アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと? 作:村ショウ
期間が空いてしまいました。
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ゼビル島の洞窟に隠れ潜むこと数日。
俺とカストロは、誰とも遭遇することなく、ただ静かに時間の経過を待っていた。
島のどこかで声が上がり、衝突の音が響くたびに、俺はカストロと共に警戒を強めた。だが、幸いなことに俺たちを見つけ出す物好きは現れず、安全な隔離空間での充電とオーラ備蓄は順調に進んだ。
『ただいまを持ちまして、第四次試験は終了となります。受験生の皆さんは速やかにスタート地点にお戻りください。これより、1時間を帰還猶予時間とします。スタート地点へ到達したあとのプレートの移動は無効です。確認され次第、失格となりますのでご注意ください』
島中に響き渡る無機質なスピーカーの声が繰り返される。
俺は小さく息を吐き出し、立ち上がって凝り固まった肩を回した。
「終わりましたね、師匠」
「ああ。行こうか」
森を抜け、スタート地点であった開けた海岸へと戻る。そこには既に、何人かの見知った顔が集まっていた。
ヒソカ、イルミ、ハンゾー。彼は静かに合否の判定を待っていた。
俺たちが持参したプレートをビーンズに確認させ、合格が確定してしばらくした頃だった。
森の奥から、三人組が駆け出してきた。ゴン、クラピカ、そしてレオリオだ。彼らの手にはしっかりと必要点数のプレートが握られている。ゴンの顔はヒソカとの一件のせいか少し影を落としていたが、それでも仲間のために動き、バーボンの蛇の罠に嵌ったポンズを眠らせて助け出し、彼女のプレートを奪ってきたのだろう。
これで原作通り。俺の介入による致命的なバタフライエフェクトは、今のところ起きていない。
第四次試験は合格者9名。いや、俺とカストロを含めれば11名だ。そのうち、ルーキーが俺達含め8名という豊作年になるのだろう。
残った受験生たちを乗せた飛行船は、最終試験の会場へ向けてゼビル島を飛び立った。
船内の休憩スペースでは、緊迫したサバイバルから解放されたからか、奇妙な日常感が漂っていた。
「おい、クラピカ! 最終試験ってのは筆記試験なんじゃないのか!?」
レオリオが血相を変えて、分厚い本を抱えながらクラピカに詰め寄っている。ボドロから聞いたであろう話が出てきた。
「……ハンターの素質には知力も含まれる。可能性がないとは言いきれないな」
クラピカが冷静に答えると、それを聞いていたハンゾーやポックルまでが青ざめ、慌ててどこからか持ち出してきた本を広げたり、袖口にカンニングペーパーを仕込んだりし始めた。
殺し合いの試験をくぐり抜けてきた男たちが、学生のように必死で鉛筆を転がしている姿は滑稽だが、彼らも本気なのだ。
俺はそのてんやわんやを遠巻きに眺めながら、食堂の隅でいつもの日課をこなしていた。
テーブルの下で『携帯する蓄念池』にオーラを注ぎ込みながら、もう片方の手でタブレットを操作し、『念課金は家賃まで』のガチャを回す。
画面の中で安っぽい演出の光が弾け──そして「スカ」の文字が無情にも表示される。
「……チッ、またハズレか。顕在オーラ五百ぽっちじゃ、何回引いてもドブに捨てるようなもんだな」
俺が舌打ちをしていると、向かいの席にカストロがコーヒーを持って座ってきた。彼は先ほどから、ゴンやクラピカたちと軽く言葉を交わしていたようだ。
「彼ら、やはり随分と面白い少年たちです。特にあのゴンという少年……底知れないものを感じます」
「だろう? 彼は天才だ。だが、今はまだ発展途上。我々が学ぶべきところもあれば、今のうちは彼らが我々から学ぶこともあるさ」
一切関係ない俺がまるで誇らしげにいうのもおかしい気がするが、こう原作を知ってる故の厄介オタクの反応が出てしまう。
