映画館で再上映が始まった超かぐや姫!私はまだ見に行けていません。なので、皆も見よう!超かぐや姫!
35話
「美月も無事大きくなったことだ。俺も、そろそろ研究に戻るとする」
「えー、家でやればよくない〜?」
「仮にも最先端を走る研究だからな。守秘義務で持ち出せないものも多いのだ」
「それ言い始めると、1番持ち出せちゃ行けないのはミナモトとイロハちゃん自身だと思うナ」
「俺達とて、設備がなければ研究もままならん。……本当に、照兄さんや酒寄朝日には感謝せねばな」
「それはそう。でさぁ、ミナモトが仕事してる間、私って何してればいいのぉ?隣で手伝おっか?」
「ふむ……いや、止めておく。身内だけならともかく、面の皮が張った狸共の目がどこにあるか分からん。一般人と思われるだけならまだしも、美月の知恵に欲の目が眩んだものが現れても事だ」
「ふむぅん……それってさ、ミナモトは私の事心配してくれてるんだァ?」
「当然であろう?貴様は俺にとって大切な存在なのだ」
「んっ、ふーん、へぇ、あ、そうー……ふーん……」
研究の協力者であり、彩葉とかぐやを再会させてくれた恩人であり、月から遥々こちらに来てくれた友人。大切に思い、心配することなんぞ、不思議なことでもあるまい。
とはいえ、せっかく地球に来てくれたというのに引きこもらせてしまうのも勿体ないか。
「……かぐやとヤチヨに頼んで、仕事中は彩葉の家にいるか?」
「ん〜……そうしよっかな。カグヤとヤッチョにもちゃんと挨拶したげたいしね」
「目立たぬよう気をつけるならば、2人と外に出ても構わんからな。楽しんでくるといい」
「お〜、それは嬉しい。チョベリグだぜぇ〜」
「言い回しが古いな……。昼食をとったら出るとしよう。準備をしておけよ」
「りょ〜」
かぐやに連絡を取れば直ぐに了承の返事が帰ってきた。彩葉の方は俺が仕事に戻ることを心配しているようだったが、見てくれこそ8歳前後だが中身は知恵者とも言える月の姫。そうそう問題も起こさんだろう。
ここ2日と午前休みによって体も随分と軽くなった。今日はどこぞの企業との面会もなかったはず……久方ぶりに、研究に没頭するとしようか。
「──美月、忘れ物はないか?」
「だいじょーぶ。ミナモトの方こそ、忘れ物とかない?ハンカチ持った?ティッシュは?行ってきますのちゅーはいる?」
「貴様は俺の母親か……全て持った。問題ない。ちゅーは要らん」
「ちぇ〜……じゃあ、出発〜」
「道の分からん美月が先導してどうする……」
しかし、こうして子供と並んで歩くというのも初めての経験だな。身長はもちろん、歩幅も随分違う。頭一つ以上違うために、しゃがまねばその表情も見えん。
かつて、父や母の見ていた照兄さんや俺の姿とはこんな感じだったのだろうか。
「ん?どした〜ミナモト」
「いや、少しばかり感傷に浸っていただけだ」
少しばかり照れくさいので、美月の頭を撫でて誤魔化す。そういえば、こうして成長してからしっかりと触れてやっていなかった。
中身は俺なんかよりも歳を重ねているのだろうが、折角この世界の肉体を得たのだ。ささやかでも触れ合っておくべきだろう。
手の中に収まりそうなほど小さな頭を優しく撫で、サラリと指の隙間を流れる髪を撫ぜる。
そういえば、子供扱いを嫌がるかと思ったが、随分と静かだな?
