ダンジョンマスターの刑を執行します。   作:瑞雨ねるね

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第四十三話 戦況を整理しよう!

 さて、説明しよう。

 

 食屍鬼(グール)の戦士といえば、敵に対して兵力で劣るこちらにとって非常に貴重な戦力である。本来なら遊ばせておく余地などない。

 そんな彼女達を向かわせてまで、何故わざわざ学士の身柄を押さえさせたのかといば……―――

 

「―――当然、ハーレムに加える算段に違いありませんね。分かるであります」

「違う。お前は何一つ分かっていない」

 

 したり顔で頷くBB。

 無視できるのならそれに越したことはないのだが、そうすると永遠に茶々を入れられ話の腰を折られ続ける羽目になるので、嫌でも相手をしなければならなかった。

 ……苦行だが、これも刑罰に含まれているのだろうか。あまり考えたくない。そもそもが冤罪なのだし。

 

 とはいえ、こうして話すことに利点がない訳ではない。

 話すことで自分の考えを言語化し、改めてまとめることが出来る。話している内にアイデアが(ふく)らんだり、閃いたり、欠点に気付くことも多い。

 無論、別の視点から得られる状況の分析も有難いものだ。

 そういう意味では、間違いなく俺はBBの存在に助けられている。……口にすれば間違いなく鬱陶しいことになるのは目に見えているので、絶対に言わないが。

 

「……その様子だと、作戦前に話したことを忘れていそうだから、もう一度言うが。学士を確保した理由は二つだ」

 

 一つは、敵の兵站(へいたん)に打撃を与えること。

 そしてもう一つは、彼女達が有する技術を手に入れるためだ。

 

 学士が製造する人造人(ホムンクルス)は雑兵とはいえ、主たる敵戦力の一つであるのは間違いない。故に追加の増員を防ぐために研究室の制圧と人員の捕縛を行った。

 とはいえ、そちらは理由としてはおまけのようなものだ。

 人造人(ホムンクルス)の製造には一定以上の時間が掛かるようで、逐次戦力が追加されるといってもそれほど脅威ではない。少なくとも、現状においては焼石に水を掛けた程度の効果しかないように見える。

 

 なので、重要なのはもう一つの理由だ。

 

 人造人(ホムンクルス)は天使によってもたらされた技術から製造された存在――その特殊な出自故に、〈魔王〉を介して与える迷宮核(ダンジョン・コア)の〈洗礼〉と〈祝福〉の内、〈祝福〉による魔素を用いた身体改造を一切受け付けないのだ。

 そして人造人(ホムンクルス)は、学士による定期的な検査と調整を行わなければ、生命活動を維持出来ないという。

 

 総じて――エルノインを含め、人造人(ホムンクルス)を自陣営に迎えて運用する場合、学士の存在が必要不可欠となる訳だ。

 

 故に学士を捕虜とするよう命じた。

 決していかがわしいことが目的ではないし、陰惨な思惑がある訳でもない。断じて違う。

 

「―――と、まあ。私は兎も角としても。カトゥーラ嬢を始め、食屍鬼(グール)達の多くは、そう思ってはくれないようでありますが」

「問題はそこだな……」

 

 (うめ)き交じりに相槌を打つ。

 

 迷宮管理室(テーブルトーク・ルーム)では、〈匣庭〉内の状況をつぶさに把握することが出来る。流石に思考までは読み取れないが、原住民(NPC)の言動は全て筒抜けだった。

 言葉にこそしないが、魔物――延いては〈魔王〉への不信感や猜疑心がありありと見て取れる。

 暴虐の限りを尽くすゴブリンの振る舞いも問題だが、あれだけ大口を叩いた〈魔王〉が迷宮に引っ込んだまま戦いに参加していないのも大きくマイナスに見られているようだ。

 

 無理もない反応だと思う。

 もしも俺が彼女達と同じ立場だったなら、同じことを考えただろう。

 

 ……言い訳をして(つくろ)うことは容易だ。

 だが、それでは魔王の威厳(ロールプレイ)に支障をきたす。

 

「随分と頭を悩ませているようですね、我が管理人様(マイ・マスター)。ですがこればかりはどうしようもないであります。〈魔王〉が迷宮の玉座から動けないという情報は、ロールプレイ的にも戦略上の都合においても、口外すべきではありませんから。今はこの戦いに勝つことだけを考えるべきです。切り替えていきましょう」

「……そうだな。お前の言う通りだ」

 

 BBの助言を受けて、深みに(はま)り掛けていた思考の沼からどうにか足を引き抜く。

 反省や改善点の洗い出しは必要だが、今考えることではない。まずは勝つこと。この戦いに負ければ、実質詰みなのだから。

 

