アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?   作:村ショウ

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カストロとか噛ませではあったけど、普通に強そうな人。
陰獣含めて相手が悪いよ…相手が。



05.ミライ×ト×ブトウカ

 

 鼓膜を震わせるような轟音とともに倒れ込んだ大木が、凄まじい砂埃を巻き上げていた。

 流星街で培った本能的な危機感知に従い、俺はすでに大きく後方へ飛び退いている。舞い散る土塊と葉の隙間から、ゆっくりと一つの人影が歩み出てきた。

 

「申し訳ない。少々、修行に熱が入りすぎてしまったようだ」

 

 静かで、よく通る声だった。

 土煙が晴れた先、そこには純白の道着に身を包んだ銀髪碧眼の男が立っていた。長身で均整の取れた体躯は、ただ歩いているだけでも隙がない。足運びの一つ一つに、高度に洗練された武の気配が滲み出ている。

 間違いない。

 彼こそが、俺がこの森を訪れた最大の目的。天空闘技場200階クラスの闘士であり、近い将来、あのヒソカから腕を奪うまでには至れる悲運の実力者──カストロだ。

 

「いえいえ、構いませんよ」

 

 俺は心臓の鼓動を落ち着かせ、顔に一切の動揺を出さないよう気をつけながら返事をした。

 カストロ。原作を知る者からすれば、彼は「かませ犬」としての印象が強いかもしれない。自分の適性系統を見誤り、具現化系や操作系という苦手分野に容量(メモリ)を割きすぎた結果、ヒソカの手品にあっさりと翻弄されて惨殺された男。

 だが、彼は決して弱くない。

 あのヒソカが一度は見逃し、成長を待ったほどの逸材だ。裏を返せば、強化系としての素質を正しく伸ばしさえすれば、一流のハンターたちにも引けを取らない実力者に化ける可能性を秘めている。ウイングさんからも随一の使い手になっただろうと言われていた。

 俺が求めている「前衛」として、これほど申し分のない人材はいない。

 

 カストロは俺の姿を見ると、ほんのわずかに目を細めた。

 俺は常に体表を薄い『(テン)』で覆っている。彼は俺が念能力者であることに即座に気づき、静かに警戒レベルを引き上げたのだろう。

 俺はまだ十八歳。流星街というスラムで育ったため、彼のような洗練された武闘家から見れば、どこか泥臭く、得体の知れない若造にしか見えないはずだ。

 このままでは、ただの通りすがりの不審者としてあしらわれて終わる。

 言葉で説得する前に、まずは「格」を示さなければならない。

 

 俺はゆっくりと息を吸い込み、『空想電脳板(ファンタジータブレット)』にリンクしたアプリを立ち上げた。

過負荷(オーバークロック)』。

 指定する倍率は「15倍」。

 ──瞬間、俺の体内から、暴力的とも言えるほどのオーラが噴き出した。

 

「なっ……!?」

 

 カストロが目を見開き、咄嗟に両腕を交差させて防御の構えをとった。

 無理もない。俺の普段の顕在オーラ量は500オーラ程度だが、それを15倍にレバレッジしたのだ。今の俺の体表から立ち昇るオーラの出力は、7500オーラ。

 それは、モラウのような上位陣が、本気で『(レン)』を行った時の倍どころではない。分厚く重い圧だった。森の空気がビリビリと震え、俺の足元の枯れ葉が逆巻く風となって吹き飛ぶ。

 

 圧倒的な威圧感。だが、その裏で俺も精神的疲弊を感じていた。

 十五倍の出力を得るための代償は、15の二乗──すなわち225倍のオーラ消費だ。

 一秒間に225オーラ。ただ立っているだけでも、一分間で13500ものオーラが俺の『貯念口座(オーラバンク)』から消し飛んでいく。もしこれで攻防力移動を行えば、消費量は格段に跳ね上がる。普通に応用技をするだけでその10倍、毎分135000オーラ、さらに念同士相殺が起きればさらに上がる。殴られて1000オーラ失えば、その225倍の225000オーラを失う。

 冷や汗が背中を伝う。精神力も使うので長くは持たない。戦闘が始まったりしたら、オーラはあっても精神に限界があるハッタリだ。

 だが、俺は焦燥を微塵も表に出さず、余裕の笑みを浮かべてみせた。

 

「それにしても、こんなところで念の修行をしている者に出会うとは…」

 

 膨大なオーラを纏ったまま、俺はカストロに世間話でもするかのように軽やかに声をかけた。

 

「確か、天空闘技場のカストロ選手ですよね? 私は旅人で念能力者のリトク・レバレッジです。もしよろしければ、私があなたの念のコーチを行いましょうか?」

 

 カストロは冷や汗を流しながらも、武人としての鋭い視線を俺から外さなかった。

 

「コーチ……だと?」

 

「ええ。代わりに、少しばかり報酬を頂ければですけどね。旅の路銀が足りないもんで」

 

 カストロのプライドを無闇に刺激しないよう、あくまでビジネスライクな提案の形をとる。

 だが、カストロの表情は硬いままだった。

 

「確かに、君のオーラ量は凄まじい。この私ですら恐怖を覚えるほどの圧だ。だが……見ず知らずの他人に教えを請うつもりはない。君が、私の求める高みへ導けるという保証がどこにある?」

 

 当然の疑問だ。彼には倒すべき因縁の相手がいる。ヒソカに雪辱を果たすため、彼は今、己のすべてを懸けて必殺の能力を編み出している最中なのだから。

 

「保証、ですか。最低限、念能力ならこんなこともできるとお見せしましょう」

 

