終末世界のバージンロード   作:雷神デス

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犯人

 息を潜めながら、俺達は三人の様子をつぶさに観察する。

 翼の無い、眼鏡と白衣が特徴的な長身の大人は、何冊かの本を見繕いながら、言葉に詰まっている二人の先生に向けて冷たい視線を送っていた。

 普段はそれを浴びせる側であるはずの二人は、まるで子供のように縮み上がっている。

 

 

「多分。あの天使って言うの、私たちのことよね」

 

「そう、なのか?」

 

「この部屋の本の中に、昔の神話に関する本があったの。その本の中に、翼の生えた人間みたいな存在。天使についてが書かれていた。私たちはどうやって生まれたか、自分達でもよく分かってないもの。作り出された、って部分も辻褄が合うわ」

 

 

 ヒフミは小声で説明しながら、三人の会話に耳を傾けている。

 二人の先生は、少し動揺する様子を見せながら、手に持っていた資料を差し出した。

 

 

「幾らか、かなりの数値を叩き出した生徒達がいます。ヒツギの操縦技術、適合率、共に今回の平均成績は前期の生徒達よりも高く、技能訓練も順調で──」

 

「兵士の数は足りてるのよ。ヒツギの数も。足りないのはただ一つ、旗印となる存在。救世主の後継者という、劣化コピーの天使たちなんかよりもずっと確実性があり、絶対的な権威を持つ存在が必要なの。そのためにこの施設を作り上げたのよ?」

 

「も、申し訳ありません!」

 

 

 平謝りしている二人を見ながら、彼女は呆れたように溜息を吐き。

 受け取った資料を眺め、苛立たし気に呟いた。

 

 

「上位十名を研究室に連れてきなさい。あまり期待はしていないけど、何もしないよりは上も納得するでしょう。それと、今期の生徒達の中で変わったところは?」

 

「……実は、生徒達の中で少々面倒な落ちこぼれが二人いまして」

 

「落ちこぼれ?さっさとスクラップにしてしまえばいいでしょう。天使から取れる素材は有り余って困るものじゃないし」

 

「いえ、それが。片方は成績ではなく態度で大幅な失点があるため、廃棄の判断が難しく。もう片方は、成績も態度も悪いのですが、どうにもヒツギとの適合率が奇妙なのです」

 

「奇妙?」

 

「はい。どうも、そいつが乗るヒツギとの適合率の変動が激しく。生徒達の中で最底辺を記録したこともあれば、一級クラスの生徒達にすら勝る時があり。何と言いますか、まるで、ヒツギが生きているかのような……」

 

「素行不良の問題児と、奇妙な適合率の問題児か。なかなか面白いじゃない。代わり映えの無いくだらない記録より、こういう変数に可能性を感じるわね。少なくとも、普通の方法じゃああんたたちみたいなポンコツを作るのが精いっぱいだし」

 

「……申し訳ありません」

 

「まあ、この部屋の整理は出来ている分、多少役には……いえ、待ちなさい。今の言葉、撤回しなきゃならないかもね」

 

 

 白衣の大人は、突然そんなことを言い出して、微かに空いた本棚の隙間を指さす。

 その様子を見て、ヒフミは「あ」という間抜けな声を上げた。

 

 

「私がここに置いたはずのウェディング雑誌。この棚から無くなっているのだけれど。誰か移動させた?それとも、まさか私の許可を得ず勝手に盗んだのかしら?」

 

「なっ、えっ!?い、いえ!我々はあなた様の本には指一本触れていません!きゅ、救世主様に誓って申し上げます!」

 

「なら、何故ここにあった本が無くなってるのよ。ここの管理をあなた達に任せていた以上、私の留守にこの部屋に入れるのはあなた達二人だけのはずだけど?」

 

「いえ、それは……!私達にも一切、覚えが……!?」

 

 

 しどろもどろになっている先生達。

 俺はなんとなく嫌な予感がして、隣に居るヒフミの方を見れば。

 彼女は顔を逸らしながら、目を泳がせていて。

 

 

「……なぁ、あれ、お前が盗んだ本じゃねぇか?」

 

「……そう、みたいね」

 

「いやどうすんだよ……?これ、絶対怪しまれるよな……!?」

 

「今考えてんのよ!私ばっか頼ってないで、あんたも考えなさい!」

 

「俺巻き込まれた側なんだが……!?」

 

「私の誘いに乗った時点であんたも同罪!」

 

 

 やがて、鋭い目つきで詰め寄られていた先生の一人が、思い出したように言う。

 

 

「たしかあなた、この前キーカードを失くして、スペアの申請をしてなかったっけ。もしかして、失くした方のキーカードを、生徒の誰かが拾ってこの部屋に侵入したんじゃ……!」

 

「い、いや、まさかそんな!」

 