まぁそれでも俺が言うと、カストロは恭しく頷いた。彼にとって俺は、あのヒソカの未来を見通し、強化系の極致へ導いてくれた恩人だ。過大評価されている自覚はあるが、俺はそれなりの評価されてるが故に意見の一致が正解したようで嬉しいのかもしれない。
そういう意味では、俺の前衛としての彼との信頼関係は今のところ良好だった。
『受験番号404番、リトクさん。第二面接室までお越しください』
船内放送が鳴った。
どうやら、ネテロ会長による恒例の面談が回ってきたようだ。
第二面接室の扉を開けると、そこには座布団の上で胡座をかく和服の老人──ネテロ会長がいた。
「ほっほ。よう来たの。まあ、楽に座ってくれ」
「失礼します」
俺は少し距離を取って、腰を下ろした。
ネテロ会長は筆で紙に何かを書き込みながら、俺を品定めするような視線を向けた。第二次試験の空から降ってきた時の圧倒的な威圧感は鳴りを潜め、今はただの好々爺に見える。だが、この男が人類最強クラスのバケモノであることは嫌というほど分かっている。
命の危険が遠のいた安堵からか、あるいはヒソカとの遭遇という修羅場を乗り越えた反動か、俺の態度は自分でも驚くほど飄々としていた。
「いくつか質問させてもらうぞい。まず……お主はなぜ、ハンターになりたいのかな?」
「身分証明書と、金が必要だからです」
俺は迷いなく答えた。
「俺は流星街の出身でしてね。あそこから出て世界を自由に動き回るには、どうしても公的なライセンスが要る。それに、ハンターライセンスを売れば一生遊んで暮らせるほどの金になると聞いたもので」
「ほお、流星街の。なるほど、道理で影を感じると思ったわい」
ネテロは面白そうに髭を撫でた。
俺の体内に眠る約九十万近い潜在オーラと、五百に満たない顕在オーラ。このいびつなバランスを、この老人が完全に気づいていないとしても、違和感を持たないはずはない。それでも彼は深くは追求せず、次の質問に移った。
「では、他の10名の受験者の中で、一番注目しているのは?」
「407番のゴン。一番なら彼でしょう。まぁ、99番のキルア、406番のクラピカ、405番のレオリオ……まあ、あの四人組には注目していますが」
「ほう。ずいぶんと数が多いが……お主と行動を共にしている、403番のカストロではないのはなぜかの?」
「彼は注目するまでもなく、強いのは分かっていますから。それより、あの四人の方が『これからどう転ぶか』という意味で見ていて面白いんです」
俺が素直に答えると、ネテロは目を細めてウンウンと頷いた。個人的には原作通り行くかの注目の方が大きいのだが。
「ふむ。では最後に、一番戦いたくないのは誰じゃ?」
「44番のヒソカですね」
俺は即答した。
「あれは試験を受けに来ているわけじゃない。狩場に迷い込んだ快楽殺人鬼です。正面から殴り合うなんて御免被りますよ。なんなら、もう絡まれましたし。命のかからない戦いでもやりたくないですね」
「なるほど、なるほど。……ふむ。ご苦労じゃった。下がってよいぞ」
ネテロは紙にサラサラと筆を走らせると、俺を退出させた。
俺が部屋を出た後、俺が面談を終えるのを待っていたカストロと合流した。
カストロは面談で、注目している相手に『ゴン』と『ヒソカ』を挙げ、最も戦いたくない相手に『いない』と答えたという。武闘家らしい答えだ。そして、ハンターになりたい理由を聞かれた際には、「私の師である四百四番のリトク殿が受けると言ったから、付き従ったまでです。あの御方の知識は、ライセンスなどに収まるものではない」と、無駄に俺のハードルを上げるような発言をしたらしい。
後でカストロからその話を聞いた時、俺は頭を抱えたくなった。
というか、今気づいたが俺とも戦うつもりなのか!?
これ俺もカストロを戦いたくない相手にあげてないんだが、大丈夫か?
