ダンジョンマスターの刑を執行します。   作:瑞雨ねるね

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第三十三話 時は満ちた

「ア―――ハッハッハッハッハ! 負けた負けた! アタシの完敗だッ!」

 

 得物を放り投げ、地面に胡座(あぐら)()いて座り、コナは豪快に笑った。

 

 手も足も出なかった。

 

 負けること自体は予想通りだ。

 コナ自身、勝てるとは思っていなかった。しかし攻撃の全てを完封され、挙句に一撃で気絶させられてしまうというのは(いささ)か想定外ではあった。

 手負いで全力を出せない状態だった、なんて言い訳にもならない。魔王とコナの間には、それほどまでに戦闘力の隔たりがあったのだ。

 

 最早、悔しい、などと思う余地もない。それこそ笑うしかなかった。

 

「さて、これで文句はあるまい?」

「ああ! ―――数々の御無礼、伏してお詫び申し上げる! このアタシに勝ったんだ、今からアンタが食屍鬼(グール)の頭領だ! 長に勝つってのはそういうことだからねぇ! 駒だろうが眷属だろうが、なんにでも好きに使いな!」

 

 かんらかんらと気持ち良く笑って、堂々と宣言する。

 この決定に、他の食屍鬼(グール)達にも異存はない様子。精々がカトゥーラが「やれやれ」と嫌そうに肩を竦めている程度だ。

 

「では貴様等、全員を我が眷属へと変えさせて貰おう。話の続きはそれからだ」 

 

 魔王が、手袋に包まれた掌を前方に(かざ)す。

 

 すると、コナやカトゥーラ等、食屍鬼(グール)。そしてこの場に居合わせた全ての狼達の身体が青白い光の粒子に包まれた。

 モニカやアーズィヴァの時と同様の現象。

 この〈洗礼〉と〈祝福〉によって、彼女達は魔王の眷属へと新生する。

 

 やがて、孵化(ふか)するように青白い光の殻が砕け散る。

 

 危なげなく成功。全ての狼と食屍鬼(グール)が生まれ変わった。

 

 当然、怪我も癒えている。装備もまた新品同様になっていた。

 

「へぇ、ホントに治っちまった! しかもアッチじゃあ、手足を失くした奴まで元通りになってるじゃないか! 話には聞いてたが、実際に体験してみると驚きだねぇ。どうなってんだい、こりゃあ?」

 

 ぐるりと肩を回し、調子の好さに目を丸くする。

 

 他の食屍鬼(グール)達の反応も似たようなものだ。特に――アーズィヴァと同様、別種とさえいえるほどに外観が変わった狼達の姿に驚いている。

 

「へへん、言った通りだろ? 魔王様はすごいんだ! ―――って、母さん! 言葉遣い! 魔王様に失礼だぞ!」

「善い。特に許す」

「ハハハ、そいつぁよかった! 硬っ苦しいのは苦手でね。ここは一つ、魔王様の寛大さに甘えさせて貰おうじゃないか」

 

 コナが「よっこらせ」と立ち上がる。

 

「さて、話の続きをしておくれよ、魔王様。アタシ達を眷属にして、アンタは一体何をしようってんだい?」

「この世界から〈太陽〉を消す。その障害となる物は全て排除する。貴様等はその為の戦力だ」

「〈太陽〉を消すって……そんなことが可能なの?」

 

 呟いたのはカトゥーラだ。

 

 この〈太陽のない世界〉において、〈太陽〉は人間世界の象徴だ。その存在を忌み嫌わない闇ノ眷属(ナイトウォーカー)などいない。

 造られた太陽を消し、この世界に再び開けない夜を取り戻す。

 それこそが全ての闇ノ眷属(ナイトウォーカー)の悲願だ。だがそれは、容易く叶うものではない。むしろ絶対に達成し得ない、奇跡のようなものだ。

 

 魔王は、それをやると言った。

 

 彼は泰然と構えたまま、堂々と宣言する。

 

「無論、可能だ。吾輩が貴様等を勝たせてやろう。世界を手に入れる為の戦争だ。人間を、天使を。(ことごと)く打ち破って見せよう。この世界を貴様等にくれてやる」

 

 だが―――

 

「―――それが済めば、次は更なる戦争だ。此処ではない、新たな世界を侵略する。それが済めば次へ。それが済めば更に次へ。無限に存在する〈匣庭〉の最果てに至るまで。貴様等は、吾輩の下で永遠に戦い続けるのだ」

 

 あまりにも途方のない話だ。

 しかし嗤うことも、呆れることもできない。完全に魔王の気迫に呑まれている。彼の言葉をするりと飲み込んで、当然のものと受け入れていた。

 

 * * *

 

 ……なんとか、上手くいった。

 

 迷宮管理室(テーブルトークルーム)にある自分の身体へ意識を戻す。

 

「お疲れ様であります。これで現存する食屍鬼(グール)のほぼ全てを抱き込むことが出来ましたね。中でも四ツ星(★★★★)等級(ランク)のコナは重宝しそうでありますな。後はカトゥーラも等級(ランク)こそ三ツ星(★★★)ですが、とても期待できそうであります」

「ああ」

 

 BBの言に頷く。

 

 今この迷宮にいる魔物といえば、一ツ星()の〈死体デ遊ブ胤液(クラフティ・ハンプティ)〉と〈礼節ヲ解セル小鬼(ジェントルモア・ゴブリン)〉だけだ。

 はっきり言って、心許なかった。

 しかし今はそこに合計で七十以上の食屍鬼(グール)が兵力として加わった。彼女達の等級(ランク)は平均が三ツ星(★★★)で、リーダーであるコナの戦闘力評価はアーズィヴァの次に高い四ツ星(★★★★)だ。

 これで最低限、必要な戦力は手に入ったと言えるだろう。

 

 あとは―――

 

「敵の動向は?」

「はい。第003号砦、第006号砦、第008号砦に動きがありました。迷宮に最も近い第005号砦に、兵を送る準備をしているようであります」

「……やはり第005号砦に集まるか。であれば、前提条件は達成されたも同然だな。こちらも作戦を実行に移すとしよう」

 

 兵は拙速を尊ぶ。

 

 やや不安要素が残るものの、これ以上は時間を掛けられない。

 

 攻め込まれる前に攻める。敵の出鼻を(くじ)き、機先を制することこそが最善の選択だ。

 

 故に。

 

「―――第005号砦を、落とす」

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