アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?   作:村ショウ

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ちょっと期間が空いてしまいました…。
来週から原作連載再開ktkr
急いで続きを仕上げました!!



15.オン×ノ×オシツケ

 

 最終試験の舞台となる広間には、異様な静寂が満ちていた。

 ネテロ会長の背後に設置されたホワイトボード。そこに描かれた『逆トーナメント表』は、見れば見るほど俺の実力が浮き彫りになる。納得な部分もあるが。

 

 勝者が抜け、敗者が残る。つまり、チャンスとなる試合数が多く与えられた者ほど『ハンターとしての資質が高い』と評価されているのだ。

 頂点に位置するゴンとハンゾー、そして俺の横に立つカストロ。彼らは最大で五回のチャンスを与えられた超高評価組だ。次いでクラピカ、ヒソカ。その下にキルア、ポックルとなる。ボドロとレオリオの三回と続く。

 そして、最下層。

 最大で二回しかチャンスが与えられない、つまり『一度負ければ次はもう後がない』という絶壁に立たされているのが、ギタラクルと、俺──リトク・レバレッジだった。

 

 壁際に寄りかかりながら、俺は内心でため息をついた。

 ネテロ会長の目は誤魔化せない。流星街出身の俺でも分かるが、ギタラクルことイルミは全身から暗殺者特有の冷たく機械的な血の匂いを漂わせているし、俺は俺で安全第一の打算しかない。未知を探求し、困難を乗り越えるハンターの気質からは最も遠い人間だ。

 だが、評価が低いからといって落ち込む必要はない。原作通りいかなくても1度勝てばいいだけだ。

 

「第一試合、ゴン対ハンゾー。両者、前へ」  

 

 審判の合図とともに、最終試験の幕が上がった。

 

 その試合は、狂気としか言いようがなかった。

 実力差は歴然。ハンゾーの素早さと打撃の重さに、ゴンは全く歯が立たない。だが、ハンゾーがどれだけゴンの体を痛めつけても、ゴンは決して「参った」と言わなかった。

 腕を折られ、床に組み伏せられても、ゴンの目から光は消えない。

 手足をきられそうになれば「それは困る。でも、降参するのも嫌だ」と言うゴンの異常性に、ついにハンゾーの心が折れた。

 実力で勝りながらも、精神の異常なまでの輝きに圧倒されたハンゾーが降参を宣言する。あれこそが、ネテロ会長の求める『ハンターの資質』なのだろう。

 

「……信じられない精神力だ。あれが、十二歳の少年だというのか」

 

 隣でカストロが信じられないものを見るように呟いた。

 

「彼には絶対に折れない芯がある。普通はあそこまで真っ直ぐにはなれないものだ」

 

 俺は肩をすくめ、小さく息を吐いた。

 

 続く試合は淡々と進んだ。ハンゾーは続くポックルとの試合であっさりと勝利を収めて合格。

 ヒソカとクラピカも原作通り、蜘蛛の話が行われていたようだ。

 

「ギタラクル対リトク。両者、前へ」

 

 広間の中央に歩み出た俺の前に、無数の待ち針を顔に刺した不気味な男──ギタラクルが立っていた。

 ガタ、ガタガタ、と顔の筋肉を奇妙に痙攣させながら、彼は虚ろな目で俺を見つめている。

 その奥底に潜む、冷え切った殺気。

 

 俺の最大オーラは八十九万。出力は五百だが、『過負荷』を使えば一時的に上位ハンタークラスのオーラを纏うことはできる。

 だが、この試合のルールは『相手を殺せば失格』だ。

 俺が過負荷で高火力の爆発や打撃を叩き込み、手加減を間違えれば俺が失格になる。逆に、相手はプロの暗殺者。一瞬の隙を突かれて急所を刺されれば、いくらオーラを纏っていてもただでは済まない。

 何より、こんなバケモノを相手に、貯めに貯めた口座のオーラを無駄に浪費したくはないし、殺してしまえば原作上の役割として問題がある。死後の念としてキルアの針が抜けなくなる可能性もある。

 

「……」

 

 俺はギタラクルの不気味な瞳を数秒見つめ返し、そして、スッと右手を挙げた。

 

「「降参する」」

 

 会場がどよめいた。

 

「なっ……戦いもせずに!?」

 

 レオリオが信じられないというように声を上げる。カストロでさえ、わずかに眉をひそめていた。

 なぜなら、互いが同じタイミングで戦いもせずに降参しようとしたのだから。

 

 だが、俺は気にも留めずに踵を返し、壁際へと戻ろうとした。

 ネテロ会長が俺を最低評価にしたのは正しい。勝算のない、あるいはリスクに見合わない戦いは最初から捨てる。それがリトク・レバレッジという男の戦い方だ。

 ギタラクルはカタカタと首を傾げ、興味を失ったようにしている。

 

「これはどうしたもんかの……同時に降参とはのう」

 

「カタカタ……彼に譲ろう」

 

 俺に勝利を譲るとは。ギタラクルとしてはどうしてもキルアと戦いたいようだ。

 

