現在、映画館では5週連続で特別なウェルカムアナウンスが聞けるチャンス。これを機に、超かぐや姫!を見よう!
「明日から三連休か〜、結局なんの予定も決めなかったね〜」
「まぁ、いいんじゃない?夏休みもすぐなんだし、三連休はみんなゆっくりしようよ」
目前に迫る三連休と夏休みに学生が喜ぶ中。
夏の日差しが容赦なく入り込む昼休みの空き教室では、相も変わらず4人が集まっていた。
「……にしても、彩葉はともかく源くんも寝るなんて珍しいね」
「……む、俺の名を呼んだか?」
「大丈夫、寝てていいよ〜」
「そうか、では、もう少し寝る……」
とはいえ、彩葉は芦花と真美によって強制膝枕からの仮眠という恒例行事を行い夢の中。それを見届けた後、光も座りながら仮眠を取り始めてしまったので、話しているのは芦花と真美だけになってしまった。
「なんか、今日は睡眠時間が足りなかったらしいよ〜。依頼がどうのって聞いた〜」
「あ〜、そっちのお仕事が忙しいのか。源くんも大変だね」
「彩葉みたいな『完璧少女』じゃないけど、源くんも十分『絶対王者』のイメージあるからね〜」
「それも、彩葉と関わってからは薄くなってきてるらしいけどね」
ほぼ1年間1位の座を譲らなかった勉学の頂点にして、運動でも他の追随を許さない結果を残し、美術では圧倒的なセンスと経験に裏打ちされた精密さを見せる。
誰が言ったか『絶対王者』
友を作らず、孤高に己を高め続ける光を称して、他学生が作った異名。
本人の放つ踏み込ませない雰囲気や尊大な口調も相まって、その異名は瞬く間に浸透していき、隠れ臣下のグループもあるらしい。
「2年になってから、随分変わったなぁ……」
芦花は、膝の上で眠る彩葉の額をそっと撫でる。
かつては見せてくれなかった無防備な寝顔を見れることの喜びと、膝枕出来る優越感と高揚感。
色々な感情に高鳴る心臓の音が、眠る彩葉に届かないよう祈りながら彩葉の目元を撫でる。
「前は、もっと隈凄かったよね」
「私たちの前でも寝てくれるようになったしね〜」
「うん、これも源くんのおかげかな」
「本人は、『綾紬芦花と諫山真美がいなければ、ここまで上手くいかなかった』なんて言いそうだけどね〜」
「言いそう、てか言ってたしね」
「……源くんも、いい人だよね〜」
「そうだね、ずっと仲良くできたらいいな」
「む、ノンノンだよ芦花〜。こういう時は、ずっと仲良くします!って言わなきゃ」
「そうだぞ。俺は貴様たちとずっと仲良くするつもり満々だからな」
「源くんっ!?お、起きてたの?」
「今しがた起きた。なんとも、気恥しい話をしているな、貴様らは」
言いながら、伸びをする光の顔は微かに赤が差し、努めて芦花と真美の方を見ないようストレッチを繰り返していた。
「もしかして……」
「照れてるんだ〜」
「むっ!?違うが?照れてなんかないが?」
「珍しい〜、源くんが照れてるところなんて初めて見た〜」
「ねー、普段は照れさせる側だから初めて見た」
「それも、自分が褒められてとかじゃなくて、友達とずっと仲良くしたいって言われたからって……」
「「可愛いとこあんじゃん〜」」
「止めんか!俺の尊厳を粉々にしよって、この話は終わりだ終わり!そろそろ予鈴がなる。酒寄彩葉を起こして、教室に戻るぞ!」
「あっ、ちょっと待ってよ〜。今片付けるからさ」
「彩葉、起きて。そろそろ昼休み終わるよー」
「んっ、ろかぁ……?もうちょっとだけ寝たい……」
「ンッッ!も、もう……後5分だけね」
「諫山真美、あ奴らを引っぱたいて目を覚まさせてやれ。このままだと永遠にああしてるぞ」
「やれやれ、手のかかる娘っ子達ですな〜。ほらぁ!彩葉、起きないと授業遅刻しちゃうよ〜!芦花も、甘やかさない〜」
「で、でも彩葉疲れてるし……ちょっとくらいは、いいかなって」
「そこに私情が無いと言えますか?」
「……彩葉、起きよっか」
「貴様、それでいいのか綾紬芦花……」
「ん〜……おはよう、みんな」
「「「おはよう」」」
4人で空き教室を片付け、予鈴がなる前に教室を出る。
また、いつも通りの午後が始まる。
***
「へ、へへ……ようやく三連休がやってまいりやした。久しぶりに1日6時間は寝れる……」
学校も終わり、木曜の激務となったバイトを乗り越え、疲れた体を引き摺るように彩葉は夜の道を歩く。
ふと足を止め、僅かに活力の残った自分の体をしげしげと眺める。
「……みんなのおかげで、ちょっとだけ元気だ」
疲労が色濃く残りながらも、月を見上げ、微かに口角を上げるだけの気力は残っている。
寝つきが改善され、昼休みに光達によって栄養のあるものを食べさせられ、仮眠を取るようになったことで、疲労が多少軽減された結果である。
──誰かの手を借りることが前提なんて、そんな情けないことないで
脳の奥から冷水を浴びせられるような感覚。
