アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?   作:村ショウ

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04.ツミカサネ×ト×タビダチ

 

 流星街という場所は、巨大なゴミ箱であると同時に、決して止まることのない過酷な生存競争の舞台だった。

 この街では、気を抜いた者から死んでいく。昨日まで笑っていた子供が、翌朝には冷たいスクラップの下で骸となっていることなど珍しくもない。暴力、病気、飢餓。あらゆる死因が日常のすぐ隣に口を開けて待っていた。

 

 そんな魔境で、俺は来る日も来る日も、自らの命を削るような綱渡りを続けていた。

 六歳の時に最初の『携帯する蓄念池(モバイルオーラバッテリー)』を具現化して以来、俺の生活は「充念」を中心に回るようになった。

 成長もあり、俺の異常な潜在オーラ量――約89万オーラのうち、その一パーセントにあたる8900オーラを一つの(バッテリー)に詰め込む。顕在オーラ量が初期の三百程度しかなかった俺にとって、それは砂漠にスポイトで水を注ぐような途方もない作業だった。

 毎日二時間。俺は体表を覆う『(テン)』を完全に解き、オーラの百パーセントを目の前のバッテリーへ流し込む『(ゼツ)』に等しい状態を維持し続けた。

 

 安全な場所など、この街のどこにもない。

 ある時は半壊した教会の屋根裏で、ある時は有毒なガスが立ち込める地下水道の奥で、またある時は積み上げられた廃車の隙間で。誰にも見つからないよう息を潜め、ひたすらにオーラを注ぎ続けた。

 その最中に、何度か死にかけたこともある。

 

 十歳になった頃だったか。どうしても身を隠せる場所が見つからず、やむを得ず見通しの悪いスラムの路地裏で充念を強行した時のことだ。

 運悪く、流星街のならず者三人組に見つかった。彼らは俺が持っていた換金用のガラクタを狙って、錆びたナイフや鉄パイプを片手ににじり寄ってきた。

 俺は充念を完了させたばかりのバッテリーを懐にねじ込み、即座に『過負荷(オーバークロック)』を起動した。

 設定倍率は三倍。

 その瞬間、全身の毛穴から莫大なオーラが無理やり引き出される強烈な圧迫感に襲われた。三百の出力が九百に跳ね上がり、それに伴って消費オーラは九倍――通常の『(ケン)』の維持でさえ、秒間十数オーラがすっ飛んでいく最悪の燃費。移動や攻防をしたらそれ以上。

 だが、その一瞬の爆発力は絶大だった。

 俺は地面を蹴り、先頭の男の懐に潜り込むと、九百の出力で強化された拳を鳩尾に叩き込んだ。男は声にならないくぐもった悲鳴を上げ、くの字に折れ曲がって吹き飛んだ。残る二人が驚愕で動きを止めた隙に、俺は一気に路地を駆け抜け、複雑なゴミ山の迷路へと逃げ込んだ。

 

 逃げ切った後、隠れ家で荒い息を吐きながら、俺は冷や汗を拭った。

 もしあの男たちの中に、並以上の念能力者が混ざっていたらどうなっていた?

 『過負荷(オーバークロック)』は燃費が最悪だ。数分間の戦闘ならなんとかなるが、相手が堅牢な防御力を持っていたり、厄介な能力を持っていたりすれば、オーラが枯渇して俺は確実に死ぬ。蓄念池はあっても使うのはワンテンポ遅れる。それも命取りだ。

 安定してオーラを補充出来る能力は絶対に必要だった。それに加えて、ゆっくり情報収集できる場合は相手がただのゴロツキクラスなのか、それとも致命的な力を持つ者なのか。それを事前に見極める手段が欲しい。

 

 その出来事をきっかけに、俺は『空想電脳板(ファンタジータブレット)』の機能拡張を決めた。ただ、あまりにも俺の顕在オーラでは出来ることは限られていたので簡単な方から拡張することとなった。

 対象の指紋を基礎認証とし、加えて血液や体液を採取することで詳細なステータスを解放するアプリ――『個人情報頁(プライベートデータページ)』だ。

 相手の名前、能力、オーラ量、性別、年齢、血液型、病気の有無。それらをタブレットの画面に視覚化する。採取した血液や体液は体から離れて五分以内という制約はあるが、戦闘前の下準備や、相手を罠に嵌める際の情報収集としてはこれ以上ない武器になった。指紋だけでも10km以内にいる時の大まかな位置と名前とオーラ量くらいは分かる。これで戦闘の回避の可能性が高まる。ただ、このアプリを使っている間は情報料で毎秒500オーラが発生する。過負荷前提のオーラ消費である。

 

 俺の能力は、その場の閃きや感情の爆発で敵を圧倒するようなものではない。

 情報は力だ。勝てない相手からは逃げ、勝てる相手には確実な準備をしてから挑む。爆発的に強くなることはできなくても、蓄積と準備で「負けない確率」を極限まで引き上げることはできる。

