かつての地球というのは、今とは比べ物にならないからいの緑と青に溢れる美しい星だったという。
沢山の生物達が繁殖し、人類はその恩恵を味わい続け、発展してきたと言う。
今では信じられないほどの、自分達から見た理想郷は、ある日突然終わりを告げたそうだ。
「フゥ~……」
理想郷を終わらせた宇宙人、外なる宇宙からやってきた侵略者。
人類はそいつらを、安直に
その末端が、かつて地球の全てを終わらせかけたそいつらが、目の前にいた。
【◾️◾️◾️◾️】
「相変わらず、意味のわからねぇ鳴き声だ」
彼らの意味無き声に耳を傾ける必要はない。
大事なのは、こいつはこの授業における的であり、撃破する必要性があるってことだけ。
およそ4mを超える化け物じみたでかさを誇るそいつらを、当たり前のように踏みつぶされるはずのそいつらを、今の俺は
『一三四、ヒツギの戦闘訓練を開始しろ』
「了解しました」
HSS-ANGEL-05。
それがこいつの、俺が唯一操縦を許された、10mを超える巨人の型式番号。
飛行能力は無く、最低限動かせるだけの生体金属を用いられた訓練用のヒツギ。
こんなポンコツな性能のヒツギでも、奴らが来るより以前の人類が使ってたと言う兵器の殆どより強いと言うのだから驚きだ。
「今日の奴は動きはトロい、お前の機嫌が良ければ、簡単に倒せる。だから頼むよ、相棒。今日くらいは、成績優秀で終わらせてくれ」
返っても来ない言葉をヒツギに投げかけて、コックピットの中でレバーを握る。
こいつに自我などありもしないが、それでも俺はなんとなく、こいつに軽口とか、感謝だとか、あとは時々愚痴なんかを呟くのを習慣にしてる。
もしこいつが機嫌を悪くして、俺を乗せないようになってしまえば。
俺はその次の日にでも、ゴミのように捨てられてしまうだろうから。
「お互い、出来損ないの崖っぷちなんだ。仲良くなろうぜ」
唯一の武装である、穂先がドリルのように回転する槍を構え、そいつと睨み合う。
生徒の訓練用に捕獲されたインベーダーは、他の種に比べて幾分か小柄だ。
大抵の生徒はこの程度の奴に苦戦することは無いし、上手い奴はワンアクションで倒している。
だがまぁ、俺はと言えば。
「おいコラ。今日のお前、特に機嫌が悪いな!?」
それが出来ないから出来損ないと言われているわけだ。
俺が頭の中で描いだ動きより二秒ほど遅れて繰り出された刺突は、それが繰り出されるよりも一秒以上早く移動を済ませていた敵に躱された。
怠慢な動きから繰り出される体当たりにすら、俺の駆るヒツギは拙い回避行動を取ることしか出来なかった。
「せめて後一秒早く反応してくれねぇかな!」
本来であれば、ヒツギはパイロットの第二の人体のように、軽やかに動かせるらしい。
命令にタイムラグなど発生するはずも無く、パイロットの動きに合わせ縦横無尽に動き回り、人体以上に自由で柔らかい身体を駆使して暴れまわる、鉄より硬い生きた巨人。
だが俺にとって、こいつはそんなに優秀な兵器では無い。
毎度毎度起動にすら冷や汗を流し、頻繁に聞こえる錆びついた音からは寿命の気配を感じ取る。俺が生きてる理由はこいつを動かせるからで、こいつが生きてる理由は俺を乗せれるから。
お互いがきっとこう思っているだろう。
もう少しまともなのが欲しかった、と。
「終わったら、飯の時間使って磨いてやるぞ!」
人間を模した、二つのカラメアイが光る音。
こいつやっぱり、俺の言葉が分かっているんじゃないだろうか?
機嫌を取り戻したジャジャ馬は、先ほどの動きが嘘であったかのように、いまだタイムラグこそあるものの、コンマ五秒以内にまでそれを抑え込んでくれた。
「こいつの機嫌がいい内に、終わらせてやるよ」
ほんの少しだけ格好をつけて呟いてやる。
そして当然、言ったからには有言実行。
敵の攻撃を槍で受け止め、余った片手で敵の頭を掴み、思い切り頭突きを喰らわせる。
【◾️◾️◾️◾️!?】
「痛覚機能があるタイプだと、隙を晒しやすい!」
インベーダーにも色々と種類はある。
こいつはその中でも、哀れにも訓練用のために捕縛されてしまった、あんまり戦いとは縁が無いタイプのインベーダーだ。
目が緑の奴は非戦闘用員で、赤の奴らは戦闘用員。
毎回訓練の度に死にかけて、生き延びるために覚えた知恵。
「こいつで、終わりだ!」
痛みに悶えるそいつの急所、脳天を槍で突き刺しす。
目玉が不規則な光を放った後、せわしなく動いていたインベーダーの巨体が沈黙する。
「……悪いな」
バカみたいな言葉を吐いて、ゆっくりと息を吐く。
他の奴らに目を向ければ、優秀な奴はさっさと演習用のインベーダーを倒して、訓練を終了させていた。
あんだけ動き回れれば、動きのトロイこいつらを倒すなんてそりゃ簡単だろう。
それでも俺よりも手間取ってるやつらがいる分、ドベでは無いだけ今日はマシな方だ。
あいつらからすれば、俺みたいな奴が先に終わらせたと言う事実は、焦る要因にもなってしまいそうだが。
流石にそこまでは俺の知ったこっちゃない。
「ちょっと!もう少し歯ごたえある奴いないの?こんな雑魚ばっか相手にしててもつまらないんだけど!?」
