転生者が多すぎる~虐められ引きこもりの俺はゲームの悪役に転生する! 真面目な努力こそが真のチートでした!   作:kuroe113

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第8話 鍛錬

(確か、原作のクロードはヴィルヘルムさんを打倒するまでに1月かかったんだってな。

 なら俺は3週間でヴィルヘルムさんを倒す)

 

 

 これから鍛錬が始まる。

 最初に目標を設定することで、クロードは気合を入れた。

 

 

(俺には原作知識があるんだ。

 本来よりも早く成長できる。

 それに、原作のクロードでも結局魔王には勝てなかった。

 魔王がこちらを潰しに来る可能性もある。

 だったら、原作よりも強くならないとな)

 

 

 そういった計算のもと、3週間という期限が設定された。

 

 

 

 そして早朝。

 昨日の約束もあり、日が昇るまえに目を覚ましたクロードは真っすぐ鍛錬上に足を向ける。

 

 

(何だこれ、ヴィルヘルムさんの身体が大きく見える)

 

 

 ただっぴろい鍛錬上で、ヴィルヘルムはもうすでにそこで木刀で素振りを行っていた。

 

 

 ただ、剣を上から下へ。

 真っすぐ振り下ろしているだけだというのに、そこには無駄もなければ力みもない。

 寸分たがわぬ動きには美しさすら感じてしまう。

 

 

「では、鍛錬を開始しましょうか」

 

 

 そう、宣言されただけで、剣先から放たれる重圧に、押しつぶされそうになった。

 

 

 

 ――パァンッ!

 

 

 そして、衝突。

 

 

(ちょ、この人、子供相手に手加減抜きかよ!)

 

 

 そして、何もできずにクロードの体に木刀が叩き込まれた。

 

 

 センベルン家の裏手にある山に建てられた、今はもう忘れ去られた山小屋を2人は原作知識を利用して発見した。

 

 本来の流れでは、忘れ去られていたここを活用しだすのは原作主人公だった。

 クロードの悪事をあぶりだすためだったのだが、原作主人公はメイドに厳しい折檻を行う姿に怒りをあらわにし、ぶん殴った。

 その結果、クロードは全治一週間の重傷を負うという、ある意味因縁深い場所でもある。

 

 

 

 そこで、シャルティとクロードは今日の報告を行っていた。

 

 

「あ~、いてぇ、ヴィルヘルムさん、子供相手に本気で打ち込むんだから、参るよ」

 

「やっぱり、そっちも鍛錬が厳しいの」

 

「なら、この青あざを見て見ろよ」

 

 

 クロードが袖をめくれば、教育機関に通報すれば一発で懲戒免職になるだろう、虐待の跡がくっきりと残っていた。

 

 

「うわぁ、大変そうね。でもこっちはこっちでおんなじことの繰り返しでさ」

 

 

 

 と、どうにもシャルティの側でも今の現状に対して不満があるのか、その形のいい眉毛を8の字にしていた。

 

 

「やっぱりどこの世界でも、鍛錬っていうのはむずかしいんだな。

 今日はいったん何やったんだ?」

 

「甘いお菓子を一杯もらってるのよ」

 

「ちょ、おまっ!

 何でその程度のことでつらそうなんだよ!」

 

 

 自分との落差に、クロードは愕然とした。

 

 

「ちょっと、まるで私がサボっているみたいに言わないでよ」

 

「実際、おいしいお菓子を食べているだけなんて、サボっているようなもんじゃねぇか」

 

「こっちは今、座学中心にやってるのよ!

 退屈な作業の繰り返しで、もっと派手な魔法が使えると思ってたのに、肩透かしもいいところなんだけど」

 

 

 うらやましいという感想に、シャルティは噛みついた。

 

 

「だがなぁ、傷が残っている俺と比較したら、そっちは天国みたいなもんじゃねぇか!」

 

「はぁ、こんな単純作業の繰り返しが楽しいと思っているわけないじゃん!」

 

 

 ここに兄弟は意見の対立から睨み合うこととなった。

 

「誰がどう見たって、肉体労働系。

 実際に物理ダメージはいるこっちの方がつらい」

 

「これだから脳筋は。地道な学習がもたらす精神的な苦痛がどれほどのものか、分からないとは言わせないわよ」

 

「よし、こうなったら」

 

「ああ」

 

「「鍛錬がひと段落したら、一度でもいいからこっちの訓練に参加しろよ(しなさい)」」

 

 

 こうして両者は、いずれそれぞれの訓練を経験するという約束を交わしたのだった。

 

 

 

 2日目。

 

 本日も、クロードはぼこぼこにされた。

 

(でも、こいつも手加減を覚えたようだな)

 

 

 1日目では何もできなかったが、1から2分くらい持つようになった。

 

 

 3日目

(段々と調整がすんだみたいだな)

 

 剣を少しずつ合わせることができるようになった。

 

 

 4日目。

 この頃になると、クロードは防御に全神経を注ぎ込めばヴィルヘルムの猛攻をしのげるようになっていた。

 

 

 5日目。

 ようやく相手の動きをじっくり観察できるようになった。

 なので、動きを自分の身体に叩きこんでいく。

 

 

 6日目。

 脳に叩きこんだ動きを再現する。

 しかし、まだまだオリジナルには及ばないらしく、5分粘ることができるもののそれ以上はムリだった。

 

 

 7日目。

(はいった!)

