アホみたいなオーラ量に対して、貧弱すぎる出力でどうしろと?   作:村ショウ

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06.サイノウ×ト×ムダヅカイ

 

 森を抜け、少し開けた沢辺の空き地を二人の野営地と定めた。

 倒木に腰掛けたカストロは、未だに信じられないものを見るような目で、俺が具現化させた『空想電脳板(ファンタジータブレット)』の画面を見つめていた。

 画面には、前世の記憶から引き出した「念の六性図」が表示されている。強化系を頂点に置き、変化、放出、具現化、操作、特質と並ぶあの六角形の図だ。

 

「まずは、念の基礎理論から整理しよう」

 

 俺はタブレットの画面を指差しながら、教師のような口調で語り始めた。

 

「人間には生まれ持ったオーラの属性──『系統』というものがある。自分の属する系統の能力は百パーセントの精度と威力で修得できるが、六性図で隣り合う系統は八十パーセント、さらに離れると六十パーセント、対極の位置にある系統は四十パーセントまでしか力を引き出せない。これは知っているか?」

 

「いや……系統という概念があること自体、私は知らなかった。ヒソカから受けた洗礼で無理やり念に目覚め、以降は独学で能力の修行を積んできたものでね」

 

 カストロは真面目な顔で頷いた。

 やはりそうか。天空闘技場で闘士たちの会話や試合から見よう見まねで基礎を覚えたのだろうが、念の体系的な指導者はついていなかったのだ。グリードアイランドまでゴン達が一部の応用技を知らずに勝てたのも、才能の差は大きいがそういったものを使えない者たちばかりだったのもあるだろう。

 カストロからしたら何かの特殊能力と身体強化される手段程度だと思っても仕方ない。キメラアントのラモットがそうであったように、知識はなくても使うことはできる。故に、ダブルは大した制約と誓約もない能力となっていた。

 

「では、あなたの系統を確認しよう」

 

 俺は沢の水を入れたグラスに、近くで拾った葉を一枚浮かべ、カストロの前に置いた。心源流の伝統的な系統判定法、『水見式(みずみしき)』だ。

 

「グラスに両手をかざし、普段通りに『(レン)』を行ってみてくれ」

 

 カストロが言われた通りに手をかざし、静かにオーラを高める。

 凄まじい密度のオーラだった。彼のフィジカルの強さと武闘家としての練度が見て取れる。

 数秒後、グラスの中の沢水がふわりと盛り上がり、表面張力の限界を超えて外へ溢れ出した。

 

「水が増えた……?」

 

「それが強化系の証だ。あなたは本来、肉体や物の持つ働きを強化することにおいて、右に出る者のない最高の才能を持っている」

 

 俺はカストロの目を見て、はっきりと告げた。

 

「その上で、先ほど君に見せた映像の『分身(ダブル)』の能力についてだが……あれはどういう仕組みで作れていると思う?」

 

 カストロは少し迷った後、自分の発案した能力の考えと、系統を聞いての推測を話始めた。

 

「オーラで自分と全く同じ外見、衣服、身体スペックの分身を作り出す。それを私の意識で操り、本体との連携で敵の死角を突く。二人一組の連撃、それこそが私の究極の武──『虎咬真拳』の完成形だと思っていた。だが、その系統であれば非効率的だったと」

 

「……なるほど。確かに、一人相手の奇襲戦法としては極めて強力だ。事実、あのヒソカの腕を切り落とすだけのポテンシャルはある。それに、系統ばかりこだわりすぎるのも良くない。自らの考えや思い出のあるものなどに念は強く働くこともあるからね。」

 

 俺は一度相手を肯定してから、容赦なく問題点を突きつける。

 

「だが、その能力は『具現化系』と『操作系』、さらには体から離すための『放出系』の複合技術だ。強化系を頂点とした六性図を見てもらったからわかるだろう。複数の系統を何の誓約もなしに操るには、その才能を浪費しすぎたと言える」

 

 俺がタブレットの図を操作すると、強化系の対極に位置する具現化系と操作系のアイコンが赤く点滅した。

 

「強化系のあなたにとって、普通は使えない特質系を除けば具現化系と操作系は修得率六十パーセントの最も苦手な分野だ。そんな相性の悪い高度な能力を、実戦レベルで使えるようにするために、あなたはどれほどの時間と労力、そして『メモリ』を無駄遣いした?」

 

「メモリ……?」

 

「人間の脳とオーラが一度に処理できる容量には限界がある。スマートフォンの……いや、器に水を入れる時、蛇口の水の流れの量だと思ってくれ」

 

 俺は現代の例えを飲み込み、手元で具現化したコップを指差した。

 

「百の容量がある器に、苦手で複雑な分身の維持に八十の容量を割いてしまえば、本来一番得意なはずの『肉体強化』と『攻防』には二十の容量しか残らない。結果として、戦闘中の咄嗟の防御が遅れ、あのヒソカの手品のような小細工に翻弄される余白が生まれる」

 

 カストロの顔が歪んだ。

 図星だったのだろう。彼は分身という圧倒的な手札を手に入れた代わりに、武闘家として最も重要な「刹那の反応」や「オーラの防御力」が疎かになっている自覚があったのだ。

 

「私が言いたいのは、あなたの才能が足りないということじゃない。むしろ逆だ。強化系でありながら、あれほど精巧な分身を作り出し、実戦で操るレベルにまで至ったあなたの才能と努力は、はっきり言って異常だ。天才と呼んでいい。羨ましいほどに」

 

 俺はため息をつきながら本音をこぼした。

 

「だからこそ、惜しい。あなたは自分の最大の武器である『強化系の百パーセントの力』を極める前に、難易度の高すぎる応用技に寄り道してしまった。あれは、あなたの能力の天井を低くしているだけだ」

