俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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難産だったので初投稿です。
最後のファンサかと思ったら、かぐやがもう1回来るらしい。俺たちは超かぐや姫の掌の上で踊らされている……それも悪くない!
みんなも見よう、超かぐや姫!


34話 8years old──

 

 月の姫──美月が地球に来てから一晩が経過した。

 乳児だった美月は一晩で1歳から2歳程度まで成長し、寝返りはもちろん、ハイハイなどもできるようになっていた。

 

「ふあぁん!ぶぅ〜!」

 

「オムツだな。少し待て」

 

 この一晩でオムツ替えにも慣れてきたな。最初こそ手間取って美月にも泣かれてしまったが、今では彩葉についでスムーズに行える。

 ……何故彩葉あれほどオムツ替えが上手いのだろうか?かぐやの時の名残?だが、それももう7年前のはず……分からんな。

 

「ふぅわ〜」

 

「クク、ご機嫌だな。流石は俺だ。オムツ替えひとつでここまで美月をご機嫌にできてしまった」

 

「……朝から何言ってんの?」

 

「おはよぉ〜」

 

「おはヨロ〜」

 

「3人とも起きたか。おはよう」

 

「あおー」

 

「おはよ光、美月ちゃんもね。朝ごはんまだでしょ?私らが作るよ」

 

「ありがとう。頼んだ」

 

「おっ!料理?そんならかぐやに任せときっ!」

 

「ヤッチョも腕によりをかけちゃうよ〜☆」

 

「うちのキッチンは3人も入れんぞ……」

 

 女子3人よれば姦しいとはよく言ったものだ……だが、今回のような俺1人の手に余る事態では、この姦しさも有難い。

 彩葉曰く、3日もすれば15歳程度にまで成長するらしく、こうして抱き抱えてやるのも後2日……いや、今日の夜までになるのだろうな。

 そう思えば感慨深いというか、物寂しいというか……。

 

「うぁ〜?」

 

「……いや、なんでもない。貴様は健やかたれよ、美月」

 

「ご飯できたよー」

 

「ヤッチョ達渾身の朝食なのです」

 

「献立はかぐやセレクト!まずは朝の力がわかない時でも食べやすいコーンポタージュに生クリームをふんだんに使った甘いフレンチトースト前菜には──」

 

「はいはい、かぐや長いよ。これ、美月ちゃんのミルクね」

 

「おぉ、ありがとう。彩葉、かぐや、ヤチヨ。美味しそうではないか」

 

「もっちろん!出来たてで熱いから、フーフーして食べてね!」

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

「あぅー」

 

 和やかな朝食を済ませ、今後の予定を確認する。

 数日で成長するとはいえ、それまで放置するのも忍びない……というか、それではほぼネグレクトと変わらんではないか。

 

「やはり、最低でも3日は休まざるを得ないか……」

 

「かぐやとヤチヨに世話してもらうことも考えたんだけどね……」

 

「美月ちゃーん、ヤチヨお姉さんとかぐやお姉さんだよ〜?」

 

「ふぇ、あーぅ!!」

 

 ゆっくりと近寄り、笑顔でふたりが声をかけるも、未だ慣れないのか、2人を怖がったのか、美月は俺の肩に顔を埋めてしまった。地味に肩のあたりが湿っているのは、気にしてはならんのだろうな……。

 

「……とまぁ、そんな感じで光にベッタリっぽいしさ。研究の方は私が何とかするし、面談とかは照さんが手伝ってくれるでしょ?」

 

「……そうなるか。全く、照兄さんには頭が上がらんな」

 

「ごめんね、ヤッチョ達も助けになりたかったんだけど……」

 

「なんでかぐや達、こんなに怖がられてるんだろうね?」

 

「元来、人見知りだったのではないか?子供となって、それがより顕著になったか」

 

「なんにせよ、光は美月ちゃんをちゃんと見ててあげてね。丁度いいし、普段休めない分しっかり休んどきなよ」

 

「いや、普段から休んでいるが……」

 

「はい、嘘。普段から仕事持ち帰ってるの知ってるんだからね?」

 

「いや、俺は就労してないし、仕事ではなく研究であって、趣味のようなものなのだが……?」

 

「うわ、ミナモトが社畜の極みみたいなこと言ってる!」

 

「ワーカーホリックなのです……」

 

「兎に角!今は美月ちゃんのことに集中すること!照さんには、私から連絡しておくから」

 

「むぅ……貴様らの気遣いに感謝しよう。ありがとう」

 

 というわけで3日の休みを貰った訳だが、特にすることがないのは事実だ。

 彩葉は研究に、ヤチヨは管理業務に、かぐやは配信準備のために帰っていった。

 朝食の片付けも済ませたし、本当にすることが無い。研究資料も彩葉に持っていかれてしまったしな……。

 

「すー……すー……」

 

