俺が8000年に負けるまでの話   作:凪 瀬

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予約してたノベライズが届いたので初投稿です。
予約しても、届くまで我慢できず、現在我が家には2冊の超かぐや姫!のノベライズがあります。
それほどまでに面白い超かぐや姫!みんなも見よう!


6話 対等ではない大切な友

 

「お、おのれぇぇ!!!」

 

「はーはっは!中間の雪辱、晴らしたりー!」

 

「今回は彩葉が英語で1点落とした以外欠点なしで〜」

 

「源くんが現代文の記述と漢文の漢字問題で2点ずつ落として4点欠点したと」

 

「2勝1敗20分!また勝ち越させていただきましたよ、源殿〜?」

 

「ぐ、ぎぎぎぃ!敗者に、語る言葉は無し……!しかし、やはり悔しいものは悔しい!何故、何故現代文では記述問題が必ず1問は出るのだ……!後、漢文の最後の漢字は一体なんだったのだ!?」

 

「漢文の先生が満点妨害の為に入れたらしいよ。まぁ、彩葉は偶々知ってたらしいけど」

 

「ホント、運が良かったよ……」

 

「運も含めて、今回はリスニングまでしっかり仕上げてきた彩葉の方が1枚上手だったね〜」

 

「おのれ〜!……次は勝ぁつ!!」

 

「次も勝たせて貰うよ?」

 

 春も過ぎ去り、本格的な夏を感じさせる7月上旬。

 期末テストも終わり、開放感と迫る夏休みに学校全体が浮き足だつ中、放課後の空き教室では相変わらず4人が集まり、賑やかに騒いでいた。

 

「じゃあ、私この後バイトだから先に帰るね」

 

「む、それならば俺も帰るか」

 

「私も〜」

 

「じゃ、私も帰ろっと」

 

 日も長くなり、放課後になってもまだまだ太陽が高い中、4人は並んで帰路に着いた。

 

***

 

 この頃は、少し変だ。

 

「やっぱり夏休みって言ったら海じゃない〜?」

 

「いいね、夏休み入ったらまた予定合わせよっか」

 

「ふむ、海ならば穴場を知っているぞ。諫山真美も綾紬芦花も人気のあるインフルエンサーならば、厄介事の種は少ない方がいいだろう」

 

「マジ〜?」

 

「いいの?そんなところ教えちゃって」

 

「何、気にするな、知ってはいてもトレーニング以外で使い道もなかった場所なのだ。それならば、友人達に心置き無く使ってもらった方がいい」

 

「やり〜ありがとう源くん」

 

「本当にありがとうね、源くん」

 

「構わん構わん!」

 

 源の機嫌の良さそうな笑い声が炎天下の街に響く。

 ホント、さっきまであんなに悔しがって荒れてたのに、すぐにケロッとしちゃうんだから。その切り替えの速さを分けて欲しいくらいだ。

 

「酒寄彩葉はどうする?」

 

「えっ、何が?」

 

「私は今度新しい水着買いに行くんだけど、彩葉の水着は大丈夫かなって」

 

「あ〜……多分大丈夫。去年から体型も変わってないしね」

 

「そっか、なら私だけで行こうかな」

 

「ならば、俺も同行しよう。いい加減、水着を新調しなくてはと思っていたんだ」

 

「お〜なら、私も着いていこうかな〜、ついでにみんなでご飯食べよ〜」

 

「もう、また〜?」

 

「諫山真美は全くブレんなぁ……それで、いつ行く?」

 

「ん〜……彩葉、今度の三連休って予定入ってる?」

 

「えっ!?」

 

 しまった、完全に私は関係ない話だと思って油断してた。

 

「えーと……みっちり勉強する、かな」

 

 後、この3日間は6時間以上寝ようと思います。

 

「え〜、私には絶対無理〜」

 

「彩葉、可愛い上に努力家だからなー。もっと休みなよ?」

 

「全くだ、連休くらい休めというのに。体を壊すことはするなよ!」

 

「へへ〜」

 

 なんというか、みんなとの距離が近くなって、私への扱いがずっと分かりやすくなった。

 いっぱい気を使ってもらってるんだとか、いっぱい心配してもらってるんだとか……いっぱい、私に笑って欲しいんだとか。

 それから、お母さんの声が少し減った。ずっと1番を取れてなかった私を責める声が、源と関わって、勝負し始めてから聞こえなくなってきた。

 

──いつだって背後から撃ち抜かれる世界や、気を抜くなんて阿呆のすることやで

 

 でも、源はいつも正面から、私に勝負をしかけてきて、勝っても負けても「もう1回!」って絶対に言ってくる。

 それが、いつも誰かに背中を狙われてるみたいだった私には心地良くて、つい八つ当たりもしてしまった。そんなこと、全然したこと無かったのに。

 源と関わってから、少しづつ、私の日常が変わってきたように感じる。

 

「じゃあ、私はこっちだから。みんな、また明日ね」

 

「じゃあねー彩葉〜」

 

「また明日」

 

