厄災少女のアカデミア   作:のんびり者

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 駄文失礼


ヒーローネーム

 体育祭から数日が経ったある朝。

 

 リリィは自室で自分の勉強机に置かれた黄金のメダルを、じっと見つめていた。

 

 朝の陽光を受けて輝くメダルは、まだ少し現実味がなかった。銀色の長い髪を指でそっと撫でながら、リリィは小さな声で呟いた。

 

「……本当に、私が優勝したんだ」

 

 メダルの表面に映る自分の顔は、まだ幼い。六歳の少女が、雄英体育祭で優勝したという事実は、今もって信じがたい出来事だった。

 

 そこへ、甘い香りと共にミッドナイトが自室に入ってきた。

 

「リリィ~、校長室に呼ばれてるわよ。根津校長と相澤先生が待ってるって」

 

「校長室……?」

 

 リリィはメダルを大事そうに机の中にしまい、ワンダーに手を引かれて立ち上がった。

 

 ワンダーは無言でリリィの肩に手を置き、静かに付き添う。

 

 校長室に着くと、根津校長と相澤先生が待っていた。根津はいつものように小さな椅子に座り、にこやかに迎えた。

 

「リリィちゃん、来てくれてありがとう。まずは体育祭優勝、おめでとう。本当に素晴らしい戦いだったよ。君の頑張りを見て、僕はとても嬉しかった」

 

「ありがとうございます、根津校長先生」

 

 リリィが丁寧に頭を下げると、相澤先生が軽く咳払いをした。

 

「根津校長、雑談はそこまでにして本題に入りましょう」

 

「むぅ……相澤くんはいつもせっかちだねぇ。まぁいいか。それでは本題に入ろう」

 

 根津校長は紅茶を一口飲んでから、穏やかな表情のまま核心を突いた。

 

「体育祭は、単なる学校行事ではないんだ。プロヒーローや様々な事務所が、次世代の才能を見つけるための大切な舞台でもある。リリィちゃん、君は特別生徒でありながら、見事に優勝してしまった。その結果……君には、大きな選択が迫られることになったよ」

 

 リリィは目を丸くした。根津校長は優しく、けれど真剣な目でリリィを見つめた。

 

「リリィちゃん。君はヒーローになる覚悟はあるかい?」

 

 突然の問いに、リリィは言葉に詰まった。

 

「……え……あの……」

 

 小さな手が震え、銀色の髪がわずかに揺れた。頭の中が真っ白になる。

 

 ヒーローになりたいという気持ちは確かにあった。でも「覚悟」と聞かれると、途端に自分の幼さや個性の危険性が重くのしかかってきた。

 

 相澤先生が静かに口を挟んだ。

 

「リリィ、今日は一日かけてよく考えてみろ。答えは今日中に聞く。焦る必要はない」

 

「はい……」

 

 根津校長も頷いた。

 

「そうだね。急に聞かれても困るよね。今日は一旦解散にしよう」

 

 校長室を出たリリィは、廊下で小さく肩を落とした。

 

 ワンダーが傍らで静かに見守る中、ミッドナイトが優しくリリィの頭を撫でた。

 

「リリィ……一つ、提案があるの」

 

 ミッドナイトは微笑みながら続けた。

 

「他のヒーローたちに、直接話を聞いてみたらどう? ここは雄英高校よ。プロヒーローたちがたくさん教鞭をとっている場所なんだから、聞く相手には困らないわ」

 

 リリィの赤い瞳がわずかに輝いた。

 

「……それ、いいかも」

 

 ────

 

 こうして、リリィは一日をかけて、雄英の先生たちに話を聞きに行くことにした。

 

 最初に訪れたのはプレゼント・マイクのところだった。

 

「リリィちゃん! おおー、元気かー!? ヒーローってのはな、みんなを盛り上げて、笑顔にする存在だぜ! 俺みたいに声でみんなを鼓舞するのも最高だろ!?」

 

 次にリカバリーガール。

 

「ヒーローになるってことはね、誰かの痛みを分かち合うことよ。傷ついた人を癒してあげられる優しさが、一番大事だと思うわ」

 

 オールマイトは、笑顔で力強く語った。

 

「若人よ! ヒーローとは、誰かを守るために笑う存在だ! たとえ自分が傷ついても、誰かの笑顔を守るために立ち上がる……それがヒーローだ!」

 

 13号は穏やかに。

 

「災害現場で人を救う……それが私の役割です。君の個性は危険かもしれないけれど、使い方次第で多くの人を守れるはずですよ」

 

 ブラドキングは厳しくも優しく。

 

「ヒーローとは正義だ。しかし正義だけでは人は救えない。心の強さも必要だ」

 

 エクトプラズムは冷静に。

 

「ヒーローとは、多面的な存在です。知性、勇気、慈悲……すべてを兼ね備える者。君なら、それができると思いますよ」

 

 リリィは一人ひとりの話を、真剣に耳を傾けた。

 

 誰の言葉からも共通して感じられたのは「誰かを想う優しさ」だった。

 

