※本作は独自の解釈や設定を含んでおり、原作の描写や設定とは異なる場合があります。
あらかじめご了承のうえ、お読みください。

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※アニメ4期部分のネタバレを含みますので、ご了承いただける方のみ、お読みくださいませ。


まだ数年前の嘘

 

 今日は、ドームライブ当日の朝だ。

 部屋はまだ少し暗くて、なんだか早く目覚めた。

 

 カーテンも、ベッドも、全部が新しくて慣れない。

 アクアやルビーの部屋も用意してるのに、家族揃って一緒に寝てる。養育費はたくさん残してたほうがいいのかな、と思ってたけど。

 

 サトウ社長が『お前はもう有名タレントだ。金は出してやるから新居に引っ越せ』なんて言うからさ。

 私が『え~引っ越しなんて、めんどくさいね?』って言ったら、『ママなら六本木ヒルズに住むべき!』ってルビーは言ってくれて。アクアも『現実的に考えろ。超高級住宅はアイにふさわしいけど』って褒めてくれたなぁ。

 

 スヤスヤと眠ってるルビーとアクアを撫でる。

 かわいく、元気に育ってくれてる。それだけで母としては喜ぶことだよね。

 

 私は布団から出て、足元に転がっていたカーディガンを拾った。それから机の上のスマホを手に取る。

 

 ドームライブのリハもやったけど、まだ実感は湧かない。みんな喜んでくれてたように、私も嬉しいと思う。だってアイドルにとって、夢のような場所なんでしょ。

 

 SNSにはファンのみんなから通知がたくさん来てる。でもミサトさんは『アイさんは返信しないでくださいね!』って言われてるんだよね。

 もう私も20歳になるのにさ。

 

 軽く『今日のドーム たのしみ~~』で。

 送信っと。

 こうすれば数秒でハートの数字が増えてくから面白い。ファンのみんな早起きだねぇ。

 

 ずっとみんなが願ってきた場所。サイトウ社長たちが何度も夢見てきた場所。ファンのみんなが1番多く来てくれる場所。そこに、私たちで立てる。

 

 こういうの親孝行って言うのかな。サイトウ社長は本当の親じゃないけど。

 ニノちゃんたちも喜んでるよね。ファンのみんなも喜んでるよね。

 

 そう想像すると、胸の奥がじわっとする。誰かが喜ぶから嬉しい。誰かが笑うから、私も笑っていいと思える。この気持ちは嘘じゃないはず。

 

 もちろんアクアとルビーも喜んでくれてて。

 

「ありがとね」

 

 みんながいるから、私は嬉しくなれる。笑顔を浮かべられる。

 

 でも『愛してる』って、その1番ステキな言葉はいつも迷っちゃう。歌詞でも、ファンサでも、みんなが喜んでくれる言い方はできる。

 やっぱりアクアとルビーに言うのは、まだ少し怖い。その言葉が嘘だったらどうしようって不安になる。本当の気持ちなのか、嘘なのか、まだわかりそうにない。

 

 だから私はまだ、1度も言ったことがない。

 アクアにも、ルビーにも、そしてヒカル君にも。『愛してる』って。

 

 昔の私は、誰かを愛することが苦手だった。

 

 人嫌いで、嘘吐きで、まったく心は綺麗じゃない。

 自分でもアイドルなんて向いてないって思ってたのに、ドームライブまでいけてる。私たちB小町7人ってやっぱり天才で究極かもね。

 

 嘘が、本当になるかもしれない。サイトウ社長が教えてくれたおかげ。

 

 ただかわいいだけの私が、みんなに幸せを届けるには、私には嘘しかない。

 私にとっては、嘘は愛なんだ。

 

 こうやって笑顔を浮かべれば、みんな笑顔になってくれる。

 

 誰かを愛したい。愛する対象がほしい。

 心の底から『愛してる』って言ってみたくて。

 

 ファンどころか、世界のみんなを愛せるアイドルになりたい。

 

「だから今日もがんばらなきゃね」

 

 かわいく声に出して、自分スイッチを入れる。

 洗面台の前に立ったけど、ちょっとアイドルとしては失格な顔してるよね。

 髪は跳ねてるし、目元もぼんやり。

 

 ドームライブの日だから、いつもより丁寧にする。ちゃんとしてるのに自然で、可愛く見えて、綺麗でカッコよくて、それでいて派手すぎないのがいい。

 ミサコさんはこういうの上手だから、みんなでよく教えてもらったなぁ。

 

「そういえば……」

 

 ヒカル君って、私がアイドルやってること、どう思ってるんだっけ。

 彼、独占欲強そうだしなぁ。

 

 中3の私が、中2のヒカル君と付き合い始めたときから、それはもうすごかった。彼は、私にすごく依存していた。彼はまだまだ子どもだった。私もそうだった。

 

 あの姫川愛梨のこともあって、心はボロボロだった。まあ芸能界の闇ってやつだよね。

 私は、ヒカルを愛したいと思っている。救いたくて、一緒にいたい。昔から、ビデオレターを撮った時から、ずっとその気持ちは変わってない。

 

「……ねぇ、正しかったのかな?」

 

 鏡に映ってる私の顔は、すごく後悔してると思う。さっきまでの笑顔を浮かべられてない。

 

 あれは15歳のことだった。全く予想してなかったけど、アクアとルビーを妊娠した。

 

 いろいろな選択肢も1人で考えた。

 とても怖かった。不安だらけで考えたくなかった。だって、まだ私も子どもで、ヒカル君も子どもだったから。

 