「美月、随分と静かだが、大丈夫か?」
「ひゃっ!へっ!?う、うん。だいじょぶ、だいじょぶ」
「そうか。気分が悪くなったりしたら言うんだぞ。今日はそれほどだが、子供には辛い気温かもしれんからな」
「へっ、ヘーキ、ヘーキ。ほら、早くイロハちゃんちに案内してよ!」
「むっ、分かったから押すな!」
***
無事に美月をかぐやとヤチヨに預け、研究室に辿り着いた。
子供姿の美月に騒がしくなった2人に預けることは僅かに不安だったが、邪険にされることはないだろうからな。ある意味で安心だ。
だから、嫌そうな顔をして助けを求めてくる美月を置いてきたとしても、仕方のなかったことなのだ。
……帰りに、何か甘いものでも買って行ってやるか。
「おはようございます」
「あ、源室長。おはようございます」
「おはようございます。源さん」
「おはざまーす」
「おはよう、光」
そこそこの広さがある研究室も、膨大な機材と資料が詰め込まれれば、随分と手狭に感じるものだ。
割り当てられた席に付けば、休みの間に溜まった報告書と研究成果が纏められていた。データ化の激しい昨今だが、こういった人目につけられない成果はまだまだ紙が現役だな。
「そういえば、源室長。この前出てたテレビ見ましたよ。相変わらず堂々としてましたね」
「あぁ、あの生放送の……随分失礼な質問も多かったみたいですけどね……!」
「ま、お上やら狸にとっては何かの粗が出たら万々歳って感じだったんじゃねーですか?あとは、単純に嫉妬とか」
「そんな事で源さんだけじゃなくて、かぐやちゃんやヤチヨちゃんのことまでっ!あ〜!思い出したらムカムカしてきました!」
俺が資料に目を通している間も皆は姦しいものだな。
質問については些か腹も立ったが、特に気にしてはいない。こういう事で腹を立てていては狸共とはやりあえんのだ。
それに、件の放送についてはネットでも相当叩かれていたようだし、上や企業についても随分と株が下がってニュースになっていたはずだ。それで、多少は溜飲も下がるというもの。
「俺はもう気にしておらん。世を見れば、あのような輩、掃いて捨てるほどいるのだからな」
「分かってはいるんですけど……私達の研究と、彩葉さんや源さんの想いを軽く見られてるみたいで……!」
「ほらほら、熱くならない。もう済んだことでしょ?私も、気にしてないからさ」
「んな事言ってる彩葉さんがいっちゃんキレてたんスけどねー」
「あれは怖かった……偶々かぐやさんがいてくれたから落ち着きましたけど、いなかったら考えたくなかったですね」
「減給」
「彩葉さん、この研究見て貰えますか?ここの数値入れたら理想値に近づくんスよ。さっき見つけました。今レポートに纏めてます」
「ボディの素材についてなんですが、より人の動きを再現するのであれば関節部分のパーツに皮膚と同じ合成シリコンを活用して軟骨の役割を持たせる想定で計算しました。結果は好結果を示したかと」
「ん〜……それならこっちの数値の方がいいんじゃない?ここだけ理想値にしても他のところで別の変数生まれそうだしね。ボディの方はいいね。ただ、シリコンだと強度と経年劣化、接続の不安がなぁ……」
「あ〜確かに……別の数値ないか検討し直してみますわ」
「強度と劣化ですか……何とかメンテをするにも上限はありますからね」
「ふむ……であれば、軟骨としての扱いでなはなく、シリコンを繊維状にして筋肉による補強カバーの扱いにしてはどうだ?繊維状ならば経年劣化もしにくく、カバーならば取替も多少は楽になるだろう」
「なるほど……試してみます」
「源さん、この係数なんですが、この数値では誤差が大きくて──」
「であればここは──」
