「―――落ち着きましたか?」
「ああ。……大変お見苦しいものをお見せした上、他にも色々と申し訳ない。すまなかった、BB」
深く頭を下げる。
俺は
快楽と苦痛の波はこうしている今も絶え間なく押し寄せ、身体を
俺が
少なくとも、先程のように前後不覚に
……散々うがいをして
完全に己を棚に上げて八つ当たり紛いの真似をし、挙句にBBの目の前で醜態を
けれどそんなこちらの心境を気にした様子もなく、BBはあっけらかんと微笑んでいる。
「いえいえ、どうかお気になさらず。私に謝罪なんてもったいないですよ。頭を上げてください」
「だが……」
「本当に気にする必要はないのですよ。何故なら――
「……なんだ、それは。どういう意味だ」
明らかに含みの孕んだ言葉を受けて、俺は
対するBBは、普段通りの猫を思わせるニヤニヤ笑いで答えた。
「最初にお渡しした本に書かれていた通りです。私こと
「……なるほど。そうか、そういうことか」
告げられた事実は到底受け入れ難いものだったが。驚きよりも、納得の方が先に来た。
俺がBBに対して抱いていた反感は、要は近親憎悪であり自己嫌悪であった訳だ。―――実に
けれど、そう自覚したからこそ。
「そういう事情なら遠慮なく言わせて貰おう。―――BB。俺は、お前が大嫌いだ」
真正面から悪態を受けても、BBの態度に変わりはない。
むしろ面白がっているようだ。
唇が美しく三日月型の弧を描いている。耳元まで裂けそうな、醜悪に美しい不吉な笑顔だった。
「ありがとうございます。私は、そんな貴方が大好きですよ」
軽口に、俺は鼻を鳴らす。
話題を変えようというのだろう、BBは軽く手を打ち鳴らした。
「さて、親睦が深まったところで。改めて
「ああ、それなら一つある。〈
卓上の駒の一つを指先で突つく。
ゴブリンを表す黒い
BBは、
「そちらについては、現在は非公開となっているステータスが影響しております。詳細は後ほど、チュートリアル発生のフラグが立った際にご説明致しましょう。……ですが、ふむ。マスターはゴブリンの操作をなさりたいのですか? 別段、今のままでも問題はないと思いますが」
「いや、問題大有りだ」
非公開になっているステータス、というのは気になるが――それよりも。
「俺個人の信条を抜きにしても、ゴブリン達の振る舞いはあまりにも目に余る。戦場で人目も
実際、繁殖行為に精を出すあまり、隙を突かれ討ち取られているゴブリンは多い。
それに味方の士気にも関わる。
個体差はあれど、基本的に
一応、首領の娘であるパーピュラシナが獣騎士から受けた仕打ちを知る
特に
このままでは魔物――延いては、それを従える〈魔王〉や迷宮への不信に繋がりかねない。
「それはまあ……仰る通りなのですが……ほら、彼等はゴブリンで、
「だったら何をしてもいいという訳ではないだろう……」
呆れ混じりに否定する。
……しかしこれは、BBに言ったところで直ちに解決する問題ではない。どちらかといえば、
もっと後のことを考えて設定を詰めておくべきだった。
頭痛を覚え、俺は
BBはわざとらしくオホンと
「―――……先程、貴方がお言いになったことについてですが。『個人の信条』、ですか。今もなお貴方は、自分が、私や〈倫理のない世界〉の住人達とは違う『良識ある善良な人間』なのだと――そう信じておいでなのですか?」
かくりと首を傾げ、BBは俺を見上げる。
俺の答えは決まっていた。
「いいや。俺は自分の悪性を認めている」
俺は間違いなく屑だ。
戦争を愉しむ下衆で、
それが嫌ならば、悪いと思っているのなら――今からでも首を
何故なら、死にたくないからだ。
誇りは大事だ。
だが
それこそが俺だ。
そんな人間が、
だが、
「俺の性根は邪悪なのだろう。だが、
意図して語尾を挑発的に歪める。
BBは目を丸くして驚いていた。
珍しい顔をするものだ。してやったり、と内心でほくそ笑む。
「―――ふぅむ。なるほど、なるほど?」
BBは顎に手を添えて、思案げに頷いている。
―――何か、違和感がある。
今までの彼女の言葉に嘘はない。これまでずっと悪趣味なふざけた態度を取り続け、冗談を口にしてきたBB。だがその振る舞いはある意味で
無論、本当かどうかを識別する術はない。だが不思議と、俺はそう確信していた。
けれど。
BBは度々、俺が真っ当な倫理めいたことを口にすると、このように何事かを考え込む。だが――それは、
彼女は自らを、俺の欲望から産まれた存在なのだと語った。
ならば俺の嗜好や考え方など、全て熟知している筈だ。実際、彼女自身の言動からして、そのことについて間違いはないのだろう。
だが――ならば、
何故、考えるのか。
それは、俺の言っていることが、彼女にとっておかしなことだから?
何がおかしいのか。
俺が、『真っ当な倫理』を口にすること自体が?
……なにかが、おかしい。
矛盾している。
矛盾している?
なにが?
酷く言語化が困難な感覚に襲われる。
喉に何かがつっかえているのは分かるのだが、それが何なのか分からない。そして、分からないことがどうしようもなく気色悪かった。
……やめよう。
今、こんなことを考えていても仕方がない。
目の前の戦いに集中するべきだ。なにせ、命が掛かっているのだから。
―――幸いにも、戦の
敵はほとんど総崩れ。
モニカとアーズィヴァの魔法による暴風雨と
今の所、戦いに支障はない。
だが、油断は命取りだ。
敵は天使によって常に情報を共有している。
指揮系統が回復するのも、こちらの手札が露呈するのも時間の問題だ。そうなる前に制圧できなければ、攻略は一気に難しくなる。
時間が経過するほどに、こちらが不利になるのだ。
そもそも今回の作戦自体――嵐による城攻めも、〈
「―――さて。気になることはありますが、それはひとまず横に置いておきましょう。戦争はまだまだこれからであります。敵もそろそろ体勢を立て直す頃合いでありますれば――楽しい陵辱の次は、お待ちかねの、血湧き肉躍る闘争の時間です」
思考の整理を終えたのか、改めてBBがそんなことをうそぶく。
俺は改めて、卓上へ――〈太陽のない世界〉に意識を落とした。