 プレゼント・マイクの明るさも、リカバリーガールの癒しも、オールマイトの笑顔も、すべては「誰かを守りたい」という想いから生まれていた。

 

 夕方、リリィは再び校長室を訪れた。根津校長と相澤先生、ミッドナイトが待っていた。

 

 リリィは小さく息を吸い、震える声で最初に言った。

 

「……私の個性は、余りにも凶悪で危険です。暴走すれば、誰かを傷つけてしまうかもしれない……」

 

 弱々しい発言に周りの先生たちは心配そうにしながら見つめていたが、リリィは顔を上げ、力強く続けた。

 

「それでも私は! 根津校長先生みたいに聡明で、相澤先生みたいにかっこよくて、ミッドナイト先生みたいに優しい……そんなヒーローになります!」

 

 その瞬間、リリィの赤い瞳から、これまであった怯えの感情が完全に消え去り。代わりに、黄金のように輝く強い意志が宿っていた。

 

 部屋にいた三人は、驚きと感動の表情を浮かべた。根津校長はゆっくりと微笑み、深く頷いた。

 

「ふふ……素晴らしい答えだよ、リリィちゃん。君の覚悟、確かに受け取った」

 

 ミッドナイトは目を潤ませながらリリィを抱きしめた。

 

「えらいわ、リリィ……本当にえらい」

 

 相澤先生はいつもの無表情ながらも、わずかに口元を緩めた。

 

「……覚悟が決まったなら、明日から本格的に鍛えるぞ。覚悟を忘れるな」

 

 ワンダーは部屋の隅で静かにリリィを見つめ、低く優しい声で言った。

 

『リリィ。お前が選んだ道だ。私は……最後まで、お前と共に在る』

 

 リリィは皆の顔を見回し、胸に手を当てて力強く頷いた。

 

「うん……私、頑張る!」

 

 こうして、六歳の少女は、自らの意志でヒーローへの道を強く選んだ。

 

 黄金のメダルは、彼女の新たな始まりを、静かに照らしていた。

 

 ────

 

 翌日のホームルーム。

 

 相澤先生はだるそうな声で挨拶した。

 

「朝だ。……みんな、昨日はよく休んだか?」

 

 クラスが一瞬静かになった。相澤先生は軽く咳払いをして、続けた。

 

「今日の授業は、少し特別なものだ」

 

 その言葉に、クラス全体が固唾を飲んむ、体育祭後の特別授業、何か重大な発表があるのかもしれない──そんな緊張が教室に広がる。

 

 相澤先生は一拍置いて、ゆっくりと言葉を続けた。

 

「コードネーム……つまり、ヒーローネームを決める授業だ」

 

 瞬間──

 

「うおおおおお!!」

 

「やっときたあああ!!」

 

「ネーム決めだよネーム! マジでテンション上がる!」

 

 教室の空気が一瞬で爆発した。切島が拳を振り上げ、峰田が奇声を上げ、女子たちも「どんな名前にしよう!」と一気に盛り上がった。

 

 相澤先生は鋭い一睨みを教室に放った。

 

「……うるさい」

 

 その冷たい視線と低い声だけで、教室の熱狂が一瞬で静まり返った。皆が背筋を伸ばして席に着き直す。

 

 相澤先生はため息をつきながら話を続けた。

 

「ヒーローネームは、お前たちの象徴だ。今後、世間に知られる名前であり、戦う時の支えにもなる。安易に決めるな。真剣に考えろ。……ちなみに、今回の体育祭でプロヒーローたちにかなり目が止まっている。特にドラフト指名が多かった者もいる」

 

 そこで相澤先生は一枚の資料を掲げた。

 

「今年の1年生の中で、指名数がダントツで多かったのは……リリィだ」

 

 教室が再びどよめいた。

 

「ええっ!? リリィちゃんが!?」

 

「さすが優勝者……!」

 

「しかもダントツって、爆豪や轟くんより多いの!?」

 

 梅雨が嬉しそうに目を細め、お茶子が「リリィちゃんすごいよ~!」と手を振った。轟は無表情のままリリィをちらりと見、爆豪は舌打ちしながらも、珍しく何も言わずに腕を組んでいた。

 

 リリィは突然の話題に頰を赤くし、椅子に座ったまま小さく体を縮めた。

 

「……私、そんなに……?」

 

 相澤先生は淡々と続けた。

 

「リリィの個性と、体育祭での活躍は、プロの間でも大きな話題になっている。指名数は轟や爆豪を大きく引き離している。……まあ、六歳という年齢も含めて、異例中の異例だな」

 

「そして今回の特別講師としてミッドナイトを呼んである」

 

 ミッドナイトが特別講師として登場し。

 

「ヒーローネームはとても大切よ。それはあなたたちの魂そのもの……しっかりと考えなさい」と指導した。

 

 クラスメートたちが次々と発表していく。

 

 緑谷出久:「デク」

 

 爆豪勝己:「大爆殺神ダイナマイト」

 

 轟焦凍:「ショート」

 

 蛙吹梅雨:「フロッピー」

 

 八百万百:「クリエイト」

 

