ダンジョンマスターの刑を執行します。   作:瑞雨ねるね

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第三十五話 幕間

「お勤めご苦労様です、グミベル様。それでは、ご案内致します」

「……よろしくお願いします」

 

 ()()()()を終えた修道女が会議室を出ると、三つ編みの人造人(ホムンクルス)に迎えられた。深々と頭を下げる彼女に頷きを返し、退館すべく歩き出す。

 

 (うつむ)きがちに歩く修道女の心中は、酷く暗澹(あんたん)としていた。

 

 天使と天上の主、そして〈太陽〉に仕える身でありながら、男に身を任せてしまった後悔。権力を笠に行為を強いられる屈辱と、理不尽に対する憤り。黙って受け入れることしかできない己への軽蔑。

 そして……―――行為中、自分が少なからず快楽を得てしまっていることに対する、強い失望。

 

 様々な感情で、彼女の心はぐちゃぐちゃに乱れていた。

 

 汚れている。

 穢れている。

 

 そのことばかりが頭の中で渦巻いている。二つ名の通り獣の如きゲヴランツも、そして彼に犯される自分自身も。どうしようもなく汚穢(おわい)だ。

 

 早く、帰らなければ。

 

 そのことしか頭になかった。

 

 領主の館は広大だ。砦の外壁と半ば一体になっていることもあって、要塞も同然な構造になっている。外部の人間には何処に何があるか分からないようになっているのだ。

 修道女はこの館に勤める人間ではない。

 なので出入りの際には必ず案内が付くが、しかし単身でも迷うことはないだろう。

 実に不本意ながら。足繁(あししげ)く通わされる羽目になっているため、館の内部のことはもう(おおむ)ね把握できてしまっていた。ここで働いている人物のことも、大体は知っている。

 

「ぶふぅー……ぶふぅー……―――おい、待つんだど! そこの売女!」

 

 聞き慣れた声に呼び止められる。

 

 振り返ると、ゲヴランツやマジパナと同じ、騎士の出で立ちをした男の姿が視界に入った。

 

 その男の容姿は、醜くかった。

 

 異常に肥満した巨躯。背が高いのだが、それ以上に横幅が広い。胴体は風船の如く丸々と太っており、膨らんだ腕と足、その手指は、芋虫を連想させる。

 小さく細い目は脂肪に埋もれていて、余計に分かり辛い。

 鼻は潰れ、広がった鼻孔が正面から見えた。

 

 まるで、豚だ。

 まさに、豚だ。

 

 そうとしか言いようのない、実に醜い男だった。

 

 彼はマジパナと同じく、第005号砦が領主獣騎士ゲヴランツ――その補佐を務める副官。迅猪(じんちょ)騎士(きし)ネヴァルである。

 

「ぶふぅー……オ、オバエ……ぶふぅー……またゲヴランツ様のところへ、()()()を貰いに行っていたんだど? ず、ずいぶんと精が出るんだど……ぶふぅー……。お、女は、男に股を開いてれば、く、食うに困らないから、本当に便利だど! ら、楽に稼げて羨ましい限りだど! ぶふぅー!」

 

 何を興奮しているのか。異常に鼻息を荒くして、ネヴァルが詰め寄ってくる。

 どもりながらも語気は荒く、早口であるため、何を言っているのか聞き取り辛い。それでも内容自体は概ね理解できた。

 

 修道女は、能面のように表情を凍らせて、言われるがままに黙っている。

 

「ぶふぅー……な、なんなんだど? その目は? なっ、なにか文句があるなら、言ってみればいいど! ぶふぅーっ!」

「……いえ。申し訳ありません」

 

 深く頭を下げて謝罪する。

 

 勤めを終えた後はいつもこうだ。毎度毎度、この男に長時間(なじ)られる。自ら望んで身体を許している訳ではないというのに、淫売と罵られる苦痛。理不尽。あまりにも耐え難い屈辱。

 修道女は半ば無意識に歯を噛み締めた。

 言い掛かりに反論しそうになるのを、必死に(こら)える。相手は高い身分の騎士だ。庶民である自分が口答えをしていい相手ではない。故に、黙って耐え忍ぶしかなかった。

 

