ダンジョンマスターの刑を執行します。   作:瑞雨ねるね

55 / 55
第五十五話 欠点

 第005号砦陥落(かんらく)の報せを受けて、〈円卓〉は酷く騒めいた。

 特に沸騰(ふっとう)した薬缶(やかん)の如く荒れたのは、赤い騎士だ。

 

「―――――クソがッッッ!!」

 

 怒りに任せて拳を円卓に叩き付ける。頑丈な天板が砕け、大きな亀裂が走った。

 

 あどけない童顔ながら端整な顔立ちを、文字通りに真っ赤な赫怒(かくど)で染め上げた青年。

 外見の年齢は十代の後半から二十歳といった頃合い。

 そして実際の年齢も同じ程度。

 若さを維持しながら数百年の時を生きている者の珍しくない〈円卓〉において、間違いなく最年少の騎士。

 しかし彼こそは〈聖都〉の守護という大役を任された、騎士の中の騎士に他ならない。

 

 三人の聖騎士(パラディン)のひとり――赤騎士ショカゴラ。

 

 防刃繊維で編まれた仕立ての良いフード付きの僧衣は他の〈円卓〉の面々や一般の兵士と同じだが、その上に装備した赤金鋼の軽鎧と首に掛けた赤の司祭帯(ストラ)は、彼の地位を端的に表したもので間違いない。

 血のように赤い髪に赤い瞳。

 市井では『悪魔の子』などと誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)され蔑まれる容貌を、その名の通り陰惨(いんさん)に醜く、険しく歪めている。

 

「ゲヴランツの糞馬鹿野郎、散ッ々ッ余裕かましておいて殺(や)られやがった! 苦労して捕まえた山ノ狼翁(シャイフル・ディウブ)にも逃げられた! これじゃ前の戦いで挙げた成果が全部お(・)じ(・)ゃ(・)ん(・)だ、犠牲になった連中が浮かばれねェよ、クソッタレ!」

 

 憤慨する赤い聖騎士(パラディン)。

 

 ショカゴラは心底から忌々し気に赤い眼差しを絞り、同じ〈円卓〉の席に着いた騎士達をきつく睨(ね)め付けた。

 

 十三人の騎士。

 

〈聖都〉を守護する三人の聖騎士(パラディン)と、十ある城塞都市の砦を治める領主から成る騎士団。

 この〈匣庭(はこにわ)〉――〈太陽のない世界〉を統治する者達だ。

 

 現在、その〈円卓〉の席に着いているのは十二人。

 

 ショカゴラの左隣と更にその隣には、彼と同じような装いの騎士が席に着いている。

 

〈太陽〉の産みの親であり、〈聖都〉の象徴でもある聖母――教皇(ハイプリエステス)、白騎士バーム・クルーヘルン。

 そして重厚な黒金鋼の鎧に身を包んだ青年。爽やかな雰囲気とは裏腹に、巌(いわお)の如き肉体を持つ男――黒騎士ツィトローネン・ヌラーデ。

 

 残りの者達は、胸の勲章と左腕の腕章以外は全く同じ装いだ。

 彼等はこの場に存在している訳ではない。映写機と音響機器を機体(ボディ)に備えた紺碧の天使――〈どみにおん〉が、それぞれの砦に居る領主達の姿を映し出した立体映像である。

 

 ―――〈円卓〉は一枚岩では無い。

 

 民主制に則(のっと)った多数決によって、組織の意向を合議する機構(システム)である。

 皆が納得した意見のみが採用される――と言えば聞こえはいいが、結局のところは少数の意見を黙殺し無理矢理に従わせる仕組みである。そして不思議なことに、どんな議題であっても大抵の場合、多数派と少数派の顔触れは同じだった。

 

 そして、いつも少数派の側に立たされるのがショカゴラだ。

 

 第005号砦襲撃の報せを聞いたショカゴラは、真っ先に応援に向かうべきだと提言した。

 しかし却下された。

 各砦の領主には自治権があるからだ。

 喩(たと)え敵の侵攻を受けたとしても、救援要請が出ていない状況で、勝手に〈聖都〉や他の砦の領主が兵を送ったりすれば、それは重大な侵害行為になる……という理屈である。

 

(糞野郎共が!)

 

 あまりに歯痒(はがゆ)く、忌々しい。

 結局、彼は第005号砦が蹂躙(じゅうりん)される様を、指を咥えて見ていることしか出来なかった。

 

 前例のない事態であるが故に、対応するマニュアルがないだの。

 仮に兵を送るとして、誰が向かうのか、装備や報酬は誰が用意するのか、兵が負傷したり死亡した場合は誰が責任を取るのか――など、などと。

 

 無駄に多種多様な言葉に言い換えているが――彼等がしているのは、詰まるところ金の話である。

 

 金が大事だというのは理解できる。

 彼等はそれぞれの都市を聖母から与えられ、代理人として治める為政者だ。ならば所有する土地と人民を第一に考え、もっと豊かにすべく常に考え行動するのは間違いではない。決して間違ってはいない。

 だが――それは、目の前の救える命を見捨てていい理由にはならない。

 

 そもそも―――

 

(闇ノ眷属(ナイトウォーカー)共を皆殺しにすればそれで済む話だ。とっとと連中をこの世界から駆逐(くちく)出来ていれば、こんなことにはならなかった!)

