転生者が多すぎる~虐められ引きこもりの俺はゲームの悪役に転生する! 真面目な努力こそが真のチートでした!   作:kuroe113

3 / 14
第3話 悪役転生

「どこかで見たことがある、だが、どこで見たんだ?」

 

 

 ゆっくりと、舐めまわすかのように周囲を見渡しながら歩く。

 その度に、既視感が増大していく。

 だが、それがどこで見たのかを葛彦はどうしても思い出せなかった。

 

 

 

「貴族……の家だよな」

 

 

 滑らかな漆喰の壁は磨き抜かれ、床には深紅のカーテン。

 天井には星をかたどった魔力による照明が飾られている。

 何もかもが一級品。

 前世ならば、博物館に使われてもおかしくないほどに豪華であり、美しい建物だった。

 

 

(もしかして、ここは実家なのか!)

 

 

 実家が太いところがいいとお願いしたのを葛彦は思い出す。

 その可能性が高いと思うが、確証をもてなかった。

 

 

 

「もう、何なのぉ!」

 

 

 時間をかけ、記憶を掘り返す。

 意図的に周囲の影響を遮断した静寂の中、沈黙を金切り声が貫通した。

 

 

 

(それはこっちのセリフだ!)

 

 

 少しは周囲のことを考えろと注意しようと、窓の外を見てやめた。

 噴水を見て叫んでいたのは、まだ10にも満たない少女だ。

 

 

(俺は恐らくこの家の人間だとおもうが……。

 そうじゃないかもしれねぇ。

 あの子がこの家の住人なら、家の中で騒いだだけ)

 

 

 だとしたら、咎める理由が葛彦にはなかった。

 迷惑だとは思うが。

 

 

 

「もしかして、原作キャラか。

 俺はこの家について知ってる。恐らくは原作知識だ」

 

 

 彼女がだれか分かれば、現状の理解が深まる。

 そう思い目を凝らす。

 転生の恩恵が出ているようで、今の彼の目は鷹の目だ。

 

 

 

「残念だが、記憶には……ないな」

 

 

 そもそもの話、原作キャラの中には設定にしか登場していないキャラも多いし、その子供時代の姿は描かれているほうが稀だ。

 見ただけでは分からなかった。

 

 

 

「知らない人であろうと、第一村人であることに変わりはないか」

 

 

 ならば、彼女に話を聞いたほうが速い。

 そのために、噴水を目指すことを決めた。

 

 

 

「とりあえず、ここがどこだか知りたいな。

 初期位置によっては立ち回りが大きく変化するし」

 

 

 せめて、それだけでいいから判明して欲しいというのが、今の彼の目標だった。

 

 

 

「東西南北どこの国なんだか……」

 

 

 エレメンタル・サーガの世界は大きく分けて4つの国に分類される。

 

 

 東。

 海洋貿易によって栄える、日本に近い文化を持つイースト・ブルー。

 

 西。

 数々の列強がひしめき合うウェスト・レッド。

 

 南。

 光の女神信仰の中心地であり、学問が盛んなノース・コア。

 

 北。

 死と不毛の台地が広がる、ノース・エッジ。

 

 

 

「屋敷を見るかぎり、南か西だとは思うんだが……、東の出島っていう可能性もあるか」

 

 

 小説の舞台となっているのは主に西と南。

 最終決戦で北も登場したのだが、東からはそこ出身の人物が登場するだけにとどまっている。

 

 

「なら、東は比較的安全なわけだが……」

 

 

 だからと言って、安全な場所ででぬくぬくと過ごす選択肢はなかった。

 

 

「せっかく、大好きなエレメンタル・サーガの世界に来たんだ。ただのモブキャラで終われるかよ」

 

 

 そう、彼はどこまで行ってもオタクだったのだ。

 

 

 

 

「あのすいません」

 

 

 

 小さな幸運が彼に訪れた。

 噴水への道中で、運よく可愛らしいメイドを見つけたのだ。

 

 

(メイド喫茶で見るようなフリフリの可愛いタイプじゃないか。ファンタジー世界、グッジョブ!)

