辺りへ、大まかに視線を走らせながら尋ねる。
そこにあるのは見慣れない風景――ではない。すっかり既視感を植え付けられてしまった、馴染みの独房だった。
建材が剥き出しの、ひどく殺風景な小部屋。あるものといえば、今自分が腰かけている簡素なパイプベッドと、あとは小さなゴミ箱、洗面器と鏡に、薄汚れた洋式の便座くらいで―――
―――いや、そういえば見慣れないものがある。
先程から視界の端を掠めていた物体へ、ちらりと視線を向ける。
独房の中央には、巨大な卓が設置されていた。
恐らくはゲーム用なのだろう、雰囲気そのものはカジノテーブルやビリアードテーブルに近い。
黒檀で造られた机上には縁に沿って掘られた
机上の隅には、三つの砂時計が置かれている。
総じて、こじんまりとした薄汚い牢屋には不釣り合いな代物だ。
ただでさえ狭いのに、これが部屋の半分を埋めているので閉塞感がより強くなったように感じる。
そして卓を挟んだ向こう側――牢屋と外とを分断する鉄格子の先には、
「ここは異世界と異世界の狭間にある異空間――
「テーブルトーク……?」
「
BBが小首を傾げて尋ねる。俺はそれに首肯を返した。
TRPG――即ち、テーブルトーク・ロールプレイングゲーム。
ゲーム機などのコンピューターを使用せず、予め決められたルールに則って
実際にやったことはない。
なので、以前に見聞きしたにわか知識を並べ立てる。
それを聞いたBBは満足気に微笑み、「概ねその通りです」と頷いた。
「私達がこれから行うのはそれと同じ形式のものです。この卓は世界の縮図であり、私はこの
迷宮を築き、拡張し。魔物を生み出し、育み、人々を襲撃して資源を強奪する。
それこそがダンジョンマスターの使命。異世界迷宮追放刑の神髄であり、労役であり、更生のための
「―――ですので、貴方は一生ここから出られません」
花のような眩い笑顔を咲かせて、BBは暗黒の言葉を吐く。
あまりにも絶望的な事実――しかし、実のところ心的な動揺は少ない。
人生最大の修羅場は裁判所で既に通過済みなのだ。一度は絞首台へ送られることを覚悟した身だ、今更こんな小娘の台詞一つで動じたりはしない。
当然、元の世界に戻りたいとも思わない。
なにせあそこは〈倫理のない世界〉だ。
世界中のどこを探しても、文字通りまともな倫理観などどこにも存在しない、異常な世界なのである。無実の人間に大量殺人の罪を擦り付け、あまつさえ異世界を侵略するための尖兵として使うような狂った場所なのだ。
そんなどうしようもない世界に戻ったところで、それこそどうしようもあるまい。
……言いなりになって悪事を働くことにはもちろん抵抗がある。
だが今ここで嫌だと駄々を
こうなったら――もう、前に進むしかない。
毒を食らわば皿まで、だ。
決意し、BBを正面から睨む。
そんなこちらの
「やはり貴方は変わっていますね。物分かりが良過ぎるであります」
「それはどうも」
肩を竦め、軽薄に応える。
するとBBは口元に軽く握った手を当て、くすくすと
「ふふっ、強かな御方。それでこそ我がマスターです。―――では、残りの細々した部分の説明は、実際に
それでは――と言を鋭く切り、俺を真っ直ぐに見下ろしてBBは堂々と宣言する。
「受刑囚五-〇四二号。
―――これより、ダンジョンマスターの刑の執行を開始致します」