転生者が多すぎる~虐められ引きこもりの俺はゲームの悪役に転生する! 真面目な努力(人脈)こそが真のチートでした!   作:kuroe113

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第9話 マナー講義

 ヴィルヘルムからのとてつもなく重く、そして苦しい刑罰である、おやつ抜きの一週間があっという間に過ぎ去った。

 

 

 

「おはよう」

 

「え! ああ、おはようございます」

 

 朝、鍛錬から帰った時に、メイドとほんの短いながらも挨拶を交わした。

 あまりにも短いやり取り。しかし、ここまで来るのに長く厳しい時間かかった。

 

 

 

「やり遂げた、俺はやり遂げたぞぉ」

 

 シャルティと2人っきりの部屋の中。

 俺は天井に向かって大きく腕を振り上げ、歓喜のガッツポーズをとった。

 

 

 

「やりとげたって……。

 ただ挨拶を交わしただけじゃない」

 

 

 こいつ、分かってねぇなぁ。

 

 

「メイドと普通に挨拶できたんだぞ。挨拶しただけで、一体何事かと三度見されることも、そそくさと逃げられることもない。

 ただ嫌な顔されるだけで済んだんだ」

 

 

 

「それ、言ってて悲しくならないの」

 

「なる」

 

 今、俺のやる気は大いに下がった。

 

 

 

 

「でもさ、長年の試行錯誤と鍛錬の末の成果だぞ。少しくらい喜んだっておいいだろ」

 

 本当に、ここまで来るまで長かったのだ。

 

 

 

「いいか、メイドとか使用人と仲良くなるためのコツをおまえに伝授してやるよ。

 まずは清潔感に気を付ける。

 俺は無害ですよアピールのために怒った顔や不機嫌そうな顔はなるべく表に出さない。

 そんな風にして、少しずつ勤勉な姿を周囲に見せることで信頼を勝ち取ったんだ」

 

「え! 本気でそう思ってるの」

 

 

 シャルティがその小さく可愛らしい口を半開きにした。

 まるで、何言ってるんだこいつとでも言いたげだな。

 

「何を言ってるのよ、あなた。

 メイドににっこりと笑いかければ、何か悪だくみをしているに違いないと泣きだされ。

 勉強をやっているときに、これは何かの病に違いないと医者が呼ばれ。

 数々の大騒動の結果、ただ単に周囲が疲れ切っただけじゃないの?」

 

 どうやら、俺の洞察力は正解だったらしい。

 何を言ってるのよ、あなたって本当に言ってきた。

 というかさ、

 

 

 

「何で、ここで俺の黒歴史報告会を開くわけ」

 

 

 情けとか容赦とか、そういったものはないんですかい。

 

 

 

 

「全く、周囲がただ単に無視しただけの癖して、あきらめたあげくに、それをさも自分の成果だと口にするのは一体どういうつもりなのかしら」

 

 

 シャルティは淡々と、おまえは何も成果を出していないと指摘してくる。

 少し、カチンときた。

 

 

 

「だったらさ、おまえに同じことができるのか」

 

 知ってるんだぞ。

 シャーリーとかの魔術の指南役とは打ち解けて話しているけど、メイドとかとはどう接すればいいのか分からず、毎回あたふたしてるのを。

 

 

「できるし、そんなの簡単だし」

 

 

 シャルティはそう断言する。

 ほんとかな~。

 まぁ、いい。

 

 

「ならやってみろよ」

 

 もしできなかったら、盛大に笑ってやる。

 

 

 

 俺たちは廊下のかどでじっと息をひそめる。

 やがて、ひたひたと足音が響いてくる。

 さぁ、実戦の始まりだ。

 俺はそっとシャルティの背中を押した。

 

 

「ああ、本日はお日柄もよく」

 

 

 そしてメイドを見たとたん、そんな訳の分からないことを言い放ったので、すぐに戻ってこいとハンドサインを送るのだった。

 

 

 

「お日柄もよくってなんだ。結婚式かよ」

 

「仕方ないじゃない、つながりが薄いメンツとは基本的に丁寧に接していれば問題は起こらないんだから」

 

「それでも、限度ってものがあるわ」

 

 

 というかお前、ついに自分は努力してませんって認めたな。

 

 

 

 

「いいか、俺たちがこれから生き残るためには、一つでもいいから死亡フラグを消すことが大事なんだ。

 この家の住人の好感度を上げようっていうのはおまえから提案したことだろ」

 

 あのけったいな名前の作戦名を口にした時のことはまだ昨日のことのように思いだせる。

 

 

「分かってるわと、そんなことくらい」

 

「だったら、メイドとか執事とかとも仲良くしろよ、これは絶対だからな、絶対だぞ!」

 

 

 俺は、何度も何度も念押しした。

 

 

 

「分かってるわよ、私はあんたと比べると嫌われているレベルも、絆レベルの不足も大きな問題にはならないから、楽勝よ」

 

 

 それに、シャルティも素直に応じた。

 これで大丈夫そうだ。

 

 

 

「とにかくだ、挨拶ついでに一言二言話しかける程度はしとけ」

 

