異世界迷宮に行く筈が~銀河英雄伝説~(中編化) 作:高島智明
「ジークフリード・キルヒアイスが生きていれば、きっとローエングラム公爵をお諌めしただろうな」
とは疾風が相棒にだけは洩(も)らした溜息だった。
と、言うのが『原作』での記述だったが、キルヒアイスは生きていた。
科学技術総監から、とある新兵器を売り込まれた帝国軍最高司令官は其の場で即断せず、副司令官と首席秘書官との合議まで返答を保留した。
当然の様にキルヒアイスは「無用の出兵」だと軍事戦略あるいは帝国の政策そのものの視点から正々堂々と主張した。
ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフも全く同感であり、ラインハルト・フォン・ローエングラムを迷わせた。
だがしかし、迷った末に義眼の参謀の意見も聞き、結局は決断したのだったが…
結果は、ヤン・ウェンリーの残した小細工にしてやられる結果に成った。
それでも、オーベルシュタインに責任を擦り付けたりはしないラインハルトだったが、キルヒアイスとヒルダには、何故かラインハルトが生き急いでいる様に感じられた………。
……。
…そうして生き急ぐらしいラインハルトにフェザーン自治領主からの策謀が持ち掛けられた。
キルヒアイスとヒルダは、あまりにも汚い、むしろ此の様な陰謀を企んだことを大義名分にフェザーン自治領を討伐すべき、と諫めた。
だがしかし、ラインハルトは同盟を征服したという栄光を欲していた。
領土欲では無く、後1歩まで迫ったゴールデンバウム王朝の”簒奪”の為に、後1つの栄光が欲しかった。
やはり、ラインハルトは何故か生き急いでいた。
「分かりました。
ですが、モルト中将等を犠牲にすることは御辞め下さい。
それでは、ラインハルト様の覇道を汚(けが)すことに成ります」
最後は納得しつつも、そう諫言した………。
……。
…自由惑星同盟に”その”訪問者がやって来た。
幼い皇帝を連れて亡命して来た者たちがやって来たのである。
彼らの処遇を巡って、最高評議会では激論が戦わされた。
だがしかし、亡命政府の樹立を主張する評議員たちがフェザーン自治領からの闇資金を受けていたことが暴露され失脚すると、新たに議長代行と成ったホワン・ルイが宣言した。
「人道上、彼らの亡命は認める。
だがしかし、亡命政府の類(たぐい)は認めない。
”言論の自由”により、彼らが何を主張するも勝手だが、同盟政府の公認する処ではない」
更に、フェザーン自治領主府の策謀が暴露された。
すなわち、帝国に同盟征服の大義名分を与えるための策謀だったと。
*
これに対し、帝国のローエングラム体制側からは、何のリアクションも無かった。
この沈黙が何より雄弁だった。
*
この雄弁な沈黙に対して、同盟側でも”万の1つ”に備えた準備は進められた。
先に失脚した政治家の中にヨブ・トリューニヒト国防委員長が居た。
その後任に成ったのは、ウォルター・アイランズである。
就任前はトリューニヒト派閥の子分の1人としか見なされてはいなかったが、この危機に直面するや、
「国防委員長の守護天使が、突然、勤労意欲に目覚めたらしいな」
と、宇宙艦隊司令長官につぶやかせる様な活躍を見せたのだった。
その委員長の後ろ盾を得て、シドニー・シトレ統合作戦本部長やアレクサンドル・ビュコック司令長官は、帝国軍迎撃の準備を進めることに成る………。
……。
…帝国領侵攻の作戦案が潰れた経緯が問題視された際、ラザール・ロボス 「前」司令長官は、ヒステリー参謀を野放しにした責任を問われて左遷されていた。
そして、シトレやヤン・ウェンリーが強く推薦したこともあって、士官学校出身者でも無いが百戦錬磨のビュコックが司令長官に抜擢されていたのである。
更には帝国領侵攻の失敗が無かった為、ウランフやボロディンといった優秀な艦隊司令官が健在だった。
そして、内乱による潰し合いも無かった為、同盟軍の戦力は『原作』よりも有力だった。
その戦力を如何に運用するか。
本部長や司令長官は、国防委員長や部下たちとも協議を重ね、幾つかの決断を下した。
その1つが、かつてのイゼルローン回廊、今やイゼルローン要塞に加えて帝国軍派遣部隊が置いて帰るしか無かったガイエスブルクも存在するアルテナ星系に於いて進められた、とあるプロジェクトだった。
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