 それにこの戦いで〈魔王〉に全く出番がないのかといえば、そうとも限らない。折角の最強の駒なのだ、勿論戦闘に参加できるよう手は打ってある。

 とはいえ、それもエルノイン次第だが。

 ……エルノインを引き入れた際には、他者からの命令に対してあまりに従順過ぎる態度から、再び人間に命令されればそちらに(なび)くのではないかと疑ったものだ。

 だが〈洗礼〉を施したこと、そして今も〈魔王〉に従って間者の役を果たしていることから、そうなる可能性は低いと判断した。

 恐らくだが、主人が健在であればどのような命令であろうと従うが、主人が倒されれば命令権が空白となり、誰の言うことも聞く状態になるのだろう。

 つまり〈魔王〉が(たお)されない限りは、エルノインが裏切る心配はない訳だ。

 

 ―――その上で。

 

 彼女には()()()()を授けている。

 

 ()()()()が上手く機能すれば、迷宮の最奥から出られない〈魔王〉もこの戦いに介入できる。故に――全ては、エルノインの知力と判断力に懸かっていた。

 ……こちらの指示を伝えられる魔物を用意しておけば一番簡単に事は済んだだろうが、今言っても仕方がない。

 魔素(リソース)は限られている。

 この反省は次の戦いに活かそうと心に決め、思考を切り替える。……次回があればの話だが。

 

 という訳で、改めて状況を整理しよう。

 

 戦況はこちらが優勢である。

 騎士連中はほぼ総崩れ。雹嵐、内応、侵攻と悪化していく状況について行けず、完全にパニックを起こしている。指揮官が揃って無能である点もこちらに追い風として働いていた。

 ともすれば、単純な戦闘力で劣るものの、混乱しない分、人造人(ホムンクルス)の方が厄介なくらいだ。

 そしてその人造人(ホムンクルス)も、今となっては数で圧倒できる。現状、脅威にはなり得ない。

 

 後は天使だが――そちらも今のところは大丈夫だ。

 

 最下級の天使はもはや障害にならない。魔物と食屍鬼(グール)で問題なく各個撃破可能だ。

 ゲヴランツによって新たに召喚された五体の中級天使――〈ぷりあぷす〉。アレ等は通常の兵では敵わないだろうが、五ツ星(★★★★★)等級(ランク)の戦闘力を有する山ノ狼翁(シャイフル・ディウブ)が三体も受け持ってくれている。

 天使は三体とも異常にしぶとく打倒には至っていないが、友軍に被害が出ることはないだろう。

 

 そして残る二体の〈ぷりあぷす〉は、モニカとアーズィヴァに挑んでいる。

 盤上に少しだけ意識を傾ければ、嵐の中で奮闘するモニカとアーズィヴァの姿が頭の中に浮かぶ。一騎の竜騎士は、二体の天使の突撃を悠々と躱し、擦れ違いざまに爪や戦輪でカウンターを食らわせいた。

 天使の姿は如何にも満身創痍。

 倒せてこそいないが、負ける様子もない。嵐の勢いにも特に影響はなさそうだ。

 

「ゲヴランツが召喚したあの五体の天使、やけに頑丈だな。〈ぷりあぷす〉――確か、性愛を司る天使の名前だったか」

「だからあのように御立派な姿をしているのでありますね。異常にタフなのも納得です。いやはや、凄まじい絶倫振り。羨ましい限りであります」

 

「…………」

 

 BBの言い方があまりに酷いのはこの際無視するとして、あの天使が耐久力に特化した能力値なのは間違いない。

 攻撃性能が低い反面、継戦能力が非常に高い。

 甚大なダメージを負っている筈だが、一切堪えた様子もなく。性懲りもなく突撃を繰り返している。

 (コア)の破壊にまで至っていないとはいえ、あの尋常ではない耐久力は脅威だ。流石は四ツ星(★★★★)等級(ランク)の固有名持ち天使といったところか。

 

 しかし、()()()()()

 厄介ではあるが、盤面を覆すには到底足りない。誰の目から見てもそれは明らかだ。召喚したゲヴランツもそのことは承知の上だろう。

 ならば、あの天使の役割は間違いなく―――

 

「ところでマスター。あの〈ち○ぽゑる〉についてですが」

「〈ぷりあぷす〉だ。二度と間違えるな」

「失礼しました。―――で、あのチ○ポですが」

「だからそれはやめろと言っているだろういい加減にしろ!」

 

「うるさいでありますなぁさっきから! 一体ナニが問題だと言うのですか!? 言い方でありますか!? 面倒臭い性癖(こだわり)があるのですか! ですがチ○ポが駄目ならなんと呼べばいいんですか!? チ○コですか!? おち○ち○ですか!? それともおち○ぽ!? しょうがないマスターですね、リクエストがあればお応えしますよどうぞ仰ってくださいッ!」

 