僅か2日程度離れていただけだと言うのに、この喧騒に懐かしさを感じてしまうのはどうしてだろうか……よく考えたら、俺が研究室にいる時って朝と深夜の皆が個人でやってる時くらいだったな。
腹の探り合いも必要なことと分かっているが、やはり俺がしたいのはこういう切磋琢磨する研究、修練なのだ。
とはいえ、室長である以上泣き言ばかりも言っていられない。彩葉とかぐや、ヤチヨの生活を守るため、研究員が研究に集中できる為にも、俺は俺のやるべきことをやるのみだ。
ここのところ、そのことを忘れていたようだからな。初心に帰るには、ちょうどいい頃合いだったのだろう。
「じゃあ、みんな、お疲れ様。休むのも仕事だから、ゆっくり休んでね」
「はい、酒寄副室長もお疲れ様です」
「お疲れ様です、皆さん!」
「お疲れ様でーす」
「うむ、皆、お疲れ様」
さっさと片付けを済まし、部屋を出ていく研究員達を見送る。
他の研究室よりは幾分か定時は遅いが、室長である俺や副室長である彩葉が残業を許していない。故に、我らが研究室は類い稀なるホワイト研究室として業界では有名となっている。
休まずして成果なし。急がば回れ。休むも仕事。かの過労人間であった彩葉からこの言葉達が聞けた時は思わず涙が出てしまったなぁ……俺達の行動は無駄ではなかったのだな。いかん、少し涙が……。
「じゃ、私たちも帰ろっか」
「俺はこの資料だけ完成させて帰るのでな。もう少し後で帰らせてもらう」
「そう言ってアンタは帰らないでしょ。今は美月ちゃんだっているんだし、さっさと帰るよ!」
「キリのいい所まで!キリのいい所までで良い!少しだけやらせてくれー!」
「さっき見たけど、今が1番キリいいところでしょ!考察だの引用文献だの書き始めたら終わらない!ほら!か え る よ !」
「ぬおおぉぉ……!」
***
19時を回っているというのに、空は微かに茜色を残し、ねっとりと顔を叩く風が本格的な夏を感じさせる。
「あつー、すっかり夏だね」
「全くだ。夜風くらいは涼しいままで良いと言うのに……ままならんものだ」
「上手くいかないもんだよねー……。そういえば、今、美月ちゃんって私の家にいるんだよね?お土産とか買っていってあげたら喜ぶかな」
「かぐやとヤチヨが賑やかだったからな……彼奴も疲れているだろう。何か、甘いものでも買っていってやるつもりだ」
「お、いいね。私も、かぐやとヤチヨにかってこうかなー」
途中コンビニで5人分のアイスを買い、帰路に着く。
横を見れば、ウキウキとした表情の彩葉が軽い足取りで歩いている。
7年かかったが、ようやく此奴の隣を埋めることができた。それどころか、もう1席まで埋めてしまえた。
それもこれも、月の姫──美月のおかげだ。
感謝の意と謝罪の意を込めて、美月にはハー○ンダッツのチョコを買ってやった。ツクヨミにいた時から甘味、特にチョコに目のなかった彼奴のことだ。喜ぶだろう。
「ただいまー!」
「お邪魔する」
「彩葉!ミナモト!おかえりー!」
「2人ともおかえり〜!」
「イロハちゃん、ミナモト、おかかー」
出迎えてくれた3人はエプロンを身につけて、部屋からは食欲を唆る匂いが漂ってきている。
「食事の準備中だったか?」
「丁度完成したとこだよ。ミナモトの分もあるから、食べてって!」
「ヤッチョ達の手塩に込めた逸品なのです〜!」
「私も手伝った〜。感謝して食えよ、ミナモトォ〜」
「美味しそうな匂い……ありがとうね。かぐや、ヤチヨ、美月ちゃん」
「デザートにアイスを買ってきたぞ」
「アイス!おっしゃあ!かぐや苺ー!」
「ヤッチョはバニラ〜」
「分かってるよ。ちゃんと買ってきてあるって」
「ミナモト、私の分は?」
