サンプル時点で既に面白いウェルカムボイス。そして、印刷の綺麗な特典。これを機会に、みんなも見よう超かぐや姫!
「源は東大か……今のペースでいけば、十分可能性はあるよ」
「どうも、ありがとうございます」
「……酒寄達とは、仲良くできてる?」
「えぇ、彼女達は全員が優しいですから」
「そうか……酒寄のこと、よく見てやってくれるかな?」
「目の届く範囲であれば、しっかりと」
「……源も、体と心には気をつけるようにね」
「ご心配痛み入ります。では、失礼します」
相変わらず、人のことをよく見ているな、立花先生は。
穏やかだが、どこか底知れなさを感じるという点では、照兄さんと似たようなところを感じる。まぁ、照兄さんよりも歳を重ね、多くの生徒を見ている分、立花先生の方が見通す力というか見透す力は強いと感じるがな。
「む、何だ酒寄彩葉、職員室の前で待つとは。さては、出待ちのファンか?」
「違うわ!私も立花先生に呼ばれてんのっ!」
「そうだったのか。……貴様も、進路希望調査か?」
「そうだけど……も、ってことは源も?」
「あぁ、頑張るようにと激励されてな」
「源が頑張らないといけない場所って何処よ……東大?」
「素晴らしいな!大正解だ!」
「当たってんのかよー……はぁ、じゃ、私は行くから」
「あぁ、引き止めて悪かった」
ふむ……授業中は平静な様子だったが、顔を合わせて話してみると疲れているのが分かるな。
まぁ、今日は諫山真美と綾紬芦花がカフェでゆっくりとさせると言っていたし、そこで多少休ませればいいか。
……ついでに、休みの日の食生活についても追求すべきだな。
「む、靴箱前で
「先生に呼び出されてる源くんよりは真面目です〜」
「彩葉を待ってるだけですー」
「ふむ、では俺もここで待つとしよう」
「やーい、不良生徒〜」
「随分不良になったね、源くん」
「俺が標的になった途端、好き勝手いいよってからに貴様ら!」
3人でぎゃいのぎゃいの騒いでいれば自然と時間は過ぎ去り、気づけば目当ての酒寄彩葉がやってきた。
「へ〜い、そこの彼女〜、今から一緒に帰らな〜い?」
「今なら美少女2人とイケメン1人が着いてくるよー」
「これは一緒に帰らないという選択肢がないなっ!」
「いや、急に何やってるの3人で……」
「「「悪ノリ」」」
「仲良しかっ!?」
「仲良しだが?」
「あ、うん」
なんだ、なぜ急に冷静になる?俺としては至極当然のことを言った迄なんだが……。まさか、別に仲良しとかではなかったのか!?俺だけが、そう思っていたのか?!
「俺達は仲良しだよな!綾紬芦花、諫山真美、酒寄彩葉!」
「突然何!?」
「仲良しだよ〜当たり前じゃん〜」
「ちゃんと仲良しだから安心しなー」
そうなのか、俺の早合点だったか。いやぁ全く、貴様らが変な反応するから焦ってしまったではないか。寿命が3年ほど縮まったぞ。
「なんだったの急に……」
「源くんがおかしいのは今に始まったことじゃないでしょ?」
「気にせず行こ〜。彩葉は、連休どーでした〜?」
「俺の扱いについて些か問いただしたいところだが……十分な休息はとれたのか?酒寄彩葉」
「いや〜、突然の嵐に揉まれててさ〜……連絡返す暇もなかったよ……」
こやつ、流れるように何かを誤魔化したな……。流石にこれだけ関わっていれば、そのくらいは分かるぞ?
