アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?   作:村ショウ

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前から温めてたネタですが、そこそこ書き溜まったたので投稿!



01.テンセイ×ト×ルーレット

 

 今世での俺は、リトク・レバレッジという名で生きている。

 なぜ「今世の」などという回りくどい言い方をしているかと言えば、あのいい加減な神様によって転生させられたからに他ならない。

 流石に、命を繋ぎ直してくれた相手をいい加減呼ばわりするのはどうかと自分でも思う。だが、転生先と能力をダーツ式のルーレットで決めるような輩を、他にどう呼べばいいのだろうか。

 

 俺が死んだ理由については、些細なことなので割愛させてもらう。それが全人類を救うために侵略してきた宇宙船に特攻したとか、そんなヒロイックなものなら嬉々として自慢げに語るだろうが、あいにくと恥の多い人生だった。

 意識を取り戻した俺は、何もない真っ白な空間に立っていた。そこで自らの死をはっきりと自覚し、ただ唖然としていた。

 

『おぬし、転生がしたいのか?』

 

 そんな時だった。いかにも神様らしき白い髭を蓄えた老人が現れたのは。

 相手に思考を読む力があったのかは分からない。ただ、神様転生系の物語をいくつか読んだことのあった俺の頭には、「転生」という言葉が必然的によぎっていた。それは一種の希望であり、やり直せる可能性に他ならなかった。

 俺は迷わず頷いた。思考が錯乱していて、実際に何と声に出したかまでは覚えていない。

 

『そうか、そうか。転生じゃな。わしが企画した新しい方式で良ければ転生させてやろう。なんなら、特典もつけてやるぞ』

 

 新しい方式とやらが何なのかはさっぱり分からなかったが、藁にも縋る思いだったし、相手が神である以上、反論するのもまずい気がして俺は大人しく頷いた。

 

『まぁ、そうじゃな。こんなもんかの』

 

 神様が指を鳴らすと、何もない空間に突如として巨大な円盤が出現した。

 ダーツ式のルーレットだった。

 カラフルに塗り分けられた枠の中には、見知らぬ単語に混じって、いくつか見知った作品の名前が書かれている。配色のせいか、昔テレビでやっていた車のパジェロが当たるダーツにそっくりだった。心の中で密かにパジェロルーレットと名付ける。

 

『それじゃ、回りだしたらこれを投げてよいぞ』

 

 神様が言うと同時に、俺の手のひらの上に一本のダーツの矢が現れた。

 何の説明もなしにダーツを投げろと言われたわけだが、当時は気に留める余裕もなかった。これがあのいい加減な神の片鱗だと気づいたところで、どうしようもなかっただろうが。手渡されたのが生きたダツとかじゃないだけマシだと思い込むことにした。

 回転し始めたルーレットを前に、俺は矢を構えた。

 

『てんせーい、てんせーい』

 

 神様がどこかで聞いたような手拍子とともに掛け声を入れてくる。そこまで寄せてこられると疑いようがなくなってくるが、ツッコミを入れるのは我慢した。

 的が大きいのが幸いし、俺が投げた矢はなんとか枠の一つに突き刺さった。たわし枠に当たらなくて本当に良かった。

 回転が収まり、矢が刺さった場所を確認する。

 そこには『ハンターハンター』の文字があった。

 

 今思えば、これでもまだ当たりの部類だったと思える。暗黒大陸やキメラアントのような絶望的な難易度を誇る要素はあるが、文明レベルは現代社会に近く、危険な地域を避ければそれなりに暮らせるはずだ。

 文明が進んでいても火星のゴキブリと戦うようなえぐい世界や、文明が遅れている上に巨人に食われる世界よりはよっぽどマシだ。念能力という要素を加味すれば、むしろプラスかもしれない。

 

『次は能力じゃな。ルーレットが世界に合わせて調整されるから、回りだしたらまた投げてくれ』

 