飛行船が到着したのは、ハンター協会が経営する豪奢なホテルの敷地内だった。
闘技場となっているホールの中心に、11名が横一列に並ばされている。
その正面に、ネテロ会長と試験官たちが立っていた。その後ろには、ホワイトボードのような巨大なパネルが布で隠されている。
「これより、最終試験の説明を行うとするかの」
ネテロの声がホールに響く。
「最終試験は……一対一のトーナメント方式で行う。その組み合わせはこうじゃ!」
布が取り払われ、トーナメント表が姿を現した。
だが、その形状は普通のトーナメントとは少し違っていた。不平等。俺は知っているが勝者が勝ち抜くのではなく、敗者が残っていく『逆トーナメント』。
「さて、最終試験のクリア条件じゃが、たった1勝で合格である! つまり、勝った者はその時点で合格、抜けられる。負けたものが上り詰め、最後まで負け残った一名だけが不合格となる。この票の頂点は不合格を意味するわけだ。何か、質問は?」
「組み合わせが公平でない理由は?」
あからさまに不公平がある対戦表にボドロがネテロ会長に尋ねる。
「うむ、当然の疑問じゃな。この取り組みは今までの成績をもとに決められておる。簡単に言えば、成績がよい者にほどチャンスが与えられるということ」
受験生たちがざわめく中、俺はトーナメント表の配置を食い入るように見つめた。キルアはそれに異論があるようだが、俺はどこであろうとそこまで異論はない。
組み合わせの最初にいるのは、原作通りハンゾーとゴン。そして、そのすぐ隣のブロックにヒソカとクラピカのラインがある。
カストロの配置は、ヒソカのブロックのすぐ隣。ハンゾーよりは下だが、ポックルやボドロよりは明らかに高い位置に置かれていた。ネテロの評価基準である『ハンターの資質(身体能力値・精神能力値・印象値)』において、完成されつつあるカストロの武と堂々たる態度は、高く評価されたということだろう。彼は一、ヒソカとギタラクル両方に当たらなければ二回戦えば確実に抜けられる位置だ。
だが。
「……おいおい」
俺は自分の配置を見て、思わず低い声でこぼした。
俺の番号四百四が書かれていたのは、トーナメント表の最下層。
レオリオやボドロ、そして『原作で最も評価が低かった』ポックルと同じか、それ以下のどん底のラインだったのだ。
つまり、最大で2回しか戦えない配置だ。
それよりも、問題は相手がカストロであることだった。あの性悪ジジイやりやがった。
「師匠……これは一体? 師匠のあの恐るべきオーラと戦略をもってすれば、上位に配置されて然るべきはず。ネテロ会長の目は節穴ですか?」
カストロが信じられないという顔で俺に耳打ちしてきた。彼の方が怒っているようだ。ということか、やっぱり俺と対戦すること自体はカストロは気にしないのか。
「……いや、妥当な評価だ」
俺はメンタルを落ち着けて、苦笑交じりに返した。
ネテロの面談。あの時、ネテロは間違いなく俺の『歪なオーラ』と『打算的な精神』を見抜いていた。
俺は、正面からの困難に挑んで壁を壊すようなハンターではない。原作知識というカンニングペーパーを使い、安全な場所からレバレッジをかけて、事故なく勝つことだけを考えてきた。
ハンター協会が求めるのは、未知に挑む探究心や、逆境を覆す土壇場の煌めきだ。俺のような『投資家』気質なのに安全主義者は、ネテロの言う『ハンターの資質』においては最も底辺の評価を下されて当然なのだ。
(思ったより評価が低いのは少しばかり腹が立つが……、能力的にもポックルの方がまだハンターに向いてそうだし、まあいい)
俺は小さく息を吐いた。
配置がどうであれ、この逆トーナメントで全員が全力で殺しにくるわけではない。「相手を殺せば失格」というルールがある以上、俺の戦術は十分に通用する。それに、原作通りならそれも関係ない。
命の危険がないこの盤面なら、いくらでもやりようはある。
ゴンやレオリオたちが真剣な眼差しでトーナメント表を見上げる中、俺は己の蓄念池の残量とタブレットの機能を脳内で再確認し、静かに闘志を燃やしていた。
騙す方と騙される方は騙す方が悪いが、フラグは立てる方が悪い。