近くを歩く綾紬芦花を見れば、目が合った。どうやら、彼奴も酒寄彩葉が誤魔化していることには気づいたようだな。恐らく、諫山真美も。
「ま、とりあえず帰ろー」
「かえろ〜」
「積もる話は、歩きながらするとしよう」
誤魔化すということは、聞かれたくないということ。
ある種、普段の遠慮よりも明確な拒絶は、俺達にとって分かりやすく、踏み込まないという判断をするのは自明の理である。
夏真っ盛り、照りつける太陽の日差しは、容赦なく俺たちを包み、体力を奪っていく。しかし、夏の空気と快晴が生命力を与えてくれるかのようだ。
「彩葉は進路どうするの?」
「音楽系でしょ〜?それかeスポーツとか〜?」
「その美貌を持って案外美容系という選択肢もあるな」
「もー、私にそんな才能ないよ〜。それに、最低限東大にはいかないと親が認めてくれなさそうなんだよね」
「最低ラインがそこ?厳しー」
「私なんかでろでろに甘やかされてるな〜」
「ふむ、つまり今のままだと俺と酒寄彩葉の進路は重なるのか……では、その時が来た時はどちらが首席を取れるか勝負だ!」
「私達が受かることは前提条件かーい」
「ふっ、俺と酒寄彩葉の能を持ってすれば、首席を目指すことも不可能では無いだろう!」
「お〜相変わらずの自信家〜」
「いや、私もなんか巻き込まれてるんですけど?!」
「彩葉は可愛い上に賢いからいけちゃうよ」
「も〜!」
しかし、親の認める最低限のラインが東大とは、随分と酒寄彩葉に期待をかけているようだな。あるいは、本人がそうでなければ親から認められないと考えているか……。いや、不要な詮索はよすとしよう。
どうなるかは分からんが、重なった進路で更に勝負できるかもしれんのだ。これを喜ばん理由はない!
「でも、彩葉頑張りすぎだよ?もっと休め休め、正論パンチしゅっしゅっ」
「あはは、休みます休みます」
「いーや、酒寄彩葉はそう言って自分からは休まん。これまでの前科がそう物語っている。故に、俺達が無理矢理にでも休ませねばならん!」
「そうだそうだ〜!」
「私の言葉に信用が無さすぎる!?」
貴様の行動を信頼しておるだけだ。たわけめ。
「この辺りだっけ〜?」
「うん、そこの階段上ったとこ。彩葉、おいでー」
「新しいと言うだけあって外装も美しいな。これは、期待も高まるというものだ!」
「え、待ってみんな。今日何かあったっけ?」
「新しいカフェ、行くって約束したじゃ〜ん」
「いや、今日は……」
「何、心配するな、今日は俺達の奢りだ。気兼ねなく食べていくといい」
「ほら、源くんもそう言ってるしさ〜!」
「ほら、早く行かないと席埋まっちゃうよー」
「後生ですから〜〜」
奢りともなれば明らさまではなくとも喜ぶ酒寄彩葉がここまで強情に行きたがらないとは……件の「嵐」とやらがまだ去っていないのか?
流石にそれを聞くのは気が引けるが……まぁ、数十分程度なら問題あるまい。何かあれば、こやつも言うだろう。
……言わんかもしれん。
「彩葉ノートで赤点回避記念〜」
「兼、俺に……ぐぅ!勝利した、実力を称えてっ!」
「お礼と祝いの品でーす」
「「ご査収くださーい」」
「噛み締めて、食べるがいい……!」
「あ、ありがとう!」
くっ、本来ならばこのカフェも俺の勝利によって気持ちよく奢るはずだった……!
言葉にしたことで消化したつもりだった悔しさの残滓が祝いの席で思わず出てしまった。己の未熟か……反省せねば。
それにしても、入る前はゴネていたというのに、パンケーキが目の前に出ればわかりやす過ぎるほどの喜色満面。酒寄彩葉も当たり前に人の子という事だな。
綾紬芦花と諫山真美の付き合いの長さに基づく慧眼、というわけだ。
「じゃあ、いただきま──」
「──シャッ!」
「何、だとっ?!」
俺の背後から伸びたフォークが酒寄彩葉のパンケーキに突き刺さり、穿った一段が俺の頬の横を過ぎ去っていく。仄かに甘い生クリームの匂いが鼻腔をくすぐった。
この俺が、背後に立つ人間に気づかなかった……のみならず、フォークに反応できなかっただと……!?
