転生者が多すぎる~虐められ引きこもりの俺はゲームの悪役に転生する! 真面目な努力こそが真のチートでした! 作:kuroe113
「アルテさん、いえ、アルテ様。
今から別の転生先をあっせんしてくれませんか」
膝を丁寧に折りたたみ、地面と手と足を擦り付ける。
無駄に洗練され尽くした、見事な土下座だった。
クロードは、前世。
アニメや映画で土下座する人間を何度か見て来た。
その度に、こいつらバカだなと思っていた。
そんな屈辱的なポーズをわざわざするくらいならば、そのまま死んだほうがましだとすら考えていたのである。
(だけど、実際に死ぬかもしれない現状になったら、そんな贅沢言ってられねぇ)
その上で、いざ死の淵に立たされると、恥も外聞も捨てられる、物語の主人公の強さを自分の身で実感することとなった。
「あんた、さっきまで、あたしを攻め立てて、無理やりこっちの世界に道ずれにしといて、自分の身が危うくなった途端助けてくれ。
幾らなんでも、虫が良すぎると思わない」
だが、土下座をする。
それはすなわち、自分が持ちうる交渉材料が情だけだとさらしているようなものだ。
そして、アルテはクロードに対して恨みこそ持てど好感など皆無だった。
「何とか、何とかお願いします」
「まぁ、そこまで言うのならば少しくらい力を貸してあげるわよ」
譲歩を引き出せることで、ようやくクロードは頭をあげ、目の前の黄金色の瞳をじっと覗き込んだ。
「なら、違う転生先は」
「それはムリ! こんな風に鏡の中で話してるんだから察しなさいよ」
「その、どうして鏡の中から話をしているのでしょうか」
神様の事情に詳しくないクロードは事情を察しろと言われても、因果関係が分からない。
「天地創造のせいね。
全知全能であるあたしたちでも、世界一つ作れば消耗するのよ」
なので大きな力は使えない。
と言われると、神でないクロードでもなるほどと納得した。
しょうがないな、そもそもこの転生先になったのは自分のせいだしと言おうとしたのだが、
「って、納得できるかぁ!
君のせいで俺は死んだんだぞ! どうにかしろよ!」
納得できなかった。
「はぁ、これだから神を恨む下郎の心情は理解できないわね。
あたしのせいで、命拾いしたというのに」
「そもそもの話、お前がいなけりゃ、死ぬこともなかったんだがな」
「ちゃんと埋め合わせしてあげたじゃない」
「その埋め合わせに瑕疵があったから恨んでんだよ」
お互いに相手だけが悪いと考えているからこそ、譲ることなく罵倒が繰り返されていた。
「でもまぁ、これからあんたと共に世界をよくしていくんだし、こちらだって面倒ごとはごめんだしね。
ちょっとアマテラスに掛け合ってみるわよ!」
にらみ合いは膠着状態にまで発展。
10秒、20秒と無為に時間が経過する。
そして、先に折れたのはアルテだった。
「ありがとうございます」
こんなやつに敬語を使うのは癪だが、しかし、自分のために動いてくれていることに間違いはない。
へそを曲げられないようにクロードは丁寧にお礼を述べた。
(相手は神と言っても見た目も、感性も人間とほとんど変わらない。
なら、全能に近いと言っても、予定があれば断られるし、長命特有のがばがばな時間間隔を発揮してくるかもしれない)
交渉次第で分かりあえると思う。
何せ、相手はほとんど人間と変わらない生物だ。
それと同時に、人間とは全く異なる生命体であることも忘れない。
だからこそ、どう説得するかを脳をフル稼働させて考えていく。
(そういえば、こいつらの通信方法って何なんだ。思念の交換とかだったら、嘘も隠し事もできないから、面倒なんだが)
そんな時、ふと湧いた疑問。
その答えはすぐに出た。
――プルルルル、プルルルルッ!
(電話かよ!)
既視感があふれた連絡方法。
あまりにも見慣れているからこそ、逆に受け入れがたかった。
確かに便利ではあるが、神が使っているのは違和感が大きい。
「はい、何でしょうか?」
電話から麗しい声が聞こえた。
その声から、急な電話に気分を害した様子は見られない。
鏡には、いつも通りの、アマテラスの美しいご尊顔が映りこんでいた。
(よし、第一関門は突破した。ここで説得できなければ俺の人生がどうなるかわからない。気を引き締めていかないとな)
「お話は聞きました。残念ですができません」
「どうしてだよ。俺がこの世界に転生してからまだ1時間もたってないじゃないか。
配置換えをしても問題が起きねぇだろ」
このままだと、シナリオに殺されるのが分かっているから、クロードは必死だった。
アマテラスは、こちらもできる限り面倒を避けたいという前置きをしたうえで、
「前にも話しましたが、この世界は未だに不安定。例えるならば水面に浮かぶ虚像のようなもの。
ほんの少しの介入であろうとも、波紋が生まれ、像が大きく揺れ動いてしまう。
世界、歴史に大きな影響を及ぼさないとしても、過度な干渉は行えません」
と、どうして自分が干渉できないかを丁寧に説明した。
「だけど、俺にはアルテのお目付け役という任務があるはずだ。
便利な監視役がいなくなるのはきついんじゃないのか」
そこまで説明されれば、さすがのクロードも再転生はあきらめた。
だから別の切り口。
可能な範囲での優遇を求めることとする。
「アルテさんお願いできますか」
「ちょっと、なんであたしがそんなことしないといけないのよ!」
「でも、さっき、少しくらいなら、力を貸すって了承したよな」
「ほんとうですか、アルテさん!」
「ちがっ、それはこの場かぎりで、永続的に力を貸すってわけじゃない」
「でもだ、お前が力になるっていった転生先の再設定はできないじゃないか。
だったらさ、その埋め合わせくらいしろよな」
今度はアルテがぐぬぬ顔を披露する番になった。
これが神と人間とのやり取りであったのならば、いくらでも話を自分に都合よく解釈で来たのだろうが、間に他の神がいるからこそ妥協を迫られていた。
「そもそもの話、どうしてあたしがこんな面倒ごとをしないといけないのよ」
「こうなった原因はあなたにありますよね」
「そうだけど……」
ここに、流れは決まった。
「“約束”なんだ。
別に何でもかんでも願いを叶えてくれって話じゃないんだからな」
「ああ、もう分かった。
1日に3度まで。あまり大きな力を使わない願い事なら、叶えてあげるわよ」
顔と態度には出さないが、クロードは内心ガッツポーズ。
(失言から、この生意気で、そこ意地の悪い女神の悔しがる顔が見れた)
「仲良くなってくれて何よりです。
大丈夫、たとえ何があろうとも、あなたのそばで神が常に見守っているのですから」
と、アマテラスは話をいい感じ風にまとめると、通信を切った。
だからこそ、その頓珍漢な発言に対して、ものすごく嫌そうに顔面を歪めて、仲良くないと同時に口をしたうえで、お互いを罵り合う姿を見ることはなかった。
その現場を、
「ちょっと、庭先で騒ぐな!」
新たな登場人物が目撃した。