 俺は自分がそういうタイプの念能力者なのだと、この流星街での泥臭い生存競争の中で確信していった。

 


 

 十四歳になる頃には、深刻な問題が発生していた。

 毎日欠かさず生成し、満充念にしてきた『携帯する蓄念池(モバイルオーラバッテリー)』の数が膨大になりすぎたのだ。

 具現化系をベースにしている俺の能力は、放出系を苦手としている。そのため、バッテリーが俺の体から十キロ以上離れると自然放念が始まり、七日ほどで完全に空になってしまう。百キロも離れれば一日で消失する。

 いくら隠れ家を分散させても、俺自身の行動範囲が縛られてしまうのでは意味がない。

 

 この問題を解決するために、俺は『空想電脳板(ファンタジータブレット)』のシステム中枢をさらに一段階引き上げた。

 それが『貯念口座(オーラバンク)』だ。

 満充念になった物理的なバッテリーの箱を、タブレットの画面に押し当てる。すると、箱がデジタルデータのように分解され、中のオーラごとタブレットの内部に吸い込まれる。

 物理的な距離制限を無効化し、俺自身の内部――あるいはタブレットという概念的なストレージの奥底に、上限なしでオーラを長期保存する機能。

 これを作ったことで、俺は物理的なバッテリーの持ち運びや隠し場所の悩みから解放された。引き出す際も、タブレットを操作するだけで『過負荷(オーバークロック)』時の膨大な消費分を自動で補填させることができる。

 ただし、バッテリーを生成する際に使ったオーラは戻ってこない。あくまで中身の今なら8900オーラだけが貯蓄される仕組みだ。それでも、無尽蔵に湧き出る潜在オーラを無駄に垂れ流すよりは遥かにマシだった。

 

 同時に、仲間や協力者を作るための布石として、『念送信(センドオーラ)』の機能も原型を組み上げた。

 血液を採取した相手に対し、俺の口座からオーラを譲渡する支援能力。俺自身は最前線で殴り合うのに向いていない。ならば、強靭な肉体や優秀な能力を持つ者を「盾」――いや、相棒として前衛に立たせ、俺が後方から莫大なオーラを供給して戦線を維持する。それが最も理にかなった戦術だ。

 

 少しずつ。

 目立たないように、だが確実な足取りで、俺は自分の「器」を大きくしていった。

 


 

 そして、ハンター歴1999年。

 俺は十八歳になっていた。前世の記憶と合わせれば、ずいぶんと老成した気分になる。

 ゴンやキルア、クラピカ、レオリオといった原作の主要人物たちが第287期ハンター試験を受けるまで、あと約一年。

 流星街の灰色の空の下、俺は廃墟の屋上に立ち、遠くに見えるゴミの山の地平線を眺めていた。

 

 長年の基礎修行と練の反復により、俺の顕在オーラ量は初期の三百から、五百を少し超える程度にまでは成長していた。

 一般の念能力者であれば、そこそこの能力者と言える水準かもしれない。だが、これから関わることになるハンター試験の受験者や、ヒソカ、イルミといったバケモノたちと比べれば、まだまだ「細い蛇口」であることに変わりはない。

 銃弾をまともに食らえば致命傷になりかねないし、キルアのような毒や電撃に対する耐性もない。俺の肉体は、あくまで少し鍛えられた人間の域を出ていない。

 

 だが、昔と違う決定的な要素が一つある。

 俺は具現化したタブレットの画面を点灯させ、『貯念口座(オーラバンク)』のステータスを開いた。

 そこに表示されている数字。

 六歳の時から十二年間。毎日二時間の無防備を耐え抜き、狂ったような執念で積み上げ続けてきたオーラの総量。

 その残高は、すでに4000万オーラという途方もない領域に達していた。

 

「……小金持ちみたいな貯蓄額だな、本当に」

 

 俺は自嘲気味に笑い、タブレットを消した。

 モラウやノヴといった一流のハンターでさえ、潜在オーラ量はせいぜい数万から十万以下程度だろう。俺の口座には、その何百倍ものオーラがストックされている。

 これだけの「証拠金」があれば、『過負荷(オーバークロック)』による最悪の燃費も、力技で数十分は維持できる。いざとなれば十五倍――出力7500オーラという、ゴンのジャジャン拳の倍であり上位ハンタークラスをも威圧するオーラを放つことも可能だ。戦闘時は応用技ありで毎秒6〜10オーラの消費のため、15倍だと225倍、最悪毎秒2250オーラを浪費するが。

 俺は最強ではない。だが、これだけの準備と資本があれば、圧倒的な格上相手でも「死なずに逃げ切る」か、あるいは「致命的な一撃を刺す」余地は十分に作れる。

 

「……もう、ここには用はないな」

 

 流星街での生活は、俺に念の基礎と生き汚さを教えてくれた。だが、これ以上この街に留まっても、新しい念の技術や実戦経験、そして有益なコネクションを得ることはできない。

 そろそろ、本編の荒波に向けて動き出すべき時期だった。

 