「……まぁ、緩りと過ごすとするか」

 

 思えば、人生でこれほどゆったりとした時間はなかった気がするな。

 何かにつけて勉強や運動をしていたし、今はかぐやとヤチヨの肉体を研究している。完全にやることのない時間というのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれん。

 これも貴重な経験だな。美月には感謝してやらねば。

 

「……しかし、暇だな」

 

 30分ほど外からの喧騒や美月の寝息をBGMに茶を啜ってみたが、流石に少し飽きてきた。

 ふむ、最近はあまり触れていなかったからな、絵でも描くとするか。

 タブレットを自室から持ってきて、眠る美月の見えるところで絵を描く。

 線を引き、消して、引いて、整える。重ねて消して整えて、引いて整えて消して引く。その繰り返し。

 漫然と引いてい線を繋いで、構図を導き出していく。偶には、手癖に従った自由な描き方というのも悪くない。

 

「んぅ……!う、あぁー!ああぁー!!」

 

「っと、どうしたどうした?……そうか、オムツか。すぐに変えてやるからな」

 

 いかんな。あのままでは没頭しすぎて周囲に気づかなくなるところだった。描くにしても、落書き程度にするとしよう。

 

「うあ、う?」

 

「おぉ、スッキリしたか。それは何よりだ」

 

「ん〜」

 

「抱っこか?よしよし。……重くなったなぁ」

 

 今朝も抱き抱えてはいたが、やはり昨日よりも大きくなっている。それに伴い、重くもなっている。

 まだ24時間と経っていないが、これほど親心が出てくるとはな……我ながら、単純なものよ。

 

「ぅむ……」

 

「……そうさな、共に、昼寝でもするか」

 

 開け放たれた窓から風が入り、程よい涼しさをもたらしてくれる。

 太陽の眩しさを感じながら、2人揃って早めの昼寝と洒落こんだ。

 

***

 

 昼寝から目覚めてからも、特に何事もなく。絵を描いたり、かぐやの配信を見たりしながら過ごし、1日を終えた。

 

「──お腹空いた。ご飯ちょーだい?」

 

「む……あぁ、今用意する………」

 

 しまった、久方ぶりに昼寝をしたせいか睡眠の質が落ちているな……ミルクを作り損じないよう気をつけねば──

 

「──いや、待て待て待て」

 

「ん〜、どーしたの?」

 

「……いや、うむ。そうだな。成長速度が凄まじいんだったな。あぁ、そうだな。それはいい……服は?」

 

「……おー、破れてんね?」

 

「よし、分かった。そこを動かず少し待っていろ。彩葉……かぐやの予備の服を持ってくる」

 

「んぇ〜、ご飯は?」

 

「その後に用意するから。少し待っていろ、いいな?美月」

 

「ぶー。りょ〜」

 

 危ないところだった。あと少し気づくのが遅れていれば、俺が警察のお世話になるところだった……。

 いや、過剰反応とは思うのだが、流石に小学生の裸体を成人男性が見てしまうのは不味いだろう。こう、倫理観的に。

 こうして友人の置いている服を漁るのもどうかとは思うのだが……まぁ、かぐやだし良いだろう。

 

「ほれ、これに着替えろ。その間に簡単なものを用意する」

 

「はーい。ねね、何作るのー?」

 

「そうさなぁ……卵焼きでも作るとするか」

 

***

 

「──つまり、貴様の記憶は制限されている状態だったと?」

 

「まーね。赤ちゃんの時には殆どなんも覚えてなかったよ。みんなのことが分かるか分からないか曖昧なくらいじゃないかなぁー?」

 

「そうなのか……ふっ」

 

「む、何さー?」

 

「いや何、俺含めた4人の中で俺が一番懐かれていた事が嬉しくてな。無垢な赤子に好かれるというのは、中々どうして良いものだ」

 

「あー……うん、そっか……良かったネ」

 

「む?どうした。妙に歯切れが悪いが」

 

「いやぁー?ナンニモ、ナイヨー?」

 

「そうか?まぁ、何かあれば言うがいい。育てた義理だ、地球にいる間の面倒は見てやるとも」

 

「やったー。1000年くらい居座ろ」

 

「俺も彩葉も死んでおるし、子孫も生きてるか分からない単位が出てきたな……」

 

「ダイジョーブ。最悪、みんなマルっと不老不死にするから」

 

「遠慮しておく。興味はあるが、俺はやはり短くも次に託せる生き方がしたいのでな。ほれ、卵焼きだ」

 

「ちぇー……まぁ、いつかもう一回聞くよ。じゃ、いただきまーす」

 

「何度聞かれても変わらんと思うがな……」

 

「おー!美味しい!!なにこれ、凄い美味しい!何個でも食べれちゃうー!」

 

「クハハッ、存分に食らうがいい」

 

