳だがな!

 

『もしもし、光?どうしたの?』

 

「彩葉、お前は本当に頑張っていたんだなぁ……最近は、無理していないか?」

 

『えっ、何どうしたの?酔ってる?迎えいる?──えっ?何、ミナモト酔ってんのー?──おやおや?今日飲みに行くとは、ヤッチョ聞いてないぞー?』

 

 むっ、脈絡もなく変なことを言ってしまったせいで酔っぱらいと勘違いされてしまった……これから話すことを酔っぱらいの戯言と言われても敵わぬ。

 しっかりと、訂正しておかなければ。

 

「いや、すまん。少し昔を思い出していただけだ。酔ってはいない、気にするな」

 

『そう?ならいいけど……なんか悩んでたら言ってね。私達にできることならなんたってするからさ──ん?彩葉今なんでもって……──ヤチヨ、ストップ』

 

「相変わらずそちらは姦しいな……悩みという訳では無いんだが、少し知恵を貸して欲しくてな」

 

『何?』

 

「赤子ってどうやって育てればいいんだ?」

 

『は???』

 

「えっ、声低、怖……」

 

『何、誰、どこで、いつ?相手は?てか、どうやって?なんで黙ってたの?光、ねぇ、なんで?──ストーップ!彩葉、落ち着いて!!──ラ、ライト!詳しい説明!早くして!彩葉の目が怖いことになってる!!』

 

「お、おぉ。いや、月の姫が『竹』に乗ってきたんだが、赤子の姿でな。子育てが必要だろうと思い、かぐやを育てた経験ある彩葉に聞きたくてな」

 

『ほら!彩葉、月の姫だって!相手いないって!──うんうん!『元光る竹』に乗って月の姫が来ただけだって!──……ホント?』

 

「嘘をつく必要などあるまい。てっきり成熟した状態で来るものかと思っていたが、赤子で来るとはな……俺も予想外だった」

 

『……そういうことなら、私も助けになれそうかな。今家?──良かった〜、落ち着いたよ──彩葉が本気で怒ったら怖いのですー……ライトのことだと尚更』

 

 何故彩葉が怒ったのだ?

 俺に相手がいるわけもあるまいに……いや、こういう時は立場を逆にしてみるのが良い。

 彩葉が突然「赤ちゃんってどうやって育てればいい?」と聞いてきたならば……ついに倫理観がそこまで行ってしまったか…!

 かぐやとヤチヨとの子が欲しいのは分かるが、せめてもう少し時間が欲しかった……!そうすれば体外受精だろうが遺伝子操作だろうが、1人2人くらい誤魔化せると言うのに!

 ……なるほど、彩葉が気にしていたのはこういうことか?

 

「ぃあうぉー」

 

『光?大丈夫?』

 

「む?あぁ、すまん。少し考え事をな。そうだ、今は家にいる」

 

『わかった。それじゃあ、必要そうなもの持って行くから、着いたら連絡する』

 

「ありがとう、助かる」

 

『いいよ、このくらい。──彩葉嬉しそうだねー──ライトに頼ってもらえて嬉しそうなのです〜──あんた達、煩いよ!じゃ、また後でね』

 

「あぁ、また後で」

 

「あぃー」

 

「ふっ、貴様も挨拶か?赤子になったとはいえ、利口さは変わらぬらしいな」

 

「ぅい〜……」

 

 さて、彩葉が助けてくれるとは言うが、どういう助けだろうか?夜泣きの為の人手か、買い出しをしてくれるということなのか……まぁ、その辺だろうか?

 どうにしろ、手伝ってくれるというのは有難い。正直、今こうして抱き抱えているのさえ危ういのだ。これまで赤子を抱いた経験なんそなかったしな……。

 

「一先ず、ベッド……は危ないか?この大きさなら問題ないか。漏らす可能性も考えて複数枚タオルを敷いておいて……」

 

「んあー!ぃあおー!」

 

「あぁ、抱っこがいいのか。よしよし、これでいいかー?」

 

「ぁー♪」

 

「あからさまにご機嫌になりよって……やはり、赤子とは抱っこが好きなのだろうか?」

 

 今更だが、これ月の姫の記憶ってどうなっているんだ?

