勝利の女神:NIKKE ~Silent/Ratio~   作:zaq2

3 / 9
Episode 2:Unfamiliar Sisters

「元の場所に戻して」

 

張りつめた声だった。

怒っているというより、そこへ触れられたことそのものを拒むような響きだった。

 

それでも、銃口はぶれず、まっすぐこちらを向いている。

撃つつもりはない、と言い切れる構えでもない。

 

[元の場所に戻せばいいんだな]

 

白銀の少女は答えなかったが、静かに頷いていた。

 

その指示に従うように、手に持っていた小箱をできるだけ静かに祭壇へ戻した。

コトリと、木箱と台座が触れるごく小さな音が、礼拝堂の静けさの中でやけに大きく響く。

 

彼女の肩から、ほんの少しだけ力が抜けたように見えた。

それでも、銃口が下がる気配はない。

目の前の侵入者だけではなく、この場そのものを乱されることを拒んでいるようにも見えた。

 

「……あなたたちは何者? どうやってここへ来たの?」

 

次に問われたのは、それだった。

何者なのか、そしてどうやってここまで辿り着いたのか。

 

「私たちはカウンターズ。アークから、ここの調査に来たの」

「アーク?……それで、どうやって入ってきたの?」

 

[外から見える入口はなかった。だから換気口を使った]

 

「換気口……?」

 

少女の眉が、ほんのわずかに寄る。

驚きに近い反応だった。

 

その時だった。

ネオンが、微妙な明るさで手を挙げた。

 

「はいっ!ええと、正確には換気口というか、そういうダクトっぽいところを見つけまして!」

 

場の緊張を理解しているのかいないのか、微妙な空気が流れた。

 

「最初は蔦とか根っことかでものすごく埋もれてたんですけど、そこはほら、火力で!」

 

アニスが額を押さえる。

 

「待って、なんでそんなノリでサラッと言うのよ」

「えっ、じゃあ隠した方がよかったです?」

「そういう問題じゃないのよ……!」

「でも、事実ですし」

 

ネオンは悪びれた様子もなく胸を張った。

 

「発見、確認、火力、突入! きわめて合理的な流れでした! ええ」

 

白銀の少女は、そこまで言われて少しだけ困ったような顔をした。

侵入者への警戒を続けるべきなのに、今の話をどう受け取ればいいのか分からない――そんな表情でもあった。

 

その空気を割るように、別の足音が白銀の少女の後ろから近づいてきた。

 

その足音は軽い。

けれど、気配そのものは鋭い。

 

「姉さん、撃ってないよな――」

 

声が途中で止まる。

 

扉の影から現れたのは、短い赤髪の少女だった。

白銀の少女とよく似た輪郭を持ちながら、色合いはその逆で、黒い修道服を着ていたからか、その印象はずいぶん違っていた。

 

黒い修道服に、右肩だけへ落ちる布。

細い体つきに対して、右側だけが妙に重く、金属めいた光沢を帯びていた。

とくに肘から先では赤を主にした装甲が強く目を引き、その片腕だけが別のもののように見えた。

 

目つきも、立ち方も、空気の切り方も、何もかもが先程の白銀の少女とは異なっていた。

 

その彼女はまずこちらを見て、それから周囲の状況を訝しむように確認していた。

その視線の順番は、どこか最初から決まっているようでもあった。

 

「うわ、ほんとにいたんだ。侵入者」

 

言い方は軽い。

だが、声の奥にはちゃんと警戒が混じっている。

 

今度は、こちらを上から下までざっと見て、それから少しだけ「んー」と唸りながら首を傾げた。

 

「侵入者って、もっとこう……悪そうな顔してるもんじゃね?」

 

白銀の少女は"何を言っているの?"という表情で迎える。

その沈黙と視線に耐えられなかったのか、赤髪の少女は肩をすくめた。

 

「いや、ゴメンって。その、なんてーの? だいたいそういう決まり、みたいな? そう思っただけで……」

 

言いよどみながらも、一歩だけこちらへ出てきた。

白銀の少女は逆に、周囲を見張れる位置を維持したままだった。

 

自然な動きだった。前に出る存在と、大事なものを状況確認に回る立ち位置。

その配置だけで、二人の役目の違いが少し見えた気がした。

 

「で?」

 

赤髪の少女は腕を組んでこちらを見る。

 

「換気口から入ってきたって聞こえたけど?」

「……そうみたいよ」

 

アニスが肩をすくめる。

 

「こっちだって、好きでそんなところから侵入したわけじゃないの。入口が見つかんなかったんだから、しょうがないでしょ」

「いや、それでも、侵入は侵入だろ?」

「うっ……そこは否定できないわね……」

「うん、正直でよろしい」

 

赤髪の少女はふっと笑って、もう一度こちらをひと通り見渡してから、アニスのところで視線を止めた。

 

「うーん、侵入者ってわりには、そんな悪そうな顔はしてないな」

「おや、これは……アニスがいて助かったようですかね?」

「ネオン!! それはどういう意味よ!」

 

「……二人とも、今はそういうことを言ってる場合じゃないわ」

 

ラピが、抑えた声で割って入る。

 

「あははは。お前ら、結構面白いのな」

 

白銀の少女はそれに答えない。

だが、否定もしなかった。

 

