俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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4月5日は綾紬芦花の誕生日!
誕生日書き下ろし見ましたか?私は見て発狂してました。
みんなも超かぐや姫!を見て、描き下ろしを見て、一緒に発狂しよう!


4話 決戦には決着が付き物

 

「──という形で、ここのXにtの式を代入することで、連立方程式が完成しYの値が出るという訳だ」

 

「お〜、これ2回式解かなきゃいけないんだ〜」

 

「彩葉〜、ここの公式ってこれで合ってる?」

 

「ん〜っと……うん、合ってるよ。この文章問題わかりにくいのに早いね」

 

「彩葉ノートのお陰かな」

 

 春も深まり、冬の冷たさを忘れ始めた頃、駅前に鎮座するファミレスにて、光達は冷えたドリンク片手に勉強会を行っていた。

 

「それにしても、源が理系科目得意だったとは……てっきり文系の方が得意だと思ってた」

 

「む、何故だ?」

 

「いや、よく勉強してるのが文系科目だったから、そうなのかな?って思って」

 

「逆だな、酒寄彩葉。苦手だからこそ文系科目を重点的に行うのだ」

 

「あ〜、なるほどね」

 

「ねぇ芦花〜、源くん苦手って言ってるけど小テストは満点だし、確か定期テストも90点後半は出してるよね?」

 

「真美殿、我々一般人に天上の戦いは理解できないものなのですよ」

 

 女子三人集まれば姦しいと言うが、これまで勉強会をする程の友達がいなかったが為にテンションが上がっているボッチも入れば、言わずもがな賑やかとなる。

 最も、全員が良識を持つ者たちなため、周囲に不快感を与えるほどでは無い。

 寧ろ、その突出した容姿によって客も店員も関係なく、目の保養となっている。

 

「「解けた!」」

 

「お、同時だ」

 

「ワークのテスト範囲練習問題、どっちが先に解けるかの勝負は引き分けだね〜」

 

「おのれぇぇ!また引き分けか〜!!」

 

「ふふ、いくら源の得意科目といえど、私も負けてはいられないのですよ」

 

「ていうか、2人とも私達に勉強教えながらでも凄い速度で解いてたもんね」

 

「ね〜、手だけが別の生き物みたいだった〜」

 

 芦花と真美の言葉に照れ笑いを浮かべ、如何にも余裕と言った様子の彩葉だが、彼女に余裕と呼べるものは皆無であった。

 

「(あ、危な〜!?これ、3週目じゃなかったら負けてた!?ていうか、なんで私が躓いた問題をスラスラ解いてんのよ!もしかして2週目……いや、本人が1周目って言ってたし、ノートにも本にも書いてあるところなかったし……ヤバすぎるでしょ、源!)」

 

 憤りとも焦りともとれる感情を胸中で光にぶつける。

 表面上は平静を装えているつもりの彼女だが、額には冷や汗が浮かんでいた。

 

「くっ、では、俺が全員分のドリンクを持って来よう。全員何が飲みたい?」

 

「私コーラで」

「私メロンソーダ〜」

「私はアイスコーヒー」

 

「コーラ、メロンソーダ、アイスコーヒーだな。では持ってくる!あ、ポテトのおかわりを頼んでおいてくれると助かる」

 

「「「了解、いってらー」」」

 

 器用に4つのカップを両手に持ちドリンクバーに向かう光。その後ろ姿眺めてから、3人は束の間の雑談に興じる。

 

「源くんって教えるの上手いよね〜……ノートはすっごい見にくいけど」

 

「そうだね。なんか、自分が読めれば問題ない!みたいな感じのノートだ。源くん頭いいし、彩葉のノートみたいに綺麗に整理されてると思ってた」

 

「多分、源と私じゃ勉強方法違うからノートの作り方も違うんだろうね」

 

「へ〜、どんな風に違うの?」

 

「私は見返した時に分かりやすいように公式だけを簡潔に書いたり演習は別のページにしたりしてるけど、源は公式自体を理解しようとしてるって感じかな?」

 