「意味の分からない逆切れはやめろ! リクエストも何もあるか、〈ぷりあぷす〉という名前があるんだからそう呼べばいいだろう! 男性器の俗称を連呼するんじゃないッ! 頼むから少しは恥じらいを持てッ!」

 

 今に始まったことではないが、全く以って品性を疑う。倫理がないにしても、いくらなんでも下劣過ぎだ。

 

「今は下らないことで言い争っている場合ではないだろう。お互いに命が懸かっているんだ。もう少し真面目にやってくれ」

「仕方がないですね。やれやれであります」

 

 言って、BBは大袈裟に肩を竦める。

 苛立たしいことこの上ないが、どうにか堪えた。

 

「さて、改めましてあの天使――五体の〈ぷりあぷす〉ですが。マスターはお気付きでしょうか。アレが、一体どのような意図で召喚されたものなのか」

 

 挑発的に微笑して、試すような目を向けるBB。

 

 俺は頭の中を整理しながら答える。

 

「……時間稼ぎ、だろうな」

 

 領主は固有名持ちの強力な天使を召喚することが出来るらしいが、アレがそうだとはとても思えない。

 それに召喚した〈ぷりあぷす〉五体を各個分散させず、こちら側の最高戦力である五ツ星(★★★★★)等級(ランク)邪悪竜(ジャバウォック)アーズィヴァや山ノ狼翁(シャイフル・ディウブ)に差し向けている点。そしてゲヴランツのあの妙に余裕に満ちた態度からして、彼にはこの盤面をひっくり返せるような、何らかの奥の手が他にあると考えるべきだろう。

 

 俺の解答を聞いたBBは、満足気に頷いた。

 

「おそらくはご推察の通りでしょう。詳しいことは〈倫理のない世界〉でも調査中なのですが――〈匣庭〉に住む人間の極一部は、天使から〈賜具(シグ)〉と呼ばれる特別な武具と、ソレから召喚される〈賜徒(シト)〉――いわゆる守護天使を使役する能力を与えられるのだとか。そしてソレ等はいずれも世界をも破壊し得る絶大な力を持つと聞き及んでいます」

 

 世界をも――と言われると随分大仰に感じるが、侮りは命取りだろう。

 それでもエルノインに授けた()()()()が上手く機能し、〈魔王〉を戦闘に参加させることさえ出来れば、何の問題もなく方が付く。

 

 ……問題。

 

 今、問題があるとすれば―――

 

「初耳だな……ゲヴランツがそれを持っているか不確定だから、今まで黙っていたのか?」

 

 目を細め、言葉にありありと不審感を(にじ)ませて問い質す。

 どんな些細な変化も見逃さないつもりで()め付けていたが、しかしBBは平素と一切変わらない様子で応答した。

 

「だいたいそんな感じであります。ですがこの状況や〈太陽のない世界〉における彼の地位と権力、そして食屍鬼(グール)等との因縁を見るに、〈賜具〉の所有を確実視するべきだと判断致しました」

 

「…………ふむ」

 

 自分は迷宮案内人(ダンジョンキーパー)として、そして遊戯進行役(ゲームキーパー)としての仕事を全うしているだけであり、黙っていたこと自体に他意はない――と。

 信用は……出来ると思う。

 BBは常に悪ふざけしているが、これまでの刑務(ゲーム)に向き合う姿勢は真摯なものだった。

 

 重要な情報を黙っていたことは気に障るが……ここは流しておくしかないか。

 

 頭を切り替える。

 今は〈賜具〉と〈賜徒〉とやらについて知ることが先決だ。

 

「……これまでに〈倫理のない世界〉が確認した〈賜具〉や〈賜徒〉のデータを見ることは出来るか?」

「もちろん可能であります。しかし〈賜具〉や〈賜徒〉は持ち主の性質を色濃く反映したものらしく、同じ系統のものが確認された例はありません。ゲヴランツ攻略にはあまり役に立たないかと思われますが」

「それでも見ておきたい。どういうものなのか、単純に興味もあるからな」

「フフ、マスターも男の子ですね。それではこちらが資料になります」

 

 どうぞ、と分厚い本を手渡される。

 資料を広げ、ページに視線を走らせつつ。意識は〈太陽のない世界〉の第005号砦に向け、敵と味方の動向の把握に努めた。

 

 カトゥーラが城の外に出た。

 コナももう間も無く城に着くだろう。

 エルノインは城の高塔から戦場全体を俯瞰(ふかん)している。()()()()の使い所を考え、機会を待っていると思しい。

 

 他方―――

 

 敵の副将であるネヴァルは城の屋上で、残存する騎士と人造人(ホムンクルス)の一部を纏め上げ、部隊を再編。

喇叭(ラッパ)〉と天使の電撃で、上空で戦う二体の〈ぷりあぷす〉を援護している。

 

 そして―――

 

 湯浴みを終えたゲヴランツが、今まさに戦支度を整えていた。

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