Bloody Bless   作:館長さん

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第4話:一人はみんなのために、みんなは一人のために⑥

『そうか、“ドルフィン”はまだ、見たことが無かったんだったな。確かに僕のギガントの装甲なら、あの弾幕にも耐えられるかもしれない。口径の小さな豆鉄砲さ。けど、そのせいで装甲の耐食コーティングが剥がされるのは、さすがに勘弁だ』

 

「お、おう、すまんな。隊長機には、そんな機能まであるのか……」

 

『はい。強行すれば、“オウカ”機を破壊するか、“ハンマーヘッド”機がバジリスクの腐食毒で溶けるか、という二択になります。さらに、“オウカ”機を破壊してでも止めようとした場合、衝撃でレールガンのコンデンサが誘爆することで、近隣一帯は爆風で消滅する可能性があります。推奨できません』

 

 思わず頭を抱える。リュオンが突っ走った時でも、クローディア一人で後方から敵を始末できるようにする……そのためのレールガンだ。そりゃあ、弱点の対策くらいしていて当然である。俺の言いたいことを察したのか、面目ねえ、と珍しくリュオンが気まずそうに呟いた。

 

 これも駄目だ。また一つ、選択肢が消えた。

 

「なら、俺がこのまま次の一撃も止め……られるわけないな。盾は融解、片腕が吹っ飛んで、各部の関節もガタガタだ。もう、まともに動きやしない」

 

『いいですか、絶対に機体を動かそうとしないでください。いつ爆発してもおかしくない損傷度合いなのですからね。これはフリではありませんよ?』

 

「分かってる、言ってみただけだ。リル、お前少し性格変わったか?」

 

『“ノーチラス”です。“作戦中だぞ、気を付けろ”』

 

 視界の端に浮かぶフェイスウィンドウ。そこに映る彼女の表情は、やはりいつも通りだ。

 

 が、返ってきたのは恒例の“俺の声”であった。しれっと言ってのけやがる。時間は無いが、冗談を差し挟む余裕はあるらしい。

 

 とはいえ、これも論外だ。また一つ、選択肢が消えた。

 

「それじゃあ、“ハンマーヘッド”と“ノーチラス”で、あの施設に張り付いてるバジリスクを力ずくで引き剥がせるか? 標的がいなくなれば、“オウカ”だって撃つ理由はなくなるはずだが……」

 

 苦し紛れの提案。だが、リルは即座にその案も棄却した。

 

『不可能です。対象の質量は推定百二十トン。さらに、強靭な鉤爪が施設の構造材に深く食い込んでいます。二機のMAで強引に剥離を試みれば、対象が無抵抗であったと仮定しても、引き剥がされるより先に施設が自重に耐えきれず倒壊します。無論、毒液、爪、尾などによる反撃・迎撃も考えられます。実行するなら、四機全員で連携して行うべきでした』

 

「だよな……」

 

 分かってはいたが、これも無理筋だ。また一つ、選択肢が消えた。

 

 リュオンは近づけず、リルは力及ばず、俺は動けず、敵はあまりに巨大で、クローディアには声すら届かない。この戦場に残されたのは、止まることのない砂時計と、俺の声だけだ。

 

(皮肉だな。この地獄で、一番話が通じそうな相手が、向こう側にしか残ってないとは)

 

 グダグダ話している内に、残り時間はおよそ三分半。もう思考を巡らせる余裕すら底を突きかけている。

 

 俺は覚悟を決めると、リルに次なる指示を与えた。

 

「“ノーチラス”、“イトデンワ”を用意。ターゲットは目標施設の外壁。間違っても窓や皇獣(おうじゅう)には当てるなよ」

 

『了解、“イトデンワ”を射出します』

 

 “イトデンワ”。無論、言葉の意味そのままではない。その正体は、大音量のスピーカーだ。専用のライフルでスピーカーポッドを射出し、狙った場所に撃ち込むことで、その近辺にいる者に対して接近することなく言葉を伝えることができる、という代物だ。

 

 “イトデンワ”。正式名称、有線式外部拡声ユニット。

 

 内蔵通信システムが死んだ生存者や、ジャミング下での救助活動において、生存者の耳元に直接声を届けるための装備だ。射出されたポッドからは極細の光ファイバーが伸び、物理的に音声を伝送することができる。

 

 攻撃能力は皆無。本来は、瓦礫の底で絶望する市民に蜘蛛の糸を垂らすための救助用装備だ。そんなものを、実戦で排除対象に使う日が来るとは、さすがに思いもしなかった。

 

 リルと視界が共有される。缶飲料のタブを押し開けた時のような、軽い音と共に射出されるスピーカーポッド。それは見事に、目標施設の二階と三階の間の壁面にめり込んだ。

 

 ポッドの保護カバーが開き、内部のスピーカー部分が露出する。故障は無し。伝送状態は良好。これでこちらの声が、立てこもり犯に直接届くだろう。

 

 俺はリルに音声共有を指示し、咳払いを一つすると、ゆっくりと、そして深く息を吸い込む。ここからが本当の、そして最後の勝負だ。

 

「馬鹿野郎! 神官だか何だか知らんが、お前、状況が見えてないのか! 死にたくなかったら、すぐにそこを離れやがれ!!」

 

 唐突に、戦場に静寂が訪れた。無論、突然の俺の怒声に驚き、皆の思考が止まっただけの、一時的なものだ。あのリュオンでさえ、両目を大きく見開いて、驚きの表情を作っていた。

 

 だが、俺は心の中だけは冷静さを失わないよう、軽く一息ついた。

 

 まずは、相手が冷静なのか感情的なのかを確認しなければ、交渉なんて成立させようがないからだ。そして、それを確認する最も簡単な方法は、こちらの感情をそのままぶつけることだろう。

 

 耳障りなハウリング音が尾を引く。タイムリミットを気にしながらも、はやる心を抑えながら、ただじっと相手の反応を待った。

 

『黙れ、スワスチムの狗め! 正午までという約束を反故にしたのは、貴様らの方ではないか!』

 

「いいや、黙らないね! 約束だ? そんなもの、お前が勝手に言ってるだけの戯言(たわごと)だろうが!」

 

 無線機からノイズ混じりの怒号が届くが、即座に言い返す。自分の方が優勢であるなどと、間違っても勘違いさせない為にである。

 

 よかった、まだ会話の余地はあるようだ。交渉の余地があるかどうかは、別問題だが。

 

 どうやら神官は、俺の離れろという要求を交渉の決裂、つまり、人質を見捨てて自分を殺しに来る合図だと受け取ったらしい。なおも激情を乗せた叫びが、俺の人工鼓膜を破壊せんばかりの音量でコクピット内を荒らす。『ここには貴様らの同胞が、大勢転がっているのだぞ! 私が神使の加護を捨てて、無防備な広場へ出ろだと!? 同胞を救うためのこの盾を、みすみす明け渡せというのか!』

 

「勘違いするな! 投降しろだなんて言っていない。むしろ逆だ。死にたくなければ、今すぐそのトカゲと一緒にヘアツゥまで逃げ帰れと言ってるんだ」

 

 奴の言う神使とは、神官が騎乗するための皇獣(おうじゅう)のことだ。この場合、あの馬鹿でかいトカゲ(バジリスク)を指すのだろう。

 

 依然、神官の言葉は辛辣だ。だが、反応を返してくれるだけありがたい。どこぞの小隊長殿にも、見習ってもらいたいものである。

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