異世界迷宮に行く筈が~銀河英雄伝説~(中編化)   作:高島智明

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第9話 対決

「同盟側の灯台」星系にて、同盟軍の無人監視衛星を最初に破壊して後、帝国軍は次々に現れる同様の衛星を破壊しつつ、同盟領に侵攻して行った。

この衛星群の通信途絶が、そのまま同盟軍へと帝国軍侵攻を教えていることは承知で、帝国軍は進む。

だがしかし、未だ其の進路上に在るのは無人の星系だった。

 

同盟市民の暮らす有人惑星を持った星域の手前のランテマリオ星系にはアレクサンドル・ビュコック司令長官が陣頭に立つ宇宙艦隊が集結しており、隣り合うガンダルヴァ恒星系の惑星ウルヴァルシーの衛星軌道上にイゼルローン要塞と「ヤン艦隊」そして「奇蹟の魔術師」が待ち構えていた。

 

これ等の情報は、進撃する帝国軍にも、やがて掌握された。

侵攻の絶好の拠点と成り得る惑星ウルヴァルシーを先手を打って抑えられた以上は、短期決戦を強要されていた。

ラインハルト・フォン・ローエングラム程の戦略家にとっては不本意かも知れない。

だがしかし、戦術家としてのラインハルトは戦士の高揚を自覚していた。

ラインハルトが選択した戦術は「俊敏なる蛇」だった………。

 

……。

 

…ランテマリオ星域にて遂に両軍は激突した。

ローエングラム直属艦隊を「頭」に「俊敏なる蛇」の陣形を取った帝国軍が星域に侵入した。

 

これに対し、ビュコック司令長官の指揮する同盟軍はボロディン艦隊を先鋒に分断を狙う。

その同盟軍の戦力は、誰かが知っていた『原作』よりも帝国領侵攻や内乱が無かった分、強化されていた。

更には、もう1つの回廊に向かった帝国軍3個艦隊は、未だガイエスブルク要塞とウランフ艦隊を突破出来ずにいた。

その為、数量的に帝国軍が優勢を勝ち取っていたとは言えない。

更には、ガンダルヴァ星系からイゼルローン要塞とヤン艦隊が駆け付け、尚も数的優勢を打ち消していた。

 

そうで無くとも、百戦錬磨の同盟軍司令長官はしぶとい。

流石の天才ラインハルトと彼の抜擢した名将たちをしても。

戦況は、容易に帝国軍の優勢に傾かない。

予備選力に控えていた黒色槍騎兵を投入し、その帝国軍きっての攻撃力で突き崩そうとしても、百戦錬磨は止めを刺させない。

流石のラインハルトも、僅かに焦りを覚えた。

その焦りが、微(わず)かな隙を生んだ。

 

微かな隙。

「俊敏なる蛇」の「頭」であるローエングラム直属艦隊と後続する各艦隊を繋ぐ第2陣と、同盟軍との間に僅かな隙間が出来た。

ほんの瞬間だけの僅かな隙間。

だがしかし「奇蹟の魔術師」が其れを見逃さなかった。

宇宙の闇を白光が引き裂いた。

 

イゼルローン要塞の主砲「雷神の槌」がローエングラム直属艦隊と、後続する各艦隊との連携を断ち切った。

そして空いた間隙に、通常航行用エンジンに点火していたイゼルローン移動要塞が割り込み、流体金属の銀面に浮遊砲台が浮かび上がって砲火を撃ち上げて来た。

更には、ヤン艦隊副司令官の職人技でコントロールされた艦隊フォーメーションで、ローエングラム直属艦隊を包囲に落とし込んだ。

 

イゼルローン要塞まで使用したヤン艦隊の包囲網に、ローエングラム直属艦隊の大部分は完全に落とし込まれた。

総旗艦ブリュンヒルトは危うく其の包囲網から逃れたものの、もはや其の周囲に残るのは僅かな直衛艦のみだった。

その総旗艦に対して、包囲網に余裕出来次第とばかりにヤン艦隊の分艦隊が迫る。

そう、ヤンは知っていた。同盟軍が勝利する只1つの手段。

今や帝国の掛け替えの無い指導者と成った最高司令官を、戦場で倒すことだと。

 

その危機に対して戦場の他の場所で戦っていたキルヒアイス艦隊が、総旗艦を救うべく陣形を離れて駆けつけようとした。

だがしかし、転進しようとして、同盟軍の老練に付け込む隙を与えていた。

反撃を受けるキルヒアイス艦隊の苦戦が、総旗艦にも届いていた。

 

その報告を受ける間ですら、総旗艦にもヤン艦隊の砲火は迫ろうとする。

そのブリュンヒルトの艦橋で、義眼の参謀がラインハルトに迫った。

「閣下。脱出なさって下さい。キルヒアイス提督の献身を無駄にしない為にも」

「意外だな。卿がキルヒアイスを気遣うとは」

「私はNo.2が不要と申し上げているだけで、キルヒアイス提督個人には何の遺恨も御座いません。

その様な議論よりも、今、閣下がヤン・ウェンリーの手にかかれば、キルヒアイス提督のみならず全ての将兵の戦いが無に帰します。

ブリュンヒルトを捨てて、脱出なさって下さい」

 

ラインハルトが尚も躊躇(ためら)っている瞬間、スクリーンが光芒に満たされ、ブリュンヒルトの船体が揺れた。

ヤン艦隊アッテンボロー分艦隊旗艦トリグラフの3連装主砲が、総旗艦を庇った直衛艦を爆沈させていた。

「もはや、猶予は在りません。脱出を」

尚も迫る義眼の参謀を黙殺するかの様にスクリーンを睨み付けるラインハルトに、オペレーターがラインハルトを呼び出している通信のことを報告した。

 

「ヤン・ウェンリーが、だと。この期に及んで、何を言おうとするのだ」

だがしかし、通信は繋がれた。

 

「ローエングラム公爵閣下。

閣下は何の為に、いや誰の為に戦っているのですか。

誰かとの約束の為ですか。

(この台詞に関しては、少しばかり俺からのヤンの思考の誘導を要した)

貴方の友は生きている。そして、貴方の為に戦っている」

 

キルヒアイス艦隊は尚も総旗艦を救うべく強引に同盟軍の戦列を突破しようとしていて、苛烈な反撃を受けていた。

キルヒアイス艦隊旗艦バルバロッサはエネルギー中和地場に火花を散らしながらも「姉」ブリュンヒルトの元へ駆けつけようとする。

それが其のままキルヒアイスのラインハルトへの思いの様だった。

 

「それとも、大事なものを奪われたからですか。

ゴールデンバウム王朝は、実質もう滅びている。

帝国の実態は、既に実質ローエングラム王朝と言って好い」

 

ヤンの言葉は続く。

「そして、何故ローエングラム王朝と民主主義の理念は共存可能と思えないのですか。

我々は、ともにルドルフ・フォン・ゴールデンバウムのアンチテーゼたりうる。

帝国の旧体制という共通の敵を持った、敵の敵に成りうるはずです」

 

ラインハルトは尚も答えない。

その間にも総旗艦のエネルギー中和地場に、ヤン艦隊の砲撃が火花を散らし、そして駆けつけようとして同盟軍本隊に阻まれているキルヒアイス艦隊旗艦も同様であるとの報告も届き続けていた。

 

「…俺は此処までしか来れない男だったのか…」

答えるべき友は、尚も彼を救おうとして苦戦中だった。

 

ラインハルトは沈黙し、瞬間だけ瞑目した…

そして決断した。




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