アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?   作:村ショウ

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感想、誤字報告ありがとうございます!
まさか、ここまで評価をいただけるとは…。感想なども参考に、加筆修正しながら投稿している書き溜め分がそろそろ切れそう。



10.トリックタワー×バクレツ×ショートカット

 

 マフタツ山での『ゆで卵試験』を終えた受験者たちは、ハンター協会の飛行船に乗り込み、第三次試験の会場へと向かっていた。

 船内の広間では、疲労困憊して泥のように眠る者、あるいはまだ見ぬ次の試験に向けて神経を尖らせている者など、さまざまな空気が入り混じっている。

 俺は壁際の一角に陣取り、リュックを枕にして横たわっていた。傍らでは、カストロが胡座をかいて静かに瞑想している。彼の周囲には極めて薄いオーラが張り巡らされており、武闘家としての休息と警戒を両立させていた。

 

 少し離れた場所から、楽しげな声が聞こえてくる。

 ゴンとキルアだ。彼らは飛行船の中を文字通り遊び場のように駆け回り、有り余る体力を発散させていた。あの底知れないスタミナと回復力こそが、一千万人に一人の才能と呼ばれる所以だろう。

 それに引き換え、俺の肉体はただの少し鍛えられた人間でしかない。第二次試験までの疲労が、鈍くだが鉛のように手足にのしかかっている。オーラ満タンに近くても、精神や肉体スペックはそう簡単に上がるものでもない。

 だが、頭の中はひどく冴え渡っていた。

 

(次は、第三次試験……『トリックタワー』か)

 俺は目を閉じ、前世の記憶──原作知識の引き出しを開け、情報を整理していく。

 塔の頂上に降ろされ、七十二時間以内に生きて塔の底まで降りる。それが次なる課題だ。

 塔の内部には無数のトラップや、減刑を餌に雇われた凶悪犯の囚人たちが待ち受けている。ゴンたちは『多数決の道』という五人一組のルートを選び、囚人たちと五本勝負を行うことになるはずだ。

 

 だが、俺にはあんな面倒なアトラクションに付き合う義理もなければ、趣味もない。

 囚人たちの中には解体屋ジョネスのような怪力自慢の危険人物から元精神科医の頭脳派なレルートみたいな女も混ざっている。ジョネス程度ならキルアクラスやカストロがいれば一瞬で終わる相手だし、特に警戒しなくても良い。だが、心理戦を仕掛けられたらキツイ。

 ハンター試験のルールは、時に極めて抽象的だ。『生きて降りる』という条件さえ満たせば、その過程でどれほど強引な手を使おうが咎められることはない。原作におけるゴンも、最後は壁を壊してショートカットするという力技でクリアしていた。

 

(なら、最初から最後まで、その力技を押し通せばいい)

 

 俺の傍らには、強化系の極致へと成長しつつある武闘家がいる。

 俺の蓄積と彼の武力。二人の能力を掛け合わせれば、あの塔の構造そのものを「無視」できるはずだ。

 方針は固まった。俺は短い睡眠をとるため、意識を深く沈めた。

 


 

 翌朝。

 ゴンが会長相手に頑張ったからか、少しゆっくりとして目的地についた。

 飛行船から降ろされた受験者たちは、雲を突くような巨大な石造りの塔──トリックタワーの平らな屋上に立たされていた。

 

「ルールは簡単。今回の試験は、ここから生きて下まで降りてくること。それでは、制限時間は七十二時間です」

 

 案内役のビーンズがそう告げると、船はあっけなく上空へと飛び去っていった。

 吹きさらしの屋上に残された数十名の受験者たちは、周囲を見渡し、塔の外壁を覗き込んでは絶望の表情を浮かべている。ロッククライマーの男が外壁を降りようとして、怪鳥に食い殺される光景も原作通りに展開された。

 答えは外ではなく、屋上の床にある。

 

 俺はカストロに目配せをした。

 

「師匠、どうしますか?」

 

「まずは足元の構造を把握する。君の『(エン)』で、床下の空間を探ってくれ」

 

「承知しました」

 

