厄災少女のアカデミア   作:のんびり者

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投稿者は頭が悪いのでタグの通りAIの手を借りています。それでも読んでくれるのならば最大限の感謝を。


目覚め

 

 リリィの目には、いつも世界が白くぼやけていた。

 

 四歳の誕生日。アルビノの肌は光を弾き、銀色の髪は床に落ちる血でべっとりと濡れていた。

 

 父親の靴底が細い腹にめり込み、母親は煙草をくゆらせながら笑う。

 

「死なない程度にね。死んだら役立にたたないもの」

 

 痛みを超えた瞬間、頭の奥で熱いものが爆発し。

 

 世界が一瞬、白く染まる。

 

 ──個性が、目覚めた。

 

 雨の音が部屋に満ち、黒いシルエットが現れる。

 

 白いコート、深く被った帽子、顔のない人型。無数の災いの紋様が渦巻く。

 

 それがリリィの個性──ワンダー・オブ・Uだった。

 

 彼がリリィを蹴り飛ばそうと足を上げた瞬間、床板が腐ったように崩れ落ち、足が床下の熱湯配管に突き刺さった。

 

 天井の照明器具が外れ、父親の頭に直撃。ガラスが砕け、火花が散った。

 

 母親が立ち上がろうとした瞬間、テーブルのナイフが意志を持ったように跳ね、喉を深々と切り裂いた。血が天井まで噴き上がった。

 

 父親はまだ這いながらリリィに近づこうとした。その明確な害意──「このガキを殺してやる」──それがトリガーとなり。

 

 世界が、父親を殺した。

 

 窓ガラスが一斉に割れ、破片が竜巻のように父親を包み込んだ。切れた電線が火花を散らし、床に落ちた灯油に引火。炎が部屋を瞬時に埋め尽くした。

 

 悲鳴はすぐに途切れ、ただ焦げつく肉の臭いが広がった。

 

 炎の中でワンダーはリリィを優しく抱き上げ、大きな手で銀色の髪を撫でた。

 

『……リリィ。もう大丈夫だ。これからは私が、お前の親代わりだだ』

 

 四歳のリリィは、初めて「守られる」という温かさを知った。

 

 ────それから二年。

 

 リリィは六歳になった。銀色の髪は腰まで伸び、赤い瞳は年齢以上に澄んでいた。

 

 彼女は天才だった。独学で高等数学を学び、最高難度の大学入試問題を全て解き、語学も五か国語をマスターしていた。

 

 しかし心の奥底には、まだ「母親に捨てられる」という恐怖が根強く残っていた。

 

 ワンダーは決断した。

 

『この子は、ただ守られるだけではいけない』

 

 夜の闇の中、ワンダーはリリィを抱きかかえ、個性の「透過」能力を発動させた。

 

 壁も警備も空間もすり抜け、雄英高校校長室へ直接現れる。

 

 根津校長は紅茶のカップを静かに置き、驚きもせずに迎えた。

 

「……随分と直接的な訪問ですね。ワンダー・オブ・U、そしてリリィちゃん」

 

 ワンダーは低く、雨のような声で告げた。

 

『この子を、雄英に預けたい。教育を、保護を、頼む。彼女の個性は強力すぎる。暴発すれば周囲を巻き込む。それを制御する方法を、貴校で学ばせたい』

 

 根津は頷いた。

 

「特別措置を取りましょう。監視役兼保護者役として、ミッドナイト先生を付けます」

 

 数日後、職員寮の一室。

 

 ミッドナイトが明るく笑って手を差し伸べた瞬間、リリィは床に正座し、両手を床について頭を深々と下げた。

 

「……お母様。どうか、リリィをお使いください。掃除も、洗濯も、なんでもいたします。お怒りにならないよう、静かに、目立たないように……どうか、捨てないでください……」

 

 ミッドナイトの表情が凍りついた。

 

 彼女はゆっくり膝をつき、リリィの肩にそっと手を置いた。

 

「違うの、リリィちゃん。私はあなたの『お母様』じゃない。私は……あなたの味方よ。ここでは、誰もあなたを傷つけたり、捨てたりしない」

 

 リリィの赤い瞳に、初めての戸惑いと、ほんの小さな光が灯った。

 

 それから、雄英高校での生活が始まった。

 

 朝はミッドナイトの部屋で目覚める。

 

 リリィはまだ習慣で布団を畳み、床を拭き、朝食の準備をしようとする。

 

 ミッドナイトは毎朝、それを優しく止めて抱きしめた。

 

「今日はリリィちゃんが食べたいものを一緒に作ろうか? 私は甘いものが好きだけど、あなたは?」

 

 リリィは最初、怯えたように体を縮めていたが、

 

 ワンダーが静かに傍らに立っているのを見て、少しずつ頷くようになった。

 

 ワンダーは夜になるとリリィのベッドの横に立ち、彼女が悪夢にうなされるたび、大きな手で額を撫でた。

 

 災いの化身でありながら、その手は驚くほど優しかった。

 

 個性把握訓練は、地下の特別訓練場で週に三回行われた。

 

 担当はミッドナイトと、個性分析の専門家であるイレイザー・ヘッドだった。

 

