アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?   作:村ショウ

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貯蓄…貯念は大事だよ!



03. チョチク×ト×ゼツ

 

 身を切るような流星街の冷ややかな風が、廃バスのひび割れた窓の隙間から吹き込んでくる。

 普段であれば、常にうっすらと体を覆っている(テン)のおかげで、この程度の寒さは気にもならない。だが今の俺は、歯の根が合わないほどの悪寒と、身の毛のよだつような無防備さに耐えながら、息を潜めていた。

 

 俺の目の前には、具現化した黒く無骨な箱――『携帯する蓄念池(モバイルオーラバッテリー)』が置かれている。

 その表面に両手を添え、俺は自分が出力できるわずかな顕在オーラのほぼすべてを、その箱の中へと注ぎ込んでいた。

 念能力におけるオーラの攻防力移動、いわゆる応用技『(リュウ)』に近い。出力できる顕在オーラが約300オーラだとして、その百パーセントを目の前のバッテリーへの充念に回している。

 結果としてどうなるか。

 俺の肉体を守るオーラは完全に消失し、実質的に『(ゼツ)』と同じ状態に陥る。

 無意識のうちにこの発の制約を生んでしまっていたようだ。

 これ以下だと、充念が出来ない。つまるところ、充念中は強制絶となる。すぐに中断することは出来るが、そのわずかな隙で相手が念能力者ならほぼ確実にこちらをやれるだろう。

 

 ハンターハンターの世界において、特にこの流星街という魔境において、『(ゼツ)』で過ごすことは自殺行為に等しい。防御力が常人と同レベルまで落ちるため、ただの石ころを投げられただけでも骨が折れる。しかも、このバッテリーを一つ満充念にするのにかかる時間は、固定で二時間。

 二時間もの間、俺はこの完全な無防備状態を維持しなければならないのだ。

 

「……長すぎる」

 

 かすれた声が漏れた。

 バッテリーの表面には、俺がイメージして作り上げたインジケーターが青く淡い光を放っている。だが、その光の伸びは遅々として進まない。

 俺の顕在オーラ量は絶望的に低い。細いストローで巨大なポリタンクに水を注いでいるようなものだ。

 バッテリーの最大容量は、俺の持つ莫大な潜在オーラ量の約一パーセントにあたる7200オーラほどに設定されている。それを俺の細い出力でチマチマと埋めていく作業は、途方もない根気と危険を伴う。

 

 ザクッ、ザクッ。

 不意に、廃バスの外から砂利を踏む足音が聞こえてきた。

 一つではない。複数人の足音だ。俺は心臓が跳ね上がるのを抑えつけ、バッテリーから手を離さずに呼吸を極限まで浅くした。

 バスの錆びた車体の外から、くぐもった声が聞こえてくる。

 

「おい、この辺りのスクラップ、まだ金になりそうなモンが残ってねえか?」

「チッ、昨日あらかた漁っちまったよ。それより、この前のチョロチョロしてたクソガキは見つかったか?」

「いや、見失った。すばしっこいネズミめ……捕まえたら臓器ごと売り払ってやる」

 

 前に俺を追い回していたならず者たちだ。まだ近くをうろついていたのか。

 背筋に冷たい汗が伝う。

 今の俺は『(ゼツ)』に等しい状態だ。オーラの気配が漏れないため、念能力者相手の隠密行動としては理にかなっている。だが、物理的に目視されれば一巻の終わりだ。

 窓の外のゴミ山を、鉄パイプを引きずる音が通り過ぎていく。もし彼らがこの廃バスの中を覗き込めば、今の俺には抵抗する力さえない。防御力が皆無の状態で殴られれば、六歳の体はあっけなくへし折られる。

 

 中断するか?

 バッテリーへの充填を止め、オーラを纏い直して逃げる準備をするべきか。

 俺は奥歯を噛み締め、じっと息を殺したまま耐えた。

 足音と鉄パイプの音が、ゆっくりと遠ざかっていく。彼らの気配が完全に消えるまで、体感で数十分にも及ぶようなひどく長い時間が過ぎた。

 

「……ハァッ」

 

 ようやく安全を確認し、俺は深く息を吐き出した。

 冷や汗で服が背中に張り付いている。

 これが『携帯する蓄念池(モバイルオーラバッテリー)』の最大の欠点だ。充電中の無防備さと、必要とする時間の長さ。戦闘中に悠長に充念することなど不可能だし、安全な場所を確保しなければ日常的な充電すら命がけになる。