頭の奥が冷え込み、痛みさえも感じられるそれから目をそらすため、慌ててイヤホンを付ける。
流す曲は月見ヤチヨの『Remember』──彩葉が辛い時、苦しい時に寄り添い、道行を支えてきてくれた大切な曲。
『大切なメロディは流れてるよ──あなたのはーとに──』
聴きながら、空を見上げると暗い夜空に白い穴を開けたような月が彩葉を見守るように光を放っていた。
「綺麗……」
素直に、彩葉は零した。
刹那、月の下を一筋の光が流れ落ちていく。
「あっ!流れ星!」
「願い事願い事!」
「帝様の願いが叶いますように!」
彩葉もまた、周囲の声に弾かれるように手を握り、夜空を割く流れ星に願い事をする。
──神頼みするやつなんて阿呆や
再び、脳に溢れた母の声を無視するように強く目を瞑り、願い事を口にする。
「か、金ぇ……」
あまりにも女子高生らしくない……いや、ある種誰より女子高生らしい俗な願い事を口にし、自嘲気味に乾いた笑みを携えて彩葉は帰路に着く。
普段よりも少しゆっくりと重い体を左右に揺らして歩く彩葉を、流星は飛び越える。
──かくして、限界ギリなハイスペ少女は人生を狂わせる運命と出会うことになる。
***
「──ひとまず、ロゴとサムネの仕上げ前として提出するのは以上になる。今ならまだ細部を作り替えることは可能だが、どうする?」
「……うん!大丈夫!このまま完成までいっちゃって」
「了解した。……ところで月見ヤチヨ、貴様、何かあったか?」
「いやぁ、もうすぐヤチヨカップが始まるから、ヤッチョはその準備でてんてこマイマイなのですよ〜」
「まぁ、これほどの規模だ。良からぬことを考える者もいるかもしれん……となれば、慎重に進めるのは当然だろうな」
「そうそう。これはヤチヨにとっても大事なイベントだからね、絶対成功させたいんだ」
「………」
「あ、だから他言無用を厳守だからね!言いふらしちゃったら、ライトのお家にこわぁい黒服さんが行っちゃうよ」
「誰が話すか!俺はそこまで常識のない人間でもなければ、愚か者でもないわ!」
以前と変わらない和室の中で、騒ぎ始めたライト源氏にヤチヨはコロコロと笑う。
自身の抗議を聞いている様子もないヤチヨに大きな溜め息をついてドカりと畳に座り込む。そして、目の前に座るヤチヨをじっと見つめ始めた。
「なになに、ライトもヤッチョとコラボライブしたくなっちゃった?」
「いや、なんというか、今日の貴様はイヤに緊張しているように見えてな」
ピクリと、ヤチヨの目が揺れる。
「そうかな〜?ヤッチョはいつも通りの余裕ありまくりな完璧お姉さんなんだけど」
「月見ヤチヨにいつも余裕があるかどうかは置いておくが……何か、懸念材料でもあるのか?」
「ん〜……」
ヤチヨは困ったように目を逸らす。
ツクヨミという巨大な仮想世界を完璧に管理し、歌姫として盛り上げ、トップライバーとして『今』を共有する彼女には、当然余人には話せないことも多い。
沈黙を持って場を濁すヤチヨに、ライト源氏は目を離し溜息をついてから軽く手を振った。
「……止めておく。貴様のことだ、俺に話せぬ事もあるんだろう」
「うん、ごめんね〜。話してあげられなくて。かなり個人的なことだからさ」
「よい。お前がそう判断するということは、それが必要なことなのだろう。だが、もし何か助けが必要になったのなら言うといい、俺にできるだけのことはしよう」
「うん、ありがとう。頼りにしてるよ」
賑やかなツクヨミの声が2人のいる和室にまで聞こえてくる。
ヤチヨは目を閉じて、彼ら彼女らの楽しげな声に耳を傾け、柔らかに微笑む。
ライト源氏もそれに習って、目を閉じてツクヨミに耳を澄ます。
賑やかな笑い声や、推しに投げる声援。誰かの路上ライブでの歌声や手拍子が聞こえては紛れ、揺れては産まれる。さざ波のような不安定なそれは、ひとつの大きな渦となって、和室にまで届いていた。
「……ねぇ、ライト」
「なんだ?」
「何があっても、お友達と仲良くしてあげてね」
ライト源氏が目を開ければ、そこにヤチヨはいなかった。
「……言いたいことだけ言って行きおって」
ひょっとこ面の中で、苦い顔をする。
仮想世界を自由に泳ぐ歌姫は、思わせぶりで意味深で、心に不穏な影を落として消えてゆく。
しかし、その声は、顔を見ずとも微笑んでいると分かるほど優しくて、ライト源氏は何だかんだと溜息をついて、許してしまう。
「全く……言われずとも、仲良くするつもりだ」
告げる相手も居なくなった和室に言伝を残して、ライト源氏も緑の粒子となって部屋から消えていった。
***
「結局、今日も彩葉は来なかったね〜」
「ホントに三連休勉強漬けだったのかもね」
「彼奴ならやりかねんという嫌な信頼があるな……」
草木も眠る丑三つ時……と言うには些か早いが、それでも十分に深夜と言える時間帯でも、ツクヨミは賑やかだ。
寧ろ、夜が深まるこの時間こそ、最も賑やかだったりするのだろうか?