「当然ある。特別に、ちょっと高めのチョコアイスだ」
「ふふぅん、よきにはからえ〜」
5人での晩御飯は賑やかなものだった。元々元気の有り余ったかぐやと便乗するヤチヨ、2人に甘い彩葉と楽しいこと好きの美月が集まれば、ただの食事もエンタメ会場に早変わりだ。
それでいて、全員礼儀はしっかりとしているのだから、見ている側としては面白いものだ。
毎日では疲れるやもしれんが、偶にならばこういった賑やかさも悪くない。
それに──
「ミナモト、これ、これめっちゃウマい。かぐやとヤッチョすげぇ〜。ウメぇ〜!」
かぐやの作ったご飯に目を輝かせる美月という珍しいものも見れた。
「そう焦らずとも飯は逃げん。……悔しいが、俺よりもウマいな」
「そう?ミナモトのもウマかったよぉ?」
「ククッ、そう言って貰えるなら料理を作った甲斐が有るというものよ」
「むおっ、急に撫でんなし〜」
「クハハッ、丁度いい位置に頭があるのでな。明日にはもう撫でられんと思えば、ついな?許せ」
「……別に、大きくなっても撫でればいいのに」
「む?何か言ったか?」
「なーんにも。ミナモトそのお肉いらないなら貰うね?」
「なっ!それは最後の楽しみとして置いていたものぉぉ!?」
「ん〜!ご馳走様、ミナモト!」
「クッ……はぁ、他のものにはするなよ?」
「ミナモトだけに決まってんじゃん〜」
「全く……」
まぁ、こうして甘えられるという程度には、気を許してもらっていると考えれば、悪くはないか。
デザートにアイスを食べ、どっぷりと夜闇に溺れた道を歩いて、美月と2人で家に帰る。
「良かったのか?あのまま、彩葉の家で住んでも良かったのだぞ?」
「流石の私でも、あの甘々新婚生活満喫中に挟まれるほど図太くないよ」
「確かにな。あの甘い空気は3日もいれば胃もたれしそうだ」
「ご飯作ってる間も出るわ出るわイロハちゃんへの惚気。お腹いっぱいって感じだったよ」
「ククッ、彼奴らが上手くいっているようで何よりだ」
「そーだね。もう心配もサポートもする必要ないんじゃないのぉ?」
「俺は彩葉に全てを捧げたのだ。今更、その誓いを違えるつもりはない」
「ふーん……そっか。でも、ミナモト自身の幸せとかも考えなね〜?」
「むっ、素晴らしい友人と家族、心地よい職場に恵まれて、既に俺は幸せなのだが……」
「はぁ〜……鈍感、ニブチン、唐変木、源光」
「何故、突然罵倒を!?」
***
「……美月ってさ〜」
美月と光の帰った彩葉の家で、ソファでのんびりとスマホをいじる彩葉に寄りかかったかぐやがボヤく。
「ぜっったい、ミナモトのこと好きだよね」
「あ、やっぱり〜?ヤッチョもそうだろうなって思ってたんだよね」
「あ〜……まぁ、美月ちゃんになる前から、そんな素振りはあったでしょ」
「彩葉はさぁ、怒んないの?」
「怒る?何を?」
「ほら、ライトって彩葉に全部あげたんでしょ?だったら、独占欲的なのがあるのかにゃ〜って」
「流石に光の色恋を邪魔するつもりは無いよ。そんなの、光の告白を振った私がしていい訳ないしね。ただ……」
「「ただ?」」
「
「……彩葉怖ァ」
「愛が重いのです……」
「そんなことないと思うんだけどなぁ……」
コソコソ裏話
「レディの頭を軽率に撫でるとか、ホントにないわー。ミナモトないわー。その上、身長が低いってだけで子供扱いして………いや、肉体的には子供ではあるんだけど、中身は成熟した大人のレディなんだけどぉ?そこんとこ、分かってんのかなぁ……分かってないんだろうなぁ……だから、ちょっと落ち着け心臓モドキ……!」
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