ふとした拍子にネタが振ってくるから不定期になってすまぬ
「次の種目は」
大型スクリーンにトーナメント表が映し出され、1年A組の生徒たちの対戦カードが次々と発表される。
リリィは控え室のベンチに座り、銀色の髪を指でいじりながら小さく息を飲んでいた。
ワンダーが静かに後ろに立ち、大きな手で彼女の肩に触れる。
『緊張しているな、リリィ』
「……うん。私、一対一なんて……初めてだからどうしよう」
その時、梅雨が近づいてきて優しく頭を撫でた。
「大丈夫よ、リリィ。あなたはもう、ちゃんと感情をコントロールできるようになってきてるもの」
やがて自分の対戦カードが発表された。
1回戦 リリィ vs 上鳴電気
控え室で上鳴が「マジかよ! リリィちゃんか……」と頭を抱えているのが見えたが、リリィは真剣な顔で立ち上がった。
「私……頑張る」
トーナメント1回戦
「第1試合! リリィ・ワンダー vs 上鳴電気!」
アナウンスが響き渡り、二人がリングに上がった。
上鳴は少し困った顔をしながらも、指をパチパチ鳴らして笑った。
「悪いな、リリィちゃん相手だけど本気でいくぞ!」
開始の合図と同時に、上鳴が個性を発動。
高圧電流を帯びた攻撃をリリィに向かって放つ。
その瞬間──
ワンダーが即座に反応した。その明確な「害意」に対し小さな災いが始まる。
上鳴の足元が突然滑り、派手に転倒。
「ぐわっ!? おい、ちょっと待てよ……!」
転倒したことにより放電は不発となり、上鳴は必死に立ち上がろうとするが、災いの連鎖に翻弄され、まともに攻撃できなくなっていく。
リリィはリングの端で小さく両手を握り、目を閉じて集中していた。
(暴走しない……みんなを傷つけすぎない……ただ、勝ちたいだけ……!)
彼女がそう念じ続けると、災いは必要最低限の「不運」として留まった。
最終的に上鳴がバランスを崩してリングアウト。リリィの勝利が確定した。スタジアムがどよめいた。
「6歳の少女が……電気個性の彼を倒した!?」
「しかもほとんど動いてない……!」
リリィはリングの上でほっと息を吐き、ワンダーに抱きついた。
「……私、ちゃんと、勝てたよ」
ワンダーが優しく頭を撫でた。
『よくやった、リリィ。お前は自分の意思で災いを抑えた』
控え室に戻ると、クラスメートたちが駆け寄ってきた。
「お疲れ、リリィちゃん!」
「すっごい動きだったよ!」
梅雨が特に嬉しそうに抱きしめてくれた。
リリィは照れながらも、素直に微笑んだ。
「……ありがとう、みんな」
────
トーナメントは順調に進行し、リリィは準決勝まで勝ち進んだ。
「準決勝! リリィ・ワンダー vs 爆豪勝己!」
準決勝のリングに、リリィと爆豪勝己が対峙した。
爆豪はリングに上がるなり、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「ガキの分際でここまで来やがって、覚悟はできてんのか!?」
リリィはワンダーに抱えられたまま、静かにリング中央に降り立った。
「……私、負けないよ。爆豪くん」
開始の合図が鳴った瞬間、爆豪が爆煙を巻き上げて突進してきた。
「死ねェェェ!!」
右腕から放たれる爆破の連射。リングの地面が抉れ、衝撃波がリリィを襲う。ワンダーは即座に地面に潜航し浮上する。
爆豪の爆破はことごとく空を切り、代わりに小さな災いが彼を苛み始めた。
足元が突然崩れてバランスを崩す。
自分の爆風が跳ね返り、腕や顔を焼く。
視界に埃と砂が吹き込み、目を刺激する。
「チッ、うぜえなこの災い……! だがよォ! そんな小細工で俺を止められると思ってんのかよ!!」
爆豪は一切怯まず、ますます激しく爆破を連発しながら肉薄してきた。
左腕の爆破で加速し、右腕で強烈な連撃を浴びせる。その攻撃は容赦がなく、リング全体が爆炎と衝撃波に包まれた。
リリィはワンダーにしっかりと抱えられながら、必死に回避を続けていた。銀色の髪が激しく揺れ、小さな体が爆風の余波で何度も揺さぶられる。
(怖い……でも、負けたくない……!)