 俺は背負ったリュックの位置を直した。中には流星街で集めた換金用のアイテムと、必要最低限のサバイバルキット、そして数個の物理的な『携帯する蓄念池(モバイルオーラバッテリー)』が入っている。

 孤児院のシスターたちには、黙って出ていくことにした。ただ、俺の寝ていたベッドの下に、路銀の残りと比較的きれいな換金アイテムをいくつか隠しておいた。彼女たちがそれを見つけ、少しでも子供たちの食料の足しにしてくれればそれでいい。

 感傷に浸るつもりはないが、俺が餓死せずにここまで来られたのは、あそこがあったからだ。

 

 流星街の外縁部。防護服を着た人間たちが遠くに見える境界線を越え、俺は荒涼とした大地を踏み出した。

 何年ぶりだろうか。風の匂いが違う。砂埃と錆の混じった匂いではなく、かすかに土と植物の匂いが混じっている。

 俺の旅の最初の目的は決まっている。

 一年後に迫ったハンター試験に向けて、俺の能力を最大限に活かすための「前衛」――協力者を確保すること。そして、天空闘技場で実戦経験と莫大な資金を稼ぐことだ。

 

 原作知識がすべて正しいとは限らない。俺が介入すれば、当然のように未来は少しずつズレていくだろう。だからこそ、自分の目で見て、相手を評価し、手札に加えなければならない。

 いたら嬉しいくらいの気分で俺が探しているのは、強化系の才能に溢れていながら、自分の適性を見誤って無残に散った「ある男」だ。

 ウイングが随一の使い手になれたと評し、あのヒソカでさえ一度は見逃すほどのポテンシャルを持っていた武闘家。

 

「確か、この近くの山で武術の流派が修練をしているんだったか……」

 

 数日後。俺は人気のない、大木が生い茂る森の中に足を踏み入れていた。

 武術家たちが修行場として好むような、静寂に包まれた山。木々の間から差し込む光が、苔むした地面に斑模様を作っている。

 耳を澄ませて歩いていると、やがて、遠くから微かな振動が伝わってきた。

 ドスッ、ドスッという重い音。

 

 俺はリュックを下ろし、気配を殺して音の鳴る方へ向かった。

 徐々に音が大きくなる。ただの素振りではない。念を込めた、圧倒的な質量を伴う打撃音だ。

 あと少しで音の発生源が見えるというところで――突然、鼓膜を破るような巨大な轟音が森に響き渡った。

 バキィィィッ!

 流星街で培った本能的な危機感知が警鐘を鳴らし、俺は咄嗟に後方へ大きくジャンプした。

 直後、俺が数秒前まで立っていた場所に向かって、幹の直径が二メートルはあろうかという巨大な大木が、凄まじい風圧とともに倒れ込んできた。

 ズドォォン! と地面が揺れ、大量の砂埃と土塊が舞い上がる。

 

 大木を力任せにへし折ること自体は、念能力者であれば不可能ではない。だが、こんな人気のない森で、わざわざ人が通るであろう獣道に向かって木を倒す意味がない。

 俺は瞬時に臨戦態勢に入り、いつでも『過負荷(オーバークロック)』を起動できるよう体内のオーラを練り上げた。

 もうもうと立ち込める砂埃の向こうから、ゆっくりと一つの人影が歩み出てくる。

 

「申し訳ない。少々、修行に熱が入りすぎてしまったようだ」

 

 晴れていく土煙の中。

 そこに立っていたのは、白い道着に身を包んだ、銀髪碧眼の精悍な男だった。

 俺は内心で安堵の息を吐きながらも、表面上は警戒を解かないよう努めた。

 間違いない。

 天空闘技場でヒソカに敗れる運命にある悲運の武闘家、カストロだ。

 俺が求めていた最高の前衛にして、最強の借金の担保。

 ここから、俺は本当の投資をしていく。

 




貯念口座(オーラバンク)
蓄念池に貯めたオーラをタブレットへ取り込み、長期保存する能力。上限なし、過負荷時の自動引き落としが可能。
・制約
 使うには、まず蓄念池を消費する必要がある
 取り込めるのは蓄念池内のオーラ本体であり、
 蓄念池の生成コスト分は返ってこない


個人情報頁(プライベートデータページ)
相手の名前、能力、オーラ量、性別、年齢、血液型、病気、位置情報の有無などを調べる情報収集能力。タブレットに情報保存される。指紋のみの場合、名前、オーラ量、10km以内のいる時のみ大まか位置情報が得られる

・制約
 タブレットを具現化し、このアプリを選択している必要がある
 最低限、指紋採取が必要(基礎認証)能力である
 詳細情報は血液採取が必要
 血液は体から離れて5分以内でなければならない
 指紋や血液が破損・汚染されていると発動不可
 
念送信(センドオーラ)
血液を採取した相手にオーラを送れる支援能力。
前衛支援、修行補助、継戦能力補助向け。
・制約
 血液採取済みの相手であることが必要
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