 

 充念作業を続けながら、俺は片手で『空想電脳板(ファンタジータブレット)』を具現化した。

 手のひらに現れた黒い板の画面が立ち上がり、俺が構築した管理用アプリケーションのアイコンが並ぶ。

 このタブレットは、俺の能力のすべてを統括する中枢――ハブだ。

 画面をタップしてステータス画面を開く。

 そこには、俺の現在のオーラ状況が数値化されて表示されていた。

 

【潜在オーラ量:720,310 / 725,322】

【顕在オーラ量(出力):約 316】

【バッテリー充電進捗: 45%】

 

 やはり、俺の潜在オーラ量は異常だ。バッテリーを生成するためにバッテリー容量と同じ7200オーラを消費したはずだが、放置しているだけで凄まじい速度で回復していく。

 だが、それに対して顕在オーラ量は「316」。絶望的な数値だ。

 そしてタブレットの画面には、もう一つの懸念事項が表示されていた。

 

【警告:具現化物(バッテリー)は術者から10km以上離れると自然放念を開始します】

 

「……やっぱり、そう都合よくはいかないか」

 

 俺は具現化系だ。オーラを物体に変えるのは得意だが、それを体から切り離して維持する「放出系」の能力は、相性的に最も苦手とする。

 バッテリーを他人に預けたり、遠くに隠しておいたりしても、俺から一定距離(約十キロ)離れれば、中のオーラは少しずつ霧散してしまう。百キロも離れれば急速減衰し、一日で空になるだろう。

 つまり、巨大な貯蔵庫をどこかに作って放置することはできず、常に俺自身が持ち歩くか、手の届く範囲で管理しなければならない。

 

「時間を短縮できないか……」

 

 俺はタブレットの画面を操作し、もう一つの能力である『過負荷(オーバークロック)』のアプリを立ち上げた。

 能力の効果をn倍にし、消費オーラをnの二乗倍にする禁断のレバレッジ。

 もし、この『過負荷(オーバークロック)』を充電速度の加速に使えばどうなるか。

 倍率を十倍に設定してみる。効果が十倍になれば、二時間(百二十分)かかる充電が、わずか十二分で終わるはずだ。

 実行ボタンを押そうとして――画面に表示された『消費予測』の数値を見て、俺の指はピタリと止まった。

 

【消費倍率:100倍(10の二乗)】

【急速充電に伴う予想消費オーラ:約 720,000】

 

「……バカか。破産するわ」

 

 思わず声に出してツッコミを入れてしまった。

 現在の俺の潜在オーラ量は約七十二万。その1%のバッテリーなのだから、72万ものオーラを要求されるのは当然。そして、一瞬でオーラが枯渇し、俺は干からびる。

 十倍の速度を得るための代償が、百倍のオーラ浪費。いくらメガ盛りのバッテリーを持っていても、こんな使い方をすれば一発でショートする。

 やはり『過負荷(オーバークロック)』は、いざという時の短時間だけ出力を跳ね上げるための「切り札」であり、常用するシステムではない。便利だからといって乱発すれば、自滅は免れない。

 

「念費が悪すぎる……。だが、逆に言えば、事前にオーラさえ貯めておけば、その最悪の念費もカバーできるってことだ」

 

 俺はタブレットの画面を閉じ、再び両手でバッテリーに触れた。

 焦る必要はない。

 俺の強みは、その場の爆発力や、天性の戦闘センスではない。

 時間をかけて情報を整理し、システムを構築し、蓄積していくことだ。

 

 ふと、先ほどのならず者たちのことを思い出す。

 もし、俺が相手の能力やオーラ量、身体の情報を事前に把握できていたらどうだろう。戦うべきか、逃げるべきか、あるいはどこを突けば倒せるのか、一目で判断できたはずだ。

 ハンターハンターの戦闘において、情報は文字通り「力」だ。

 俺の『空想電脳板(ファンタジータブレット)』にも、情報端末であればそういった情報を保存し、閲覧する機能を持たせることができるはずだ。

 例えば、対象の血液や指紋を採取することを条件に、相手のステータスを読み取る『個人情報頁(プライベートデータページ)』とも言うべきアプリ。

 さらに、今はバッテリーという物理的な箱にオーラを貯めているが、いずれはこのタブレットの内部に直接オーラを取り込み、無制限に長期保存できる『貯念口座(オーラバンク)』のような仕組みも作れるかもしれない。

 