 カストロが静かに目を閉じ、体表のオーラをふわりと周囲へ広げた。

(エン)』。オーラを自分を中心に一定の半径まで広げ、その中に入ったモノの形状や動きを肌で感知する高等技術。

 現在のカストロの『(エン)』の有効半径は、通常時で約十メートル。

 

「……なるほど。床のあちこちに、下に落ちるための隠し扉が仕掛けられています。ですが、扉の先の通路はバラバラの方向へ伸び、それぞれ別の小部屋に繋がっているようです」

 

 カストロが感知した情報を正確に報告してくる。

 俺は視界の端で、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオの四人が落ちるのを確認した。トンパを加えて五人一組となることだろう。原作通りなら『多数決の道』に違いない。彼らの物語は、あそこで勝手に進むはずだ。俺たちが干渉する必要はない。

 

「カストロ。二人で同じ空間に落ちることができ、なおかつ、その下にも『空洞』がある場所を探してくれ」

 

「空洞……通路ではなく、ですか?」

 

「ああ。通路でも良いが壁越しの空洞でいい、真下に空間がある場所だ」

 

 カストロは少し位置をずらしながら『(エン)』による索敵を続け、やがてある一角で足を止めた。

 

「ここです。この扉から落ちた先の部屋、その床下の分厚い岩盤を挟んださらに下に、塔の底部へ向かって真っ直ぐ伸びる吹き抜けのシャフトがあります」

 

「上出来だ。そこから入るぞ」

 

 俺とカストロが隠し扉を踏むと、床がパタンと反転し、二人は暗い小部屋へと滑り落ちた。

 部屋には『扉を空けたければ、二人共にリストバンドを装着せよ』といったような電光掲示板のメッセージがあったが、俺はそれを一瞥すらせず、具現化した『空想電脳板(ファンタジータブレット)』の画面を開いた。

 

 カストロの言葉をもとに、塔の内部で把握できた構造を頭の中でマッピングし、タブレット上に簡略化したルートを描き出す。

 

「この部屋の真下に、そのシャフトがあるんだな?」

 

「はい。ですが、床の岩盤はかなりの厚さがあります。さらに下へ行くには……」

 

「ぶち抜く」

 

 俺は事も無げに言った。

 

「そう、こんな風に……!」

 

 俺は右手に持った『携帯する蓄念池(モバイルオーラバッテリー)』をその岩盤に投げつける。

 

「『爆裂する蓄念池(バッテリーエクスプロージョン)』!!」

 

 それはゲンスルーのように爆弾そのものを作る能力ではない。

 あくまで、蓄念池の中に貯めたオーラを、放出系と変化系の合わせ技で一気に爆裂させるだけの技だ。

 8,000オーラの蓄念池なら、蓄念池自体の生成コスト+現在の充念オーラ量が爆発力となる。即ち、満タンならそのオーラ分の16,000オーラの放出系攻撃となる。

 ただし、具現化系の俺では最大でも放出系の効率は40%であり、ゴンのジャジャン拳のパーがオーラの割に威力が低かったように、効率加えて本人の習得率も乗算されるため、変化系もあるとはいえ実際は30%程度あれば上出来かもしれない。もちろん、今後の修行次第で40%に近づけることも出来るが。

 つまり、今回の能力では16,000オーラなら、威力としては30%の4,800オーラ相当となる。

 

 これを『爆裂する蓄念池(バッテリーエクスプロージョン)』でなく過負荷による放出系攻撃で行えば、顕在オーラを500オーラから約32倍の16,000にしないといけないので、1024倍の512,000オーラが必要になる。

 対して、この能力は蓄念池の16,000オーラで済み、絶で蓄念池をチャージする制約があるとはいえ、複数の蓄念池を同時多発での爆破も可能である。さらに、使い終わった蓄念池も生成コスト分の飛び道具として爆発させられる。

 今回の岩盤を壊すだけの目的なら過負荷+強化系攻撃でも良いが、それでも効率は最大60%、最大効率でも4800オーラ相当の威力には8000オーラ必要であり、500オーラの過負荷倍率16倍、消費オーラ256倍の128,000オーラの消費がされてしまう。

 

