肉を食む。
そして、骨諸共に食い千切る。
―――不味い。
栄養価が低いことは元より。香りも味も薄く、食べていて愉快なものではない。それでも食わねばならない。
優れた
周りには彼女と同様に、
その数は七十六。
彼等は積み上げられた
今は戦争の小休止。
敵も味方も手を休めて、補給活動に勤しんでいる。相手の動向を探りつつ、次の一手を考える時間だ。
とはいえ、
玉砕、である。
事の起こりは――
敵である人間共は、彼を捕まえたその場で殺すことはせず、公開処刑を行うことを決めた。
十ある各砦にて順番に晒し物にした後、聖都にて斬首する手筈だ。それは
それが晒し物にされた挙句に処刑されるなど、もはや恥辱という表現すら生温い。故に
無論、これが無謀な戦いであることは承知している。
敵からすれば襲撃など予想の
故に、移送には、常に砦の領主を含む千人規模の大部隊が護衛に当たっている。
彼我兵力差は一対九にも満たない。
それでも
元より彼等は死兵。戦わずに死ぬよりは、戦って死にたい――そんな決死隊の集まりである。
兵力差など最初から考えるに値しない。その程度で戦いを止める臆病者など、誇りある
だが、それでも―――
「……ハッ!」
随分と大柄な女性だった。
例に漏れず顔立ちは端整だが、野性味溢れる風貌である。褐色の頬と鼻筋に刻まれた深い傷跡が、その印象を深くしていた。
身に着けているのは革の軽鎧と、
手には人間の兵士から奪った、鋼鉄製の黒い
そして背中には、鉄塊じみた大剣が。
この戦場において指揮官を務めるのが彼女だ。
コナはムンドヌォーボの妻であり、モニカとパーピュラシナの母である。
そして常に最前線で戦い続けた古強者だ。
彼女の武勇は人間側にもある程度知られており、ムンドヌォーボに並ぶ優先的な抹殺対象としてリストに加えられている。
そんな彼女の
「―――戻ったわよ」
大型の狼に騎乗した
辺りには森林があるとはいえ、〈太陽〉がある聖都に程近い位置である。目隠しは
彼女の名はカトゥーラ。
コナの副官であり、腐れ縁の旧友でもある。
「どうだった、糞人間共の様子は」
「最悪」
苛立たし気に、カトゥーラが答える。
「もう駄目ね。向こうの指揮官は随分と慎重な性質だったみたいで、今まで馬鹿正直にこっちの突撃に付き合ってくれてたけど。それももう終わり。連中、こっちには援軍も伏兵もないだろう、って見切りをつけてきたわ。陣を張って隊を三つに分割、せっせと動き出したわよ」
それは、あまりにも絶望的な報せだった。
少数であるが故に遊撃と突撃を主とする
だが、そんなものにいつまでも付き合ってくれるほど甘くはなかったようだ。
「翁様の移送を優先しつつ、私達を殲滅する腹積もりね。もうすぐ
そして、その陣を越えなければ
だが現在の装備で真っ向から人間――天使とその加護を受けた騎士を相手にするのは不可能だ。
どちらも避けて進むこともできなくはないが、時間がかかり過ぎる。第004号砦への移送が終わってしまう。そうなっては手出しできない。
前者の場合、疲弊した状態で天使や騎士と戦わねばならなくなる。
前者を避けて後者に突撃した場合でも、背後から
「翁様を追うのはもう無理ね。……一応
「ハッ、全くないね」
低い声でがらがらと嗤って、コナは断言した。
思わず渋面するカトゥーラ。目隠しの下から向ける眼差しが、自然と険しくなる。
対して、コナは大袈裟に肩を竦めて見せた。
「おいおいカトゥーラ、そんな顔はよしな。今更怖気づいてんじゃないよ。こんな土壇場で逃げるくらいなら、そもそも最初っからここにはいない。そうだろう?」
「……それは、そうだけど」
「なら腹を
鎌の穂先を高く天に突き付け、コナが
「ここで死んだらどうなる? 先祖に顔向けできないか? 子孫が許しちゃくれないか? ―――そんなこたぁどうだっていい! もうどうやったって
豪放に、
「ここがアタシ達の死に場所だ! 我等が父祖たる翁様の奪還を目指し、前のめりに死んでくんだ! ここで死ね! ここで殺せ! 人間共の末代までの語り草になるくらい、いっちょド派手に暴れてやろうじゃないかッ!」
―――オオオォォォオオオオオオオオオオオ!
歓声が上がった。あるいは、
ここには戦場の悲壮など微塵もない。
それも当然。戦って死ぬ事を誇りに思っている、生粋のウォーモンガーの集まりなのだ。士気の高さは尋常ではなく、逃げ出す者など皆無。
それが、
「さあ――飯の時間は終わりだよ!
鋭敏な嗅覚と聴覚を頼りに、コナが駆け出す。
その後に屈強な男の
『突撃し、ぶっ殺す』。
それ以外の作戦はない、死への強行軍。彼女達は、奈落へと向かって一目散に突貫する。
それに並走するのは、狼に騎乗した女の
彼女達を指揮するのは副官であるカトゥーラ。弓矢を主体とし、機動力を生かして敵を
コナが突撃し、カトゥーラが脇から仕留めに掛かる。
いつもの戦法。
それはつまり、常に負け続けた戦法という事だが、しかしそんなことを気にする者はいない。そもそも
(チッ……別に、怖気づいた訳じゃないわよ)
苛々と、心中にて吐き捨てるカトゥーラ。
狼の疾走は速い。背の半ばまで伸びる青みがかった色の長い黒髪が、後ろに流れて軌跡を描く。風を感じるのが心地良い。
カトゥーラは、背中の弓を手に取った。
慣れた動作で前方に構え、矢筒から矢を引き抜く。
手入れされた森林に死角は少ない。それでも射撃を行う場合、多大な障害となる。狼の背中に乗って移動しながらともなれば猶のこと。しかしカトゥーラは、これまで一度も外したことはない。
百発百中を誇る魔弓の射手。
彼女には、自分が
無表情に、無感情に。いつものように、限界まで矢を引き絞る。
コナ達が
幸い、敵は襲撃に気づいていない。それも当然。如何に人の手が入っていようと、森の中で
(ただ、アンタ。自分で気付いているのかどうかは知らないけど。
指を放す。弦が弾け、矢が射られる。
戦争の火蓋が切って落とされる。
振るわれる剣。爪。斧。鎌。
血飛沫が飛び散る地獄絵図。
勝とうが負けようが、誰が死のうが生き延びようが。
早晩、
対する
人間の命令のままに、命を投げ出して戦う人形達。それが
血を流し、倒れ、死に絶える。
その屍を無感情に踏み越えて、
戦いは終わらない。―――今は、まだ。