 

 固く拳を握り、歯を噛み締めるショカゴラ。

 

 約十年前――ゲヴランツと入れ替わりで聖騎士(パラディン)に任命されるという異例の出世を遂げた彼だったが。順調に事が運んだのはそこまでだった。

 

 闇ノ眷属(ナイトウォーカー)の絶滅こそが赤騎士ショカゴラの悲願。

 だがその為に軍を動かそうとすれば、必ず〈円卓〉で多数決の壁に邪魔される。ならば一人で暴れたいところだが、聖騎士(パラディン)の『仕組み』のせいでそれも叶わない。完全な手詰まり状態だった。

 

 ……一度だけ恥を忍んでゲヴランツに後見人を頼み、意見を通したこともあった。

 それが最近行われた、食屍鬼(グール)の掃討作戦である。

 しかし、その結果も芳(かんば)しくない。というより結果だけ見れば失敗である。

 山ノ狼翁(シャイフル・ディウブ)を捕らえることは出来たが、それだけだ。食屍鬼(グール)を滅ぼすには至らず、逃げられた。しかも作戦中に第001号砦と第007号砦の領主が殉死している。

 当然、その責任は全て、作戦立案者であり指揮官であったショカゴラにあった。

 

 ショカゴラには教養がなく、後ろ盾もない。

〈円卓〉において、そんな彼の意見に耳を貸してくれる者は酷く少なかった。そして先の作戦での失態から、発言力は更に低下している。

 そしてせっかく捕らえた山ノ狼翁(シャイフル・ディウブ)にも、第005号砦陥落によってまんまと逃げられた。

 

 恐らく……この場で、再びショカゴラは吊るし上げられる。

 先の掃討戦できちんと食屍鬼(グール)を滅ぼし切れていればこんなことにはならなかった――などという、ふざけた言い分で。ショカゴラの――延いては他の聖騎士(パラディン)の発言力を少しでも奪おうと躍起(やっき)になって攻めてくるに違いない。

 

 ……この中の何人かは、ショカゴラが山ノ狼翁(シャイフル・ディウブ)を『殺さなかった』のではなく、『殺(・)せ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)』のだと気付いていることだろう。

 

 それが公(おおやけ)に露呈すれば、力だけで伸し上がったショカゴラの求心力は失墜(しっつい)する。

 かと言って隠し切れたとしても、上記の弱みを握られていることに加え、『山ノ狼翁(シャイフル・ディウブ)を見世物にしてから〈聖都〉で処刑する』という先の作戦での判断のミスを咎められるのは確定していた。

 

(―――……糞ったれッ!)

 

 己の無力さを。

 だがそれ以上に――自分の保身と利益のことしか考えていない他の者達の悪辣な愚昧(ぐまい)さを、心底からショカゴラは呪った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【12/12 1巻発売!】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない(作者:不破ふわる)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

かませ役♂に憑依転生した男が、TSするために頑張る話です▼カクヨム様でも掲載しています。▼※1/15 書籍化決定しました!!!


総合評価:27046/評価:9.46/連載:576話/更新日時:2026年10月30日(金) 21:00 小説情報

【書籍化】最強以外ありえない(作者:てんぞー)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 ―――遺産は最初にSランクマスターに至った俺の血を引く孫のものとする。▼ 馬鹿みたいな遺言を残してかつて最強の座に君臨した事のある男は死んだ。ダンジョンが存在し、それに抵抗する為にモンスターを使役するモンスターマスターが存在する世界で、それがかつて遊んでいたゲームの世界に酷似すると知ってもなお特別何かをする気もなかった鴉羽尊は祖父の遺言を皮切りに強制的に巻…


総合評価:39339/評価:9.26/連載:367話/更新日時:2026年10月30日(金) 12:15 小説情報

カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ!(作者:烏丸英)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

一ノ瀬進弥、十五歳。どこにでもいるような男子高校生に見える彼は、実は別の世界からやってきた転生者だ。▼大好きだったが家庭の事情でなかなか遊べなかったカードゲーム『エヴォルレジェンズ』が大流行している世界に転生したシンヤは、前世での未練を晴らす勢いでカードゲームに没頭していく。▼しかし、彼は気付いていなかった。これが普通のカードゲームが大流行している世界ではな…


総合評価:2294/評価:8.15/連載:36話/更新日時:2026年10月29日(木) 12:01 小説情報

異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた(作者:暁刀魚)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

どんな人生を送っていても、異世界でチート美少女になればやり直せると思っていた。▼でも実際にそうなった時、ミツキは自分の生き方を変えようとして挫折した。▼そして逃げるように冒険者となった時、気づいてしまったのである。▼力も容姿も手に入ってしまったから、これ以上を望む必要がない、と。▼今の彼女に残っているのは、いかにノンストレスに生きるかということだけ。▼これは…


総合評価:19406/評価:8.8/連載:55話/更新日時:2026年10月12日(月) 18:05 小説情報

ライフは1だけあればいい(作者:暁真)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼ 須藤景虎は一般カードゲーマーである。いつどうして死んだのかはとんと分からぬが、気付けばホビーアニメのような世界に転生を果たしていた。▼ 転生先に見知ったカードゲームが台頭しているわけでもなく、かと言ってそれ以外の娯楽がないわけでもない。それでもカードゲーマーの性なのだろうか、彼はこの世界で出会った新たなカードゲームの沼に沈んだ。▼ これは一般的なカードゲ…


総合評価:2888/評価:8.29/連載:5話/更新日時:2026年10月30日(金) 07:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>