ダンジョンマスターの刑を執行します。   作:瑞雨ねるね

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00.The World Without the MORALITY
第一話 有罪


 むかしむかし、あるところに、一人の青年がおりました。

 

 青年は父と母と、それから年の離れた妹と共に、幸せに暮らしていました。

 沢山の友人達に囲まれ、山ほどの財産に埋もれ、幸せに暮らしていました。

 

 しかし、幸せは長くは続きませんでした。

 家族と友人を全て殺され、財産を根こそぎ奪われてしまったからです。

 

 その日は青年の誕生日でした。

 

 皆が青年の家に集まって、騒いで、上機嫌に眠ったあと――目覚めた時には、青年以外の誰も彼もが死に絶えて、何もかもがなくなっていたのでした。

 

 青年は悲しみました。

 青年は苦しみました。

 

 けれど、不幸はまだまだ続きます。

 青年は家族殺し、友殺しの犯罪者として、裁判にかけられたのです。

 

 当然、青年は自らの無罪を主張しました。

 しかし誰も信じようとはしませんでした。

 

 青年は永久に世界(くに)を追放されて、気が遠くなるほど長い旅へと(おもむ)きました。

 お目付け役の小さな女の子に引き()られて、延々と世界中を彷徨(さまよ)いました。

 

 そして―――……

 

 * * *

 

「……すみません。今、なんと?」

 

「はい、では繰り返します。

 ―――受刑囚五-〇四二号。この世界における貴方の存在は、全て消去されました。ですので、心置きなく異世界ライフをお楽しみください」

 

 

 ―――それが、貴方に言い渡された刑罰の全容です。

 

 

 余りに冷たく、それでいて酷く玲瓏(れいろう)な口調で少女が言う。

 しかしその表情はいやに柔和で、背景に花でも浮かんでいそうな程に可愛らしい、年相応に可憐な微笑みだった。

 

 ―――俺は殺人鬼である。

 名前はまだ犯罪史に載っていない。

 

 ただしそれが本当に真実であるのかどうか、いまいち定かではなかった。

 

 少なくとも俺自身は殺人を犯した覚えなど一切ないし、殺されたという被害者達と何かしらの面識を持っていた訳でもない。

 そもそも事件現場には、俺が直接手を掛けた証拠すら見つかっていないのだ。

 

 動機がない、身に覚えもない、更に俺が殺した証拠もないとくれば、冤罪であるのは間違いないと言っても過言ではないと思う。

 

 しかしどうやらそう考えるのは俺だけだったようで。

 検察は被害者達を皆殺しにした犯人は俺なのだと主張し、あろうことか弁護士すらもがそれに同調したのだから大変だ。

 

 金で雇った味方すら掌を返した――となれば、その後俺がなす術もなく敗訴したのはむしろ、一連の流れとして当然の帰結だったと言えるだろう。

 

 如何なる理由があったのかは分からない。

 どのような思惑が働いたのかすら不明だ。

 

 ただ一つだけ判明しているのは――訳も分からぬまま、俺の人生が台無しになってしまったという、最早覆しようのない事実である。

 

 おお俺よ、こんなところで社会的に死ぬとは、我ながら情けない。

 

 まるで地獄の底に叩き落されたような、そんな心地。―――にも関わらず、俺はそこまで現状を悲観していなかった。それどころか、先程のようにくだらない冗談を考える余裕すらある。

 その理由の大部分はといえば、自身に下された刑罰の名称が、あまりにも現実離れした耳慣れぬものだったからだ。

 

「……確か、ダンジョンマスターの刑、だったでしょうか?」

「その通りです。しかしそれはあくまで通称であり、刑法に記された正式な名称は『異世界迷宮追放刑』となっております。名の通り、流罪の一種ですね。略称は……ダンマスの刑辺りが妥当かと存じております」

「然様ですか」

「然様であります」

 

 少女は薄い胸を張って頷く。

 

 同時に、俺は膝から崩れ落ちてしまいたくなった。

 

 単純に訳が分からない。

 そもそも冤罪とはいえ、罪状から鑑みれば死刑ないし無期限の懲役は免れない筈なのだが……いや、この際そこは問題ではないか。

 

 流罪は懲役を兼ねる場合が多いと聞く。

 

 この国の歴史においてもそれは同様で、流人が鉱山に送られたという事例は俺自身も幾度か耳にする機会があった。恐らく俺の場合も同様に、流罪地では過酷な労働を強いられるのだろう。

 

 流人は所詮、犯罪者だ。国民の目が届かない場所ならば、消耗品として使い潰すのも容易い。

 

 以上のことを踏まえるならば、なるほど、公的には大量殺人犯である俺に流罪という判決が下されるのも妥当だろう。

 だが―――異世界とは、なんだ?

 

「……(はばか)りながら。幾つか、質問をしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、いくらでもお訪ね下さいませ。答えられる範囲でお答えさせて頂きます。とはいえ今は時間が押していますので、質問への詳しい解答は現地に到着してからとなってしまいますが……よろしいですか?」

「……? 了解しました。それで、自分はこれから何処へ送られるのでしょうか」

「異世界です」

「…………は? いや、ですから、その異世界とは一体―――」

「―――おっと。もう時間ですので、質問タイムは終了であります。続きは目が覚めてからということで。さあ、私と一緒にレッツごーとぅへる!」

 

「えっ」

 

 こちらの言を半ば遮るように(まく)し立て、少女は一方的に会話を打ち切る。

 

 そして彼女は腰に差していた黒い棒状の物体――恐らくは警棒――を手早く引き抜くと、それを大きく振り被った。……こう、フリスビーを投擲する予備動作のように、ちょうどこちらの蟀谷(こめかみ)のあたりを狙う感じで。

 

 犯行に及ぶ一瞬の間、視線が交錯する。

 

 彼女はとびきりの笑顔を浮かべて、俺が静止の声とか断末魔とかを上げるよりも前に、躊躇(ためら)いなく全力で警棒を振るった。

 

 ドカッ! バキッ!

 ―――俺は死んだ。

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