「分かったわよ、あざ~す!」

 

 

 

 確かに、挨拶と、そのついでに一言添えてるな。

 でも、おまえ。俺がいったい何を言いたいのか絶対に分かってないだろ。

 

 

 

 あまりにも雑な挨拶に、先が思いやられる。

 

 

 

 

 そして、その日の午後。

 事件が起きた。

 

 

 

「どうしてこんなに簡単なことができないのよ!」

 

 

 シャルティの甲高い声が響く。

 今俺たちは行儀作法の練習ということで、マナー講師と正しい作法でお茶を楽しんでいた。

 

 そんな中、一緒に話を聞いていた新人執事のミスを指摘し、それでも治らなかったことに、シャルティが腹を立てたのである。

 

 

 

 ふざけんなよおまえ。

 その怒りに呼応でもするかのように、俺の怒りも増大する。

 ただし、その対象はシャルティに対してだった。

 

 

 ニッコリ笑顔で、メイドと講師に笑いかけ、少しお花を摘みにという名目でシャルティを外に引っ張り出す。

 

 

 足を進め、部屋の中に声が届かないと確信できる場所にまでくると、

 

「お前、さっきメイドと仲良くするようにって話したよな」

 

 ダメ出しをした。

 

 

「いや、その……あれは愛のムチというか。

 相手の得にもなることで、私だけが一方的に悪いってわけじゃなくない。

 それに私あいつ嫌いなのよ。なんか視線が気持ち悪いし」

 

「い・い・か・ら!」

 

 俺の剣幕に押される形で、シャルティはしぶしぶ納得した。

 

 

 

「さ、さっきはいいすぎたわ」

 

 部屋に戻ると、シャルティは気恥ずかしさからプルプルと震えながら、お詫びの言葉を口にした。

 

 偉い!

 

 

 

 すると、どうしたことだろうか。

 マナー講師が俺の方をキッと睨んできた。

 何で?

 

 

 

「構いません」

 

 見習い執事の声からは一切揺らぎを感じられない。

 本当に気にしていないのだろう。

 その上で、

 

 

 

「少し話したいことがあるのですが、いいですか」

 

 マナー講師が提案してきた。

 

 

 

 そのせいで、シャルティは戻って来た道をまた往復することになった。

 気になる。

 少し追ってみるか?

 

 

 

「もう大丈夫です」

 

「はっ?」

 

 そして、安全な場所までくるとこれである。

 

 

 

「大丈夫ですって、いったいおどういうこと?」

 

「クロウ様に脅されているのでしょう。

 妹の屈辱にゆがむ顔が見たいという理由で」

 

 

 なんか、勘違いされてる!

 

 

 

 

 転生パワーのおかげで、五感が強化されているからか、見えない位置からでも話しはわかる。

 

 しかし、同じような能力を持っているシャルティにも俺が今何をやっているかがわかるわけで。

 

 

 

 授業が終わると、優しく肩をポンと叩いてきた。

 そして、

 

 

 

「好感度アップには失敗したみたいね」

 

 うっせえわ!

 

 

 

「せめて笑えよ、逆に傷つくから」

 

 もう、いっそのこと、すっぱりと介錯してくれないかな。

 そっちの方がまだ割り切れる。

 

 

 

 というかさ、この差は何なんだ!

 クロードというキャラの初期好感度がマイナスなのは知ってるけど、ここまで理不尽な差が生まれるのは納得いかねぇ!

 

 

 

 

「そんなことよりも、ほら」

 

 シャルティはどうしてか俺の手を引っ張った。

 いったいどこに連れて行こうというんだ?

 

 

 

「あの……。これは一体どういうことだ?」

 

「どこって、決まってるじゃない。マナー講師に勘違いさせてごめんなさいって謝るのよ!」

 

 いや、でも……。あれって俺悪くないよね。

 

 

「俺何にも悪くないのに、何でそうなるんだよ。

 

 納得いかねぇ。

 

 

 

 

「そっちが言ったことじゃない」

 

「いったい何の話だよ?」

 

 

 

「生き残るためには、ここにいる使用人からの好感度が必要だって話よ」

 

 

 煮え切らない態度を取り続ける俺に、シャルティはついに業を煮やした。

 

 

 

「まさかとは思うけど、私に無理やり頭を下げさせておいて、あんたはそれをやらないわけ」

 

 

 

 どうしよう、正論だ。

 

 

 

「いや、その……あれは愛のムチというか。

 俺だけが悪いわけでもないのに、こっちが一方的に謝るのは違くない」

 

「そういった私を、あんたは無理やり謝らせたわよね。言い訳にも耳を貸さず」

 

「それは、そうですが……」

 

 

 でも、今回の一件は講師が勝手に勘違いしただけだし。

 

 

 

「ほら」

 

「えっと……」

 

「ほら!」

 

 渋る俺へ、シャルティの顔がだんだんと迫ってくる。

 

「……あの、靴でも何でも舐めますんで、今回ばかりは見逃してもらえませんか」

 

 最終的に、俺はへりくだることしかできなかった。

 

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