あらかじめご了承のうえ、お読みください。
今日は、ドームライブ当日の朝だ。
部屋はまだ少し暗くて、なんだか早く目覚めた。
カーテンも、ベッドも、全部が新しくて慣れない。
アクアやルビーの部屋も用意してるのに、家族揃って一緒に寝てる。養育費はたくさん残してたほうがいいのかな、と思ってたけど。
サトウ社長が『お前はもう有名タレントだ。金は出してやるから新居に引っ越せ』なんて言うからさ。
私が『え~引っ越しなんて、めんどくさいね?』って言ったら、『ママなら六本木ヒルズに住むべき!』ってルビーは言ってくれて。アクアも『現実的に考えろ。超高級住宅はアイにふさわしいけど』って褒めてくれたなぁ。
スヤスヤと眠ってるルビーとアクアを撫でる。
かわいく、元気に育ってくれてる。それだけで母としては喜ぶことだよね。
私は布団から出て、足元に転がっていたカーディガンを拾った。それから机の上のスマホを手に取る。
ドームライブのリハもやったけど、まだ実感は湧かない。みんな喜んでくれてたように、私も嬉しいと思う。だってアイドルにとって、夢のような場所なんでしょ。
SNSにはファンのみんなから通知がたくさん来てる。でもミサトさんは『アイさんは返信しないでくださいね!』って言われてるんだよね。
もう私も20歳になるのにさ。
軽く『今日のドーム たのしみ~~』で。
送信っと。
こうすれば数秒でハートの数字が増えてくから面白い。ファンのみんな早起きだねぇ。
ずっとみんなが願ってきた場所。サイトウ社長たちが何度も夢見てきた場所。ファンのみんなが1番多く来てくれる場所。そこに、私たちで立てる。
こういうの親孝行って言うのかな。サイトウ社長は本当の親じゃないけど。
ニノちゃんたちも喜んでるよね。ファンのみんなも喜んでるよね。
そう想像すると、胸の奥がじわっとする。誰かが喜ぶから嬉しい。誰かが笑うから、私も笑っていいと思える。この気持ちは嘘じゃないはず。
もちろんアクアとルビーも喜んでくれてて。
「ありがとね」
みんながいるから、私は嬉しくなれる。笑顔を浮かべられる。
でも『愛してる』って、その1番ステキな言葉はいつも迷っちゃう。歌詞でも、ファンサでも、みんなが喜んでくれる言い方はできる。
やっぱりアクアとルビーに言うのは、まだ少し怖い。その言葉が嘘だったらどうしようって不安になる。本当の気持ちなのか、嘘なのか、まだわかりそうにない。
だから私はまだ、1度も言ったことがない。
アクアにも、ルビーにも、そしてヒカル君にも。『愛してる』って。
昔の私は、誰かを愛することが苦手だった。
人嫌いで、嘘吐きで、まったく心は綺麗じゃない。
自分でもアイドルなんて向いてないって思ってたのに、ドームライブまでいけてる。私たちB小町7人ってやっぱり天才で究極かもね。
嘘が、本当になるかもしれない。サイトウ社長が教えてくれたおかげ。
ただかわいいだけの私が、みんなに幸せを届けるには、私には嘘しかない。
私にとっては、嘘は愛なんだ。
こうやって笑顔を浮かべれば、みんな笑顔になってくれる。
誰かを愛したい。愛する対象がほしい。
心の底から『愛してる』って言ってみたくて。
ファンどころか、世界のみんなを愛せるアイドルになりたい。
「だから今日もがんばらなきゃね」
かわいく声に出して、自分スイッチを入れる。
洗面台の前に立ったけど、ちょっとアイドルとしては失格な顔してるよね。
髪は跳ねてるし、目元もぼんやり。
ドームライブの日だから、いつもより丁寧にする。ちゃんとしてるのに自然で、可愛く見えて、綺麗でカッコよくて、それでいて派手すぎないのがいい。
ミサコさんはこういうの上手だから、みんなでよく教えてもらったなぁ。
「そういえば……」
ヒカル君って、私がアイドルやってること、どう思ってるんだっけ。
彼、独占欲強そうだしなぁ。
中3の私が、中2のヒカル君と付き合い始めたときから、それはもうすごかった。彼は、私にすごく依存していた。彼はまだまだ子どもだった。私もそうだった。
あの姫川愛梨のこともあって、心はボロボロだった。まあ芸能界の闇ってやつだよね。
私は、ヒカルを愛したいと思っている。救いたくて、一緒にいたい。昔から、ビデオレターを撮った時から、ずっとその気持ちは変わってない。
「……ねぇ、正しかったのかな?」
鏡に映ってる私の顔は、すごく後悔してると思う。さっきまでの笑顔を浮かべられてない。
あれは15歳のことだった。全く予想してなかったけど、アクアとルビーを妊娠した。
いろいろな選択肢も1人で考えた。
とても怖かった。不安だらけで考えたくなかった。だって、まだ私も子どもで、ヒカル君も子どもだったから。
私は首を振った。
産んだことに後悔は全くない。
それって、アクアとルビーに会えなかったということ。
それだけは絶対にありえない。
