ダンジョンマスターの刑を執行します。   作:瑞雨ねるね

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第二十三話 労働環境を整えよう! 2

 ゴブリンが紅茶を飲みたがっている?

 

 ゴブリンと紅茶。

 この世で最も似合わない、ナンセンスな組み合わせだ。ミスマッチ極まりない。どうして奴等がそんなものを所望するのか、理解できなかった。

 

 ……と、思ったが。

 

「ああ、帽子屋(マッドハッター)だからか」

「その通りであります。童話(アリス)において、帽子屋(マッドハッター)三月兎(マーチヘア)惰眠鼠(ドーマウス)と共に、延々と続く狂ったお茶会に興じるキャラクターですから。モチーフとして取り入れた要素が反映されているのであります。彼等は貴方が想像し、創造した存在です。ですが――いえ、()()()()()、彼等が歴とした生き物であることを――貴方だけはどうか、お忘れなきよう」

 

 珍しく、釘を刺す風にBBが言う。

 

 もっともな言い分だ。

 

 俺が錬成した魔物達はあくまでも命ある生き物。

 空想のキャラクターなどではない。

 頭では分かっているが、実感が薄いのは事実だ。今の内に認識を改めておく必要があるだろう。

 

 今、彼等の要望を封殺するのは簡単だ。

 だがその結果として、魔物達に本当にストライキを起こされたりしたらたまったものではない。

 

 ここは応えておくべきだろう。

 無論、可能な範囲内で、だが。

 

「ああ、肝に命じておく。……それで、要望についてだが。迷宮内部で紅茶を栽培することは可能か?」

「はい。この世界の紅茶は貴重品であり入手は困難ですが、〈倫理のない世界〉からデータを仕入れれば、後は魔物を造るのと同じ要領で迷宮内に錬成することができるであります」

「分かった。それなら……そうだな。ではダージリン……いや、キーマンを」

 

 指定したのは世界三大紅茶の一つに数えられる茶葉だ。

 蘭や薔薇に似た香りが特徴であり、苦みが少なく後味がすっきりしているためストレートでも飲みやすい。それに渋みが薄いので、ミルクティーにしても美味いのが特徴だ。

 またキーマンには『女王の希望(クイーンズ・ホープ)』という名のブレンドティーが存在する。これならば、ハートの女王の不興を買ったことで永遠に茶会をし続ける羽目になった帽子屋に相応しいだろう。

 

 ……礼服を纏う、如何にも紳士然とした格好(かっこう)のゴブリン。

 彼等は、仲間達が女を強姦する様子を(さかな)に、談笑し、紅茶を(たしな)む―――

 

 その光景を想像してみたが――なるほど、悪くない。

 

「ふむふむ。なるほど、なるほど」

「……どうした?」

「いいえ、なんでも御座いません」

 

 如何にも意味ありげに、にっこりと華のような笑みを咲かせるBB。

 追求すべきか迷ったが、その前に彼女が話を進めたためにタイミングを逃してしまう。

 

「では紅茶の件はそのように処理致しましょう。〈太陽のない世界〉の植物の遺伝子を参考として、キーマンをベースに専用の茶畑を錬成するであります。これでひとまずは解決です。さて――それでは、二件目。食糧問題についてでありますが」

「食糧? それなら十分に足りると思うのだが」

 

 魔物の主食は〈死体デ遊ブ胤液(クラフティ・ハンプティ)〉だ。そういう風に設定してある。

死体デ遊ブ胤液(クラフティ・ハンプティ)〉は順調に増えているし、それを捕食する〈礼節ヲ解セル小鬼(ジェントルモア・ゴブリン)〉の数もそこまで多くない。三個小隊を編成できる程度だ。食い尽くすなんてことはない筈だが。

 

 こちらの疑問に対し、BBは頭を振る。

 

「いいえ。魔物ではなく、捕虜とした女騎士と人造人(ホムンクルス)の食糧です」

「……あっ」

 

 言われて(ようや)く気付く。

 確かに、それはどうにかしなければならない問題だ。

 

「ご理解いただけたようで幸いです。さて、どのように対処なさいますか?」

 

 ……と言われても、選択肢は一つしかないように思える。

 

「追加で、家畜用の魔物を錬成するしかないだろうな。隠れて魔物の数を増やさなければならない今の時分に、わざわざ外へ狩りに行かせるのはリスクが大き過ぎる。……となると、迷宮内での食物連鎖も考える必要があるか」

 

 (あご)に手を添えて考える。

 

 とはいえ、路線は既に決まっているのだ。一度手を動かし始めれば、作業はさくさくと進んだ。

 

 * * *

 

《名称:〈糞塗レ吃突キ鳥(ドゥードゥル・ドゥ)

 役割(クラス)歩兵(ポーン)

 等級(ランク)一ツ星()

 魔素依存度:極低

【能力値】

 力:E/魔:E/耐:E/知:E/速:D/運:E

【概 要】

 駄弁鳥(ドードー)種の魔物。食用。

 丸々と太った体型の黒い鳥。啄木鳥(キツツキ)という名前だが実際は(ハト)の仲間。巨大な体躯を持つ反面、翼が退化しており、飛べない。悪戯好きな人懐っこい性格で、何でも(くちばし)で突っついてはその度に脳震盪(のうしんとう)を起こし目を回す。戦闘力が皆無なため、外敵から身を護る際には凄まじい刺激臭がする糞を霧状に噴射する。人語の発音が可能なほど声帯模写に長けるが、正確に言葉をなぞることはできず、最初の音や音節を何度も繰り返してしまう。肉は脂肪分が多く、不味い。》

 

 * * *

 

「いくらなんでもあんまりでは?」

「―――ドードー鳥の『Dodo』を基本として、(にわとり)の鳴き声である『Doodle-doo』と幼児語で糞を意味する『Doo』、それから『落書きする』という意味の短文の『Doodle do』を掛けた完璧なネーミングだ」

()いていないのでありますが」

「ちなみに、味が悪いのは元となったドードー鳥に由来している。既に絶滅している動物なので詳しいことは不明だが、なんでも煮込むと肉が硬くなる上に(あぶら)臭く、とても食べられたものではなかったとか。塩漬けにして保存すれば多少はマシになったらしいが、それでも好んで食べた者は少なかったようだ」

「訊いていないのでありますが。童話(アリス)好きも結構ですが、趣味に走り過ぎではありませんか? 嗚呼(ああ)――ゴブリンに強姦された挙句、これを食べさせられる女騎士殿には流石に同情するであります……」

 

 南無、と合掌するBB。こいつにそんな感情があったとは驚きである。

 

「―――で、本当はどう思っている?」

「フフフ、あえてノーコメントとさせて頂きましょう」

 

 人差し指を口に押し当て、BBは上品に笑った。

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