「それって、凄い大変じゃない〜?」

 

「うん、でも公式への理解が深い分、応用に対して凄く強いよ」

 

 空席の前に広げられている、文字によって黒く染まったノートを見つめながら、彩葉は目を細めた。

 普段から自分に勝負をしかけ、今回は自分から挑戦した相手への警戒と尊敬が混在した瞳は、普段とは異なった光を湛えている。

 

「…………」

 

「芦花〜、戻ってこ〜い」

 

「……はっ、いや、うん。ありがとう、真美」

 

「?どうしたの2人とも?」

 

「戻ったぞ!」

 

 小声で話す芦花と真美を心配して彩葉が声をかけたところで、光が色とりどりのドリンクで満たされたカップを持って帰ってきた。

 

「あ、ありがとう源くん」

 

「ありがとうね〜」

 

「ありがと」

 

「うむ!さて、勉強を再開するとしよう」

 

 昼下がりのファミレス。

 喧騒に紛れて、青春を謳歌する少年少女達の姦しい勉強風景が、暖かな日差しとともに広がっていた。

 

「ところで、貴様らは何の話をしていたんだ?」

 

「源くんのノートは見にくいねって話〜」

 

「何故、そんなに酷い話を??」

 

***

 

「──それでは、始めっ!」

 

 教師の合図と共にペンの音が大きく響く。

 冒頭10数分こそ一斉にペンが机を叩く音が響いていたものの、時間が経つにつれてそれは徐々に減っていく。

 20分もすれば、教室は最初の勢いを忘れ、静寂を生み出していた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 とある2人の生徒を除いては。

 彩葉と光は淀みなく、流れるようにペンを走らせる。

 白紙の答案用紙が次々と埋まっていき、最後の問題も止まることなく解ききった。

 席の関係上、互いの姿は見えないが、それでも止まらない自分以外の音に気づき、その正体も分かりきっていた。

 開始30分。空欄の無くなった答案用紙と数式、検算によって隙間の無くなった問題用紙を見比べ、2人は熟考する。

 

「(勉強会で見た感じ、源なら多分計算問題は満点取ってくる。公式間違いとか計算間違いは絶対にない。なら、私の勝てる隙は文章問題にしかない!)」

 

「(勉強方法を見る限り、徹底的に復習し演習する酒寄彩葉が定型のある文章問題を間違えることはないだろう。だが、公式の使い間違いや計算間違いの可能性は僅かにある。ならば、俺はケアレスミスを無くし、文章問題を満点で通過する!)」

 

 互いの顔が見えない中で、2人は思考の中で相対する。

 勉強会によって互いの学力について理解が深まった故に、自他の有利不利について、誰よりも分かっていた。

 

「──そこまでっ!」

 

 かくして、両者の全力を賭けた数学のテストが終わる。

 一先ず、目の前のテストを乗り越えたことで弛緩する教室の空気において、次なる戦場(教科)に向けて一切の間もなく準備を開始する。

 

「2人とも、凄い迫力だね〜」

 

「ね〜。2人だけ受験してるのかってくらい真剣」

 

「私、受験でもあそこまでの気迫はなかったな〜」

 

「それなぁ」

 

 次の試験科目である現代文に向けて、光と彩葉は教科書やノートを広げ、復習を続ける。

 同じように勉強する生徒はいたが、彼らの集中力を奪う程の圧倒的な迫力で、内容を頭に叩き込んでいく。

 そんな2人を教卓近くから眺める芦花と真美には、2人の真剣な表情が良く見えていた。

 

「でもさ〜……」

 

「うん」

 

「「2人とも、なんか楽しそう」」

 

 教科書のページを捲り、ノートに改めて書き込んでいく2人の表情は、真剣ながらも僅かな笑みを隠しきれてはなかった。

 片や初めてできた対等な友人から挑まれた真剣勝負、片や自分に真正面から関わってきてくれる友人との一騎打ち。

 2人とも、立場や過去に違いはあれど、今はただ、ライバルとして競う友を打ち破るために全力を尽くしていた。

 