「通路の迷路やトラップ、囚人どものゲームに付き合ってやる時間はない。ここから真っ直ぐ下に穴を掘り進める。君の力でも可能だろう?」

 

 カストロは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにフッと笑みをこぼした。

 

「無茶を仰る。ですが……嫌いな戦法ではありません」

 

 彼は部屋の中央に立ち、大きく足を開いて腰を落とした。

 純白の道着が、内側から膨れ上がるような莫大な闘気によってバタバタと波打つ。

 

「──『神・虎咬拳(しん・ここうけん)』!」

 

 カストロの全身のオーラが、文字通り倍に膨れ上がった。俺の『過負荷(オーバークロック)』の理論を応用した、出力二倍、消費四倍の倍率技だ。

 

「同時に『(エン)』を展開しろ! 半径は二十メートルまで広がるはずだ。真下の安全を確認してから撃て!」

 

「見えました……底なしのシャフト。行きます!」

 

 カストロは全身のオーラを右腕の拳に集中させる『(コウ)』の技術を用い、虎の牙を模した構えから、床の岩盤に向かって渾身の打撃を振り下ろした。

 ズドゴォォォォォォンッ!! 

 塔全体が地震のように揺れ、分厚い岩盤が爆発したかのように粉砕された。瓦礫の雨とともに、床に巨大な大穴が開く。

 穴の底からは、カストロが感知した通りの、塔の下層へと続く広大な吹き抜け空間が顔を出した。

 

「飛ぶぞ」

 

 俺たちは瓦礫と一緒にその穴へ飛び込み、暗闇のシャフトを真っ逆さまに落下していった。

 途中の足場や飛び出た鉄骨を蹴りながら、落下速度を殺して下の階層へと降りていく。

 

 着地した先は、別の通路だった。

 

「道が塞がっています。次は壁の向こうに下への階段が──」

 

「壊せ」

 

「ハッ!」

 

 ドゴォォン! 

 カストロの拳が分厚い壁を紙切れのように吹き飛ばす。

 そのまま、俺たちはトラップも迷路もすべて物理的に破壊し、強引に直線ルートを開拓しながら塔を降りていった。

 

 だが、カストロの息が目に見えて上がり始めていた。

 無理もない。出力を二倍にし、さらに『(コウ)』で局所的にオーラを爆発させる。その四倍のオーラ消費は、いくら彼でも数回の壁破壊で底が見え始めるほどの悪燃費だ。

 ここで、俺の真骨頂が活きる。

 

「送るぞ」

 

 走りながら、俺はタブレットの『念送信(センドオーラ)』のアプリをタップした。

 俺の『貯念口座(オーラバンク)』から、カストロの体内へとダイレクトに流し込まれる。

 

「……ッ! 助かります、師匠!」

 

 カストロの顔に血色が戻り、オーラの炎が再び激しく燃え上がった。

 カストロの圧倒的な破壊力と『(エン)』による索敵。そして、俺の無尽蔵のバッテリーとルート解析。

 この二つが噛み合った時、俺たちの進撃を止める壁は、この塔には存在しない。

 


 

 その頃。

 トリックタワーの心臓部にある監視室では、パイナップルのようなモヒカン頭に大きな丸眼鏡をかけた男──第三次試験官のリッポーが、大量のモニターを前にして持っていたポッキーのようなお菓子を床に落としていた。

 

「な……なんだ、こいつら!?」

 

 リッポーの隣のハンター協会スタッフが驚きの声をあげた。

 リッポーの丸眼鏡の奥の目が、驚愕に見開かれている。

 モニターの一つに映し出されているのは、四百三番のカストロと四百四番のリトクの姿だ。

 彼らは用意された試練や、凶悪犯とのデスバトル、知恵の輪のような迷路といった試験のギミックを、ことごとく物理的に粉砕して進んでいた。

 分厚い隔壁が、銀髪の男の拳一つで次々と消し飛んでいく。

 

「しょ、所長! あの二人、第Bブロックの隠し通路の壁を破壊して、Dブロックのシャフトへ直行しています! このままでは、予定されていた試練をすべてスルーされてしまいます!」

 

 慌てふためく監視スタッフの声に、リッポーは舌打ちをした。

 