 ワンダーは常にリリィのすぐ後ろに控え、訓練に立ち会うことを許されていた。

 

 最初の訓練。

 

「リリィちゃん、今日は『害意』を意図的に感じてみようか」

 

 相澤が静かに指示を出す。ミッドナイトがリリィの前に立ち、わざと厳しい声で言った。

 

「リリィ、今日は宿題を全部忘れたわね。罰として……掃除を全部一人でやりなさい」

 

 その瞬間、リリィの胸に幼い頃の恐怖が蘇った。

 

「お母様に怒られる」という明確な「害意のイメージ」。

 

 すると──

 

 空気が重くなる。

 

 訓練場の床に小さな亀裂が走り、天井の照明がカチカチと不規則に点滅し始めた。

 

 ワンダーのシルエットがわずかに揺らぎ、無数の災いの紋様が淡く浮かび上がる。

 

「リリィ、落ち着いて」

 

 ミッドナイトが慌てて抱き寄せたが、遅かった。床のタイルが突然剥がれ、相澤の足元に飛んだ。換気扇が異音を立てて回転し始め、埃が竜巻のように舞った。

 

 ワンダーは低く呟いた。

 

『……害意を感知した。リリィを守るために、世界が『災い』を呼び寄せようとしている』

 

 リリィは震えながら必死に息を整えた。

 

「わ、わたし……誰も傷つけたくない……」

 

 彼女がそう念じると、災いの兆候は徐々に収まった。

 

 しかし完全に消えることはなく、ワンダーのコートの裾が微かに震え続けていた。

 

 二回目、三回目……訓練は繰り返された。

 

「今度は、害意を『感じない』ように意識するんだ」

 

 相澤の声は冷静だった。

 

 ミッドナイトが今度は優しく微笑みながら、

 

 わざと「テストで満点を取ったわね。すごい!」と褒めた。

 

 リリィが素直に喜ぶと、ワンダーは静止したまま動かなかった。

 

 災いは一切起きなかった。

 

 だが、訓練の最中にリリィがふと過去の記憶をフラッシュバックさせた瞬間、ワンダーの影が一瞬だけ伸び、訓練場の壁に小さなひびが入った。

 

「リリィの無意識の恐怖」すら、個性は「害意」として感知してしまう──それがこの個性の恐ろしさだった。

 

 ワンダーは訓練の合間に、リリィの耳元で囁いた。

 

『恐れるな。お前が『守られるべき存在』である限り、私はお前を守る。だが……お前自身が『災いを呼びたくない』と強く願うなら、私はその願いに従う。それが、私を制御するということだ』

 

 ────

 

 夜の職員寮では、三人の奇妙で温かい生活が続いていた。

 

 ミッドナイトはリリィを自分のベッドに寝かせ、隣で絵本を読んで聞かせた。

 

 リリィは最初「読むのは私がやります」と言い張ったが、ミッドナイトが「今日は私が読みたいの」と言って頭を撫でると、素直に耳を傾けるようになった。

 

 ワンダーは部屋の隅に立ち、二人が眠りにつくまで静かに見守った。

 

 時折、ミッドナイトがワンダーに声をかける。

 

「ねえ、ワンダー。あなたも……少し休んだら?」

 

 ワンダーは静かに首を振った。

 

『私は休まない。リリィが眠っている間こそ、私が最も警戒する時間だ』

 

 ある夜、リリィが悪夢を見て泣き出した。

 

「ママ……捨てないで……」

 

 ミッドナイトが慌てて抱きしめ、背中をさする。

 

 ワンダーが近づき、大きな手でリリィの涙を拭った。

 

『泣くな、リリィ。お前はもう、一人じゃない。ここにいるのは、味方だけだ』

 

 リリィは震える声で呟いた。

 

「……ワンダー。ミッドナイト先生……私、頑張る。個性をちゃんとコントロールして……みんなを、災いに巻き込まないように……」

 

 ミッドナイトは涙を堪えながら微笑んだ。

 

「そうよ、リリィちゃん。あなたはもう、誰かの道具じゃない。あなたは……私たちの大切な家族よ」

 

 こうして、六歳のアルビノの少女は、災いの守護者と、甘く優しいヒーローのもとで、少しずつ「自分の個性」と「自分の人生」を取り戻し始めた。

 

 そして異例の措置として、リリィ・ワンダー・オブ・Uは、雄英高校ヒーロー科1年A組の特別生徒として、正式にクラスメートたちの前に立つことになる。

 

 まだ誰も知らない。

 

 この小さな少女と、彼女の「親」たちが、これから1-Aに、静かなる「災い」と「救い」をもたらすことを。

 

 ────

 

 個性把握訓練を終えてから数日後。

 

 ホームルームの時間。

 

 相澤先生が寝袋から上半身だけ出して、だるそうに言った。

 

「今日は特別な紹介がある。入ってこい」

 

 教室の扉が静かに開いた。

 

 黒いシルエットがまず現れ、白いコートを翻して入室する。そしてその腕の中に、銀色の長い髪を揺らすアルビノの少女が抱かれていた。

 

 教室が一瞬、水を打ったように静まり返った。

 