「……なんでだろ、ツクヨミでも現実と変わらないんだろうけどさぁ……なんでこんな美味しいと思うの?」

 

「ふむ……」

 

 データだけを見るのであれば、これまで美月がツクヨミで味わっていたものと、今こうして現実で味わっているものに違いはない。

 当然、コンマ単位でのラグはあるだろうがそれが味に直結しているわけでもあるまい。

 データと物質。仮想と現実。これら2つの大きな差異とは、一体何か。

 

「決まっておろう」

 

「んぇ?」

 

「それはな、貴様が今ここで『生きている』からよ」

 

「いきている……」

 

「数値では表しきれぬ、感情や感覚という曖昧で不確かな物が、確かにそこにあるからこそ味が違うと感じるのだろうよ」

 

「……ツクヨミにいた私は生きてなかったってこと?」

 

「違うな。あの場でも貴様は生きていた。だが、生きる世界が変わったのだ。確かな数値と個人の気持ちという不確かの交わった世界から、不確かな感覚と個人の気持ちという不確かの重なった世界にな」

 

「………」

 

「だから、これから堪能していくがいい。不確か塗れの世界を生きるのは大変だが、最高だぞ?」

 

「……はぁ、もうさ。ミナモトってカッコつけだよねぇ」

 

「むっ、今俺はかなりいい話をしていたと思うのだが?」

 

「分かってるよー。はぁ、その顔じゃなかったら許されない言葉のオンパレードだったよぉ?」

 

「茶化しおってからに……おかわりはいるか?」

 

「ん?あー……無くなっちゃってるや。ミナモトのせいだからねぇー?」

 

「なぜ俺のせいになるのだ!?」

 

「ん〜……私の心を掻き乱したからぁ?」

 

「はぁ?全く、何を言うかと思えば、俺の言葉に掻き乱される貴様が悪い」

 

「あー!そういうこと言っちゃうんだー!いいの?私がここで泣いたら困るのはミナモトだよぉ?」

 

「ぐぬぬ、貴様、そういうのはどこで覚えて来おったのだ……!」

 

「くくく、良きにはからえ〜。……てかさソレ止めてよ」

 

「む?」

 

「その『貴様』ってやつ。私にはさ、ミナモトに貰った大事な名前があるんだよね」

 

 半目になって睨んでいるつもりなのだろうがな……期待に満ちた青緑色の瞳が隠せていないぞ。

 全く、俺の考えた名前を随分と気に入ったようで──嬉しくなってしまうではないか。

 名前とは、親から子に送られる最初にして最大の贈り物……であるならば、それを与えた俺がそれを蔑ろにしているようでは許されんな。

 

「美月」

 

「んっ」

 

「すまんな。やはり呼び慣れなくてな、つい言い慣れた呼び方になってしまった。許してくれ、美月」

 

「ん」

 

「美月?どうした?そんなに俯いて」

 

「いやぁ、うん。なんでもない。ありがとう」

 

「そうか?何かあればすぐにいうがいい」

 

 まぁ、起きたばかりとはいえ既に3時。であるならば、眠くなってきていても仕方はあるまい。

 まして、美月は食べた直後。多少甘めに作ったからな、血糖値が上がって眠くなっておるのやもしれん。

 美月のやつは何やらブツブツと言ってるが……まぁ、何かあれば言うだろう。見てくれこそ小学生だが、あれで月最高の技術者。

 必要とあらば、あらゆるものを使うくらいの豪胆さはあるはずだ。

 

「さて、腹も満たされたろう。そろそろ、寝るとするか」

 

「ん、ん〜……そぉーね」

 

「歯を磨いてくるといい、予備の歯ブラシを置いてある。その間に俺は布団の用意をしておこう」

 

「え、いーよ別に。そこまでしてもらったら悪いしぃ」

 

「布団を出さんと言うなら、美月はどこで寝るつもりだ?」

 

「ミナモトの布団使えば良くないー?」

 

「それは俺の社会的な死が確定してしまう故に却下だな。客人用の布団があるから、それでねるがいい。なんなら、それをそのまま美月の布団にしてもいいぞ」

 

「んー……まぁ、しょうがないか。いいよー、それでダキョーしてあげる」

 

「俺は今何を譲歩されたんだ……?」

 

 よく分からんが、美月は歯を磨きに行ってしまったし、社会的な死は免れたのだ。急いで布団の準備をして、寝るとしよう。

 

「──では、おやすみ。美月」

 

「おやすみー、ミナモト」

 

 思ったよりも気疲れしていたのか、布団に入ってすぐ、眠気が……




コソコソ裏話

「なんかさ、呼んでって言ったのは私だけどさ〜……違うじゃん、ミナモト普段そんな顔しなかったじゃん。なんかさ、調子狂うって言うかさぁ〜……いや、嫌じゃないけどさぁ……なんかさぁ……ズルじゃん?」

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