ふむ、驚きのあまりバトル漫画のワンシーンごっこをしてしまった。
危うくフォークが突き刺さったり、パンケーキが俺の顔面に直撃したりしかねない危険な行為を行った下手人を見るために振り向く。文句のひとつでも言ってやらねば!
「よっ、彩葉!」
白磁の肌、無造作に広げられながらも柔くしなやかに広がる美しい髪、快活に開かれた両の瞳は眩い光を宿している。整った容姿は本人の雰囲気もあって美しさよりも可愛らしさを全面に感じさせる。
人を魅了する美少女、とはまさにこのような娘のことを言うのかもしれんな。
「は────?」
「えー、可愛い。誰この子?」
「彩葉の服着てる〜」
「ということは、酒寄彩葉の友人だったか?」
「はっ!いやっ、友達っていうか、そのっ……」
「パンケーキ好き?はい、これもどーぞ」
「パンケーキ?これが?彩葉のと全然違〜う!」
「意外だ。酒寄彩葉もパンケーキを作るのだな」
「うん、でもクソまずかったよ!」
「酷い言われようだな……」
一体どんな手法を使えばパンケーキをクソ不味いとまで言わしめさせることができるんだ……。
「紹介してよ、彩葉ー」
「いや、えっと、そのー……!」
「月から来たの!」
つき、ツキ、月?月とはあの空に浮かぶアレか?この少女の言葉を額面通りに受け取るのであれば、宇宙人ということになるが……。
「つ、つつつ、つきじ!築地だよね!私の従姉妹」
「わ〜、美味しいお鮨屋さん教えて〜」
「あぁ、築地か。なるほど」
「可愛いね、お名前は?」
「名前っ?名前は、えーっと……かぐや!ね、かぐや?」
「かぐや?かぐや、かぐやか〜〜!」
「まるで今初めて呼ばれたかのような喜びようだな……」
「うんっ!だって彩葉が今つけ──」
「わあぁぁぁ!!ごめん、ちょっと用事あるの忘れてた!お礼はまたするから、先帰るね〜!!!」
「むっ、おい酒……もう居ないか」
「嵐みたいだったね〜」
「かぐやちゃんが彩葉の言ってた嵐だったのかもね」
「……何かと、隠し事が多そうな嵐だったな。酒寄彩葉はあれで誤魔化せていると思っているのだろうか……」
「かぐやちゃんのことで頭がいっぱいなんだろうね〜」
「可愛かったもんね」
「そういうものだろうか……?しかし、当初の目的である休ませることも満足にできんかったな……」
「また誘って来ればいいでしょ?」
「……それもそうだな」
「と、こ、ろ、で〜、ここは源くんの奢りってことでいいの?」
「諫山真美……貴様は遠慮という言葉を知らんなぁ。良かろう!存分に堪能するといい!」
「わぁ〜い!太っ腹!ありがとう源くん!」
「いいの?源くん」
「構わん。懐に余裕はある。何より、諫山真美なりに気遣ってくれたんだろう?」
「そういうの、分かってても言わないもんなんじゃない〜?」
「クククッ、すまんな」
「そういうことなら、私もいっぱい食べちゃおうかな。すみませーん」
人に頼るのが苦手な彼奴が、何時でも助けを呼べるように。呼ばれた時に助けられるように、俺達は糖分を補充して備える必要があるのだ。
……諫山真美よ、流石にパンケーキ3個は食べすぎでは?これくらい別腹?そうか……女子は、不思議だな。
***
「ヤオヨロ〜!神々のみんな〜、今日も最高だったー?!」
「最高だったー!」
「ヤチヨー!」
「今最高になったよー!」
「相も変わらず、凄まじい人気だな……流石は、ツクヨミ最高の歌姫」
「よーし、今宵もみんなを誘っちゃうよ☆ Let's go on a trip!」
恒例となった掛け声ととに始まったライブは、興奮に満ちた会場を一瞬にして熱狂の坩堝に変え、圧巻のパフォーマンスによって声をあげることさえ惜しむ新たな世界を作り上げた。
月見ヤチヨに誘われ、会場近くに建てられた和塔の最上階に位置する部屋から、ライブを見守る。