「そっ、そもそも、ゲヴランツ様はさっきまで、〈円卓〉会議を行なっていたはずだど。そんな時にまで()()()()だなんて……ほ、本当に卑しいヤツなんだど……! ぶふぅー! 人間のお、女は、実に醜いど! それに引き換え、オデの人造人(ホムンクルス)ちゃん達のなんと愛らしいことか……」

 

 ネヴァルの視線が、三つ編みの人造人(ホムンクルス)の方を向く。

 彼女を見る眼差しは親しげだが、そこに宿る感情は卑俗極まりないものだった。直接視線に晒されている訳ではない修道女でさえ、あまりの(おぞ)ましさに肌が粟立つほどだ。

 しかし、当の人造人(ホムンクルス)本人は、素知らぬ顔で柳に風と受け流している。

 

 獣騎士ゲヴランツは女を抱くことに、異常なまでに執心している。

 

 領地内の女で彼に抱かれていない者はいない。

 だけでなく、彼は一度手籠にした女であろうと定期的に呼び出して抱いていた。中でも修道女のような聖職者や、人妻、恋人を持つ若い女を特に好んでいるようだった。

 一方で、彼は人造人(ホムンクルス)にはあまり頓着していない様子だった。

 そんなゲヴランツとは対照的に、迅猪騎士ネヴァルは人造人(ホムンクルス)にしか興味がない。生身の女を淫売と罵り、人造人(ホムンクルス)を穢れなき無垢な存在として誉めそやしている。

 かと言って、彼はマジパナのような、自分と同等以上の立場の女性に同じような口を叩くことはしない。それどころか、彼女等の前では決して一言も喋らない。攻撃するのは、あくまでも反撃してこない相手に限っていた。

 

 気持ちの悪い、臆病な卑怯者。

 

 迅猪騎士ネヴァルという男を言い表すのに、これほど適した言葉はないだろう。

 

 それから一時間近くも言葉で(なぶ)られてから、修道女はようやく解放された。

 

 人造人(ホムンクルス)と別れ、黙々と家路を行く。

 第001号から第010号の各砦は全て堀と外壁に囲まれているが、決して狭くはない。むしろ広々としている。ここには家畜を育むための牧草地を含んだ街一つが、すっぽりと納まっていた。

 道すがら、擦れ違った人々と挨拶を交わす。領主の館から出て来た彼女に向けられる視線は憐憫(れんびん)と労わりの色が濃く、男女を問わず、ネヴァルのように侮蔑する者はいなかった。

 

 教会の礼拝堂で祈りを捧げ、身を清める。

 

 勤めを終えた後には欠かさず行っている習慣。それを済ませてから、修道女は教会で預かっている身寄りのない子供達の所へ向かった。

 

「シスター! お帰りなさい!」

「……ただいま」

 

 元気な声に迎えられ、修道女の口元が安らかに(ほころ)ぶ。

 教会にいる子供達は十人ほど。彼等は皆、家畜の世話や街の人々の手伝いなどの仕事に従事し、同時に天使の教えを学んでいる。

 今は勉学の時間で、全員が教室に集まり、先生役である老年の修道女の話を聞いているようだった。

 

「お帰りさない、シスター・グミベル。よく勤めを果たしてくれました」

「いえ……―――おや」

 

 苦笑して、視線を逸らすついでに教室を見渡したところで、気付く。

 

「トルテ。彼女の姿が見えないようですが。あの子は、どこに?」

「ああ、あの子ですか。あの子なら―――」

「トルテならサボりだよ!」

「あの子、愚図で不真面目だもんね」

「頭もよくないしね!」

「赤髪の悪魔の子なんて、いない方がいいよ!」

 

 顔を見合わせて、くすくすと笑いながら子供達が(ささや)き合う。

 

「こら、お友達にそんなことを言ってはいけませんよ」

 

「…………」

 

 老年の修道女が咎めると、子供達は沈黙した。

 

「……すみません。私、トルテの様子を見てきます」

 

 告げて、修道女は教室を出た。

 