「なんだかんだ、2人とも似た者同士だよね〜」

 

「確かに。2人とも、人の事をよく見てるからなぁ」

 

 芦花と真美は自分達のことを忘れて、一心不乱に勉強する2人を見つめて、優しく微笑む。

 

「……よかった」

 

「……そうだね〜」

 

「彩葉、あんな風にも笑えたんだ」

 

「顔色も、前よりちょっと良くなったんじゃない〜?」

 

「私達の作戦、効果あったってこと?」

 

「ってことじゃない〜?」

 

「…………なら、良かったな」

 

「……良かったね。芦花」

 

「──皆さん、席に着いてください。答案用紙を配るので教科書やノートはしまうように」

 

 四者四葉の気持ちを抱えて、テストは進む。

 教室に入ってきた教師の言葉に従い、ガヤガヤと賑やかだった教室は静まり緊張感が高まる。

 

「(源には──)」

「(酒寄彩葉には──)」

 

「「(──絶対に負けない!!)」」

 

「──それでは、始めっ!」

 

***

 

 時は巡り、2人の学生による熾烈を極めた決闘(テスト)から早1週間。

 テストの結果と順位が発表された日の放課後、4人は教室から離れ、いつもの空き教室に集まっていた。

 

「……それじゃ、見るよ」

 

「……うむ」

 

 昼休みには4人による明るい賑やかさの広がる教室も、今は口を乾かせる張り詰めた空気が広がっていた。

 

「な、なんかこっちまでドキドキしてきた〜……」

 

「2人とも、凄い頑張ってたからね」

 

「まずは……数学!」

 

酒寄彩葉100点

源光  100点

 

「先ずは引き分けだね……」

 

「では次に……現代文!」

 

酒寄彩葉100点

源光  98点

 

「くっ、記述部分で落としてしまったか……!」

 

「次は──」

 

 返却されたテスト順に、4人は答案を確認していく。

 早々に2点を落としてしまった光だったが、それ以降は100点が続き、ついに最後のテスト英語を残すのみとなった。

 

「彩葉、ここまで全部満点じゃん……すご〜」

 

「源くんも、現代文は2点落としてたけどそれ以外は全部100点……」

 

「勝敗は、最後の教科にて決まるというわけか」

 

「それじゃあ、最後は……英語!」

 

酒寄彩葉96点

源光  100点

 

「っ……!」

 

「え〜っと、源くんが点数落としてたのって現代文の2点で、彩葉が落としたのが英語の4点ってことは……」

 

「合計点が2点差で、源くんの勝ち……」

 

「…………」

 

 勝敗は決した。

 しかし、空き教室には未だに緊張の糸が残っている。

 彩葉は俯き、光はやや放心気味に天井を見上げている。

 喜ぶでも悲しむでもなく、動きの止まった2人の様子を、芦花と真美は心配そうに見つめることしか出来なかった。

 

「勝った……ククッ、勝ったぞ!」

 

「源くん……?」

 

 静寂とともに緊張を打ち破ったのは、やはりと言うべきか、勝者である光だった。

 

「ようやくだ!負け越していたが、ようやく一勝!もぎ取ってやったぞ!クアーッハッハッハ!」

 

「……おめでとう、源。私の負けだよ……」

 

 立ち上がり、天井に向けて喜びのままに咆哮する光。

 彩葉はそんな光に向けて、美しい笑顔で祝福するが、彩葉と関わってきた3人からすれば、無理をしていることが分かりきっていた。

 

「彩葉……」

 

「源くん……もうちょっとデリカシーって言うかさ〜?」

 

「いや、そんなつもりでは……うむ〜……酒寄彩葉ァ!!」

 

「は、はいっ!?」

 

 喜びの哄笑を収め、端正な顔に剣呑さを宿しながら、俯き気味だった彩葉の名前を叫び、目を合わさせる。

 

「俺達の前で無理にいい顔をするな!俺は、無理矢理な笑顔の祝福より、悔しさで思いっきり泣いて駄々こねてくれた方が嬉しい!なんなら、そんな酒寄彩葉が見たい!」

 