「源くんは三連休何してたの〜?」
「日課をこなしつつ依頼を進めていたな。2人は、どこかへ行ったのか?」
「特には行ってないな、ちょっと美容品を見に行ったけど、それくらい」
「私は彼氏とデートしに行ったかな〜。カフェで食べたパフェが美味しくってさ〜」
「ふむ、良い休日を送れたようで何よりだ。やはり、懸念は酒……iroiroになるな」
「普通に彩葉って呼べばいいのに」
「強情だな〜」
「何時どこで誰が聞いているかも分からないのがインターネットだ。リテラシーを徹底するに越したことはない」
寧ろ、貴様らインフルエンサーなのに危機感が足りないのではないかと、俺は思うのだが……。
「リテラシーって言うなら、そのひょっとこ面外せばいいのに〜。またヤチヨのファンに追いかけられたんでしょ〜?」
「奴らに関しては最早俺で遊んでいるだけだろう。毎度追いかけてくるくせに、DMで謝罪と応援コメントが届くせいで、怒るに怒れなくなっている。それに、貴様らといる時は、見かけても追いかけてもこないしな」
「なんというか、調教されているというか……」
「まぁ、良識ある人達ばっかりで良かったじゃん」
「良識があるならそもそも追いかけないで欲しいがな……む、そろそろ時間か」
「ありゃりゃ、彩葉とは3日間会えずじまいか〜」
「明日会えるし、新しくできたカフェにも行くんでしょ?そこで色々労ってあげようよ」
「その通りだ。そのためにも、今日は早急に寝るとしよう」
「ラシャ〜。じゃ、落ちるね。おやすみ〜」
「おやすみ〜また明日ね」
「さらばだ2人とも、また明日」
目の前で2人が消えた。が、どうにも、同じタイミングでログアウトする気にならない。
やはり、一昨日、月見ヤチヨの言っていた言葉が引っかかっているのだろうか?あるいは、姿を見せず連絡も寄越さない酒寄彩葉が気がかりなのか……。あるいはその両方か。
「分からんものだ……」
こういう時ばかりは、己の対人経験の浅さを恨む。
どうするのが正解なのか、どうするのが間違いなのかが分からん。いや、そもそも正解も間違いも存在するのかすら分からない。
いっそ、この思考自体がズレているようにも感じる。まぁ、俺にはそのズレさえも正確かは分からんのだがな。
まさか、俺がこれほど他人に対して意識を割き、慮るようになるとは……人生、どうなるか分からんものだ。
「……寝る前に、絵でも描くか」
時刻は12時過ぎ、そろそろ眠るべきだが、眠気は一向にやってこない。煩雑化する思考を変えるためにも、気分転換することにしよう。
人のいない一室を借り、ツクヨミの喧騒をBGMにペンを動かす。
固まっていた思考がペンの音と祭り囃子に溶けていき、眠気も次第にやってくる。
そのうち、眠りを知らないツクヨミから抜け出して、草木も眠るリアルに戻り、布団に入る。
そうすれば、意識は次第に──落ち──。
コソコソ裏話
彩葉達と友達になって、光の察しの良さには磨きがかかっています。
ただ、対人経験の少なさを自覚しているため、判断に自信を持ててないだけです。多分、ヤチヨの緊張を察せられる人はヤチヨ本人か真実を知った後の彩葉くらいだと思います。なんでコイツ、初期地点からこんなオーバースペックなの……?