異世界迷宮に行く筈が~銀河英雄伝説~(中編化)   作:高島智明

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第10話 決着 そして再び幕は上がる

「…ヤン提督…私の負けだ…」

帝国軍最高司令官は、同盟軍との停戦と惑星フェザーンまでの撤収に同意した………。

 

……。

 

…フェザーンまで戻ったラインハルトの心中は、凱旋とは程遠かった。

後1歩まで迫った筈の玉座との距離が遠ざかった思いだった。

その後1歩を登る為の栄光を求めた遠征に敗れたのだ。

 

そのラインハルトの心中にも関わらず、帝国軍最高司令官にして帝国宰相として、自由惑星同盟との交渉が待っていた。

帝国軍占領下のフェザーンと同盟領の間で使者が行き来し、そして遂に和約が結ばれた。

 

ゴールデンバウム王朝が「辺境の叛乱軍」と定義し続けた同盟を、ローエングラム体制は対等の国家と認め、通常の国交が結ばれることと成った。

それは、銀河連邦をゴールデンバウム王朝が「簒奪」して以来、そして自由惑星同盟が建国されて以来、自らを銀河連邦を受け継ぐ人類単1の国家としてきた両国が、その主張を改めたことを意味していた。

 

この様な屈辱を国家に齎(もたら)した自らの威信は落ちたか、何より常勝の英雄では無く成った自らの声望は落ちたか、ラインハルトは失意を隠しながら、帝都オーディンへの帰途についた。

筈たっだが………。

 

……。

 

…帰還した帝都では、女帝の名で宣言が出された。

銀河に戦乱を齎す策謀を企んだフェザーン自治領を討伐し、帝国と長年の戦乱を重ねて来た同盟との和約を齎したラインハルト・フォン・ローエングラム公爵を讃えていた。

 

無論、実際に署名したのは乳児である女帝で無く、幼帝と言うにも幼過ぎる女帝カザリン・ケートヘンの親権者であるペクニッツ公爵が、だった。

 

更に、ペクニッツ公爵は女帝の親権者として署名した。

女帝の退位と、ラインハルト・フォン・ローエングラム公爵を新皇帝とする宣言書にである。

 

いったい、誰が何をペクニッツ公爵に吹き込んだのか、後世の歴史家には推理の愉しみを恵んだ。

いずれにせよ、女帝1家は皇宮を去った。

彼女らには、公爵家の面目を保つ年金生活と身体の安全が保障されていた。

それと引き換えに、ペクニッツ公爵が女帝の代理人として署名した宣言書を残して。

ゴールデンバウム王朝の、これが終焉であった………。

 

……。

 

…そして皇宮「玉座の間」で、儀式が執り行われる日が来た。

 

「玉座の間」に踏み込み臣下たちの列を通り抜けて、玉座への階段を昇り詰めたラインハルトは、玉座に置かれた宝冠を持ち上げる。

玉座の片側には、大公妃のドレス姿も美しい姉が。

その反対側には長身を元帥の軍服に包み、勲章の正装も凛々しい親友が。

ラインハルトは孤独では無かった。

 

このことだけは、譲れないラインハルトの我儘だった。

義眼の参謀は、特定の臣下を特別扱いすることに苦言を呈したものの、最後は妥協せざるを得ず、今は玉座の下から、武官たちの列に並んで見上げていた。

 

「ジーク・カイザー・ラインハルト!」

の唱和が「玉座の間」に響(ひび)き、繰り返されながら木霊(こだま)し続ける。

ローエングラム王朝が、ここに始まる。

その儀式の執り行われている頃、フェザーン回廊から帝国領へと向かう1行が在った。

 

同盟と帝国の間の和約と国交成立にしたがって交換される高等弁務官の、同盟側から帝国に向かう1行だった。

 

和約の交渉当初、ラインハルトは「個人の希望として」ヤン・ウェンリーを希望したが、流石に同盟側に警戒された。

ヤンは変わらずイゼルローン要塞司令官・兼・イゼルローン駐留機動艦隊司令官として、ガンダルヴァ恒星系の惑星ウルヴァルシーの衛星軌道上に戻ったイゼルローン要塞にて、万に1つの再侵攻に備えていた。

 

そのヤンの指揮下には、当然ながら戦闘の消耗を補う補充兵力が送られた。

その中に1人のパイロット候補生が居たが、彼女ーカーテローゼ・フォン・クロイツェルの教官役に任命されたのはユリアン・ミンツだった。

 

実はユリアン本人以外の、俺が『原作』知識を持っていることを打ち明けている者たちには、

「ユリアンには内緒に」

との約束で教えてあったのだ。

ヤン本人も、遂に旧姓ーフレデリカ・グリーンヒルに求婚したこともあって、ユリアンの自立の為にもと、ささやかな公私混同をしたのだった。

 

その俺は、帝国に赴任する弁務1行の随員に紛れ込んでいた。

実は、高等弁務官として赴任するのは統合作戦本部長を退役してシビリアンと成ったシドニー・シトレ「元」元帥だった。

軍人皇帝を戴(いただ)くローエングラム王朝は、同盟軍制服組トップを務めた経歴を持つ高等弁務官を受け入れた様だった。

その高等弁務官の赴任を受けて、皇宮での儀式が行われた。

ゴールデンバウム王朝に於いても、同盟とこそ国交は無くとも、フェザーン自治領とは名目はどうあれ事実上の国交は存在し、弁務官は受け入れてきていた。

その為、儀式は先例に従って行うことが出来た。

 

その儀式が粛々と進行し、儀礼に従った遣り取りが終わった直後、シトレ高等弁務官は儀礼に無かった言葉を発した。

「御身に御気を付けなされませ」

「どういう意味かな」

 

シトレは暴露した。

地球教の策謀について。

800年の怨念について。

フェザーン自治領との闇の関係、狂信とサイオキシン麻薬を用いた闇の勢力。

それらの全て、実は俺の『原作』知識に基づいて、皇帝ラインハルトに暴露した。

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