 パジェロルーレットが光り出し、枠の項目がガラリと変わった。ひとりでに回り始めたそれを睨みつけながら、俺は再びダーツを投げた。

 今回刺さったのは、枠の幅がそこそこ狭い場所だった。レア枠を引いたのかもしれない。

 そこには『オーラ量増大(メガ盛り)』と書かれていた。

 オーラ量増大というのは念能力に関するものだとすぐに察しがついたが、メガ盛りとは一体どういう基準なのだろうか。具体的な数値なら分かりやすいが、やけにアバウトだ。牛丼屋じゃないんだぞ。

 

『この企画初の転生者じゃし、知識と記憶はそのままにしておこうかの。名前や肉体とかはいい感じにして、まぁこんなもんじゃろ』

 

 神様が何か空中で作業をするような仕草を見せると、俺の体が眩く光りだした。某ウマの擬人化ゲームの担当トレーナーになった記憶はないのだが。

 死んでいることを考えればこの体は実体ではないのかもしれないが、何の前触れもなしに発光するのは流石に怖い。というか、初の転生者じゃなかったら記憶を消される可能性があったのか。

 

『安心して良いぞ。消えるのはお主らでいうところの原作知識くらいじゃ。今回はそれも許可しよう。それじゃ、来世をいい感じに生きるんじゃぞ。達者でな〜』

 

 転生特典の詳しい説明や世界での生き方のチュートリアルなど一切なく、俺は神様に「いい感じに」と丸投げされる形で、意識を深い闇の中へと落とされた。

 


 

 ハンターハンターの世界は、決して甘くはなかった。

 転生先の環境に不満があるわけではない。ただ、あの神のいい加減さには、思い返すたびに溜め息が出る。

 

 まずは、俺の名前だ。

 神様が「いい感じに」決めたという『リトク・レバレッジ』という名。少し考えればわかるが、利得・レバレッジである。適当にもほどがあるだろう。

 レバレッジとは、FXや株式投資で自己資金以上の取引をするための仕組みだ。手持ちが百万円しかなくても、レバレッジを十倍にすれば一千万円分の取引ができる。利益が十倍になる夢のシステムだが、当然、損失も十倍になる。等倍なら十万円の損で済むところが、レバレッジ十倍なら百万円の損になり、一瞬で資金が吹き飛ぶ。借金を背負うことすらある恐ろしい劇薬だ。

 そんなギャンブルめいた金融用語を名前にされたわけだが、ハンターハンターの世界には奇抜な名前の人物などいくらでもいる。名前自体はまだ許容範囲だった。

 

 問題は、あの神を心底恨むことになったもう一つの要素──転生特典のほうだ。

 生まれ落ちた直後、まだ視界もおぼろげな赤ん坊の状態で、俺は自分の体を覆う生温かいオーラの膜に気がついた。念能力の基礎である「(テン)」だ。

 どうやら神は、赤ん坊の俺が初期状態で纏を使えるようにしてくれていたらしい。これだけは本当にファインプレーだったと感謝している。

 なぜなら、俺が捨てられていたのは、見渡す限りのゴミの山──流星街だったからだ。

 

 暗黒大陸でないだけマシだったとはいえ、赤ん坊が一人で生き延びられる場所ではない。ひどい悪臭、乾いた風、有害な粉塵。纏の防御力と生命力の保持がなければ、数日で肺をやられるか、凍えるかして死んでいただろう。

 幸運なことに、俺は数日後に教会の関係者に拾われた。流星街にもマフィアやゾルディック家に人材を供給するための孤児院のような施設があり、俺はそこで育てられることになった。

 とはいえ、そこはあくまで流星街の一部だ。少し成長して施設の周りをうろつけるようになれば、スリや誘拐犯、あるいはただの暴力が日常茶飯事として襲いかかってくる。

 

 生き残るために、俺は物心がつく前から必死に念の修行を始めた。

 纏で身を守り、練でオーラを練り上げる。誰もやり方を教えてくれない中、前世の漫画の記憶だけを頼りに手探りで進めた。

 そして三歳になる頃、自分のオーラを意識的に操作できるようになって、俺は転生特典『オーラ量増大(メガ盛り)』の真実に気づき、絶望した。

 

