絶対にヒロインの闇堕ちを防ぎたい転生者vs絶対に責任を取るつもりなヒロインたち   作:プロレタリアート

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情報交換会

 転生した瞬間から寄生生物が精神に宿っていたことを知り、気が動転していた俺であったが、なんとかその寄生生物もといもう一人の僕とは和解し、互いに共生して生きることになった。

 

 そのおかげでようやく冷静な思考を取り戻せた俺は、ここが前世で読んでいた漫画の世界であることを改めて理解する。

 

 命の危機が目前に迫っていたことでまともな思考力を失っていた俺であったが、時間を置くことでこの世界について冷静に考察する余地が生まれたわけだ。

 

 ここでもう一度、この世界について改めて確認しておこう。

 

 この世界は俺が前世で読んでいた漫画、『パラサイト・マインド』の世界である。

 

 舞台は現代社会をモチーフにしたややSFチックな異能バトル系作品だ。

 人間の精神に寄生し、人間を乗っ取り活動する人類種の天敵とも言える精神・情報生命体である『悪夢(ナイトメア)』が存在する世界。

 

 彼らは自分たちがどのような存在であるのかを正しく認識されることで人間に寄生し、宿主である人間の感情を餌として成長する。宿主である人間の記憶や人格、五感を通して人間社会を学習し、人間と同じように成長を続けて知性を得る。

 

 そうして、完全に成長しきった『悪夢』は、宿主を乗っ取り、宿主に擬態して人間社会を生きる。そして、次の犠牲者を吟味するのだ。

 

 この世界の人間は、本来持ち得ていた潜在能力を引き出せていないが、『悪夢』は人間が持っている潜在能力を100%引き出すことができ、それにより既存の人類とは隔絶した個人としての力を得ることになる。

 

 その最たるものが『異能』と呼ばれる超能力。

 

『異能』は個人によって効果が異なるが、自然現象を操ったり、時に物理法則を無視した現象を引き起こしたり、精神に介入して幻覚を見せたりなどその効果は多種多様だ。

 

 そして、そんな『異能』に目覚めた悪夢は人間社会の秩序を乱す存在となる。

 

 単純な話、人格を書き換え、既存の人類に成り代わり自らの種を増やそうとする生物は、人間にとっては受け入れがたい。加えて、個人として大きすぎる力を得ているとなれば猶更だ。

 

 また、繁殖目的ではなくただの娯楽目的で人間を甚振る趣味を持った者も現れることがある。

 

 このことから、如何に『悪夢』が人間にとって天敵と呼べる存在か理解できるだろう。

 

『悪夢』に完全に乗っ取られた人間は『魔人』と呼ばれ、彼らを排除するのが『ガーディアン』と呼ばれる組織の仕事だ。

 

「基本的に僕たち『悪夢』は、人間に対して情を抱くことはない。人間を殺してもなんとも思わないし、種を植え付けるのに良心が痛むなんてこともない。だって、寄生対象に情を抱くなんて生物として失格だろう?」

 

 目の前にいるもう一人の僕。名前がないのは不便なので便宜上『アナザー』と呼ぶことにする。

 

「安直だね」

 

 ごめんちゃい。

 

 もう一人の僕の呼び方を勝手に決めた俺は、彼の話で気になったことを聞く。

 

「人間に情が湧かないって、もしかしてお前も俺に対して何の感情も抱いてないのか?」

 

「ない。……と言いたいところだけど、ないわけではないよ。いや、本来なら何も感じなくなる所だったんだろうけど、君は転生者だろう?」

 

 ちょっと待ってね。色々と聞きたいことはあるけど、まず一つ。

『と言いたいところだけど』って発言は無視できませんよ? 何、もしかして今の状況が不本意だったってことですか? 

 

「……語弊があった。僕は極めて例外だってことを言いたかったんだ」

 

 どうやら、言葉選びを間違えただけらしい。

 それを聞いて一先ず俺は安心して、アナザーの話の続きを聴く。

 

「僕たちが人間に情を抱かないのは、生物としてそのように設計されているというのもそうだけど、基本的に人間よりも優れた種族だからだと思うんだ」

 

「優れた種族?」

 

「うん。僕たちは人間に対して圧倒的に有利な立場にいる。それは理解できるでしょ?」

 

「……まあ、そうだな」

 

 悪夢や魔人に対抗するために結成された秘密組織『ガーディアン』で研究されている技術を除けば、人類が悪夢に対して勝てる術は持ち合わせていない。

 基本的に寄生されてしまった人間は否応なしに体を乗っ取られ、人格を上書きされ事実上の死に至る。魔人は寄生元の人間が元来持ち合わせていた『異能』を発現させることで個人としての武力も普通の人間とは比較にならないほどに大きい。

 