そして相変わらず、あいつは簡単にそれを終わらせていた。
見た感じでは、多分ヒツギが手に持った大剣で一刀両断。
面倒な間合いの駆け引きだとか、インベーダーの弱点だとか、そんなもの一切関係の無い反応速度と力のごり押し。
「相変わらず、化け物みてぇに強いなぁ」
素行さえよければ、きっと今頃あいつだって、空を飛ぶことを許されていただろうに。
一級の奴らが乗ってる、こんなおんぼろたちとは大違いの、誰もが憧れる精鋭機に。
そう考えながら、ふとまだ戦っているヒツギ達の方を見た。
そこには、訓練用のインベーダーが相手にも関わらず、防戦一方のヒツギの姿があった。
どうにも様子がおかしい。
あの程度の相手ならば、時間はかかっても攻撃を受けることなんて殆どないはずなのに。
「……一七八?」
そのヒツギの動きに、見覚えがあった。
俺のような奴に好んで話しかけている変わり者の一人で、普段であれば簡単に試験を合格していたはずのそいつは、今回はどうにも手こずっているようだ。
珍しいこともあるものだと、ヒツギのメインカメラでその姿を捉える。
「あいつ、普段はあんなに動きが悪くないだろ。なんで、あんな──」
カメラ越しに、攻撃によって砕け、剥き出しになったコックピットの中に。
血をドクドクと流す彼女の姿と、赤く光るインベーダーの眼光を見て。
その時になってようやく、俺はそれが尋常ではない事態であると気が付き、通信機越しに叫んだ。
「先生!一七八番が相手をしている奴は、訓練用の個体じゃありません!戦闘用の奴が訓練に紛れてます!このままでは、一七八番が危険です!救援の許可を!」
『許可しない。一七八の戦闘訓練はまだ終了していない。校則により、第三者の戦闘訓練の介入は禁止されている。例え何らかの手違いがあったとしてもだ』
「あいつらの爪はコックピットの防壁を破壊するんですよ!?放って置いたらあいつの命が!」
『今回の個体に、生徒の死体を喰らう習性はない』
その言葉の意味を理解して、思わず息を止める。
『今回のケースであれば、死体の回収、再利用は容易い。校則に違反してまで助ける意義はない。そのまま待機しておくように』
ヒフミみたいに、大っぴらには言えないが。
この施設の、こういう損得勘定でしか動けない雰囲気。
本当に、吐き気がする程大嫌いだ。
「……校則違反の罰則、今回のケースだとどれくらいになります?」
『一三四番。バカなことはやめろ。ただでさえ低い成績をさらに落とすことになるぞ』
「生憎と、バカだからそんな成績なんですよ」
通信を切って、息を吸い込む。ロケットエンジンを点火し、跳躍と同時に機体を加速。
じゃじゃ馬かつ、おんぼろな俺のヒツギのトップスピードは、昨日見た空飛ぶヒツギ達の推進力には遠く及ばない。
されど、一七八を押し倒しトドメを刺そうとしていたインベーダーの顔面目掛けてキックを見舞うのには十分な速度だった。
「一三四……なんで……?」
「下がっとけ、一七八!」
叫ぶようにに言って、態勢を崩したインベーダーの腹に槍を突き刺す。
回転する穂先はギャリギャリと音を立てて敵の外殻を削る。
「こいつで──!?」
しかし、再び目を赤く光らせたインベーダーは、俺のヒツギの手を掴み、非戦闘用のインベーダーとはくらべものにならない力で投げ飛ばした。
槍は奴の腹に突き刺されたまま手元から離れ、俺のヒツギは地面に身体をぶつけて火花を散らす。
「まずっ……!?」
咄嗟にコックピットを腕で庇う。
予想通り、奴は俺のいるコックピット目掛けて爪を振り下ろし、腕の装甲で防がれながらも、奴はそのままガンガンと爪を振り下ろす。
装甲を少しずつねじ切り、奇怪な鳴き声を上げながらコックピットを執拗に狙う。
「くそ、やっぱり赤眼の奴らは頭がいいな!」
先ほどの一七八との戦闘で、ヒツギの弱点はコックピットの中に居るパイロットであると理解している。
緑眼のインベーダーとは、力も速さも賢さも、その全てが段違いだ。
「けど、舐めんなよ、くそったれ」
それでも、かっこつけてしまった以上は。
コックピットを庇っていた腕の一本を腹に突き刺した槍に伸ばし、そのまま思い切り押し込む。
異音を立てながら外殻を貫き、肉をまき散らすドリルに、インベーダーは更に怒り狂い。
やがて、俺のコックピットと、敵の心臓が同時に貫かれようとして。
ごしゃ、という重い音が鳴って、目の前に居たインベーダーの身体がひしゃげた。
「ちょっと。せっかく歯ごたえありそうだったのに、殺しかけてんじゃないわよ」
「……死にかけたんだから、少しくらい心配していいんだぜ?」
「自業自得。けど、なかなかかっこよかったわよ、ヒサシ」
にやりと笑って、俺のヒツギの手を取るヒフミのヒツギ。
俺を殺しかけたインベーダーを一撃で葬り去った彼女は、鼻歌を口ずさみながら、周囲を取り囲む先生たちに向けて、清々しいくらいの笑顔で中指を突き立てて。
「少なくとも、ビビッて突っ立ってただけのこいつらよりね!」
「あーあ、また罰則だな」
そうして、また俺達は落ちこぼれと、問題児の実績を重ねていった。
笑ってしまうくらい、せわしなくて、ろくでもない一日だ。