 私は首を振った。

 産んだことに後悔は全くない。

 

 それって、アクアとルビーに会えなかったということ。

 それだけは絶対にありえない。

 

 最初は、彼と育んだ命だから手放せなかった。ヒカル君も、子どもたちも、心の底から愛したいと思った。本当に、そう思ってた。

 だからこの選択に後悔はない。

 

 それに、母親になったら、心の底からみんなを愛せると思った。

 結局、アクアとルビーに『愛してる』って1度も言えてないんだよね。育児も下手で、隠し事いっぱいで、授業参観も最近は行けてなくて、ひどい母親だって思うよ。

 

 それなのにさ、アイドルしてる時は笑ってるんだもん。

 みんなを騙してて悪い魔女だよね。

 

 ニノちゃんたちもたくさん怒らせた。たぶんまだ仲直りできてない。

 

 ヒカル君も怒ってるのかな。

 だってさ。『結婚は無理!』『一生一緒ってのは荷が重いかなぁ』『大輝君のことまで背負えないよ』『子どもも難しいかな』『私はキミを愛せない』って。私すっごく酷い嘘吐きだよね。

 

 お化粧が崩れるから、涙を出さないようにする。

 

 本当は、違う。

 本当は、一緒にいたかった。

 本当は、結婚もしたかった。

 愛情がちゃんとわからなくても、ヒカル君のことは愛したいと初めて思った。

 

 でも、ヒカル君に負担をかけたくなかったんだ。

 彼はまだ子どもで、弱ってて、依存してて、壊れかけてた。私と子どもたちまでいたら、もっとめちゃくちゃになっていたかもしれない。

 

 だから別れないと、お互い前に進めなかった。

 

 だって実際にさ。ヒカル君は劇団ララライをやめて、普通の高校生に戻って、今は理系大学に進んでるんだもん。私よりずっと頭いいよね。

 

 しかも、あまり喜んだらダメなんだろうけど。姫川愛梨が夫と心中したってニュースで見た。

 

 まだ小学生くらいの大輝君のことも心配だよね。

 ヒカル君はどう思ってるんだろうって、久しぶりに電話してみた。彼はあのニュースを見て、何を感じてるんだろうってのもね。

 

 電話してて『大輝君をさ、引き取ったりするの?』ってそれとなく聞いたら『……あの子は僕のことは知らないさ』って言ってた。まあ確かに、自分の子どもだけど、ヒカル君が望んだわけじゃないか。寂しいけどね。

 

 あと、電話越しの雰囲気はどこか変だった。解放感みたいなのはなかった。

 

 やっぱりまた何かに苦しんでると思う。

 アクアもルビーももう結構大きいし。昔からしっかりしてるし、育児の負担もほとんどない。

 

 私が嘘を吐いて、彼を傷つけてしまったことを、謝りたいから。

 今度こそちゃんと向き合って、彼を愛したいから。

 

 ヒカル君に、アクアとルビーと一緒に、私と家族になってほしいから。

 

「結局、あれから電話の1つもないなぁ」

 

 電話をかけて、ヒカル君と会う提案をしたのにさ。

 『子どもたちにさ、一度会ってみない?』『……それは僕と結婚する気になった、ということかい?』って。

 

 相変わらずまだ私に依存してるのかな、なんて思った。

 『いや、寄りを戻すとか、そういう話じゃなくてさ』って、すぐにまた嘘を吐いてしまった。

 

 だって私は、アクアとルビーがどう思うか心配だった。

 全部私が悪いのに。いきなり3人で親子ケンカなんてしたらイヤだから。

 

 まずは家族で会ってもらって、それから少しずつでいいでしょ。ゆっくり関係を修復していくほうがお互いのためだと思う。

 

 電話番号と、新しい住所も教えてるから、再会できたら私が3人に謝ったらいい。嘘を吐いてて、いろいろ隠してて、傷つけて。

 

 ごめんなさいする。

 アクアとルビーと、ヒカル君と、一緒に未来を生きたいから。

 

 家族みんなに『愛してる』って、いつか心の底から言いたい。

 

 だから今日、ドームライブをやったら。

 私の『愛してる』という言葉が、また本物に近づくといいな。

 

「よしっ! 完璧っ!」

 

 アイドルとして、きっと世界中の誰からも愛される笑顔を作れた。

 

 私は、清純でも清楚でもない。むしろその逆だ。

 ずるいし、汚いし、平気で嘘を吐く。何が本音で、いつ嘘を吐いてるのかすら、わからない。

 

 

 だから私は、今日も嘘を吐く。

 

 完璧で、本物の愛がわかるようになるまで。

 アイドルをやって『愛してる』の練習をする。

 

 いつかきっと全部手に入れる。私は欲張りなんだ。

 母としての幸せ、アイドルの幸せ、そしてパートナーとしての幸せ、全部ほしい。

 

「ねぇ アクア? ルビー?」

 

 ヒカル君も一緒に住んでくれたらさ。もっと賑やかで楽しい家族になると思うよね?

 

 

もし続きがあると仮定して、それだとどの展開を読みたいか、参考としてぜひお考えをお聞かせください。※本作は短編小説のまま、継続しない可能性もございますのであらかじめご了承ください。

  • 生存したアイがヒカルと和解で終わるエンド
  • 生存したアイが原作ルートで生きていく
  • オリキャラによる救済、及び恋愛描写あり

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