転生者が多すぎる~虐められ引きこもりの俺はゲームの悪役に転生する! 真面目な努力こそが真のチートでした!   作:kuroe113

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第5話 天使の顔をした悪魔

 周りの目を気にすることなく、お互いにお互いのことだけを考えて罵り合う。

 その2人だけの世界に一人の少女が足を運んだ。

 

 

「あんたが叫んだせいで、私が変なものを食べたんじゃないかっていう疑惑が核心に変わりそうなんだけど!」

 

 

 

 飛び出してきたのは可愛らしい少女だった。

 

 

 年のころは10かそこら。

 身長はクロードよりも頭一つか二つ低く、同年代の子供と比較してもやや小柄と言えるだろう。

 

 

(さっき、ここで叫んでいた子じゃないか)

 

 

 その顔に、クロードは見覚えがあった。

 

 

(うん、俺の原作知識にはないな)

 

 

 近くに来たからこそ、顔を観察できた。

 そのおかげで疑惑を消し去ることができた。

 

 

 

「ちょっと、あんた何!

 何で、人さまが大事な話をしている間に、どういう理由があって、割り込んできてるわけ」

 

「すまないんだが、俺たちはこれからにかかわる話し合いをしてるんだよ」

 

「そうそう、空気を読みなさい、空気を!」

 

 

  少女の真摯な、とは口が裂けても言えないが、真面目な願いに対して、2人は否を叩きつける。

 そこには、つい先ほどまで、いがみ合っていたようすが、欠片も感じ取れない。

 それどころか、息ぴったりで少女を追い詰めている。

 彼女はもうすでに泣き出しそうになっていた。

 

 

 その顔を見て、クロードは瞬時に現実に引き戻された。

 

 

 

 

「これには深い理由があって!

 けっして世間様に顔向けできないようなことをやっているわけでは……」

 

「そんないいわけ、学校の先生にも通じないんだけど」

 

 

 必死の言い訳を、少女は感情に任せて否定してくる。

 

 

(どうする、一体どう説得せればいいんだ)

 

 

 自分が交渉事で成功した機会を参考にしようと思ったのだが、

 

 

(だめだ、プリギャア事件くらいしか思いつかねぇ)

 

 

 ろくな経験がなかった。

 

 

(このままだと、本格的に変質者で評価が固まる)

 

 

 本格的にまずいと思ったところで、はたと気が付いた。

 

 

「待て、学校の先生……」

 

「世間様!」

 

 

 

 あまりにも日本人らしい言い回しに、まさかという思いが2人の間に駆け巡った。

 

 

「久しぶりね。いや、ここはさっきぶりねというべきかしら」

 

「まさか、アルテ様!」

 

 

 とどめは、鏡からの声だった。

 

 

 

「「お前まさか、転生者か!」」

 

 

 くしくも、2人は全く同時に声をあげた。

 

 

 

 

「なるほど、あんたはクロードに転生したのね!

 原作に介入したいならやりやすいじゃん。

 私こと、シャルティのように全にも悪にもいける自由度の高いキャラのほうがいいとは思うけど……」

 

「まて、俺はお前みたいな原作キャラ知らねぇぞ!」

 

 

 分析にクロードは疑問をぶつけた。

 

 

 

「小説とかアニメしか見てないのね。

 シャルティはゲーム版で追加されたあんたの妹だけど」

 

 

 クロードは水面に映る自分の顔とシャルティを見比べる。

 確かに顔の輪郭が似通っているように思えた。

 

 

 

(ゲームキャラだけあって、なるほど顔がいいな。金髪の髪と言い、天使でもイメージしたのだろうか)

 

 

 外見と立ち位置、そしてひきこもりで学んだテンプレ展開によって、クロードはシャルティの物語での立ち位置を推測していく。

 

 

 

「もう! 何なのよ!

 私は勝手に破滅するあんたをあざ笑いつつ、センベルン家の金と地位を手に入れるつもりだったのに」

 

 

(訂正。こいつは天使の顔をした悪魔だ!)