「私は今何の要求をされてるの!??!」

 

「変態光くんだ〜」

 

「変態光くんだー」

 

「えぇい!俺の趣味の話ではない!!自分の気持ちを誤魔化すなと言っているのだ!」

 

「っ!」

 

「分かりやすく意気消沈しておきながら、悲しそうに笑いよって!負けて悲しいのならそう言え!悔しいというなら俺に八つ当たりしてみろ!」

 

「そんなの……!」

 

「貴様の悲しみや八つ当たり程度、受け止められぬ俺ではない!!」

 

 光はドンッと自身の胸を叩き自信満々に宣言する。

 

「…………悔しい」

 

 ポツリと、彩葉の口から弱々しく言葉が零れる。

 

「悔しい……悔しいっ……ほんとに、悔しいっ」

 

 彩葉の綺麗な顔が徐々に歪んでいく。

 

「なにさ2点って……!私だって勝つ為に滅茶苦茶頑張ったのに!って言うか、何であの難しいリスニングで満点取れるん!?」

 

 一度溢れてしまえば、止まることなく言葉が出てきてしまう。

 普段の彩葉が見せない感情が荒ぶる姿に、芦花と真美は目を見開く。

 

「クククッ!それは俺が幼少期から親から嫌という程英語をさせられたからに他ならない!周囲が突然英語しか話さなくなった瞬間は、未だに少しトラウマだ!!」

 

「うわ〜、源家怖〜」

 

「源くんも大変なんだねぇ」

 

「源、なんか、ごめん。アンタも苦労してたのね……」

 

「やめろ貴様ら、哀れまれると虚しくなる……」

 

 最初にあった緊張は既に無く、春の暖かさに似た賑やかな雰囲気が教室に満ち始めていた。

 

「は〜……悔しいっ!なんか、いつも以上に悔しい!!」

 

「クククッ!これほど清々しい勝利も、初めてかもしれんなァ!」

 

「何、嫌味?」

 

「まさか、貴様のおかげだ。酒寄彩葉。貴様が全力で挑んでくれたお陰で、俺も確かな全力を振り絞れた」

 

「……ふん、次は私が勝つ」

 

「1勝1敗11分、次も勝って、俺が勝ち越させてもらう」

 

「ふふふっ……」

「クククッ……!」

 

「また2人の世界に入っちゃったね〜」

 

「そんな甘いものでも無いと思うけどね」

 

 バチバチと視線を弾けさせる光と彩葉、それを眺めて芦花と真美はヤレヤレと首を振る。

 最早テンプレートとなったやり取りが、放課後の空き教室で繰り広げられる。

 

「さて!では、俺の祝勝会としてカフェでおやつと洒落こむとするか!」

 

「お、いいね〜。私、いい所知ってるよ〜」

 

「ふむ、では諫山真美、案内を頼んだ!」

 

「りょうか〜い」

 

「え、ちょっと、私行くなんて言ってないんだけど!」

 

「クククッ!金のことなら気にするな!勝利の美酒は、友と飲んでこそだ!」

 

「こっちには苦渋を飲んでる人もいるんですけどー!?」

 

「細かいことは気にするな!さぁ!行くぞ!!」

 

「ほら、源くんが奢ってくれるらしいし、彩葉今日はバイトも休みなんでしょ?いっしょ行こ?」

 

「早く早く〜、人気だからすぐ埋まっちゃうよ〜?」

 

「ぐ、ぬぬぬ……!はぁ、わかった、わかりましたよ!」

 

 やや自棄(ヤケ)気味に叫び、光達と共に教室を出ていく。

 その表情は憮然としながらも、隠しきれない喜びが仄かな笑顔として浮かび上がっていた。

 人の居なくなった空き教室には、変わらない暖かな日差しが差し込み、芽吹く春と賑やかな夏の種を感じさせていた。




コソコソ裏話
2人は軽率に490点以上を取っていますが、3位の人は合計450点前後なので隔絶した差があります。やば、こいつら……

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