 

 

 前世ではコスプレでしか見ない格好が当たり前のように使用されている。

 もはや、感動ものだった。

 

 

(いかんいかん。いくら身長的に子供とはいっても、下心を全開にすれば、相手を怖がらせるかもしれん)

 

 

 横に並んで写真を撮りたいが、要求を強引に抑え、真面目な顔をとりつくろった。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 話しかけると、2人のうち、まだ若そうなメイドが悲鳴を上げた。

 

 

(まさか、漏れ出ていたというのか、俺の下心!)

 

 

 最初に疑ったのはそれだった。

 

 

 

「すいません、クロード様!

 急に話しかけられ、驚いてしまい!」

 

「いや、あの……そうか」

 

「すいません、すいません。私のミスです、だから……、だから……、折檻するなら私だけに」

 

「いえ、ここは責任者である私だけに……」

 

 

(いや、あの……、どうして、これから売りに出されるみたいなテンションになってるんだよ!)

 

 

 迫真のリアクションに、もうどうしていいかわからず、彼は速足で気まずい現場を後にした。

 

 

 

「もう、人に話を聞くのはなしだな」

 

 

 あの反応がデフォルトか、異常かわからない。

 しかし、会う人会う人にあんな反応をされたら身が持たない。

 

 

 

(まぁ、クロードっていう自分の名前を知れたっていう点は良かったな)

 

 

 と、メイドと話したことによって聞けた情報を噛みしめていると、

 

 

「まて、クロード!」

 

 

 幸運か、不幸か。その名前には聞き覚えがあった。

 

 

(まさか、まさか、まさか!)

 

 

 噴水に向かい走り出した。

 今度は人を探してではない。

 水が、鏡が欲しかったからだ。

 

 

 

「ま、まじかぁ……」

 

 

 水面に浮かぶのは非常に整った顔立ちだった。

 

 非常に細く、まるで少女のようにも見える甘い顔立ち。

 切れ長の瞳から覗く、赤い瞳はまだ昼間だというのに、まるでルビーのように妖しく輝いている。

 

 

 この特徴を持つキャラクターを葛彦は知っていた。

 

 

 

「どうして、クロードなんだよ!」

 

 

 葛彦が転生したキャラの名前はクロード・センベルン。

 このエレメンタル・サーガの世界における悪役の一人だった。

 

 

 

 

「もう、うるさいわよ!」

 

 

 悲鳴を不機嫌そうな声が咎めた。

 

 

 

「そういえば……、君もこちらに来ているんだったか」

 

 

 クロードはあえてその存在を忘れていた。

面倒だったので。

 

 

(いなければ万々歳だったが、そうもうまく行かないか)

 

 

 空はどうしてこんなにも青いのだろうと、彼は無心であらぬ方向を眺めていた。

 

 

 

 

「それで、俺は死亡フラグ満載、確実に死ぬ悪役に転生したわけなんだが、これは嫌がらせか何かかな?」

 

「どうして、あたしがあんたごときのためにここまで手が込んだことをしないといけないわけ?

 あたしはきちんと、あんたの要望通りにやったじゃない」

 

「てめぇ、ふざけるんじゃねぇぞ!

 これのどこが要望通りってんだ!」

 

 

 すると、アルテは指を1本たて、

 

 

「人類最高峰のスペック」

 

「……」

 

「太い実家」

 

「……」

 

「優れた容姿。全部あんたが転生先の条件として指定したものじゃない」

 

 

 3本、指を立てた瞬間俺は崩れ落ちた。

 

 

 

 

「……」

 

 

 直ぐにどうにか矛盾がないかと考えるも、どう考えても矛盾はない。

 それでも、

 

 

(クロード・センベルンは主人公の前半のライバル。人類最高峰のスペックの持ち主で、実家も最高峰の貴族だけど……)

 

 

 

 しかし、物語での扱いは中ボスである。

 その性格を一言でいえば、傲慢にして冷酷。

 自分の名声のためならばどんな手段でも取る悪魔。

 

 

 こいつがいなければ、どれだけのキャラが死なずに済んだのかと、皆から議論されるほどだ。

 

 

 

「くそっ! もっと細かく転生先の条件を整えるべきだった」

 

 

 もはや、何もかもが遅すぎた。

 という結論になったのだが、

 

 

(いや、まて……。まだ方法はあるかもしれない)

 

 

 彼は、自分に話しかけてくる鏡の前で正座した。

 そして秘策を実行する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。