 記憶がある状態でここまで赤子のフリをしているとは思えないが……『竹』によって記憶に制限がかけられている状態だとかか?あるいは、記憶以上に本能の方が優先されているのか……。

 だが、ヤチヨの話では、ヤチヨ……地球に再度訪れた時のかぐやは記憶を持っていたらしい。『竹』の擬態機能が故障したことで犬DOGEだけがウミウシとして地上に出れたらしいが……だとすれば、わざわざ記憶に制限をかけて赤子として来たということに──

 

「んあぁ!!んあぁぁ!!」

 

「──っと、どうしたどうした?空腹か?それとも便意……は、違うようだな。単純にグズるタイミングだったのか?よーし、よし、大丈夫だぞ」

 

「んあぁぁ!!んあぁぁぁ!!」

 

 ダメそうだな……。こういう時は何が効くんだったか……子守唄、とかか?

 だが、子守唄なんぞ覚えていないぞ?

 

「あぁぁ!!んああぁ!!!」

 

「えーい、要は歌であることが重要なのだ!歌、歌……」

 

 歌……なんぞ突然言われても、パッとは出てこないぞ……!何か、何かないか……?!こう、良い感じの曲!

 部屋を見回し、机の上に置かれた写真立てが目に入る。

 ヤチヨとかぐや、そして彩葉が同じ衣装に身を包み、ツクヨミに作られた青空と青海の中で泣き笑いを浮かべた、あのライブの写真。

 

「しょっちゅう唄を歌ったよ──その時だけのメロディーを──寂しくなんてなかったよ──ちゃんと寂しくなれたから──」

 

 彼奴らにとって、この曲がどれだけの意味を持つかは分からん。

 だが、泣きながら、それ以上に笑いながら、歌い踊った姿は今もまだ耳と目に焼き付いている。

 

「ぅぁ〜……」

 

「ふっ、流石はray……赤子まで寝かせてしまうとは聴きしに勝る名曲よな」

 

 何枚かバスタオルを敷いたベットにそっと横たわらせれば、やや身を捩らせるものの泣くことも無く眠っている。

 

「……まぁ、記憶の有無なんぞ関係ないか。おやすみ、月の姫。……何か、名前を考えてやらねばな」

 

 寝室の電気を消してリビングへ出る。

 ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴る。まるで俺の家をリアルタイムで見ているかのようなタイミングの良さだな。そんなわけもないが。

 

「来たよ、光」

 

「おっす!ミナモト!」

 

「こんばんはー☆」

 

「来たか貴様ら。月の姫は寝ているのでな、少し静かに頼む」

 

「「「はーい……」」」

 

 玄関の先には彩葉とかぐや、ヤチヨが勢揃いしていた。

 彩葉の手には大きめの布袋と小さな袋が1つずつ。上から見える中身はオムツや赤子向けのウェットシート。もう一方は哺乳瓶におしゃぶりだろうか?

 

「色々買ってきてもらったようですまないな。代金は支払おう」

 

「いいよいいよ、そんなに高くなかったし」

 

「そうは言ってもな……」

 

「それよりほら、姫のこと私達にも見せてよ」

 

「はっやくーはっやくー!どんな感じなのか、かぐや気になる〜」

 

「ヤッチョも気になるのですー」

 

「姦しい奴らよな……まぁ、入るがいい。茶を出そう」

 

「「「お邪魔しまーす」」」

 

 ワクワクとした顔が隠しきれていないかぐやとヤチヨがいそいそと寝室に向かっていく。何度も遊びに来ているせいか、最早我が物顔ではないか……まぁ、月の姫に気を使って足音を潜めている以上、何も言うまい。

 

 

「それで、姫は大丈夫なの?」

 

「利口ではあるが、記憶があるようには見えん。制限があるか、フリをしているか……」

 

「制限なんじゃない?周辺に適応するにも、肉体を形成するにも赤ちゃんって都合いいでしょ?」

 

「なるほどな。確かに、赤子の体は小さく脳に比重割ける。負荷を避けるため、記憶の一部を制限するのも理にかなって──」

 

「──ああぁぁ!!!んあぁぁあ!!!!」

 

「あわわわ、ヤ、ヤチヨ!どうしよう、泣いちゃった!?」

 

「だ、抱っこかな?オムツかな?お、お腹すいたとか?!い、彩葉ぁー!」

 

「……お姫様も起きちゃったみたいだね」

 

「持ってきてもらったものを、早速使うことになりそうだな……」

 

***

 

「んぇ〜……」

 

「食う寝る泣くが赤子の仕事とは、よく言ったものだな」

 

 グズった月の姫は空腹だったらしく、彩葉の持ってきた哺乳瓶と粉ミルクが大活躍してくれた。俺だけでは、これらを買うところから始めなければならなかったからな……。

 作った分を全て飲み干して眠気が来たのか、今は俺の腕の中で気の抜けた声を出している。

 