「それはどうも、ありがたく勝ちを頂きます」

 

 俺の次の試合、最後のチャンスは誰が降りてきても勝てる算段があった。ポックルやボドロ程度なら、過負荷の圧を見せるだけで十分だ。しかし、それすらしなくてよいのならしないに越したことはない。

 

 その後は予定通りというか、既定路線の対戦があったわけだが…。試験の空気は、次の一戦で致命的なまでに凍りつくこととなる。

 

「キルア対ギタラクル。両者、前へ」

 

 広間の中央で、白髪の少年キルアと、針男のギタラクルが対峙する。

 

「久しぶりだね、キル」

 

 ギタラクルが自らの顔に刺さった針を次々と抜き始めた。骨が軋むような不気味な音とともに、彼の顔が変形し、長く艶やかな黒髪を持った青年の姿へと変わる。

 

 ゾルディック家の長男、イルミ。  

 キルアの顔が、見たこともないほどの絶望と恐怖に染まった。

 

「兄貴……」

 

 キルアの震える声。

 そこからは、完全なイルミの独壇場だった。

 

 暗殺者として生きていくことしか許されないという呪縛。友達などいらない、お前には友達を作る資格がないという冷酷な洗脳。

 イルミの言葉一つ一つが、毒の棘のようにキルアの精神に突き刺さっていく。

 

「ゴンと友達になりたい……」

 

 キルアが絞り出すように言ったその言葉に、イルミは無表情のまま首を傾げた。

 

「もう、すでにお前ら友達だろうが!!少なくとも、ゴンはそう思ってるはずだぜ」

 

 レオリオがキルアを落ち着かせようと叫ぶ。

 

「まいったなぁ、彼はもう友達だと思っているのか。よし、ゴンを殺そう」

 

 イルミがゴンが寝かされている医務室の方へ歩き出そうとした瞬間。 クラピカ、レオリオ、ハンゾーの三人が、弾かれたようにイルミの前に立ちはだかった。

 

「そこを通すわけにはいかないな」

 

 クラピカが鋭い殺気を放つ。

 

「やれるもんならやってみろ! 俺たちを殺せば、お前は失格だぞ!」

 

 レオリオが怒鳴りつける。 だが、イルミは全く動じる様子を見せなかった。

 

「それは困るなぁ。次の仕事の関係上、資格は必要なのに。じゃあ、合格した後で、ゴンを殺そう。それなら問題ないよね?」

 

 試験官に確認を取るイルミ。底なしの闇のような暗殺者の殺気が、会場全体を重く押し潰す。クラピカたちが息を呑み、一歩後ずさりそうになった、その時だった。

 

(……降参した手前、大人しくしていようと思ったんだがな。ここで動かないのは心象が悪くなるか)

 

 俺は壁際から一歩前に踏み出した。偽善とも言えない利他的思考。ただの虚栄心かもしれない。俺はゴンたちと特別親しいわけではないし、ここで彼らを助ける義理もない。

 

 だが、この殺伐としたハンター試験の中で、彼らが作り出した『仲間』という奇妙な連帯感は、俺の冷え切った打算の奥に、ほんの少しだけあの4人組に恩を売れるという、心地よい熱を残していた。

 

 それに、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という前世の迷言もある。クラピカたちがあれだけ前に出ているのだ、俺一人くらいが混ざっても、イルミの標的が俺だけに集中することはないだろう。

 

「カストロ。お前も最悪動いていいぞ」

 

「師匠……」

 

 俺は深呼吸をし、自らの能力の深淵にアクセスする。

『空想電脳板』のシステム中枢、『過負荷』のアプリを起動する。  

 

 その倍率──二十倍。

 

 俺の体内から、物理的な風圧を伴う莫大なオーラが爆発的に噴き出した。 その出力、一万オーラ。

 ネテロ会長やヒソカでさえも目を見張るような、圧倒的で、暴力的で、理不尽なまでのオーラの波。

 二十倍の過負荷は、四百倍のオーラ消費だ。戦闘をしなくても最低毎秒四百オーラという狂気の沙汰の引き落としが、俺の『貯念口座』から自動で行われていく。

 オーラとは体を巡るもの。強化され千切れることはないが、その流れが全身の血管が焼き切れるような痛みを堪え、俺はゆっくりとイルミの背後へ向かって歩を進めた。

 

「……っ!?」

 

 俺から放たれる凄まじい威圧感に、審判を務めていた試験官たち──サトツ、メンチ、ブハラ、リッポーの四人が一斉に息を呑み、顔を強張らせた。

 

「なんなの、このオーラ量は!? 今まで私の前で見せたものと全然違うじゃない……!」

 

 メンチが額に冷や汗を浮かべて後ずさる。

 

 壁際で壁にもたれかかっていたヒソカの肩が、歓喜のあまりブルブルと震え始めた。彼の瞳が、爛々とした妖しい光を放って俺を見つめている。

 

「彼らに手を出せば、ただじゃ済まないことになる。イルミ=ゾルディック」

 

 俺はあえて、ギタラクルではなく彼の本名で呼び捨てにした。

 