「つまり、その辺の虫と同じなんだよ。生物として決して僕らに抗うことができない弱い生き物。そんなものに情を抱く要素なんてどこにもないんだ」

 

 まあ、これは僕の個人的な考察であって事実とは異なるかもしれないんだけど。

 

 と、アナザーは補足した。

 

「なるほどね。で、それがどうやってお前が例外であることに繋がるわけ?」

 

「この基本的な情報を頭に入れた上で、君に問おう。君は今まで何の感慨も持ち合わせていなかったその辺の虫や植物が自分を殺せる存在だとなった時、どう思う?」

 

 物によっては普通に人間を殺せる虫や植物もあるけどね。

 

「論点がズレてるよ」

 

 アナザーに窘められたので俺は普通に思ったことを口にする。

 

「そりゃ、"怖い"んじゃね?」

 

 まあ普通に考えて怖いだろう。目の前の虫や植物が自分の命を奪える存在だと知った時、対象に近づこうとは思わなくなる。だって怖いから。

 

 俺がそういうと、目の前にいるアナザーは首を縦に振った。

 

「そういうことだよ。"恐怖"。それが、僕が君に抱いた感情だったわけだ。君が持ち合わせていた知識は、下手をするとこの世界の存在全てに対する否定だ。そんなの、僕にとっては恐ろしくて堪らなくなった。そして、得体のしれない存在である君に対しても恐怖を覚えたんだ」

 

 ほうほう。

 

「種族として人間に対して情を抱かず、下等なものとして考える僕が、人間である君に恐怖する。それは事実上の敗北宣言と言ってもいい。そこから、僕の思考回路にはエラーが発生したんだ。『悪夢』が修得する知性も理性も、元を辿れば寄生先の人間由来の物だから、人間を同等として認識した僕は人間の価値観を学習し、共感することができた」

 

 そして、人間を理解することができるようになったアナザーは、正真正銘人間として俺の中で共生する道を選ぶようになったのだという。

 

 この世界が創作物である恐怖とか、俺はそんなことあんまり想像したことなかったけど、どうやら目の前の人外は随分と思考力があるらしい。人間よりも考えてるんじゃない?

 

「……それは君がお気楽……。いや、君が異なる世界を知っているから言えることだよ」

 

「そんなに深く考えることかね。マルチバースの一種だと思えばいいじゃん。この世界が創作物として書かれた世界と、実際に存在していた世界があった。どれが偽物とか本物とかそういう区別はないんだよ。現に、今俺はこの世界を生きているわけだし」

 

「随分と都合の良い解釈をするんだね」

 

「そうか? ビックバンが起こって宇宙が誕生して、地球が水の惑星になってそこに生命が誕生して、人間が誕生した確率を考えれば十分起こり得る確率じゃね?」

 

 俺がそう言うと、目の前のもう一人の僕が呆れたように肩を竦めていた。なんか自分と同じ容姿をした奴に呆れられるとムカつくな。

 

「それを言い出したら何でもアリじゃないか。どれほど低い確率なんだか」

 

「……ふっ。リアリティがないって?」

 

「まあ、常識的に考えればそうだろう?」

 

「分かってねぇな。人間が考え付くことっていうのはどれも実現可能なことだって、偉大なSF作家も言ってただろ? 現実を舐めちゃいけない。どれほど自分の常識とかけ離れていることでも、歴史を紐解けば意外と普通だったりするんだぜ?」

 

「……はぁ。まさか僕が、寄生先の人間に諭されることになるなんてね」

 

 なんか目の前の俺と同じ顔をした奴が疲れているようなので、ちょっとアドバイスを送ることにする。

 

「ま、あんま深く考えすぎんなよ。バカになるのも悪くないさ」

 

 俺がそう言うと、アナザーは余計に呆れたような顔をして眉間を揉んでいた。精神生命体の癖に随分と人間らしい仕草をするんだな。

 

「それはそれでどうなんだい。……まあ、約束しよう。僕は君と共に生き、君の意思を尊重して共生することを。まあ、双子の兄弟とでも思ってくれればいいさ」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「さて、随分と話がズレてしまったわけだけど」

 

 俺とアナザーによる宇宙論の話が一区切りした所で、俺たちは本題へと戻ろうとしていた。

 しかし、俺は一体何の話をしていたのかを忘れていた。なんで多元宇宙論の話になってたんだっけ……。

 

「この世界の概論をおさらいしている最中に、僕たち『悪夢』の生態についての話になったんだよ。そして、『悪夢』は人間に対して情を持たないということを僕が君に説明した所で、僕も君に対して情が湧かないのかという質問をしたのがきっかけだ」

 

 ああそうだった。

 

 アナザーが俺の記憶を読み取って、なんじゃこりゃって俺に恐怖を覚えたことで『悪夢』としての生き方を変えることになったんだったか。

 