 件の子供の居場所は、概ね見当がついている。修道女は、教会で運営している家畜小屋へ向かった。

 家畜小屋の隅には、やはり一人の子供の姿があった。

 幼い少女。不格好に切り揃えられた、ぼさぼさの赤い髪が印象的な娘だった。

 

 少女は屈み込んだ態勢で、小さな子豚に餌をやっている。

 

「わたしのブタさん。たくさん食べて、大きくなってね」

 

 ―――ブヒ、ブヒ

 

「……やっぱりここにいたのね、トルテ。今はお勉強の時間でしょう?」

 

「…………」

 

 少女は、修道女の言葉を無視した。

 彼女の視線は子豚にのみ注がれている。餌を頬張る様子をじっと観察していた。

 

「わたしのブタさん。わたしだけのブタさん……」

 

 呟く声から寂しさを感じるのは、修道女の気のせいではないだろう。

 

 赤い髪は不吉。そんな噂話に加えて、彼女はあまり社交的な性質ではなかった。自然と彼女は教会の中で孤立するようになり、時には虐めを受けているようだった。

 そんな彼女のことを、教会の修道女達は気に掛けていた。

 

 修道女は、静かに少女の隣で身を屈めた。

 目線を揃えて、話しかける。

 

「トルテ?」

「……このブタさんは、わたしのなの。わたしだけがお世話するの。わたしが食べるブタさんなの。だからわたしのなの。わたしの……」

「……そう。このブタさんは、貴方のお友達なのね」

 

「…………」

 

「分かったわ。でもお勉強はしないと駄目よ、トルテ。だからここで授業をしましょう。ブタさんと一緒に勉強するの」

「……いいの? シスター」

「ええ」

「……ありがとう、シスター」

 

 目尻に涙を(たた)えて、少女は応える。

 子豚は無心で餌を食い続けていた。

 

 * * *

 

 技術学部。

 

 学士と呼ばれる技術者達で構成されるその組織は、各砦に最低でも一つの研究室を与えられている。

 彼等の主な業務は人造人(ホムンクルス)の製造及びその管理。

 また、錬金術を用いた冶金(やきん)の他、〈喇叭(ラッパ)〉の製造――正確には充電器(バッテリー)部品の作成、全体の組み上げ、最終調整など、一般の鍛治職人には任せられない製造工程――も学士の仕事である。

 

 学士には研究所をまとめる所長と、その部下達とが存在する。

 

「所長。人造人(ホムンクルス)及び〈喇叭(ラッパ)〉の追加製造の件ですが―――」

 

 学士の一人が、研究室に隣接した所長室の扉を開く。

 

 すると――今まさに首を吊ったばかりの、技術学部研究所所長の姿が視界に飛び込んだ。

 

「ちょ―――ッ! こんな時に何やってんですかアンタは! 皆ァ! 所長がまた首吊ってるぞ! 手伝ってくれ!」

 

 彼を含む五人の学士。研究所に勤めるメンバー全員が、所長の身体を支える。

 これに抗議をするのが自殺未遂を起こした本人だ。

 

「うぅぅううう! やっ、やめてくださいぃ! ボクは死ぬんですぅ! これ以上あのヤリチン糞野郎にこき使われるくらいなら、死んだ方がマシですぅ! 過労死は嫌なんですぅ! 死に方を選ぶ権利くらい、ボクにだってある筈ですぅ! だから止めないで下さぁい!」

 

「ふざけんな! こんなクソ忙しい時に!」

「せめてやること全部やってから死んでください! 大人でしょう!」

「そうだそうだ! いい歳した大人が恥ずかしくないのか!」

「ってか、重! 所長重!」

 

「やめろぉ! 歳と体重のことを言うのはやめろぉ!!」

 

 泣き喚く上司をどうにか引き摺り下ろし、学士達は溜息を吐いた。

 

 技術学部研究所所長――名前はピルツィ・ゲベック。

 

