異世界迷宮に行く筈が~銀河英雄伝説~(中編化) 作:高島智明
「ローエングラム侯爵、我が主君ブラウンシュヴァイク公爵の讐(かたき)を取らせて頂く」
宣言とともに、ハンドキャノンの引き金を引こうとするアンスバッハ准将。
その瞬間………。
……。
…門閥貴族たちの本拠地ガイエスブルク要塞へと進撃するローエングラム最高司令官以下の艦隊には、何と同盟軍のイゼルローン駐留機動艦隊が合流していた。
本拠地ガイエスブルクへの途上に在る拠点の1つ、レンテンベルク要塞。
この要塞を攻略するには第6通路を突破して核融合炉を奪取するのが最短ルートだが、その通路に装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将が立ち塞がった。
ところが、その巨漢に思いもかけない相手から思いもかけない通信がもたらされた。
「小僧に引き入れられた叛乱軍如きが、降伏勧告だと?!」
考慮にも値しないとばかりに哄笑した巨漢だったが、その哄笑に対して、ヤン艦隊お得意の1点集中砲火が叩き付けられた。
通路に立て篭(こ)もる側が戦闘手段を限定するために自分で充満させたゼッフル粒子に点火し、核融合炉の手前まで誘爆していた。
再度また勧告すると、今度は「返答を待って欲しい」との猶予を要求して来た。
数時間後…要塞内の「行方が判明している」最上位者シュターデン大将の名で勧告受諾が伝えられた。
この数時間は、それまで最上位者だった上級大将の行方不明を確認するために費やされていた。
「あんなのを相手にする必要はありません」
とは、事後にヤンがラインハルトに語った処だった………。
……。
…惑星ヴェスターラント軌道上。
ブランシュヴァイク公爵が命じた自領への核攻撃に対し「まるであらかじめ知っていたかの様に」ヤンが派遣していたアッテンボロー分艦隊が、公爵の派遣した特務艦を拿捕して熱核弾頭ミサイルを没収していた。
その情報を聞いたラインハルトは、何かを躊躇(ためら)っていたのだが、安堵を覚えた。
只、政治的効果を優先するよう進言した参謀は、義眼を光らせた………。
……。
…帝国の内乱は、ローエングラム軍の勝利に終わった。
陥落後の敵要塞の広間で、勝利の式典が行われた。その会場で…
「ローエングラム侯爵、我が主君ブラウンシュヴァイク公爵の讐(かたき)を取らせて頂く」
宣言とともに、ハンドキャノンの引き金を引こうとするアンスバッハ准将。
その瞬間…
動けずにいた提督たちの列から1人飛び出し、ラインハルトを庇う様に立ち塞がると同時に、その手元から1筋の光線がキャノンの砲口に吸い込まれた。
広間の中央で轟音と爆煙が起こり、消え去った後には復讐者の姿は跡形も無い。
当然だろう、発射寸前のキャノンの砲口を見事、逆に狙い打ったのだ。
内部の砲弾が誘爆すれば、木っ端微塵(こっぱみじん)だ。
未だラインハルトを庇う様に立ち塞がり、ブラスターを構えたままのキルヒアイスに、義眼の参謀長が向き直った。
「キルヒアイス提督。何故、卿は武器を持っている」
冷徹な声が、鞭の様だった。
「それは、私の銃ですよ」
その声は、会場の隅に列席していたヤン・ウェンリーだった。
「やはり、貴方の差し金でしたか。
何、会場の入り口で見かけたのでね。
流石に指揮系統の違う私からまで取り上げることが出来なかった様ですので、ちょっと貸してあげたのですよ」
「余計なことを」
と言わんばかりの義眼の光と、相変わらず冷徹な表情でヤンに向き直る参謀長。
「キルヒアイス提督を侯爵閣下が特別扱いするのを、貴方が快(こころよ)く思っていないのは、うすうす感じていました。
だがしかし、半身ともいうべき友人と、恐らくは姉君を失ったら、侯爵は人間性を失いかねない。
後に残るのは、覇道を進むだけの機械か、ルドルフ大帝の拡大再生産だけだ。
それが、貴方の望みならば…それは、貴方のエゴイズムだ」
義眼に何らかの感情を込めながら、冷徹なる参謀長は沈黙していた。
「侯爵の進まれる途(みち)が、帝国をより好(よ)き方向の未来へと導く様に、そして其れが我が同盟にとっても好き未来であることを願っています」
そこまで言って、ヤンは踵を返し立ち去った。
ただし、とある置き土産をガイエスブルク要塞に残して…
*
俺はイゼルローンに帰還したヤンから、事の顛末を秘密通信を繋いだシトレ本部長の傍らで聞いた。
ご意見ご感想をお待ちしております。