 

 静寂が沢辺を包んだ。

 カストロは両拳を強く握り締め、うつむいていた。

 彼がヒソカに敗北してから、血の滲むような思いで勝つために編み出そうとしてきた『分身』。それを根本から否定されるのは、己の人生の数年間を全否定されるに等しい苦痛のはずだ。

 俺は打算で彼をスカウトしに来た。だが、目の前で打ちひしがれる彼を見ていると、どうしてもこのまま「かませ犬」として散らせてしまうのはもったいないという情が湧いてくる。

 

「……捨てる必要はない」

 

 俺は静かに言った。

 

「何…?」

 

「何も『分身(ダブル)』を完全に捨てろと言っているわけじゃない。仮に分身(ダブル)のまま行くとしても、強化系とのバランスや基礎と応用技を固めてからでも遅くはない。今はただ、使う順番が違うという話だ。念を扱う技量を高めるため、強化系としての使い方を無意識レベルまで極めて、バレてもすぐに切り替えができるようにするとか。そうでなくても、念に制約をつければ高度な能力も作りやすくなる。それができた後なら、分身は最高の切り札になる。今は一旦封印し、強化系としての『土台』を作り直そうと言っているんだ。強化系は明確な(能力)がなくても、応用技だけで必殺技となりうる」

 

 プライドを折るのではなく、方向性を修正する。

 俺の言葉に、カストロの顔に微かな光が戻った。

 

「……強化系の、土台」

 

「ああ。ヒソカのようなバケモノを真っ向から粉砕できるだけの、圧倒的な基礎の暴力だ。それを極めた『真の虎咬拳』を完成させる。それが、ヒソカを倒すための最短ルートだ」

 

 カストロは深く息を吸い込み、そして、ゆっくりと立ち上がった。

 

「リトク師匠」

 

 彼は純白の道着の裾を払い、深く頭を下げた。

 

「これまでの私の積み上げが、いかに独りよがりな砂上の楼閣であったか……痛いほど理解した。どうか、厳しいご指導を」

 

 その目には、迷いが完全に消え去っていた。

 

「よし。じゃあ、まずは『凝』やその応用の『堅』。オーラの攻防力移動──『(リュウ)』の確認からやってみようか」

 

 俺はタブレットを消去し、カストロと向かい合って構えをとった。

 『流』は体表を覆う『(テン)』を維持したまま、『凝』の要領で打撃に合わせてオーラを必要な部位へ瞬時に移動させる高等技術。これができなければ、念能力者同士の戦いでは一瞬で致命傷をもらう。それを教えていく。

 

「私が打ち込むから、オーラを防御部位に集中させて防いでみてくれ」

 

 俺は踏み込み、右拳にオーラを込めてカストロの胸板へ放った。

 パァンッ! と弾けるような音が響く。

 カストロは一歩も退かず、俺の拳が当たる瞬間に、胸の部位へ完璧なタイミングでオーラを七十パーセント以上集中させて防いでいた。オーラ量の差もあるが、こうも効かないとちょっと傷つく。

 

「見事だ。じゃあ次は──」

 

 数分間、俺たちはゆっくりと手合わせを続けた。

 そして、俺は内心で冷や汗を流していた。

 

(……こいつ、センスがバケモノすぎる)

 

 カストロは長年、武闘家として「気を練る」「体重を移動させる」「相手の重心を読む」といった身体感覚を極限まで磨き上げてきた男だ。

(リュウ)』という概念こそ今日初めて言語化して教えたが、その理屈を理解した瞬間、彼のオーラ操作は驚異的な速度で洗練されていった。

 俺が軽いフェイントを交えて攻撃しても、彼は俺の肩の筋肉の動きや呼吸の微細な変化を読み取り、正確無比なオーラの攻防力移動をやってのける。

 わずか数十分ほどの組み手で、俺の『(リュウ)』の精度は、完全に見切られ、上回られてしまった。

 

「師匠。この『(リュウ)』という技術……非常に合理的で素晴らしい。これまではただ全体を硬くするだけでしたが、これならオーラの消費を抑えつつ、防御力を飛躍的に高められます」

 

 カストロが爽やかな笑顔で感想を述べる。

 

「……あ、ああ。その通りだ。武闘家としての君の基礎があるからこそ、その技術は最大限に活きる」

 

 俺は平然を装って頷きながら、内心で舌を巻いていた。

 これが、作中でウイングさんが「随一の使い手になれた」と評した才能の正体か。

 流星街で十年以上、命がけで基礎を反復してきた俺のオーラ操作技術を、彼はほんの数分で吸収し、武術の動きに昇華してしまった。ゴンやキルアの上達を見たウイングさんの気持ちが理解できた。

 

 俺は自分の手を見つめた。

 俺の顕在オーラ量は五百程度。出力が低く、肉体的なスペックもアスリートに毛が生えた程度でしかない。まともに殴り合えば、カストロのような本物の武闘家には逆立ちしても勝てない。

 だが、だからこそ「投資」のしがいがある。

 俺は彼に、俺にはない「圧倒的な前衛としての才能」を求めているのだ。俺が持っている原作知識と、莫大な潜在オーラの貯蓄、それを管理するシステム。それらをカストロの武と掛け合わせれば、どんな強敵が相手でも勝率を限界まで引き上げることができる。

 

「次は『(ギョウ)』を混ぜた実戦形式だ。私のオーラの流れを見落とさないようにしろよ」

 

「はいっ!」

 

 森の奥深くに、二つのオーラがぶつかり合う音が響き続ける。

 打算で拾った手札。だが、目の前でみるみるうちに研ぎ澄まされていくカストロの姿を見ていると、どうしても彼を最高の舞台で完成させてやりたいという純粋な欲求が湧き上がってくるのを感じていた。

 

 

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