転生者が多すぎる~虐められ引きこもりの俺はゲームの悪役に転生する! 真面目な努力こそが真のチートでした! 作:kuroe113
「そういえば、原作ではロイリーがあなたに追い出されたあばら家の女よって言ってたよな」
たどり着いた魔女の家を見て、納得する。
ロイリーは番外編にてクロードにとどめを刺すキャラの一人である。
主人公に敗れ、命からがら逃げ伸びた先。
復讐を誓いつつも、クロードは力尽きかける。
その危機を偶然救ったのがロイリーだった。
本人自身も貧しく、明日の生活もわからない状況。
そんな中、ただでさえ少ない食料を分け与え、献身的な介護を行う。
だというのに、クロードは『自分はセンベルン家の人間だ、下賤なものが俺の命を救えたことを感謝せよ』と、傲慢さを崩さない。
ロイリーはその横暴に対して、いやな顔一つしない。
ただ一つ異変があるとすれば、台所から包丁をこっそりと拝借したことくらいだろう。
「ねぇ、私のことを覚えている。あばら家に住まう貧乏女よ。
お前に追い出されたせいでおばあちゃんは野垂れ死んだわ!」
そして、回想で目を病み、家から追い出されたせいで、日々弱っていく祖母との思い出が流れるのである。
現在、クロードが眺めている家は傍目からすれば人が去った空家に見えることだろう。
「本当に、すごい蔦だな」
最初に目に映るのがそれだった。
家全体を蔦が覆っている。
(傍目には、自然に人工物が打ち倒されようとしている風に見えるんだよなぁ)
「壁面緑化……か」
しかし、クロードには家主が何をやろうとしているのか、その知識があった。
それは、壁に蔦を生やし、防音と空気洗浄、景観の良化を狙う建築様式だ。
「庭は奇麗だな」
こまめに人が手を加えているのだろう。
芝は短く刈り揃えられ、雑草一つ見られない。
畑には野菜とハーブが青々と実り、今か今かと収穫のときを待っている。
「あばら家というよりかは、物語に出てくる魔女の家というほうが近いか」
その感想は、この家に住まう重任が薬剤師けん魔法の講師をやっているので、勘違いでも何でもなかった。
「なんだろう……落ち着くにおい。ハーブかな」
原作知識から、この屋敷に住まう住人の経歴と性格を検索した。
さて、どうやって攻略していこうかと考えると、人の心を落ち着かせる匂いが漂ってきた。
いったいどこから……。
視線をさまよわせれば、庭にぽつんと置かれた丸テーブルに座り、優雅にお茶をすする老人を見つけた。
(まさか、ヴィルヘルムさんか!)
目当ての人物を見つけ、鼻息がわずかに荒くなった。
この穏やかそうな老紳士の二つ名は剣鬼。
かつて、戦場でその名を聞いた兵士は恐怖から震えあがったという。
それほどまでに、若き日のヴィルヘルムの戦果は圧倒的だった。
齢70を超えた今では戦場に立つことはなくなったが、それでもなお、その身体からは一切衰えなど感じられない。
(だからこそ、この人物の好感度を稼ぐのは絶対に必要なんだよねぇ)
ヴィルヘルムは作者のお気に入りのキャラであるらしく、幼少期からクロードとかかわりがあることもあって、複数のルートでの死因に関わっている。
若かりし頃、共に戦った親友であるセンベルン家の先々代当主との絆もあり、長年公爵家に仕えてきたが、クロードの傲慢な態度と犯罪に耐えきれずに、王国に通報される処刑ルート。
主人公に打ち勝つ者の、その邪悪さから、公爵家を正しい道に戻すため、正面からは勝てないと悟り、誇りを捨て毒を盛り、剣で討伐される断罪ルート。
これが直接的な死因となるルートである。
俺はそのルートを消すために気合を入れた。
「おい、話があるんだが」
衛兵の一件から、丁寧に接しても誤解が生まれることを学習した。
なので、憩いのひと時を過ごしているヴィルヘルムの前にドカンと腰を下ろした。
「坊ちゃん、いったいこの老骨に何の用ですかな」
「実は剣を学びたいと思ってな」
原作でのクロードは勝つためなら何でもやるクズだった。
(反面、強さに対しては真摯なんだよな。追いつめられたら、その吟味を捨てるけど……)
そういった特殊状況をのぞけば、原作に忠実だと断言できた。
なのに、ヴィルヘルムはぎょっと目を見開いて、大きく後ろに飛びのいた。
一瞬、その手が腰に差した剣に伸びたが、目の前にいるのがこの家の住人であることを思い出し、止まる。
「坊ちゃんが剣を習いたいというのはこれで2度目ですかな。
前回は勝つためにお茶に毒を盛り、叩き潰されたのを昨日のことのように覚えております」
(確かに、そんなエピソードはあったよ、あったけど、もうやらかした後かよ!)