赤髪の少女は、今度は少しだけ真面目な声になる。

 

「ま、だからといって、はいそうですかって訳にもいかないけどさ」

 

白銀の少女の銃口は、まだ下がらない。

ただ、さっきまでよりも言葉を交わす余地が生まれていた。

 

[敵対するつもりはない]

 

短くそう告げて、両手を上げる仕草を見せる。

 

「指揮官!」

「指揮官様!」

 

[みんな、武器を下ろすんだ]

 

カウンターズも、しぶしぶといった表情で武器を下ろした。

その状況を見て、赤髪の少女が少しだけ眉を上げた。

 

「へぇ……」

 

[そっちも、最初から撃つつもりだったわけじゃないだろう]

 

今度は、白銀の少女の方を見て答える。

それに応じるように、白銀の少女はわずかに目を細めた。

 

「……どうして、そう思うの」

 

[本当に撃つつもりなら、警告より先に引き金を引いている]

 

礼拝堂の空気が、一瞬だけ止まった。

赤髪の少女が小さく吹き出す。

 

「ぷっ、はっ……たしかに」

「今は笑うところじゃない」

「いやでも、そこは姉さんも否定できないだろ?」

 

白銀の少女は答えない。

否定しなかった、という方が近いかもしれない。

 

[それに、君たちはニケだろう? なら、人に危害を加えることはできないはずだ]

 

「あー、それなー。アタシらは、犯罪者と判断できたら、その制限はないんだ」

「つまり、あなたたちは正規な方法で入ってこなかった不法侵入という立派な犯罪者。引き金を引くことはできるわ」

 

[えっ……?]

 

「……ま、どちらにしろ、姉さんはここでは撃たなかっただろうけどさ。汚したくないとかで」

「……」

 

しばらくの沈黙の後、ようやく彼女は銃口をほんのわずかに下げた。

完全には外さない。

それでも、さっきとは違う。

 

「……ここは、勝手に入っていい場所じゃない」

「それは分かるわよ。あんな厳重に入口が見つからない建物ならね」

 

アニスが小さくぼやく。

 

「普通、入口が見つかんなかったら諦めたりはすると思うんだけどなあ」

「そこは、諦めなかったんです」

 

ネオンが妙なところで感心したように言う。

 

「この、師匠が!」

 

[……えっ?]

 

「なんでネオンが胸張って誇るのよ!」

「あきらめない精神、これはすべての火力に通じるところがあります」

「だーかーらー!!」

 

「あははは、ほんと面白いな」

 

赤髪の少女が笑った。

その笑いは、さっきより自然だった。

 

「あー笑った笑った。じゃ、久しぶりに笑わせてもらったお返しに……アタシはロージィ」

 

唐突に名乗った。

 

「んで、こっちが姉さんで……」

 

白銀の少女は一瞬だけ迷ったようだったが、やがて諦めたかのような溜息をひとつついてから、銃を下ろして静かに言った。

 

「……スノーウィよ」

 

そこで初めて、名前が交わされた。

 

「これはこれは。わたくし、火力の申し子のネオンと申します。そして」

「……アニスよ」

「ラピ」

 

三人に続いて、自分も名を告げた。

 

再び、礼拝堂に静寂が満ちる。

どこまでも乾いた空気とともに。

 

スノーウィはその空間を一度見回し、それからこちらへ視線を戻した。

 

「他に人はいるの?」

 

[いや、我々だけだ]

 

「そう……ここでは話しにくいわ。ロージィ、ひとまず話せる場所へ案内して。あなたたちはその後ろを。私は最後尾を行くわ」

 

その言い方は、拒絶でも受容でもなかった。

ただ、この礼拝堂をこれ以上乱したくないという意思だけが、はっきりしていた。

 

ひとまず別の場所へ移す――それは案内というより、監視下に置いたまま場を移すための判断に近かった。

 

スノーウィは礼拝堂の中、祭壇のあたりをもう一度だけ確かめるように見てから、静かに促した。

 

「ロージィ」

「おうさ。では侵入者さま御一行、どうぞこちらへ~っと。あ、一応、変なことしたら今度は本当に撃っちゃうかもな~」

 

軽口をたたくロージィは、その腰にある短機関銃を軽くたたいて踵を返す。

その隣で、警戒を一切緩めていないスノーウィが、「ついていって」という合図を送ってきた。

 

「はいはい、ついていきますよ~それでいいんでしょ?」

「……ええ、はやく移動して」

 

スノーウィの声には迷いがなかった。

その目は、まだ警戒を緩めていないことを伝えていた。

まだ信用していない――その事実だけは、隠す気がないらしい。

 

「ほら、はやくいこーぜー」

 

[分かった]

 

短く頷く。

 

ロージィが先頭に立ち、軽い足取りで回廊へ出る。

その後ろにネオン、アニス、ラピ、そして自分。

 

最後尾にスノーウィがついた。

背後からの視線は静かだった。静かだからこそ、気が抜けなかった。

 

「──お母様、侵入者を連れて、いまから移動します。──はい、では……」

 

気が抜けなかったからこそ、背後から誰かに連絡を入れる言葉が聞こえたのに気づけた。

 

 

 

 




作者からのこめんと:
未来的なシスター衣装 いいよね (召喚じゅもん、失敗中

追記:活動報告にイメージおいてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。