 俺は『過負荷(オーバークロック)』を解除した。

 周囲を圧迫していた巨大なオーラがスッと収まり、元の静寂が戻る。激しいオーラの浪費から解放され、俺は内心で深く安堵の息を吐いた。戦闘が始まったら、せっかく貯めた口座のストックを浪費するところだった。

 

 俺は右手に通常のオーラを集め、意識を前世の記憶──「原作知識」へと強くリンクさせる。

 オーラの性質が具現化系から特質系へとシフトする感覚。

 カチッ、と硬質な音を立てて、俺の手のひらに黒いタブレット端末が現れた。

空想電脳板(ファンタジータブレット)』だ。

 

 俺はそれを、構えを解かないカストロに向けて軽く放り投げた。

 カストロは片手でそれを受け取り、怪訝そうに画面を見つめる。

 

「俺の能力の一つは、未来の事象を観測すること。ただまぁ、これは俺が関わらなかった場合のみしか見せられない未来ですが……あなたの『結末』だと言ってもいい」

 

 俺が指を鳴らすと、タブレットの画面に映像が再生され始めた。

 それは、来年に行われる天空闘技場での一戦。

 ヒソカ対カストロ。

 画面の中で、カストロは己の分身──『ダブル』を駆使してヒソカの腕を奪い、優位に立っているように見えた。

 だが、次の瞬間、カストロの顔が凍りついた。

 

『──君の敗因は、容量(メモリ)の無駄遣い♡』

 

 画面の中のヒソカが、残酷な笑みを浮かべて告げる。

 具現化系と操作系という、強化系のカストロにとって最も相性の悪い能力を複合させた『ダブル』。その複雑な処理が脳のメモリを圧迫し、戦闘における咄嗟の判断力を奪う。

 種明かしをされた画面の中のカストロは、動揺のあまりオーラの攻防力移動を誤り、トランプの手品によって無残にも翻弄され、最後は踊り狂うように惨死した。

 

「なっ……!?」

 

 映像が終わると同時に、カストロは息を呑み、震える手でタブレットを握りしめた。

 彼の顔面は蒼白だった。額から大粒の汗が流れ落ちている。

 

「そんなバカな……! 私の虎咬真拳が、こんな手品のような小細工で……ッ!」

 

「単なる脅しや幻覚だと思ってもらっても構いません」

 

 俺は淡々とした声で告げた。

 

「ですが、あなたは薄々気づいているはずだ。今の修行方針──自身の適性を無視した複雑な能力の構築が、いかに歪で危険な綱渡りであるかに」

 

 カストロは反論できなかった。

 彼は真面目でストイックな武人だ。だからこそ、自分の能力の違和感や、戦闘中の意識の分散に気づいていないはずがない。ただ、ヒソカという底知れないバケモノを倒すためには、奇をてらった未知の能力が必要だと思い込んでしまっているだけだ。

 

「ヒソカは化け物です。彼を倒すためには、マジックの種明かしに付き合う必要はない。あなたが本来持っている圧倒的な基礎の暴力、強化系としての完成度を極限まで高めればいい」

 

 俺はゆっくりと彼に歩み寄り、言葉を重ねた。

 

「私なら、その『間違った死の未来』を回避させる手伝いができる。あなたという逸材が、こんなところであの奇術師のオモチャにされて終わるのは……純粋に惜しい」

 

 カストロはタブレットの暗い画面を見つめたまま、長い沈黙に落ちた。

 彼のプライドが、敗北の未来を突きつけられた屈辱と戦っているのがわかる。

 俺の言葉には、当然ながら打算が含まれている。

 俺自身の顕在オーラ量は低い。どんなに『過負荷(オーバークロック)』を使おうと、長時間の高強度戦闘は不可能だ。だからこそ、カストロのようなタフで手数の多い前衛が必要不可欠なのだ。

 彼を強化し、完成された武闘家に育て上げる。そして俺が後方から『念送信(センドオーラ)』で無尽蔵のオーラを供給し続ければ、ヒソカですら凌駕しうる最悪のツーマンセルが誕生する。

 お互いの欠点を補い合う、完璧な支援の形だ。

 

 やがて。

 カストロは深く息を吐き出し、タブレットを両手で俺に差し出した。

 

「……そこまで私の弱点を見透かしているのなら、従わざるを得ないか」

 

 彼は武人として、未熟な己の敗北を認めたのだ。

 そして、真っ直ぐに俺の目を見て、深く頭を下げた。

 

「承知した、師匠」

 

「師匠はよしてくれ。俺はただの打算で動く男だ。お互いに利用し合う関係でいい」

 

 俺は苦笑しながら肩をすくめた。

 だが、悪い気はしない。真っ直ぐな男だ。この誠実さがあるからこそ、彼は愚直なまでに間違った修行法に没頭してしまったのだろう。ダブルはナルシスト感を覚えたが。

 

「いや、教えを請う以上、年の上下関係なく礼節は重んじるべきだろう。どうか私を導いていただきたい、リトク師匠」

 

「……好きに呼んでくれ。ただし、俺の指導は少しばかり理屈っぽくて面倒だぞ」

 

 俺はタブレットを受け取り、空間に溶かすように消去した。

 まさか、一度の交渉でここまで上手くいくとは思わなかった。嬉しい誤算だ。逆に逆鱗に触れて敵対路線に入りそうなら、即座に逃げる準備もしていたし、タブレットを渡したのも両手を塞いで、一手分の時間稼ぎの為でもあった。

 

「まずは念の基礎トレーニングと、水見式による系統の再確認からやっていきましょう。あの未来を、力でへし折るために」

 

 木漏れ日の差し込む森の中で、カストロの目に強い光が宿る。

 流星街で十年以上の準備を重ねてきた俺の、初めての大きな投資。

 未来を売り、最強の相棒を手に入れるための修行が、今ここから始まろうとしていた。

 

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