 やりたいことは山ほどある。

 だが、まずは土台だ。

 

 ゴンやキルアがハンター試験を受けるのは、ハンター歴2000年。

 今はまだ、俺が六歳の1988年。原作開始まで、十年以上の長い猶予がある。

 ゴンやキルアのような、一千万人に一人のバケモノじみた才能は俺にはない。俺は彼らのように、土壇場の閃きや爆発的な成長で強敵を打ち倒すことはできないだろう。

 俺は弱い。出力が低く、正面から殴り合えばモブの念能力者にも負けかねない。

 

「だから……積み上げるんだ」

 

 薄暗い廃バスの中で、俺は一人ごちた。

 今日から毎日、この無防備な二時間を耐え抜き、溢れる余剰オーラをバッテリーに詰め込み続ける。

 一日一個なら、一年で三百六十五個。十年で三千六百五十個。

 そのすべてが、七千二百オーラを蓄えた外部バッテリーになる。

 総額にして、数千万オーラ。可能なら二個目も作ろう。

 莫大なオーラを、時間をかけて貯蓄し、管理し、運用する。

 それだけの「証拠金」があれば、どんなに燃費の悪い『過負荷(オーバークロック)』のレバレッジでも、強引に維持することができる。

 出力不足という最大の欠点を、圧倒的な「時間の蓄積」と「資本の暴力」で叩き潰す。

 これが、リトク・レバレッジという男の戦い方だ。

 

 やがて、手のひらに伝わるオーラの流れがふっと止まった。

 バッテリーの表面にあるインジケーターが、一番端まで青く点灯し、静かに明滅している。

 満充電のサインだ。

 

 俺は深く息を吸い込み、冷え切った体を解すように『(テン)』を張り直した。

 温かいオーラの膜が全身を包み込み、流星街の寒気を遮断してくれる。これほど『(テン)』がありがたいと思ったことはない。

 

 手の中にある、ずしりと重い黒い箱。

 俺の体から切り離された、七千二百ものオーラが詰まった器。

 たった一つの小さなバッテリーだが、これは紛れもなく、俺が初めて手にした「未来への資産」だった。

 

「よし……一本目、完了」

 

 俺はバッテリーを布で包み、衣服の下にしっかりと隠した。

 この魔境で生き残り、いずれ来る原作の荒波を乗り越えるために。

 俺の気の遠くなるような貯念生活が続いていくのである。

 





取得した念能力

空想電脳板(ファンタジータブレット)
具現化したタブレット端末。リトクの能力群の母体であり、各能力をアプリのように選択・起動・管理する。
特質系寄りの状態では、原作知識に由来する画像・映像の再生も可能。情報管理、能力切替、ストレージ管理の中心。蓄念池の生成もこちらで選択して行う。
・制約
 具現化して持っていなければ、対応アプリの能力が使えない
 原作映像再生は、特質系寄りの状態での利用が前提

過負荷(オーバークロック)
念能力の効果をn倍にする代わりに、消費オーラをnの二乗倍にする能力。
リトクの低い顕在オーラ量を、莫大な潜在オーラ量や貯念オーラで無理やり補うためのレバレッジ能力。
非常に強力だが燃費は最悪で、長時間の維持や乱用には向かない。
顕在オーラ量強化、円の拡大、充念速度増加などに使える。
・制約
 使用時に倍率nを指定する必要がある
 消費は通常の単純倍ではなくn²倍
 高倍率ほど燃費が壊滅する
 例:2倍なら4倍消費、10倍なら100倍、100倍なら10000倍消費
誓約
 この能力を使用時に潜在オーラ量が0になった場合、
 現在の過負荷倍率×潜在オーラ量が溜まるまで強制的に絶となる。
 例:潜在オーラが100万オーラで、倍率10倍なら1000万オーラ分支払うまで強制的な絶となる。

携帯する蓄念池(モバイルオーラバッテリー)
余剰オーラを蓄積できる具現化物。片手で持ち運べるオーラの箱。
リトクの潜在オーラ量が過剰であることを利用し、後で使うための外部バッテリー。他人もボタン操作で使用可能
・制約
 容量は 潜在オーラ量の1% または 顕在オーラ量の大きい方まで
 充念時間は基本1個2時間
 充電速度は顕在オーラ量準拠で、100%を充念に回す必要がある
 その間、実質絶状態になる
 具現化系で放出系が苦手なため、本人から離れると自然放念する
 10km以上:およそ7日で完全放念
 100km以上:1日程度で消失
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