最初は、彼と育んだ命だから手放せなかった。ヒカル君も、子どもたちも、心の底から愛したいと思った。本当に、そう思ってた。
だからこの選択に後悔はない。
それに、母親になったら、心の底からみんなを愛せると思った。
結局、アクアとルビーに『愛してる』って1度も言えてないんだよね。育児も下手で、隠し事いっぱいで、授業参観も最近は行けてなくて、ひどい母親だって思うよ。
それなのにさ、アイドルしてる時は笑ってるんだもん。
みんなを騙してて悪い魔女だよね。
ニノちゃんたちもたくさん怒らせた。たぶんまだ仲直りできてない。
ヒカル君も怒ってるのかな。
だってさ。『結婚は無理!』『一生一緒ってのは荷が重いかなぁ』『大輝君のことまで背負えないよ』『子どもも難しいかな』『私はキミを愛せない』って。私すっごく酷い嘘吐きだよね。
お化粧が崩れるから、涙を出さないようにする。
本当は、違う。
本当は、一緒にいたかった。
本当は、結婚もしたかった。
愛情がちゃんとわからなくても、ヒカル君のことは愛したいと初めて思った。
でも、ヒカル君に負担をかけたくなかったんだ。
彼はまだ子どもで、弱ってて、依存してて、壊れかけてた。私と子どもたちまでいたら、もっとめちゃくちゃになっていたかもしれない。
だから別れないと、お互い前に進めなかった。
だって実際にさ。ヒカル君は劇団ララライをやめて、普通の高校生に戻って、今は理系大学に進んでるんだもん。私よりずっと頭いいよね。
しかも、あまり喜んだらダメなんだろうけど。姫川愛梨が夫と心中したってニュースで見た。
まだ小学生くらいの大輝君のことも心配だよね。
ヒカル君はどう思ってるんだろうって、久しぶりに電話してみた。彼はあのニュースを見て、何を感じてるんだろうってのもね。
電話してて『大輝君をさ、引き取ったりするの?』ってそれとなく聞いたら『……あの子は僕のことは知らないさ』って言ってた。まあ確かに、自分の子どもだけど、ヒカル君が望んだわけじゃないか。寂しいけどね。
あと、電話越しの雰囲気はどこか変だった。解放感みたいなのはなかった。
やっぱりまた何かに苦しんでると思う。
アクアもルビーももう結構大きいし。昔からしっかりしてるし、育児の負担もほとんどない。
私が嘘を吐いて、彼を傷つけてしまったことを、謝りたいから。
今度こそちゃんと向き合って、彼を愛したいから。
ヒカル君に、アクアとルビーと一緒に、私と家族になってほしいから。
「結局、あれから電話の1つもないなぁ」
電話をかけて、ヒカル君と会う提案をしたのにさ。
『子どもたちにさ、一度会ってみない?』『……それは僕と結婚する気になった、ということかい?』って。
相変わらずまだ私に依存してるのかな、なんて思った。
『いや、寄りを戻すとか、そういう話じゃなくてさ』って、すぐにまた嘘を吐いてしまった。
だって私は、アクアとルビーがどう思うか心配だった。
全部私が悪いのに。いきなり3人で親子ケンカなんてしたらイヤだから。
まずは家族で会ってもらって、それから少しずつでいいでしょ。ゆっくり関係を修復していくほうがお互いのためだと思う。
電話番号と、新しい住所も教えてるから、再会できたら私が3人に謝ったらいい。嘘を吐いてて、いろいろ隠してて、傷つけて。
ごめんなさいする。
アクアとルビーと、ヒカル君と、一緒に未来を生きたいから。
家族みんなに『愛してる』って、いつか心の底から言いたい。
だから今日、ドームライブをやったら。
私の『愛してる』という言葉が、また本物に近づくといいな。
「よしっ! 完璧っ!」
アイドルとして、きっと世界中の誰からも愛される笑顔を作れた。
私は、清純でも清楚でもない。むしろその逆だ。
ずるいし、汚いし、平気で嘘を吐く。何が本音で、いつ嘘を吐いてるのかすら、わからない。
だから私は、今日も嘘を吐く。
完璧で、本物の愛がわかるようになるまで。
アイドルをやって『愛してる』の練習をする。
いつかきっと全部手に入れる。私は欲張りなんだ。
母としての幸せ、アイドルの幸せ、そしてパートナーとしての幸せ、全部ほしい。
「ねぇ アクア? ルビー?」
ヒカル君も一緒に住んでくれたらさ。もっと賑やかで楽しい家族になると思うよね?
もし続きがあると仮定して、それだとどの展開を読みたいか、参考としてぜひお考えをお聞かせください。※本作は短編小説のまま、継続しない可能性もございますのであらかじめご了承ください。
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生存したアイがヒカルと和解で終わるエンド
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生存したアイが原作ルートで生きていく
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オリキャラによる救済、及び恋愛描写あり