〈倫理のない世界〉のたのしい法律。
第四〇七項――異世界迷宮追放刑について。
異世界迷宮追放刑とは、その名の通り流罪の一種である。流刑地は正しく異世界であり、受刑者は現地にて迷宮を管理・運営する無期限の労役を担う。
受刑者は政府から施工される魔導技術によって
総じて異世界迷宮追放刑とは、隔離、抑止、矯正の三拍子が
―――パタン
分厚い本を閉じ、対面した少女を見やる。
年齢は十に差し掛かった頃だろうか。
軍服とエプロンドレスを
一体何が面白いのかと詰問したい衝動を、
殴られた時はあまりの痛みに死んだかと思った。
現に気絶もしている。しかし実際にはちょっとした
「おおよその事情は理解できました。要は自分に、異世界への侵略の手伝いとして工兵の真似事をしろと。それがあの世界の意向なのですね?」
「あらあら、ふふふ。概ねその通りなのですが……侵略だなんて、そんな。はしたないですよ、
少女は自身の頬に手を当てて、恥じらうように。熱のこもった
彼女の名は
彼女には人間に与えられるような名前はなく、もっぱら個体名――機械類につけられる型式番号のような、通称で呼称される決まりなのだという。
何故なら、彼女はヒトではないからだ。
先程の法律書に書かれていた
無論、詳細は謎である。
「確かにダンマスの刑の主目的は罪人の更生ではなく、異世界における資源蒐集の方にあります。貴方はその為の、都合のいい
なのですが……オトナであれば、建前の裏を侵略などと口汚く暴く無粋は
「悪法なのは認めるのですか」
「フフ、言葉の綾ですよ。あまり難しく考える必要はありません。
今の貴方は、料金を支払って個室の混浴場に入店なされたお客様です。その貴方が従業員と自由恋愛の末に性行に至ったとしても、法律的には問題ないではありませんか。それと同じです」
「いや……確か、それは違法な筈ですが……」
「大丈夫でありますよ。法律にも穴はあるという話ですので。犯され過ぎてもうガバガバです。
件の風営法も、条文に記載されているのは異性に関することだけです。なので従業員が男性だった場合、性交しても一切お咎めなし――問題なく合法なのであります。いわゆる男の
左手の人差し指と親指で輪を作り、そこに右手の人差し指を突っ込んで前後させるBB。
何一つ大丈夫ではない気がしてならない。
例えのせいか、ハンドサインを見ていると背筋と尻に怖気が走った。
だが、まあ――ともかく、これでこの異世界迷宮追放刑なる刑罰の真意が、侵略行動にあることがはっきりした。
罪人である
並行世界の如く無数に存在する異世界――通称〈
その一つ一つへ転移する度、俺
現地にて迷宮を創造し、魔物を錬成し、それらを使って資源を獲得する。その方法はぼかされてはいるものの、それが暴力に依るものなのは最早疑いようがない。
―――何故なら、あの世界に倫理なるものは
……〈匣庭〉と呼ばれる各異世界は、それが物質であれ概念であれ、当たり前にある筈の“
俺が生れ育ち、今となっては追放された世界も例外ではない。
あの世界に住む人の全てが、持ち前の倫理観に何らかの欠陥を抱えているのだ。
だからこそこのような頭のおかしい刑罰と法律があり、平然と冤罪や犯罪が横行している。実に反吐の出そうな話だった。
「……初めて、貴方を見た時から思っていたのですが」
思考に没頭している途中で、BBの声が鼓膜へと流れ込み、我に返る。
顔を上げると、彼女は驚きと困惑の中間のような、実に興味深そうな表情で俺を見ていた。
「なんというか……貴方は、変わっているのですね?」
「それは喧嘩を売っているのだと解釈してよろしいか」
こちらが
一応俺と彼女は迷宮核を介して命を共有する迷宮案内人と迷宮管理人――つまり、立場だけで言えばそれなりに対等である……筈だ。この際、言葉遣いを改めてみるのも悪くないかもしれない。
というか、幼女と敬語で会話するというのはなんだか、こう……妙にむずむずして、個人的に気持ちが悪いのだ。
そんなこちらの思惑を完全に無視して、BBはなんだか陸に打ち上げられた魚のように打ち震え、同時に水を得た魚のようにも見える度し難い顔をする。
「フ、フフフフフフフ! 気分を害したのなら謝りますわ、
「いや、蝋燭も鞭打ちもやらないが」
「あら、まあ。するのがダメなら、まさか……
「いや待て。それでは対象が俺に移っているぞ! お前を反省させるための折檻ではなかったのか? というか、プレイの内容が明らかに変化しているのだが!?」
「いやですわマスター、プレイだなんて……はしたないであります。それに内容も大して変わっておりません。挿入するのは蝋燭のことだと相場が決まっているではありませんか」
「蝋燭は、人体に挿入するものでは、断じてない……ッ!」
固く拳を握って断言する。しかしその直後、何か
完全に相手のペースに呑まれてしまっている。
俺は眉間を指先で押さえ、軽く溜息を吐いた。
まともに受け答えしていては
少しでも冷静に振る舞えるよう、自重することを心に誓う。
「はあ……まったく。どうやら、お前は随分と愉快な趣味をしているようだな」
「おや、分かりますか? ですが
「遠慮する。あとで万倍にして返されそうだ。それにお前の場合、ペドフィリアの求愛対象としては不適切だろう。アリスフィリアというべきだ」
「容赦ない冷静なご指摘、流石はマスターと感服する他ございません。やはりその手の異常性癖を患っていらっしゃるのでありますね」
「…………」
もう否定するのも面倒になってきた。
まったく……見た目は真っ青、腹の中は真っ黒なくせに、頭の中はピンク一色と見える。駄迷宮案内人め。
なにはともかく、このままでは遅々として話が進まない。この話題はここで打ち切ろう。
「……ともかく、話を前に進めよう」
「あぁん、いけずなマスターが私を焦らしていらっしゃる!」
強引に下ネタを打ち切ろうとしたものの、無理やり再開させようとする
咳払いを一つ零し、俺は先程から気になっていた疑問を口にした。
「―――――……ここは、何処だ?」