ファンと言う訳でもない俺ですら、鳥肌が止まらないのだから月見ヤチヨという存在の放つ引力のようなものは、正しく天才……いや、天災的と言うべきだろうか。
「む、あれは……酒──iroiroとかぐやか。ふ、どうやら幸運にもチケットが当たったらしい」
彼奴、明日は1日機嫌よく過ごしていそうだな。
「──感謝、感激、雨アラモード!ヤチヨは果報者なのです……。あ、ここでお知らせ!ヤチヨカップっていうイベントを開催しま〜す☆FUSHI、詳細よろしくぅ!」
「どうやら、今日の山場が来たようだな」
ヤチヨとも調整を重ね、最も適切なロゴを作り出せたと自負している。まぁ、ファン達はロゴなんぞよりも、その内容の方に気が向いてしまっているようだがな……少し悲しいというか、なんというか。
しかし、仕方の無い話だ。ヤチヨカップとは、ツクヨミの全ライバーを対象とした新規ファン獲得大会。
優勝者にはトップライバーでありツクヨミの歌姫、知らぬ人のいない
言うなれば、優勝者はヤチヨにとって初めてのコラボライブの相手、唯一無二になれると言っても過言では無い。
月見ヤチヨを愛するファンや憧れるライバー等、こぞってファンを獲得しようと奮闘するだろう。その盛り上がりは、ツクヨミをいっそう賑やかにさせる。
月見ヤチヨ自身にとっても、ツクヨミという世界にとっても、一世一代の大勝負、というわけだ。
「──俺達に優勝して欲しいよな?底なしの夢を見せてやるぜ!」
「む、しまった。思考にフケて色々見逃してしまった」
見た様子では、ヤチヨカップの説明後、BLACKONYX──黒鬼の面々が名乗りを上げ、会場の空気を塗り替えたというところだろうか?
随分と肝の据わった事をする。
しかし、黒鬼の持つ知名度と実績、告知直後の勝利宣言とも言える乱入という話題性を持ってすれば、開催と同時に大きなスタートダッシュを得ることになるだろう。
あの帝アキラという男のキャラクター性を考えれば、乱入というのも無粋ではなく盛り上げるための演出に見えるだろう。
諫山真美から勧められて見始めたが、あの黒鬼から学ぶことは多い。ゲームの上手さも当然だが、「魅せる」という点において他の追随を許さない行動力と意地がある。
正しく、「夢を魅せる」──それこそが、彼らの人気の秘訣と言えるだろう。
「やあぁぁぁーちいぃぃぃーよぉぉぉぉぉー!!」
「………驚いたな。恐らく黒鬼達は月見ヤチヨの手引きもあったろうに。それ以上に肝が据わった者がいたとは」
「かぐや、ヤチヨカップ優勝する!そんで絶対コラボライブする!いろ……むぐっ!むぐぐ、むぐあっ!」
「アンタは、また勝手に……!」
「クククッ、その肝の据わった者が、まさか知り合いだとはな。世界は随分と狭いらしい」
ツクヨミでもかぐやを名乗るあの少女は、これから色々なことをするだろう。
この大衆の目の中で、月見ヤチヨに対して真正面から宣戦布告するほどの度胸を持っている。更に人の目を惹きつけるあの容姿。ライバーとなり、瞬く間に頂点へ駆け上がっていくだろう。
そういう魅力を、あの少女は持っている。
「クククッ、ヤチヨカップ、分からなくなってきたな。これから楽しくなるぞ」
仕事上関わっただけだが、俺個人としても楽しめそうではないか。酒寄彩葉、かぐや、楽しみにしているぞ。
「……ん?もしや、俺もヤチヨカップ優勝のために協力させられたりするのか?」
……それもまた、一興だな!!
コソコソ裏話
立花先生(彩葉と光の担任)は彩葉と同じくらい光のことを気にかけています。無理しがちな彩葉と正直すぎる故に孤独な光。ふたりが仲良くしているようで、安心とより2人が生きやすくなるように期待しています。いい先生だよ、ほんとに……
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