「夜更かしはするんじゃないぞ!」

 

「わかってるよ」

 

 最近は、前に比べて少しだけ、よく眠れるから。

 

***

 

「──と、言うわけで、この『ヤチヨカップ』のロゴと宣伝用の動画サムネを描いて欲しいんだ〜!後、概要欄に記載する予定の宣伝文も書いて〜!」

 

「貴様、もしや俺のことを都合のいい何でも屋と思っていないか!?」

 

「お願いだよ、(げん)えもん〜!」

 

「えぇい誰がひみつ道具をだすネコ型ロボットか!というか、期限が残り2週間もないではないか!!そういうのはもう少し余裕を持って連絡しろと言っているだろう!」

 

「ごみーん、でも、天才なライトならやってくれるかなーって信頼してて……」

 

「貴様……はぁ、今回だけだぞ!それで、どんなロゴと構図がいいんだ?」

 

「ありがとう、ライト!えーとね、ロゴはバーンッ!って感じで、サムネはミニヤッチョがロゴの周りをフーッ!って盛り上げてる感じにして欲しくて〜」

 

「ふむ、情報がバーンッ!だけのロゴは分からんが……サムネはこういう構図でいいんだな?」

 

「そうそう!流石ライト、仕事が早い!」

 

「まぁ、お得意様の信用は裏切れんからなぁ!」

 

 ツクヨミにあるとある一室に、男女の笑い声が木霊する。

 片や、若殿のような豪奢な服に身を包み、緑がかった黒髪を逆立たせるひょっとこ面の男。イラストレーターのライト源氏

 片や、ツクヨミの創設者にして管理人。巨大なVR世界を統治する神とも言える権限を持ちながら、電脳の歌姫としても名を馳せる女。8000年生きるAIライバーの月見ヤチヨ

 専属絵師とクライアントという関係性の2人だが、会話の様子は気心のしれた友人同士のそれと似通っていた。

 

「それで?件の配信での発言、どういうつもりだ?」

 

「ん〜なんのことかにゃ〜?」

 

「惚けるな!大事な大事な友人などと……その配信を見た過激派共から追いかけ回され、酒……貴様の熱心なファンだという友達からも八つ当たりされたんだぞ!?」

 

「ライトに私以外の友達ができるなんて……ヤチヨは嬉しいのです」

 

「えぇい!止めんか!俺の家族と同じような反応をしよってからに!」

 

「まぁまぁ、それで?お友達とはどうなったの?」

 

「話をそらすな!貴様の俺のお友達発言についてだ!貴様、そういうのを言うことを躊躇っているのではなかったのか?!」

 

 立ち上がり、ビシりとヤチヨを指し示すひょっとこ面。

 ライト源氏本人は非常に真剣なのだが、ひょっとこ面を被った豪奢な男が、美人なヤチヨを指さしてもトンチキな光景すぎるあまり緊張感に欠けてしまう。

 それもまた、ライト源氏本人が望んだことなのかもしれないが。

 

「ん〜、別に躊躇ってた訳じゃないんだよ?言う機会がなかっただけで。それに、ライトにはいつも頑張ってもらってるし、こうやってお話もしてもらってからね。大事な友達っていうのも過言じゃないでしょ?」

 

「ぐぬぬぬぅ…‎誤魔化されていると分かっていても ܸ嬉しく思ってしまう俺もいるのが悔しい!」

 

「ふふふ〜、いとかわゆし」

 

 ライト源氏は様々な感情を深い溜息ひとつに込めて吐き出し、そのままゴロンと勢いよく畳に寝転がる。

 無防備にも大の字で寝転がり、呻き声をあげるライト源氏に、そろりそろりとヤチヨが近づく。

 

「えいっ☆」

 

「むっ!おい、面を返せ月見ヤチヨ」

 

「ん〜やっぱりライトっていいビジュしてるよねぇ。本格的にライバーはやらないの?」

 

「やるわけないだろう。俺は趣味で絵を描いているだけだ。チャンネルも、貴様との円滑な契約のために作成したに過ぎん。それに、顔だけのライバーなんぞ、面白みもなかろう」

 

「ん〜そうかな?絵も上手いし話も上手だし、ライトならいい所まで行きそうだけどな〜」

 

「ふん、世界に誇るツクヨミのトップライバーたる貴様にそう言ってもらえて光栄だ。それと、いい加減返せっ!」

 

「ありゃ、もっとライトの顔見たかったのにな〜」

 

「本日はもう売り切れだ」

 

 投げやりに言って、面を付け直したライト源氏は宙に出した白紙のスケッチにロゴのラフを、あーでもないこーてもないと描いていく。

 

「も〜、ホントに言ってるのに。…………ねぇ」

 

「なんだ?」

 

現実(むこう)のお友達とは、仲良くできてる?」

 

 思ってもみなかった質問に、ひょっとこ面が揺れる。

 いくつかのラフが描かれたスケッチを指のひと鳴りで仕舞い、胡座をかいてヤチヨに向き直る。

 

「また、随分と急な質問だな」

 