 

 

 勝手に作ったイメージをゴミ箱に投げ捨てた。

 

 

 

 

「仕方がないだろ! スペックがいい体と太い実家が欲しかっただけだったんだ。

 クロードに転生するつもりはなかったんだよ」

 

 

 

「いっちゃ悪いけど、性格悪くない」

 

 

 クロードの本音にシャルティは呆れた。

 

 

「もうさ、もう一度転生しなおしたらいいじゃん」

 

「それができないのかどうかを話し合っていたんだよ!」

 

「え、そうなの。だから怒ってたのか」

 

 と、強気な少女が素直にごめんと誤ってくる。

 その様子が、さらにクロードがいかに危機的な状況にあるのかを突きつけてくる。

 

 

 

「よし、あんた死になさい」

 

 

 反省の色を見せ、一時期しおらしくなったシャルティだが、しかし、それは勘違いだった。

 あまりにも衝撃的な発言が飛び出した。

 

 

「何それ怖い。いくら何でも性格悪くない」

 

 

 こいつ性格悪いなと、たった今兄妹になった2人は互いの性格に最低なレッテル張りをした。

 

 

 

「もともとクロードに転生するつもりはなかったのよね」

 

「ああ」

 

「だったら、死んだことにして物語からフェードアウトするのは悪いことではないじゃん」

 

「それはそうだな」

 

 

 いきなり、死ねと言われた時、こいつ頭おかしいのではとクロードは疑った。

 

 

(でも、死んだふりをして死亡フラグから脱出するっていうのは、思ったよりも常識的な判断だよな)

 

 

 クロードはやられ役ではあるものの、人気キャラである。

 ただし、その人気の方向性というのはネタキャラ方面だ。

 

 

 物語におけるクロードの主な活躍というのは召喚された勇者への妨害だ。

 だまし、欺き、時には力おしで、勇者を一人一人自身の傀儡とする。

 その魔の手を逃れたのは、自分の力を隠し役立たずと言われ王宮から追放された最後の一人のみ。

 

 

 ここまでの話を聞くと好感度が上がる要素はないと思えるかもしれないが、現実とは分からないもので、作者と読者の歪んだ寵愛を受けている。

 

 

 

 

 その人気の秘密は死に芸だ。

 

 

 散々にヘイトを為にため込んだクロードが見っともなく命乞いをする姿に拍手喝采。

 それをきっかけに、エレメンタル・サーガは一累計ランキングまで上り詰めた。

 

 

 その快挙もあって、作者はクロードを幸運の使いと認定。

 番外編で描かれるIF展開では、それぞれのルートで盛大にヘイトをためた後で愉快に退場するのがお約束になっている。

 

 

(詳細に描かれているから、先の展開が分かりやすいのは強みだけど、死亡フラグが無限に押し寄せてくるってことなんだよな)

 

 

 先を思うと、胃が痛くなっていく。

 

 

 

「……、そう考えると死ぬのもありだな。

 悪いんだけど、ありったけの金貨とか財宝を家からくすねてきてくれないか?」

 

 

「いや、なんで私がそんなことをしないといけないの!」

 

「いいだろ、この一件で一番得をするのはおまえなんだから」

 

 

「はぁ、仕方ないわね」

 

 

 最終的にシンディは納得したの。

 ゲームでのへそくりの隠し場所は……、と遠い記憶を掘り起こしている。

 最終的に彼女もクロードが逃走してくれたほうが色々と都合がいいからだ。

 

 

「そうね、簡単に回収できる金額と、宝物個の中身を持ち出せば、金貨1000枚にはなりそうだけど」

 

「それなら、贅沢さえしなければ一生余裕で暮らせる額だな」

 

 

 これで交渉は成立と、外道兄妹は固い握手を交わした。

 

 

 

「残念だけど、それできないわよ」

 

 

 その固く握りしめられた絆に、横やりが迫る。

 

 

「というか、あんたにフェードアウトされたら困るんだけど!