「……僕からすると、君の存在は本当に意味不明だったよ。例えるのなら、目の前にゴ〇ラがいたみたいな……」

 

 そりゃ相当だな。

 

「本当だよ。あの時の僕の錯乱ぶりは酷かった。最初に出会った時の君くらい酷かった」

 

 そんなになんだ……。

 

 でも俺からしたら全く実感がない。だって、俺なんもしてないもん。強いて言えば転生したくらいで、そこに俺自身の意思は何も介在してないもん。

 

「はぁ。まあいいよ、話を続けよう」

 

「続けようつったって、何を続けるんだよ」

 

「それは……。そんなの僕が知るわけないだろう? そもそも、君は何を目的にこの世界の概要を整理し始めたんだい?」

 

 一心同体なんだったらそのくらい読み取れよ。

 

「無茶言わないでくれよ!?」

 

 えーっと、そうだな……。

 そう、原作について考えてたんだ。

 

 この世界が本当に俺の知る世界だった場合、漫画で読んでいた展開が起こる可能性がある。俺が前世で読んでいた『パラサイト・マインド』という物語は、中々暗い展開が多い話だったのだ。

 

 主人公が所属することになるのは『ガーディアン』の中でも魔人対策のために武力鎮圧を行う鎮圧部隊、通称『夢祓い』だ。

 

 夢祓いは異能を覚醒させた魔人を武力で制圧・排除することが目的の『ガーディアン』の一部門のことである。

 

 そんな政府公認の秘密組織に加入することになる主人公を取り巻く環境や襲い掛かる試練を描いた作品なのだが、もれなく展開が鬱なのだ。

 

 まあテーマがテーマだから物語が陰鬱になるのはしょうがないのかもしれないが、正ヒロイン以外のヒロインたちがもれなく闇堕ちするのだ。

 

『ガーディアン』の面々がどのようにして魔人の脅威に対抗しているのか。それは、魔人、延いては悪夢の性質を研究し、人工的に生み出し無害化させた『悪夢』のようなものを体に植え付けることで、意図的に潜在能力を引き出すというもの。

 

 しかしこれには重大な欠点があり、『悪夢』そのものではないにしろ、それに類似した情報体であることは間違いない。そのため、適合者だろうと精神的に追い詰められることがあれば、人格に異常をきたしてしまう可能性があるのだ。

 

 そして、やがて思考回路が人間のそれとは隔絶した者になり、『脱落者(ロスト)』という魔人と近しい存在になってしまう。

 

「つまり、君はその闇堕ちしてしまうヒロインたちをどうにかしたいと考えているわけだね?」

 

「そういうこと。彼女たちが脱落者(ロスト)になると、『悪夢』の存在を公衆の面前で大々的に公表することになる。ネットを含めた情報操作は『ガーディアン』の方で行えるが、現地の人間たちに植え付けられることになる"種"は取り返しがつかない。だから、都市一つを物理的に消滅させることになる」

 

「効果的かついやらしい一手だ。『悪夢』ですらない彼女たちでなければ成しえない一手だね」

 

「あー……。やっぱり『悪夢』はこういう手段は用いないんだ」

 

「うん。僕たちの最終的な目標は"増えること"だから。人間に自爆されたらこっちも困るし。『原作』でも言及されていたでしょ? かつて、『悪夢』による被害拡大を抑えるためにアメリカで都市一つを滅ぼした逸話がさ」

 

 まだインターネットが発達していなかった時代。

 かつて、兎に角数を増やそうとした一人の魔人がいた。魔人となった彼は政治家となり、自分のルーツを大々的に発表した。それにより、指数関数的に数を増やしてやろうという目論見だったのだ。

 

 しかし、その結果としてその政治家が活動していた都市を一つ丸ごと消滅させるという手段でもって無理やり解決させたのだ。

 

 この逸話は、魔人たちのコミュニティでも今に至るまで共有されてきたらしい。それだけショッキングな事件だったのだ。

 

「都市一つを地図上から消失させ、そこに住まう人々すら犠牲にするなんて結末はあまりにもだろ? それが合理的かつ最も効果的なのは分かるんだがな」

 

「実際、『原作』でもかなり衝撃的に描かれていたね」

 

「ああ。それに、あんなかわいい子たちが絶望して闇堕ちするのが分かってて何も介入しないなんて人としてどうかと思うしな」

 

 既に俺たちのような因子がいるのだから、バタフライエフェクトは確実だろう。だから、俺はこの世界では隙に生きると決めた。

 

「……まあ、一番の理由は原作において消される都市が、今俺が絶賛育っているこの街だってことなんだけどな」

 

 何とかしないと今世の家族が死ぬという、とんでもない重しを添えて。

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