「はぇ〜ミナモトが抱いたらすぐ寝ちゃった」

 

「ヤッチョ達じゃミルクすら飲まなかったのにね〜」

 

「やっぱり、刷り込み的なのもあるのかな?」

 

「さてな……だが、こうも赤子から好かれるというのも、悪くないものだ」

 

「分かるな〜。私もかぐや育ててた時、そう思っちゃったもん」

 

「かぐやは今も彩葉のこと好きだよ!」

 

「はいはい」

 

「勿論、ヤチヨも好きだよ〜。彩葉、嬉しい?」

 

「当然、嬉しいよ」

 

「突然惚気を見せられる俺の気持ちにもなれ、貴様ら……」

 

「んぅ〜……」

 

 心なしか、寝ている月の姫も顔を顰めて呆れた声を出しているぞ……。

 

「てかさー、名前どうすんの?」

 

「確かに。ずっと月の姫や姫じゃ、可哀想だしね〜」

 

「名前なぁ……そりゃ、あるに超したことはなかろうが。しかし、俺達がつけていいものか……本人の意志もあるだろうしなぁ」

 

「いんじゃない?かぐやとか向こうじゃ名前とかなかったから、彩葉につけてもらった時メッッッチャ嬉しかったよ?」

 

「月じゃ名前なんて文化ないからね〜」

 

「姫も、どうせなら光につけて欲しいんじゃない?」

 

「……そういうものか?」

 

「ぅ〜……」

 

 腕の中で眠る月の姫は柔らかい頬をふにゃふにゃと揺らして、是とも非とも付かない反応を返してくる。

 ある意味、自分の趨勢を決める重要な話だと言うのにこうも気の抜ける顔をされると、悩んでいるのが馬鹿らしく感じられるから不思議なものだ。

 

「……まぁ、最悪大きくなって嫌がられたら、自分でつけ直させれば良かろう」

 

「お、じゃあ名前考えよー!先ず、かぐやからね!えーっと……月のお姫様だから月姫(つきひめ)!」

 

「そのままじゃん……」

 

「名付けの意味が薄い名前が来たな……」

 

「吸血鬼が十七分割されそうな名前〜」

 

「ぶぅ〜……じゃあ、次!ヤチヨ!」

 

「うーん……ツクヨミで出会ったから、そこから取って月詠(つくよ)ちゃんなんてどうかな?」

 

「おぉ、可愛い」

 

「雅な名前だな」

 

「いいじゃん〜!かぐやたちと出会った場所が名前になるなんて、なんかエモい!」

 

「ありがと〜☆じゃあ、次は彩葉!」

 

「えっ、私もやるの?うぅーん……今日は月が明るいから、(あかり)とか?」

 

「おぉ……」

 

「無難って感じだ〜」

 

「良い名だと思うぞ」

 

「えぇい、なんか私が滑ったみたいな雰囲気だすな!はい、本命、光!」

 

「むっ、名前、名前か……」

 

 月の技術屋、月の姫、かぐやとは違う姫、月から来た協力者、ツクヨミで出会った、俺の友達。

 うーむ……かぐや達が出した名前でこの辺りは元になったか。その方面で考えると似た名前になりそうだな。

 何がいいだろうか……月の姫が好きな物になぞらえるのはどうだ?いや、彼奴基本的に地球文化が大好きだったな……ふむ、文化から派生して文歌(ふみか)はどうだ?

 うーむ、しっくり来ないな……やはり月に関連するものがいい気がするな。

 月、月か……かぐや姫、月人、夜、満月。

 ふと、帰り道で見上げた夜空を思い出した。

 青緑の軌跡の上に浮かんでいた美しい月が、煌めく流星にも負けない青白い月明かりを持って俺達のことを見下ろし、その足元を照らしていた。

 

「今日は三日月。それと、その美しさにになぞらえて、美月(みつき)、なんてどうだ?」

 

「お、おー!めっちゃいいじゃん!」

 

「すっごく可愛い名前だね〜!」

 

「うん、いいじゃん。美月ちゃん、呼んであげなよ」

 

「……美月。今日から貴様の名前は、美月だ」

 

「んぅ〜」

 

 俺の声に反応したのか、僅かに開いた瞼の隙間からは青緑色の瞳が覗き、照明の明かりを反射させてキラキラと俺を見つめていた。




コソコソ裏話
彩葉が持ってきたベビー用品は締まりかけのベビー用品店でかぐやとヤチヨに全力で指示を出してかき集めたもの。なので、本人達は気づかなかったが店員からはえらく心配されていた。

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