「先ほどは降参させてもらったが、それは『勝算がない』からではなく『割に合わない』と判断したからだ。だが、お前がここで彼らを殺すというのなら──」

 

 俺は右手に極度に圧縮したオーラを集中させ、危害にならない程度でイルミの背中に向けて殺気を放った。

 

「試験の合否など関係なく、お前をここで灰燼に帰す」

 

 イルミがゆっくりと振り返った。

 漆黒の瞳が、俺の纏う一万オーラの圧を静かに見つめている。

「……へえ」  

 

 感情の読めない声だった。

 

「君、さっき戦いもせずに逃げたのに。すごいオーラだね。でも、本当に僕を止められると思ってる?」

 

「やってみなければ分からないだろう?」  

 

 俺は冷や汗を流しながらも、不敵な笑みを崩さなかった。

 ハッタリだ。この状態を維持できるのはそこまで長くはない。一撃で仕留められれば良いが、基礎の身体スペックが違うので回避に専念されたら厳しい。だが、この圧倒的なオーラ量を見せつければ、原作でもヒソカとの戦闘を避けていたように、いかにイルミといえども無視してゴンたちを殺しに行くことはできないはずだ。

 クラピカ、レオリオ、ハンゾーはともかく、原作通りヒソカはいるのだ。

 

 しかし、イルミの標的は俺たちではない。

 

「……いいよ。じゃあ、戦うのはやめておくよ」

 

 イルミはスッと殺気を消し、再びキルアの方へと向き直った。

 

「え?」

 

「やっぱり、キルにはまだ早い。友達なんて必要ない」

 

 イルミがゆっくりと右手を挙げる。俺のプレッシャーなど、最初から関係ない。イルミは肉体的な暴力ではなく、精神的な呪縛によってキルアを支配している。

 キルアの瞳から完全に光が消え、底なしの絶望だけが残った。

 

「参った……俺の負けだ」

 

 キルアの口から、虚ろな声が零れた。

 

「……ッ!」

 

 俺は即座に過負荷を解除した。

 莫大なオーラの波がスッと引き、俺は膝をつきそうになるのを必死でこらえた。口座のオーラが数万単位で消し飛んだこと以上に、この程度のオーラ消費で音を上げそうになる己の無力さが重くのしかかる。

 

「よく言った、キル」

 

 イルミが満足そうに微笑み、キルアの頭を撫でた。 キルアは人形のように立ち尽くしている。

 

  組まれていたレオリオ対ボドロの試合が始まろうとした。まさにその瞬間だった。

 

 キルアが音もなく動き、ボドロの背後に回ったかと思うと、その鋭利な爪で、彼の胸を背中から一息に貫いていた。ドサッ、と崩れ落ちるボドロの死体。

 血まみれの腕を下ろし、キルアは誰を見ることもなく、そのままフラフラと会場の外へ向かって歩き出した。

 

「99番キルア、ルールにより失格!」

 

 悲痛な声が響くが、キルアは振り返らなかった。

 俺たちの介入も、クラピカたちの怒りも、今は意味はない。キルアの精神はまだ囚われているのだから。彼は無意識のうちに『殺人』という最も慣れ親しんだ行動をとることで、この異常な空間から逃避してしまったのだ。

 

 重苦しい沈黙が広間を支配する。

 ボドロの死。キルアの失格。これにより、残った受験者全員の合格が自動的に確定した。

 

「……すまない、リトク」

 

 不意に、クラピカが俺の隣に歩み寄り、深く頭を下げた。

 

「あの針の男──キルアの兄を名乗るイルミがゴンを狙った時、矢面に立ってくれたこと、感謝する。君のあの圧倒的な威圧感がなければ、イルミは本当にここで殺戮を始めていたかもしれない」

 

「ああ、俺も礼を言うぜ。お前、さっきは降参したからビビってんのかと思ったが、いざって時はすげェ力出すじゃねえか。見直したぜ!」

 

 レオリオも俺の肩をバンバンと叩いてきた。

 

「……いや。結果的に、キルアの心を救えなかったんだから意味はないさ」

 

 俺は自虐気味に笑って、二人の手から逃れるように壁に背を預けた。

 

 虚栄で前に出た成果、得られたのは彼らからの好感、過分な評価と、数万オーラの無駄遣いだな。

 ネテロ会長が、面白そうなものを見るような目で俺を見つめているのを感じたが、あえて無視した。ヒソカに至っては、思ったより面白い玩具に見えたのか舌なめずりをしながら俺の背中を見つめ続けている。完全に目をつけられたままだ。俺はゴンやキルアと違ってすぐに収穫されかねないから、怖い。

 

 とはいえ、ハンター試験がこれで終わった。 俺はライセンスを手に入れたわけだ。

 カストロという強力な前衛とも仲を深めるた気もする。だが、原作通りとはいえ、殺害風景を見るのはスッキリとした満足感は微塵もないな。

 

(……ゴンが目覚めたら、原作通りに一波乱あるか)

 

 俺は重い足取りで、合格者のオリエンテーションが行われる別室へと向かった。

 

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