 性別は女。頭脳(ずのう)明晰(めいせき)だがネガティブな性質で、何かと言動に難がある。

 腰まで伸びた、紫がかった色の長い黒髪はぼさぼさで、全く手入れがされていない。眉も髪同様に放置されていて、太く濃い。そして黒縁の分厚いフレームの眼鏡が妙に目を惹く。体型は豊満と言えば聞こえはいいが、どちらかといえば『だらしない』と表現した方が適切だ。

 服装は学士の制服である黒い詰襟(つめえり)と長穿で、その上から白衣を着た色気のないものである。

 童顔だが顔立ちそのものは悪くない。だが言動や身形のせいで色気というものが全くなく、職場の同僚はおろか好色家なゲヴランツからも相手にされない。そんな女だった。

 

「えぐっえぐっ、ぐすっ……ひぐぅっ! もうやだぁ! 三日以内に人造人(ホムンクルス)と〈喇叭(ラッパ)〉を百ずつ(そろ)えて用意しろ――なんて、そんなの間に合う訳ないじゃないですかぁ! そもそも、それでなくとも元から仕事量に対して人員が少な過ぎますぅ! うぅぅううう! ゲヴランツの糞野郎ぅ! 性病にかかって死んじゃえぇ!」

「いや、まあ……言いたいことは分かるっていうか、俺達も概ね同意見なんですが……それでもやらなきゃでしょう? 仕事なんですから」

「いーやーでーすぅ! うぅぅううう! このまま安月給で、馬車馬の如く働かされ続けるんだ……それで、過労で死ぬんだ……誰からも相手にされず、ずっと処女のままなんだ……鬱だ……死のう……」

「いや、所長ってよく見れば器量は良い方なんですし、その内いい人見つかりますって!」

「希望は捨てちゃ駄目ですよ! いつか所長を貰ってくれる人が現れる筈です! そう! 白馬に乗った王子様のような人が!」

 

「―――じゃあもう貴方達でいいので誰か結婚してください」

 

「それは嫌です」

「マジで勘弁してください。パワハラですよ」

「結婚もですが、所長が相手じゃ勃つものも勃ちませんって」

「ああ。まだ人造人(ホムンクルス)の方が良い」

「それな!」

「おっ、異種姦の話か? それなら実は俺、食屍鬼(グール)の女の子に興味があってぇ……」

「違ぇよ! 聞いてねぇよ!」

 

「この屑野郎どもがよぉ……鬱だ……死のう……」

 

 もう一度首を吊ろうとするピルツィ。それをどうにかして五人がかりで押さえつける。

 

「あーもう、これじゃ(らち)が明かねぇ! おい! 例のアレを所長に食わせろ!」

「了解!」

 

 学士の一人が、懐から(キノコ)を取り出した。

 

「はっ、放せぇ―――むぐぐ!?」

 

 紫色の茸が、暴れるピルツィの口に突っ込まれる。為す術なく、ピルツィは茸を飲み込んだ。

 

 ―――ばたん

 

 顔を真っ青にしたピルツィが倒れる。

 更に彼女の顔色は赤くなったり紫になったり、黄土色になったりオレンジ色になったりした。しかし次の瞬間、カッと眼を見開いて勢いよく立ち上がる。

 

「復ッ()―――ツ!」

 

「イエ―――――イ!ッ」

 

 学士達が歓声を上げた。

 

「さぁ、バリバリ働きますよぉ! この研究所の全ての設備をフル稼働ですぅ! 明日までに人造人(ホムンクルス)と〈喇叭〉百セットなんてどう考えても無理ですが、そこはそれ! 最善を尽くしてから申し開きしましょう! それでもあのヤリチンケダモノ糞野郎が文句を言ってくるようなら、ボクが責任を取ります! だからみんな、ボクについて来ーい!」

 

「応―――――ッ!」

 

 異常に高いテンションで一致団結して、学士達はそれぞれの仕事に取り掛かる。

 

 所長ピルツィに食べさせたのは向精神作用のある代物だ。

 本来であれば、学士は人造人(ホムンクルス)と〈喇叭〉の製造以外の技術を学び実践することは許されない。しかしピルツィは独自の探求心から、隠れて闇ノ眷属(ナイトウォーカー)の研究を行っていた。

 

 かつて存在した茸の怪物、茸怪獣(マタンゴ)