千日手のような激しい攻防が続き。爆豪の攻撃はますます苛烈になり、リリィの災いも徐々に強さを増していく。
「クソ!! ならこれでどうだ!!!」
爆豪が大きく跳躍し、上空高く舞い上がった。
両手を前方に突き出し、全身の爆破を極限まで集中させる。
「これで終わりだァァァ!! ハウザーインパクト!!!」
回転しながら落下する巨大な爆炎の渦。
リング全体を飲み込むほどの破壊力がリリィに向かって迫った。
ワンダーが即座に反応し、地面をすり抜けて地下空間へと潜航した。
しかし──ハウザーインパクトの破壊力は想像を遥かに超えていた。
地面が大きく抉れ、衝撃波が地下にまで達しリリィの左腕に激しい火傷が広がった。
「…………っ!!」
リリィの小さな口から、初めて苦痛の声が漏れた。
左腕が焼けるような痛みに、視界が一瞬白くなる。それでも彼女は歯を食いしばり、ワンダーに抱えられながらもリングに浮上した。
左腕を押さえ、息を荒げながらも、爆豪の正面に正面から向き合う。
「……まだ……終わってない」
爆豪は着地し、荒い息を吐きながらも笑った。
「よく耐えたじゃねえか……! だがここで終わりだ!」
その瞬間、リリィの赤い瞳が強く輝いた。
ワンダーのシルエットが大きく膨らみ、無数の災いの紋様が激しく渦を巻く。
『ワンダー・オブ・U』
ワンダーの低い一言と共に、空気が重く歪んだ。
空が暗くなり、リング上空に小規模ながら本物の隕石が出現した。
爆豪は目を見開く。
「隕ッ!? 逃げ…………」
だがプライドが彼を逃がさなかった。
「……はっ! そんなもんで俺を倒せると思ってんのかよ! 俺は……俺は最強だァァァ!!」
彼は再び爆破を極限まで高め、回転しながら隕石に向かって突進した。
2度目のハウザーインパクト。轟音が隕石を爆炎の中で砕く。
しかしその反動と蓄積されたダメージで、爆豪の体は完全に限界を超えていた。隕石を破壊しきった瞬間──
爆豪勝己はそのまま力尽き空中で気絶してしまった。
「危ない!」
リリィは咄嗟に爆豪を助けに行くが。
『リリィ、潰れてしまう。私が行く』
ワンダーは落ちてくる爆豪を優しくし受け止め地面に下ろす。
「……勝者、リリィ・ワンダー!!」
審判の宣言が響き渡った。
スタジアムは一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。
リリィは左腕を押さえ、ふらつきながらも小さく息を吐いた。
ワンダーがすぐに抱きかかえ、優しく頭を撫でる。
『……よくやった、リリィ。お前は自分の意志で勝ち取った』
リリィは痛みに顔を歪めながらも、控えめな笑みを浮かべた。
「……爆豪くん、強かった……でも、私……勝てたよ」
ーーーー
準決勝で爆豪を下したリリィは、決勝のリングに立っていた。
対戦相手は轟焦凍。
リングに上がった轟は、無表情ながらもどこか迷いを帯びた目でリリィを見つめていた。
緑谷との激闘を経て、彼の心は大きく揺れていた。「自分の力だけで勝つべきか」「父親の炎を使うべきか」──その葛藤が、彼の戦意を鈍らせていた。
開始の合図と同時に、轟は右半身を大きく振りかぶった。
「氷の……!」
巨大な氷の壁が一瞬でリングの半分を埋め尽くし、リリィに向かって雪崩のように迫ってくる。
特大規模の氷結攻撃だった。しかしワンダーは即座に反応し地面をすり抜け、地下空間へと潜航。
氷の波がリングを直撃する直前、リリィを抱えたまま轟の背後に静かに浮上した。
轟が振り返った瞬間、小さな災いが彼を襲った。足元がわずかに崩れ、視界に細かな氷の欠片が舞い、集中を乱す。
しかし爆豪戦で見せたような大規模な厄災は起きなかった。轟の心が「本気で戦う」ことを拒んでいるため、災いの反応も抑えられていた。
リリィは轟の表情をじっと見つめ、胸の奥で何かを察した。
(轟くん……迷ってる……何に迷ってるかは分からないけど)
リリィはワンダーにそっと耳打ちした。
「ワンダー……もう少し、轟くんの近くに」
ワンダーは低く頷き、潜航しながら轟の死角に接近。
轟が次の攻撃を放とうとした瞬間、リリィはワンダーの腕から飛び降り、小さな体で轟に飛びついた。
「……っ!?」
轟が凍りついたその時、リリィは両腕で彼を抱きしめ、震える声で囁いた。
「迷っているなら……後悔しないで」
温かい小さな体温と、純粋な言葉。轟の瞳が大きく揺れた。彼は数秒間、リリィを抱きしめ返したまま動けなかった。やがて、静かに息を吐き、リングの外に向かって右手を挙げた。
「……降参だ」
審判が驚いた声で宣言した。
「勝者……リリィ・ワンダー!!
雄英体育祭、優勝は1年A組・リリィ・ワンダー!!」
スタジアムが割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
リリィはリングの中央で、オールマイトから金色の優勝メダルを受け取った。オールマイトは屈んでリリィの頭を優しく撫でながら、笑顔で言った。
「若いヒーローよ……君は今日、立派に戦った。これからも、その力を信じて進むんだぞ!」
「……はい」
リリィはメダルを両手でぎゅっと握り、銀色の髪を風に揺らしながら小さく微笑んだ。
ーーーー夜 リリィの部屋
興奮冷めやらぬ夜。リリィはミッドナイトの膝の上に座り、体育祭の思い出を嬉しそうに語っていた。
「爆豪くん、すっごく強かった……でも、最後まで戦えて楽しかった。轟くんは……迷ってるみたいだったから、抱きしめてみたの。そしたら、降参してくれて……」
話すうちに、リリィの瞼が重くなっていった。ミッドナイトは優しく背中をさすりながら、銀色の髪を梳いてやる。
「よく頑張ったね、リリィ。今日はもう、おやすみなさい」
リリィはミッドナイトの胸に顔を埋め、深い眠りについた。その寝顔を優しく見つめていたミッドナイトは、部屋の隅に立つワンダーに静かに尋ねた。
「……ねえ、ワンダー。爆豪くんとの戦いで見せた隕石……あれ以上はあるの?」
ワンダーは静かに帽子を傾け、低く落ち着いた声で答えた。
『リリィの可能性は無限大だ。毒となるか、薬となるかは……周りの環境次第だ』
ミッドナイトはリリィの寝顔をもう一度見つめ、そっと微笑んだ。
「そう……なら、私たちがちゃんと見守らないとね」
職員寮の窓から差し込む月明かりの中、六歳の小さな優勝者と、彼女を守る災いの化身は、静かに次の朝を迎えようとしていた。
読んでくださりありがとう