ダンジョンマスターの刑を執行します。   作:瑞雨ねるね

24 / 51
第二十四話 悪い報せ

「では三件目のご報告ですが」

「まだあるのか……」

「これが最後であります。そしてもっとも重要な案件でありますので、どうかご辛抱下さいませ」

 

 こほん、と咳払いをしてからBBは告げる。

 

「いわゆる悪い報せ(バッドニュース)なのでありますが。端的に申し上げまして――敵に、こちらの位置がバレてしまいました」

 

「なんだと?」

 

 耳を疑う。

 

 現段階で迷宮を発見したのは、モニカとマジパナの一行のみ。その内、生きて外に出られたのはモニカとその供であるアーズィヴァだけだ。敵にこちらの位置を捕捉されるような不手際は犯していない筈だが……。

 

 困惑する俺に、BBは解説する。

 

「我々も正確に把握している訳ではないので、憶測が交じっているのでありますが……。これまでに〈倫理のない世界〉が収集した情報から鑑みるに、どうやら天使という(やから)は、ある種のネットワークのようなものを有しているようでありまして。個体が得た情報は、即座に全体へ共有されるようなのであります」

 

 ……BBの言葉を理解すると同時に、体中の血が音を立てて下がったような気がした。

 

 先の〈魔王〉の戦闘を思い出す。

 

 あの時、マジパナは迷宮の最奥――迷宮核(ダンジョン・コア)がある玉座の間で天使を召喚した。その時の情報が全て筒抜けになっていたということか。

 

「……そういうことは、早く言ってくれないか」

 

 思わず、頭を抱えて(うめ)いてしまう。

 

 迷宮の所在、地形、そして迷宮核の位置が明らかになったとなれば、敵は即座に準備を整えて襲撃を仕掛けてくるだろう。どれほどの規模の軍を動かすかは未知だが、少なくともこちらの兵力を上回るのは間違いないと考えるべきだ。

 

〈魔王〉は無敵であり、殲滅力も高い。

 しかし多数の敵を相手に、迷宮核(ダンジョン・コア)を護りながらの防衛戦を行うとなると事情が変わってくる。千丈の堤も蟻の一穴より崩れる――万が一にでも致命的失敗(ファンブル)してしまったら、その時点で詰みなのだ。

 玉座の間で乱戦、などという状況に(おちい)ることだけは絶対に避けなければならない。

 

 もう少し時間をかけて仕込みをしたかったのだが、予定が狂ってしまった。

 

 だが過ぎてしまったものは仕方がない。今は対策に尽力しなければ。

 

「敵の襲撃まで、どれほどの猶予があると思う?」

「数日――早くて三日、遅くとも一週間以内には派兵してくるかと」

 

 BBの推測は、俺の考えと概ね一致していた。

 

 まずは先遣隊を組織し、調査を行って情報の裏付けと詳細化を行う。その後、何段階かに分けて軍事力を投入する……のが定石、なのだろうか。それとて俺の素人考えに過ぎず、そしてここは異世界である。

 敵は天使を従え、完全な消耗品である人造人(ホムンクルス)の軍隊を指揮する騎士達だ。彼等にとっての一般的な軍略など想像もつかない。

 

 どうすべきか考える。

 

 なにはともあれ、まずは兵力の増強が急務か。

 ゴブリンには自力で数を増やして貰いたかったのだが、止むを得ない。直接錬成し、一個中隊ほど増員しよう。それで魔素(リソース)はほとんど枯渇してしまうが、計画の予定を繰り上げることさえできれば首は繋がる。

 

 あとは―――

 

 手元の魔物図鑑(アーカイブ)に視線を落とす。

 

 開かれたページには、モニカとアーズィヴァのデータが載っている。

 

 * * *

 

《名称:マターラ・モニカ

 役割(クラス)騎士(ナイト)

 等級(ランク)ニツ星(★★)三ツ星(★★★)

 魔素依存度:低

【能力値】

 力:C→B/魔:E→D/耐:C→A/知:D→D/速:A→A+/運:D→D》

 

 

《名称:アーズィヴァ

 役割(クラス)戦車(ルーク)

 等級(ランク)三ツ星(★★★)五ツ星(★★★★★)

 魔素依存度:低

【能力値】

 力:B→A+/魔:E→A++/耐:D→B/知:B→A/速:A→A+/運:D→D》

 

 * * *

 

 施した〈祝福〉によって両者共に等級(ランク)が上がり、ステータスが向上している。

 能力値に『EX』こそないが、『+』は瞬間的に二倍の出力を発揮できることを意味するのだ。『++』なら倍の倍となる。更にモニカとアーズィヴァはそれぞれ固有の魔法をも獲得しており、こちら側の戦力としては間違いなく最上位である。

 

 ……仕方がない。

 

 命運を、彼女達に(ゆだ)ねよう。

 

「BB。一つ、賭けてみてもいいだろうか」

 

 当たれば戦力の大幅な増強が見込める。しかし失敗すれば、全ては水泡に帰す。迷宮核(ダンジョン・コア)は破壊され、俺とBBは死ぬ。

 そこまで部の悪い賭けではないと思うが――やはり、最悪の事態は想定しておくべきだ。迷宮管理人(オレ)迷宮案内人(かのじょ)は一蓮托生。だからこそ、腹を割って話しておかなければならない。

 

 大まかな今後の方針と作戦を告げる。

 

 それを聞いて、BBは―――

 

「―――なるほど、なるほど。委細、承知致しました。諸々(もろもろ)の手配は私がやっておきますので、貴方様はどうぞ魔王(ロールプレイ)をお楽しみ下さいませ、我が管理人様(マイ・マスター)

 

 命運を共にすることを、なんら(いと)うた様子も見せず。

 平素と変わらぬ態度で頷き、BBは俺の提案を受け入れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。