 これはアマテラスの言葉だったっけ。

 つまり、この世界を安定して運営するにあたって、原作という流れをある程度はそう必要があるのよ」

 

 

 

「ええええええぇぇぇっ!」

 

 

 ちなみにこれは、クロードが見聞きした情報をシャルティに教えたときの反応である。

 

 

 

 

「このままだと私は、主人公とその仲間に嫌がらせする悪役令嬢ルートを強制的にやらされるわけ!」

 

 

 涙目になりながら、シャルティは鏡に詰め寄った。

 

 

 

「おまえなんてまだましじゃねぇか。

 話を聞く限り回心ルートがあるんだから。

 俺なんて死亡フラグの塊だぞ」

 

 クロードは泣きたいのはこっちの方だといった。

 

 

 

(ああ、やっぱりこいつ悪役令嬢だったんだな。

 俺がフェードアウトしてこいつに全ての役割を任せようと思ったんだが……)

 

 

 そうすれば、原作の流れを一切崩すことなく、俺は自由を手に入れられるはずだった。

 それをいったら、戦争になるのであえて口にすることはないが。

 

 

 

「まぁ、主人公のポジションに比べたらだいぶましじゃない。

 なにせ、その役割をやりたいって口にしたからその席が4人に増えてるわけだし」

 

 

「なるほど、主人公になりたいというのならば、殺してでもその責を奪い合えってことか……」

 

 

「発想!」

 

 

 アルテが励ましを兼ねて、さらなる面倒ごとを語り、クロードがどうなるか、未来を予想し、そのあんまりな未来をシャルティが否定した。

 

 

 

 最終的に兄妹はまだ下には下がいるんだなという理論で、胸をなでおろした。

 

 

 

 

「と、とにかく……、よそはよそ、内は内。

 どうすれば生き残れるかを考えましょうよ」

 

 

 その提案に皆が意識を切り替えた。

 

 

「とにかく、強くなるしかないんじゃないか。

 処刑人だとか勇者と敵対しても逃げ出せれば解決だし」

 

 

 クロードの意見はシャルティの案の延長線上にある。

 今すぐにではなく、物語における役割が終わった地点で逃げ出す、迫り来る死亡フラグを断ち切る。

 

 

「いいじゃん、それ!」

 

 

 と、生きるか死ぬかの大博打だというのに、2人からはためらいも躊躇も恐れもまるで感じられない。

 

 

「あたしにとっては都合がいいから、構わないんだけど。普通なら、そんな危ない橋を避けたいと思うもんじゃないの?」

 

 

「「だって、せっかくのあこがれの世界に来たんだ。楽しまなければ損じゃないか(じゃない)」」

 

 

 そう。

 クロードもシャルティも、この世界で面白おかしく過ごしたいという基本方針は一致していた。

 もしそうでないならば、転生先を安全地帯にする程度の知恵はまわる。

 つまり、死にたくないというのもまぎれもない本心であると同時に戦いたいというのも本心なのである。

 

 

 

「まぁ、処刑から逃れるくらいの力をつけるっていうのは転生特典も、原作知識もあるんだしどうにかなるよね」

 

「問題は逃げた後だな。勇者の中に転生者が多数混じっているのを考えれば事情を説明すればどうにかなると思うけど」

 

「あたしとしては勇者のサポートをお願いしたいわね。

 彼らの活躍がないと世界がどうなるか予想できないし」

 

「もちろん」

「ええ」

 

 

「「喜んでやるとも(わ)」」

 

 

 兄妹はお互いに見つめあい、世界のためという大義名分のもと、好き勝手生きることを決めたのだった。

 

 

 

「手伝ってくれるのね。あなたたちも、あたしの神としての威光に目を焼かれたのね」

 

 

 何ていい子なのと、アルテは一人鏡の中でガッツポーズを決める。

 

 

 

「せっかく憧れのエレメンタル・サーガの世界に転生したのよ」

 

「単なるモブキャラ・踏み台になるつもりはない」

 

 

 こうして、女神が鏡の中で一人だけの世界に入っている間。

 鏡の外で兄妹は胸の内をさらし、硬い握手を交わしていた。

 

 

 

 そこには共感、興奮、熱意、情熱、劣情――、と言った魂の輝きがあった。

 

((間違いない、こいつ前世でオタクだったな))

 

 

 今ここに、彼らはただの血のつながりを越えた、魂のつながりを得たのだった。

 

 

 

「そうと決まれば、ラブラブドキドキ個人レッスン作戦開始よ!」

 

 

 

「はっ?」

 

 

 その記念すべき第一歩は、始まるまえからつまずくこととなった。

 

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