 切島鋭児郎:「レッド・ライオット」

 

 一人ひとりの名前が発表されるたびに、教室は拍手と笑いに包まれた。

 

 そして、最後にリリィの番が来た。リリィはワンダーの後ろからゆっくりと前に出た。

 

 小さな体をまっすぐに伸ばし、銀色の髪を軽く揺らしながら、

 

 教室の全員を見つめた。教室が静まり返る。

 

 リリィは両手をぎゅっと握り、はっきりとした声で言った。

 

「私のヒーローネームは……天災(ディザスター)

 

 一瞬の沈黙の後、教室がどよめいた。

 

「天災……!?」

 

「え、ディザスターって……」

 

 リリィは怯まず、続けた。

 

「私の個性は、ワンダー・オブ・U……災いを呼ぶ、危険な力です。だからこそ、私はこの名前を選びました。災いは怖いものです。でも……それでも、私はこの力を、誰かを守るために使いたい。自分の個性と向き合い、制御して、皆の力になれるように。この名前は……私が個性と向き合う覚悟の表れです」

 

 リリィの声は最初小さかったが、徐々に力強さを増していった。

 

 赤い瞳には、迷いも後悔もなかった。ただ、強い決意だけが輝いていた。

 

 ミッドナイトが最初に拍手を始めた。

 

「天災……ディザスター……とても勇気のある名前ね。貴女の覚悟が、しっかり伝わってくるわ。素晴らしいと思うわよ、リリィ」

 

 すると、クラス全体が大きな拍手に包まれた。

 

「おおー! すげえ名前だな!」

 

「リリィちゃん、かっこいい……!」

 

 梅雨が優しく微笑み、お茶子が目を潤ませながら。轟は無言で頷き、爆豪は腕を組んだまま「チッ……気取った名前だな」と呟いたが、その目にはいつもの嫌味とは違う、何か別の感情が浮かんでいた。

 

 ワンダーはリリィの後ろで静かに佇み、低く優しい声で言った。

 

『リリィ、お前が選んだ名だ。私は……その名に、誇りを持つ』

 

 リリィは皆の拍手を受けながら、胸に手を当てた。

 

(これで……私は一歩、前に進めた)

 

 黄金のメダルと、新しい名前。

 

 六歳の少女は、自分の最も危険な力に「天災」という名を付け、本当の意味でヒーローへの道を歩み始めた。ミッドナイトが最後に微笑みながら言った。

 

「みんな、素晴らしい名前ばかりね。これからはその名前を胸に、立派なヒーローを目指して頑張りなさい!」

 

 相澤先生が寝袋を引きずりながら。

 

「プリントの提出は今週末までだ」

 

 と告げて二人が退室すると、教室は再び賑やかな空気に包まれた。

 

 各机に配られたプリントには、これまでの体育祭での活躍を記した「ドラフト指名一覧」と、希望する職場体験先の記入欄が印刷されていた。

 

「うわっ、マジで俺も指名されてる!」

 

 切島と峰田が大声で盛り上がり、緑谷はノートとプリントを交互に見ながら真剣に悩んでいた。

 

 お茶子と梅雨はリリィの席に集まり、楽しそうに話を始めた。

 

「リリィちゃんはもう決めたの? 指名先!」

 

 リリィはプリントをじっと見つめたまま、小さく首を傾げていた。

 

 銀色の髪が頰にかかり、赤い瞳が真剣に文字を追っている。その中で、彼女はある一つの事務所名に目を止めた。

 

 エンデヴァー事務所

 

 轟焦凍の父親であり、現在No.2ヒーローの事務所だった。

 

(……No.2ヒーロー……そこで実際に働いている人たちを見たら、私が目指すべきヒーローのレベルが、もっとよくわかるかもしれない……)

 

 リリィはプリントを握りしめ、決心したように立ち上がった。

 

 そして、教室の少し離れた席に座る轟焦凍のところへ、小さな足音を立てて歩いていった。

 

「轟君……」

 

 轟は無表情のまま顔を上げた。

 

 リリィは少し緊張しながらも、まっすぐに彼の目を見て尋ねた。

 

「轟君は、どこの事務所に行くの?」

 

 轟は一瞬、わずかに視線を逸らしてから、淡々と答えた。

 

「……エンデヴァー事務所だ」

 

 リリィの赤い瞳がぱっと輝いた。

 

「それじゃあ、私と一緒だ。私も……エンデヴァー事務所に行きたい。ヒーローの上澄みを、この目で見てみたいの」

 

 轟は少し驚いたように眉を動かした。

 

 リリィのような小さな少女が、父親の事務所を希望するのは予想外だったのだろう。

 

 彼は数秒間、無言でリリィを見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「……わかった。一緒に行こう」

 

 リリィは嬉しそうに何度も頷いた。

 

「ありがとう、轟君!」

 

 そのやり取りを、近くの生徒たちが興味深そうに見ていた。

 

 特に梅雨は優しく微笑み、お茶子は「リリィちゃんと轟くんが一緒なんだ……!」と目を丸くしていた。

 

 





 日常パートむじぃ
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