「え……子供……?」

 

「めっちゃ小さい……!」

 

「かわいい……! 人形みたい!」

 

 女子生徒たちがほぼ同時に声を上げた。

 

 麗日お茶子は目をキラキラさせて身を乗り出し、蛙吹梅雨は「ケロケロかわいいわね」と指を頰に当て、八百万百は「この年齢で雄英に……?」と驚きながらも優しい笑みを浮かべた。

 

 緑谷出久はノートを落としそうになりながら興奮し、轟焦凍は無表情のままじっと見つめ、障子目蔵は六本の腕を軽く動かして静かに警戒した。

 

 爆豪勝己は舌打ちし、足を組んでそっぽを向いた。

 

「はぁ? ガキの面倒見るために雄英入ったわけじゃねえぞ」

 

 相澤先生がため息をついた。

 

「リリィ・ワンダー本日から正式に1年A組の特別生徒として所属する。年齢は六歳だが、知能は大学レベル。個性は極めて強力かつ危険。彼女の個性体であるワンダー・オブ・Uも、保護者兼監視役として常時同行を許可する」

 

 ワンダーがゆっくりリリィを床に下ろし、低く落ち着いた声で言った。

 

『私はワンダー・オブ・U。リリィの親代わりであり、守護者だ。彼女に害意を向ける者は……災いに見舞われることになる』

 

 リリィはワンダーのコートの裾をぎゅっと握ったまま、一歩前に出ると深々と頭を下げた。

 

「……リリィ・ワンダーです。六歳です。みなさんに迷惑をかけないように、個性をちゃんとコントロールできるよう頑張ります。どうぞ……よろしくお願いします」

 

 声は小さかったが、はっきりしていた。

 

 女子たちはさらに「かわいい……!」と騒ぎ、

 

 切島鋭児郎が「よし、俺たちもちゃんと守るぜ!」と声をかけると、リリィは頰を少し赤らめて小さく頷いた。

 

 自己紹介が終わった直後、教室の扉が勢いよく開いた。

 

「若人たちよ! 元気かー!」

 

 オールマイトが笑顔で入室してきた。

 

 ────

 

「今日は早速、対人訓練だ! 基礎的なヒーロー対ヴィランの模擬戦を行うぞ! ビル型訓練場を使っての攻防戦だ!」

 

 しかし生徒は二十一人。奇数だった。

 

 オールマイトが困った顔をしていると、ワンダーが静かに前に出た。

 

『我々は一人でいい。リリィは単独で戦う』

 

「いいのかい!?」

 

『あぁ、むしろ一人の方が戦いやすい』

 

 くじ引きの結果──

 

 ヴィラン側:リリィ&ワンダー

 

 ヒーロー側:轟焦凍&障子目蔵ペア

 

 訓練場内、最上階のヴィラン拠点。

 

 リリィは小さな体で一人立っていた。ワンダーは彼女のすぐ後ろに静かに控え、災いの紋様をわずかに浮かべている。

 

 轟焦凍は最初から本気だった。右半身を大きく引き、大量の氷を建物全体に広げようとした瞬間──

 

 足元が腐食したように崩れ、床タイルが剥がれた。

 

 天井から埃と小石が落ち、目に突き刺さる。

 

 強い風が吹き、バランスを完全に崩した。

 

 轟は氷を出す間もなく天井から落ちてきた瓦礫に当たり、ノックダウンされた。

 

 障子目蔵は六本の腕を駆使して単独で侵入した。

 

 しかし目に砂が入り、足元が濡れて滑り、壁に激突。

 

 換気口から異常な量の埃が噴き出し、視界を奪う。

 

「ぐッ!」

 

 小さな「不運」が執拗に積み重なる。

 

 そして最上階で、障子はワンダーと真正面から対峙した。

 

 ワンダーは動かなかった。

 

 ただそこに立つだけで、周囲の空気が重くなり、小さな災いが障子を苛んだ。

 

 複製腕を伸ばして攻撃を仕掛けようとした瞬間、天井のパネルが外れ頭に直撃。

 

 床がわずかに傾き、足を滑らせた。

 

「……強い……!」

 

 障子は最後まで奮闘したが、ワンダーの「災いを操る」能力の前に敗北した。

 

 訓練終了のブザーが鳴った。

 

 リリィが一人でヴィラン側として勝利した瞬間、クラスメートたちから大きな歓声が上がった。

 

「す、すごい……! リリィちゃん一人で勝っちゃったよ!」

 

「轟くんと障子くんを倒すなんて……!」

 

 お茶子が駆け寄って抱きつこうとすると、リリィはびっくりしながらも、

 

 小さな胸の前で両手を握り、嬉しそうに頰を赤らめた。

 

「……えへへ……

 

 リリィ、頑張った……」

 

 ワンダーが静かにリリィの頭に手を置き、低く優しい声で言った。

 

『よくやった、リリィ。お前はもう、誰かの道具ではない。お前は、自分の力で勝ったんだ』

 

 リリィは銀色の髪を揺らして何度も頷き、初めてクラスメートたちの前で、心から嬉しそうな笑顔を見せた。

 

 




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