「見ればわかる! あいつら、ただの壁の破壊じゃない……事前に『円』を使って、構造の弱い部分やルートを的確に探り当ててからぶち抜いてやがる。しかも、あの破壊力……並の念能力者じゃないな」

 

 リッポーは賞金首ハンターであり、刑務所長だ。彼自身の目利きからしても、画面の中で暴れ回っているカストロのオーラの練度は、すでにプロの武闘派ハンターと比べても遜色ないレベルに達していた。いや、星持ちのハンタークラスと言えた。

 そして、その後ろで黒い板のようなものを弄りながら、まったく疲労を見せずに随伴している四百四番の男。最初の爆破の時もそうだが、あいつが背後で何かをするたびに、何の疲労もなく消耗しているはずの前衛のオーラが瞬時に回復している。

 

「所長、器物破損です! 試験のルール違反として失格にすべきでは!?」

 

 スタッフの悲鳴に近い進言に、リッポーはポリポリと頭を掻いた。

 

「……バカ言え。俺はルールとしての最初に『生きて塔の下へ降りること』としか言ってない。壁を壊しちゃいけないなんてルールは一言も設定してないんだよ」

 

「ですが、このままでは塔の修理費が……!」

 

「そんなのは協会に請求すればいい。 それに……」

 

 リッポーはモニターの中の二人の姿から目を離さず、ニヤリと笑った。

 

「あいつらのあの連携……向こうがやる気なら下手な足止め役を送ったところで、一瞬でミンチにされるだけだ。ここの凶悪犯の囚人どもをぶつけても、文字通り壁ごと粉砕される。……面白いね。今年は本当に、規格外のバケモノばかり揃ってやがる」

 

 試験官としてのリッポーの判断により、リトクたちの強行突破は黙認されることになった。

 


 

「……ここが底か」

 

 巨大な鉄の扉を押し開け、俺とカストロは静かな広間へと足を踏み入れた。

 トリックタワーのゴール地点。

 広間には誰の姿もない。当然だ。あのヒソカやイルミでさえ、まだ塔のギミックを真っ当かどうかはともかく、攻略している最中だろう。

 壁の時計を確認する。屋上から降りてくるのにかかった時間は、わずか四十分足らずだった。

 七十二時間という制限時間からすれば、呆れるほどの最速記録だ。

 

「師匠の言う通り、随分と呆気ない試験でしたね」

 

 カストロが道着の埃を払いながら、涼しい顔で笑った。

 

「ああ。だが、ここから先が本当の地獄だ。残りの七十時間以上、ここでたっぷりと休息を取らせてもらう。第四次試験は、ただの体力勝負や知恵比べじゃ済まないからな」

 

 俺は広間の壁際に腰を下ろし、リュックから水筒を取り出した。

 試験官側が俺たちの攻略法にどう反応したかは知らない。だが、ルールに違反していない以上、失格にはできないはずだ。

 俺の最大の武器は、ルールの中で最大限のレバレッジを効かせること。

 

(これで、次の盤面も多少有利になる)

 

 広間に静かに響くカストロの規則正しい呼吸音を聞きながら、俺は次の舞台──第四次試験であるゼビル島での『狩る者と狩られる者』のサバイバルへと思考を巡らせた。

 仕込んできたコンビ戦術が、初めて綺麗にハマった。

 その確かな手応えを噛み締めながら、俺は静かに休息の時を迎えた。

 

 




爆裂する蓄念池(バッテリーエクスプロージョン)
蓄念池を放出系+形状変化を伴う変化系攻撃として爆裂させる派生技。ゲンスルーのように爆弾そのものを作るのではなく、蓄念池のオーラを一気に放出する。複数同時の爆裂が可能。
爆発力は蓄念池の生成コスト + 現在の充念オーラ量
例:容量8,000オーラの満タン蓄念池なら
生成オーラ8,000 + 充念オーラ8,000 = 総量16,000オーラ
主人公は具現化系なので放出効率は最大40%
さらに変化系処理や習熟率込みで、実戦値は30%
よって総量16,000なら実質威力は約4,800オーラ相当

制約:蓄念池を消費することで発動可能
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