ヴィルヘルムの対応を大げさだと思ったが、そうでもなかった。
それでも、理不尽だと心の中で叫んだ。
「いや、今回はまじめに剣術を習いたいんだよ」
正直に言うも、ヴィルヘルムは疑わしそうにクロードの一挙一動を観察している。
(それらしい理由を用意しないと、警戒して師匠役を受け入れてくれないな)
「なに、これまでのように、ただ弱い者いじめをすることにあきたのだ」
アニメで見た獰猛な笑顔を再現する。
「だからこそ、剣を習いたいと」
「そうだ、この身が最強になるために」
(よし、これはパーフェクトコミュニケーション!)
原作再現ができているうえで、剣を習いたい理由に違和感がない。
きっと、ヴィルヘルムもまた快くかはどうか分からないが納得してくれると思っていたのだが、
(あれ? 難しい顔をして考え込んでいる?)
クロードはあわてて自分の発言を思い返す。
(改めて思うと、今の俺の発言明らかにヤバイ奴だよな)
でもこれは原作をまねただけ。
悪いのはクロードであり、自分ではないと理論武装をするものの、
(果たして俺は弟子入りできるんだろうか?)
その疑問が深まる。
(やはり、坊ちゃんは危うい)
一方で、ヴィルヘルムは、齢11の少年が見せた殺気に恐れおののいていた。
幼き悪鬼の存在感に呑まれて、ヴィルヘルムの頬には一筋の冷や汗が流れていた。
その殺気がこけおどしではないことを、彼は知っていた。
勝つために手段を選ばない。
しかし、勝つための実力が足りなければ、相対すらできない相手などいくらでもいるのだ。
そういった点では、単独でBランクの魔獣を狩猟しているクロードは才能の塊だ。
さらに言えば、正々堂々が尊ばれる、一対一の決闘であればクロードの戦法は卑怯の一言で片づけられる。
しかし、それが単なる戦闘、あるいは戦争であったのならば。
(その卑怯さも含めて、一つの才能と言えるのではないか)
彼もまた、戦場に立つ一人のろくでなし。
故に、それが危険だと知っていても、見て見たいと思ってしまうのだ。
「どうした、この俺がお前に教えさせてやると言っているのだぞ」
(だが、その才能のせいか、坊ちゃんはあまりにも傲慢だ)
常に高みを目指す姿勢には感心するものの、弱者に対しては一切の憐みすらよこさない。
上に立つ者の資格が欠けていた。
(これも、いい機会ですかな。
これまでは、弱者をいたぶることを至上の喜びとしていた坊ちゃんだ。
プライドから、負けることを恐れていたがついにそこから一歩踏み出した。
このまま、越えられない壁があることを知り、挫折を経験したのならば、あるいは、弱者の気持ちというのを理解してくれるかも)
「元よりこの身はセンベルン家の使用人です。
坊ちゃんが望むのであれば、その通りにしましょうか」
よし、と小さくクロウはガッツポーズをとった。
「そんなにも、某からの鍛錬が嬉しいのですかな」
「ああ、これでフラグを叩き切ることができそうだ」
「そんな……」
(フラグ、つまり旗。
それを戦場で叩き折るのは戦意を向上させる効果がある。しかし、旗にはもう一つある)
それは、降参のさい、振る白旗だ。
旗を叩ききる、その上で弱者をいたぶるクロードの性格を複合させ、ヴィルヘルムは一つの懸念を抱いた。
すぐにぶんぶんと首を振ってそんなはずはないと思いなおす。
「とはいえ、今はまだ庭の手入れの途中。
明日の早朝よろしいですかな」
「構わないさ」
(これで正確に弟子入りで来た。
これで好感度を稼いで、毒を盛られたり、悪事を働いても通報されないようにして、その上で、死亡フラグを叩き折るんだ)