 

 そして今。

 クロードの剣がヴィルヘルムの胴体に吸い込まれていた。

 

 

 

(そんなバカな! たった七日で某の剣を完全にものにするだと!)

 

 

 ヴィルヘルムはまず、自分に油断や慢心がなかったのか疑った。

 だが、

 

 

(某には間違いなく油断も慢心もなかった。

 それに、ようやく10を少し超えた少年に対して、一本いれられたのだ。

 このざまで言い訳してどうする)

 

 

 どう思い返しても、ヴィルヘルムは最高の状態だった。

 

 

 

「見事です、坊ちゃん……」

 

 

 万感の思いを込め、賛辞を送る。

 どうにか笑おうとしているのに、その顔は

ぐしゃぐしゃだった。

 それも無理なからぬことだ。

 彼はこれまでの人生全てを剣に捧げて来た。

 

 

 その剣で、鍛錬を開始して、たった7日の少年に後れを取ったのだ。

 

 

 

 

(あれ、これどう反応すればいいんだ)

 

 

 

 その、ただならぬ様子にクロードは困惑する。

 何せ、前世を基準にしても自分の4倍以上生きている老人が泣きそうなのだ。

 

 

 

「当然だ。誇るがいい。おまえはいずれ世界最になる俺に本気を出させた、最初の敵なのだから」

 

 

 色々と考えた末に、とにかくかっこよさげなことを言って、相手をほめたたえる。

 

 

 その宣言がよほどツボに入ったらしい。

 ヴィルヘルムは泣きそうだったのから一転。

 今度は腹を抱えて笑い出した。

 

 

(うまく行った、これ本当にうまく行ったんだよね)

 

 

 本来ならば、お前もすごいと言いたい。

 が、周囲から警戒されないようにやっている悪役ロールのせいでそれができない。

 なので、演技しつつ、こんなに回りくどい宣言をすることになった。

 もしかしたら挑発になるかもしれないと、クロードは不安だったので胸をおろした。

 

 

 

「坊ちゃん、今の発言は本気ですかな」

 

 

(あ! これは呆れてるやつだ!)

 

 

 こちらの真意を確かめる発言に、ヴィルヘルムが何を思っているのかを確信した。

 何せ、目をまん丸にかっぴらいて、自分の顔を覗き込んでいるのだから。

 

 

「もちろんだ」

 

 

(せ、せめて笑ってくれないか……)

 

 

 悪役ロールを崩せないから、態度を一貫させているが、本音では今の発言は忘れてくれとお願いしたかった。

 

 

「なるほど、道理で勝てぬわけだ」

 

 

 どうか、からかいの言葉が優しいものでありますようにと、クロードは天に祈るが、ヴィルヘルムは真摯に、新たな弟子に向かい合っていた。

 

 

 

(某もまた、子供のころ、いずれ世界最強になると息巻いていたものだ)

 

 

 その夢は上には上がいるという現実の前に打ち砕かれた。

 

 

(老いぼれ、ただ惰性で剣をふるう某が、本気で世界の頂に向かう若者相手に勝てる道理などなかったのだ)

 

 

 ヴィルヘルムは、笑っていた。

 それも、予想した嘲笑ではなく、つきものが落ちたかのような、さわやかな笑顔だった。

 

 

 

「この爺や。あなた様に劣る程度の腕でありますが、まだまだ教えられることはありましょう。

 これより、そのすべてを開示します」

 

 

 その初心を思い出させてくれたからだろう。

 先ほどまで考えていた、言い訳は頭からすっぷぬけ、ヴィルヘルムはあっさりと現実を受け止めた。

 

 

 

 

「ああ、俺の方からもよろしく頼むよ」

 

 

 

 再び、試合形式での鍛錬を行うべく、所定の位置に戻るのと同時に、

 

 

(これ、好感度稼ぎ成功したんじゃね)

 

 

 計画がうまく行っていることを確信し、クロードはほくそえむ。

 

 

(これで、大きく俺が死ぬ可能性は減少したはずだ)

 

 

 その確信があるからこそ、気を緩めかけたところで、

 

 

 

(いや、まだ好感度が十分稼げたと決まった訳じゃない。

 それに、いざ、本当の死亡フラグが目の前にやってきても、それでも生き残るためにももっと強くならないと)

 

 

 

「さあ、行きますぞ」

「おう」

 

 

 だからこそ、どこまでも真剣に、どこまでも真摯に。

 

 烈火のごとく掛け合いのもとに、2人の間に汗が飛び散った。

 

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