「ん〜、最近、ライトが楽しそうだから気になっちゃって」

 

「ふむ、そうか。……仲良くできているか、か。俺としては仲良くできていると思っている。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……如何せん、難儀な奴と友達になってしまってな。どうしたものかと頭を抱えている」

 

 苦々しげにそう零したライト源氏に、ヤチヨは心底驚いた様子で目を見開き、着物の袖口で口を隠す。

 

「……ライトが弱音を吐くなんて、珍しいね」

 

「そのくらい難儀な奴ということだ。俺と同程度の能力を持ちながら、無理と無茶を重ねて限界になっている。その上、俺達の言葉を聞きやしない」

 

「…………」

 

「しかもだ、踏み込み過ぎれば、俺達の心配や気遣いが心労になり、ギリギリ保っているバランスを崩してしまいかねないという難しさ……全く、どうしたものか……」

 

「……その友達のこと、大好きなんだね」

 

 ヤチヨは、酷く優しげな表情で言う。

 親が子を見るような、大切なものを見守るような、かつてを懐かしむような、優しげな表情。

 しかし、その笑みには優しさや懐かしさ以外にも、どこか悲しさや寂しさのような感情も含まれていた。

 友達のことで頭を悩ませるライト源氏は、その事に気づきもしなかったが。

 

「当然だ!俺にできた唯一対等な友!そして、不器用な俺と笑って話してくれる友たち!好きにならないわけがないだろう」

 

「……そっか、良かったね」

 

「……無論、貴様もその1人だ」

 

「え?」

 

「何処にいても、何処にもいなかった俺に最初に手を差し伸べてくれたのは他ならない貴様だ。対等、とは言えんが……貴様もまた、俺の大切な友人だ」

 

「っ……もう、なぁに?急にそんなこと言って、ヤッチョ、照れちゃうな」

 

「いや、勘違いかもしれんが、少し貴様が寂しそうだったからな。それに、配信で友人関係を暴露されたことを怒ったのであって、友人関係自体は、疑いようもないことを伝えておきたかった」

 

「……ホント、ライトは正直だねぇ」

 

 ふわりと宙を泳いでライト源氏の下に向かうと、その頭を優しく撫でる。

 あくまで電子の世界であるツクヨミに触覚や嗅覚は無い。

 しかし、ライト源氏にはヤチヨの手の暖かさが確かに感じられた。

 しばし、一室には無言が広がる。頭を撫でるヤチヨの袖がライト源氏の髪にすれて響くささやかな音と、外から聞こえる賑やかなツクヨミの音が2人にはよく聞こえていた。

 

「そろそろ配信の時間だ」

 

「もうそんな時間か。では、お暇するとしよう。依頼の進捗についてはまた連絡する。貴様も追加の要望があれば連絡してくれ」

 

「りょー。いつも、ありがとうね。配信でも待ってるよ」

 

「ふん、気が向いたら見てやるとも。ではな!」

 

 そう言い残して、ライト源氏──光は緑色の粒子となってツクヨミからログアウトした。

 2人が座っていた一室は、1人抜けただけでガランと広く寂しげで、中央に座るヤチヨだけが取り残されたかのようだった。

 

「またね……光」

 

 誰もいなくなった視線の先にそう言って、ヤチヨもまた世界に溶けるように透けて、部屋から消えた。

 30分にも満たないツクヨミ(仮想)での邂逅は、あっさりと、呆気なく終わった。

 

***

 

「しかし、ヤチヨカップか……」

 

 全ライバー対照で、期間中最も新規ファン獲得数が多い者と月見ヤチヨによるコラボライブ。

 『月見ヤチヨ』というライバーにとって一世一代とも言える企画のロゴを、組織に所属せず、趣味として細々と描いていた俺に任せてくれるとは。

 

『──いい絵を描くね。君、私の絵を描いてよ』

 

「全く、人生とはままならんものだ」

 

 大型タブレットに映っていた白紙のページは既に猥雑なラフで埋まっている。

 出せる初期案は全て出し尽くした。当然、既存のロゴに酷似したものもある。

 これらを分別、精査しながら、細部を詰めていく。ここで少しでもどこかの企業のロゴに寄ってしまえば、それは俺だけでなく月見ヤチヨの評価にも関わる。

 

「まぁ、いつもの事だ」

 

 趣味とはいえ、依頼料は貰っている。

 そして、それ以上に、友達が信用して頼ってきてくれたのだ。応えない理由は、無い。

 

「今日は……これにするか」

 

 思考のスイッチを切り替えるために、音楽アプリの再生ボタンをタップする。

 

『埃を被ったノート、中身なんて──』

 

「さぁ、やるか」

 

 夜の帳に逆らうタブレットの光の上で、ペンが軽やかに舞い広がった。




コソコソ裏話
源くんはヤチヨとの友人関係を基本的に隠しているが、それはヤチヨに迷惑がかからないようにというのが8割、面倒事に巻き込まれたくないが1割、照れが1割という善性の高さ。やだ、イケメソ……

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