「はぁ?失くした?それで、まさかまだ見つかってないの?呆れた、まさかここまでまともに仕事が出来ないだなんて。あなたを教師のポジションに引き上げるのは間違いだったみたいね。そのおかげで、私に実害が出た。この件、どう責任を取るつもりかしら?」

 

「お、お待ちくださいミス・フロイデ!たしかにキーカードを紛失してしまったのは事実ですが、あなたが探している本に関しては私が原因ではないと断言できます!この施設が出来て今まで、夜間に彼女らが部屋を出た事はありません!ただの一度もです!」

 

 

 焦りまくった先生が、まくし立てるように言う。

 ミス・フロイデと呼ばれた彼女は、その醜態を眺めながら、露骨な様子で溜息を吐いて。

 

 

「その確信こそが、あなた達が兵士になることすらできず、ここで燻ぶっている最大の要因ね。来期からは教官の役割を普通の人間に戻すことを視野に入れましょう。ま、いいわ。私とて、事実無根の罪で罰を与えたりはしない」

 

「そ、それでは……!?」

 

「それで?私の愛読書は何処にあるの?」

 

「……え?」

 

「だから。あなたの言う通り、あなたが原因で本が無くなったわけでないのなら。あなた達以外がこの部屋を訪れていないなら。この部屋のどこかに、私の目当ての本があるわけでしょう?」

 

「……そ、れは」

 

「見つけられたなら、今回の一件は軽い処分で済ませてあげましょう。私って優しいから。けど、もし見つからず、あなたが原因で本を失ってしまったとするなら……どうしましょうかしら?」

 

「ヒッ……!?」

 

「ほら、そこのあなたも、そんな風にぼんやりしてていいの?連帯責任よ?もし彼女が本を見つけられなかった場合、貴女も少なからず処分を受けるでしょうね」

 

「なっ!?ま、待ってください!私は何も……!」

 

「何もしていなかったから、あなたの相方がミスをしたわけじゃない。もしかして、聞いてなかった?ペアを組ませたのは、こういったトラブルが起きた時に、一人じゃ片付けられない責任をもう片方に背負わせるため。そうすれば、複数人が死ぬ物狂いで働いてくれるでしょ?」

 

 

 ミス・フロイデは、実に楽しそうな笑みをうかべ。

 底冷えするような声で宣告した。

 

 

「一時間、時間をあげる。それまでに探し出せ」

 

「「は、はい!!」

 

 

 どうやら、最悪の事態になってしまったようだ。

 

 

「このままじゃ、あいつらこの部屋の本全部ひっくり返してでもあの雑誌を探そうとするぞ!?おい、あの本何処にやったんだよヒフミ!」

 

「へ、部屋の中……。私たちの自室に隠して、置いてある……!」

 

「クッソ、自然に見つけ出させてどうこう、ってのも出来ないのか」

 

 

 そうこうしている間にも、二人は凄まじい勢いで本をどかし、目当ての本を探している。

 このままでは、俺達が隠れている場所にも迫り、二人纏めて見つかってしまうだろう。

 思わぬトラブルに真っ青になるヒフミを見て、俺は少しの間解決策を模索して。

 

 

「……ヒフミ。俺が何とかする。カード寄越せ」

 

「え?」

 

「あと、何があっても出てくるな。お前がここを出ていいのは、あの三人がここから居なくなってからだ。いいな?」

 

 

 返事を待たず、彼女からカードキーを奪い取り。

 本の山から離れ、わざと適当な一冊の本を棚から落とした。

 

 

「なんだ?今、音が……!」

 

 

 バサリ、という隠しきれない程の物音が鳴り響き、それに反応した二人が、今まさに本棚の裏に隠れようとしている(ように見せた)俺の姿を発見した。

 

 

「な、お前……!」

 

「一三四!貴様、何をしている!」

 

「ひっ!?ゆ、許してください!ほんの、出来心で……!」

 

 

 そうだ、出てくるな、ヒフミ。

 どうせ二人纏めてバレるなら、一人で済む方が得だろ?

 

 

「なっ……!?お前、そのカードキー……!」

 

「まさか、お前が盗んで……!?」

 

「ヒュー!ほんとに居たのね、犯人」

 

 

 驚く二人の背後から、楽し気に口笛拭いて、ミス・フロイデが近づいてくる。

 自分達の失態が原因で本が失われた、その事実が確定した瞬間からみるみるうちに顔が青くなる二人とは対照的に、彼女は嬉しそうに俺の頬を軽く撫でて。

 

 

「さて。ここではなんだし、場所を変えてお話しましょうか、カワイ子ちゃん。あなたは、いったいどんな子なのかしら?」

 

 

 最悪な状況の中、唯一救いがあるとすれば。

 ヒフミが、最後まで約束を守ってくれたことだろう。




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