 念のオーラ量には、大きく分けて二つの指標がある。

「潜在オーラ量」と「顕在オーラ量」だ。

 潜在オーラ量とは、体の中に蓄えられているオーラの総量。スマートフォンやノートパソコンのバッテリー容量(Wh)のようなものだ。

 対して顕在オーラ量は、一度に体の外へ出し、戦闘などに使える出力の大きさ。家電で言えば消費電力(W)に相当する。いくらバッテリーが大きくても、出力が低ければドライヤーすら動かせない。戦闘において直接的な強さとなるのは、この顕在オーラ量の方だ。

 

 俺の異常性はそこにあった。

 孤児院の裏庭で、古びたタイヤの上に座り込みながら練を続けていた時のことだ。

 長時間オーラを練り続けても、一向に疲弊する気配がない。いや、精神的な集中力の限界は来るのだが、体内のオーラが底をつく感覚が全くないのだ。

 回復量が消費量を上回っているのかと思い、意図的にオーラを無駄遣いしてみても結果は同じだった。俺の体内には、直属護衛軍に迫るのではないかと思えるほどの、文字通り「メガ盛り」なオーラが眠っていた。

 

「……ふざけんなよ、あのクソ神」

 

 俺は思わず毒づいた。

 巨大なタンクにたっぷりと水が入っている。だが、そこに取り付けられている蛇口は、ストローのように細かった。

 顕在オーラ量が、絶望的に低いのだ。

 数値化して正確に測れるわけではないが、感覚的に言えば、俺が全力で練を行っても、出力できるオーラはほんの僅か。スマートフォンを一台充電するのがやっとの出力で、電子レンジを動かそうとしているようなものだ。

 これでは、いくら底なしのオーラがあっても、一度の攻撃で押し込まれれば防ぎきれずに死ぬ。威力の高い(必殺技)を撃つこともできない。

 総量だけがバカみたいに大きくても、蛇口が細ければ戦いづらいにも程がある。

 

 孤児院の同年代の子供たちと比べれば、纏の恩恵で身体能力は多少マシだ。だが、キルアのように幼少期から毒や電撃の拷問に耐え、天空闘技場を無双するようなバケモノじみた肉体スペックは俺にはない。現実世界のアスリートよりは少し動けるかもしれないが、ここはハンターハンターの世界だ。銃弾を一発貰えば致命傷になるし、念能力者の基礎的な一撃すら、今の細い出力の「堅」では相殺しきれないだろう。

 

 このままでは、いずれ流星街の暴力に飲み込まれて死ぬ。

 俺は冷たい土の壁に寄りかかり、自分の両手を見つめた。薄く覆うオーラは、揺らぎなく安定しているが、絶対的な圧がない。

 

 勝つというより、負けにくくする。今の俺にできるのは、その延長線でしかない。

 この歪な才能──異常な蓄えと、貧弱な出力。

 これをどう生かせば、この魔境を生き抜けるのか。

 単純な強化系のような戦い方は不可能だ。出力不足のまま真正面から殴り合えば、格上の念能力者に一瞬でオーラを弾き飛ばされて終わる。

 

「……レバレッジ、か」

 

 皮肉なものだ。自分の名前を思い出し、自嘲気味な笑みが漏れた。

 出力が低いなら、どうにかして「かさ増し」するしかない。自己資金(顕在オーラ)が少ないなら、莫大な資産(潜在オーラ)を担保にして、無理矢理にでもレバレッジをかける仕組みが必要だ。

 それに加えて、この溢れんばかりの潜在オーラをただ体内に眠らせておくのはあまりに勿体ない。タンクから溢れる水を、別の容器に移してストックすることはできないか。

 情報、蓄積、準備。

 俺の武器は、前世から持ち越した原作知識と、狂ったようにデカいバッテリー容量だけだ。

 

 孤児院の遠くから、また誰かの争う怒声が聞こえてきた。流星街では日常のBGMだ。

 俺はゆっくりと立ち上がり、薄汚れた服の砂を払った。

 生き残るための能力()の設計図が、少しずつ頭の中で形になり始めていた。

 この最悪の初期条件から、生存確率を限界まで引き上げるための能力。それを形にするまで、死ぬわけにはいかない。

 

 

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