 

 その一部がひっそりと森の奥地にて繁殖していたのを発見。秘密裏に採取し、長い時間をかけて品種改良を施した代物である。

 全ては人類の発展のため。

 だが公にはできない。闇ノ眷属(ナイトウォーカー)と彼等が扱う武具の研究は、天使によって強く禁止されている。もしも彼女の研究が外部に漏れたりすれば、この研究所にいる全員が縛り首にされかねなかった。

 

 それでも部下が着いて来ている辺り、ピルツィには人望があると言える。

 

食屍鬼(グール)も皆殺しってことになってますけどぉ、やっぱりもったいないですよねぇ。彼等が栽培しているというコーヒーとかいう植物。すごく興味ありますぅ。聞く所によると、眠気を飛ばして集中力を高める効果があるとか。いいなぁ、欲しいなぁ)

 

 決して他人には聞かせられないことを考えながら、ピルツィは人造人(ホムンクルス)製造用の巨大培養槽(フラスコ)を覗き込んだ。

 

 * * *

 

 ひそひそ、ひそひそ、と。

 

 漆黒の闇の中で、幾多の囁き声が聞こえる。

 まるで無数の蚊の羽音が重なっているかのような、耳障りな騒めき。その(わずら)わしさに、玉座に身を預けた女王は思わず眉根を寄せる。

 

 女王――ルースルカリィ・レ・ファニュ。

 

 その外見は十代前半の人間の少女とそう変わらない。しかし彼女こそが最強の魔、吸血鬼(ヴァンパイア)だ。

 それもただの吸血鬼ではない。

 この世界に唯一人だけ生き残った、闇ノ眷属(ナイトウォーカー)の原種である。

 他の有象無象は全て人間との混血種。

 創造主の失踪後。吸血鬼(ヴァンパイア)種の衰退を防ぐため、彼女は(さら)った人間の(たね)で百人以上の子を産んだ。しかしその全てが吸血鬼と呼ぶことさえ烏滸(おこ)がましい、力不足の半端者ばかりである。

 

食屍鬼(グール)共が反攻に及ぶようだぞ」

「クク、狗めらが随分とまあ、大それたことを企てるものよ」

「またぞろ尻尾を巻いて逃げ出すことか、見物ですな」

「違いない……ククク……」

 

 第1鉱山山脈の裏側――異空間、静謐庭園(イーヒャ・ヒューン)

 

〈太陽〉の光から逃れるため、吸血鬼の女王ルースルカリィが異空間上に造り上げた闇の館。ここには一族の全員と、そして家畜として連れて来られた人間が住んでいる。

 外の様子は、ルースルカリィが玉座の間に用意した水晶玉で知ることが出来た。

 水晶玉は小さなものだったが、問題はない。吸血鬼(ヴァンパイア)は優れた視覚を持つ。女王の(もと)まで近寄らずとも、十二分に把握することが可能だった。

 

(まったく……我が子ながら、愚かな連中じゃな)

 

 血を零したような、鮮やかな真紅の髪を指先で(もてあそ)びながら、嘆息する。

 ある種の特権階級であるという意識は吸血鬼(ヴァンパイア)が生来から持つものだ。ルースルカリィも例外ではない。

 (おご)りではなく、彼女には相応の実力がある。異空間を生み出し、五百年もの間、身内を(かくま)い続けているというだけでもその力の一端が窺える。

 そんな彼女と比べて、彼女の子供達はあまりにも非力で幼過ぎた。

 

 ただただ尊大で、親の権威に胡座(あぐら)を掻いている。

 

 そんな風に育ってしまった原因の一端は間違いなくルースルカリィにあるのだが、当人に言ったところで「そんなことは知らん」と一刀両断されることだろう。

 

(今、注目すべきは食屍鬼(グール)に非ず。迷宮の魔王よ。……新たなる創造主、か。クク、面白い。まずはこの局面をどう攻略するか、見せて貰おう)

 

 他者を嘲笑う以外に能のない身内を完全に意識の外へと追いやり、吸血鬼(ヴァンパイア)の女王は水晶玉が映し出す光景に集中した。

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