ハリエット・ポッターの不思議な冒険 作:新参なめ子
三人組は性転換しています。割とダーズリー一家に対して厳しい
オリキャラバンバンでます。
にゃんこが来りて風が吹く
〈1991年—夏〉
『親愛なる魔女イオラへ
最悪な夏をどうお過ごしだろうか? 俺は今、眠い目を擦りながらこうやって手紙を書いている。どうにも、君への手紙を書く間だけは目を開けていなきゃならないみたいだ。この夏、君への音信不通ぶりは申し訳ないほどだったね。
でも他のペンフレンドにも手紙は書いてなかったんだよ。返事を書かなきゃいけない手紙が山のように積んであるんだ。電話の方が楽なんだけど、僕は今ギリシャにいるし一度に数人と電話することなんてできないだろ? 俺、今おそろしく眠たいんだ。昨日はパーティ三昧だったからね。昼からエーゲ海でクルーズしながら船上パーティ、別荘に戻ってからもシャンパンを何本も開けてどんちゃん騒ぎさ。お陰で今は頭が割れるように痛いんだ。
君は俺がギリシャでパーティばかりしてると思ってるだろう? 確かに俺は夏の一か月は家族で海で過ごすのが好きで、母さんは友達のパーティにどうしても参加するように言うんだ。アメリカの人脈を広げてほしいんだろうね。だけど、今年は母さんにこう言ってやったんだよ。「母さん、俺はセカンダリーに上がってもアメリカに戻らないよ。このままイギリスの学校に進学しようと思ってるんだ。勿論、アメリカの方が民主的だって言う母さんの言い分はわかるよ。だって、アメリカには女王陛下はいないしね。でも、英国人に生まれついたからには、英国紳士になるのも悪くないと思うんだよね」ってね。
だから、今年は早めに英国に帰ろうと思う。入学準備もあるしね。きっと今までみたいにすぐに返事を送れると思う。これからも、俺の善い友達、善き魔女でいてくれ。良い夏休みを。
君の親愛なる友ヒュー・フィールディングより』
「いい夏休みは過ごせそうにないわ」
ぽつりと呟いた途端「ハリエット! ハリエットはどこにいるの」とペチュニア・ダーズリーが台所から呼びかけてきた。
「勉強してるのよ、伯母さん」
ベッドに寝っ転がっているハティ・ポッターは慌てて掛布団の下に手紙を隠し、大声で階下に返事をした。
返事がないと思うと、階段を上がる足音が聞こえてきた。ノックもなしに部屋の扉を開くなり、ペチュニアはベッドの上に横たわっているハティを見てペチュニアは眉宇を顰めた。
「今からダリアちゃんの友達が来るの。うちに居座らないでちょうだい」
ハティはため息をついて立ち上がり、伯母の顔を見上げて嘲笑した。
「あの子に友達なんて残ってたの?」
怒りで顔を真っ赤にするペチュニアを素通りし、ハティは家を出た。
午後といえど空には明るい太陽がのぼっている。ハティは顔にかかったジェットブラックの髪をうっとうしそうにかき上げて、あまりのまぶしさに目を細めた。そしてすぐに近隣の図書館に移動することを決めて、プリペット通りに出た。
——ヒュー、いい夏休みは過ごせそうにないよ。だって、わたしはこの家で邪魔者なの。
サリー州リトルウイジング プリペット通り四番地ダーズリー家。そこがハティことハリエット・ポッターの家である。会社経営を行う裕福な中産階級のヴァーノン・ダーズリーとゴシップ好きのその妻ペチュニア・ダーズリーは母方の伯母夫婦で、両親のいないハティの養父母である。しかしながら、ハティがこの家で家族だったことは一度もなく、夫妻の娘のダリアが大層溺愛されるのに対し召使のような扱いをされて育った。
ハティの一日はこうだ。毎朝、五時には起床しダーズリー家のために大量のベーコンとスクランブルエッグやポーチドエッグを調理。トーストは綺麗なきつね色になるまで焼き上げる。飲み物は新鮮な牛乳と、100%オレンジジュース。サラダに使うレタスとトマトはしっかり水気を切っておくこと。ペチュニアの言葉には「はい」のみ。質問は許されない。伯父ヴァーノンの命令にしても、二つ返事で従わなければならない。反抗すれば食事抜きで階段下の物置部屋に閉じ込められた。
どう考えてもこの家で歓迎されていないのは明らかで、ハティは物心ついて早々に将来のためにこの家に見切りをつけた。将来、どんな職業に就きたいかは具体的には決めていなかったが、この家族と縁を切り暴言・暴力に支配されない生活を送ることがハティの望みであり、将来のために頑張っていた。出来るだけ偏差値の高い大学に進学したかったし、権威のある職業を得たかった。
——だから、絶対この家から出て行ってやる。
実の両親からろくな教育も受けずに、甘やかされるがままに肥え太った従姉妹を横目にハティはひたすら教科書や参考書と向き合ってきたのだ。教師相手にも優等生としての態度を崩さなかったし、近所と学校の評判は上々であった。そのようなハティの努力は実を結んでダーズリー家の虐待に気付いた教師は家族センターに連絡を入れてくれた。お陰で伯母夫婦に虐待をされた悲劇の少女として、以前よりは待遇の良い生活を送れている。もう、従姉妹に殴られる心配はないし、罪人のように監禁されることはない。
今までハティを虐げてきた報いで、ヴァーノン自身と会社の評判はがた落ち、ペチュニアは近所の噂話の的になり針の筵。ダリアも友人を失ったが――まあこれは元々性格が悪く友人も少なかったので、自業自得と言えた。
順風満帆と言えないが、少しは溜飲が下がった。
ハティは意識を参考書に戻して、難解な数式を再び解き始めた。セカンダリースクールのレベルなので、すらすらと解けそうにない。眉宇を顰めて「これを解くのは二回目のはずなのに……」と呻いていると、突然参考書を覆い隠すように影がさした。ハティは怪訝に思い顔を上げると、初老の女性が机を挟んでこちらを覗き込んでいた。彼女はかなり年季の入ったスーツを身にまとい、白髪交じりの黒髪をきっちりとシニヨンにしていた。厳かでありながら品のある佇まいで、どこかのマダムだろうか。と頭の片隅で考えていると、彼女の視線が数式ではなくハティを観察していることに気付いた。
ハティはあからさまに訝し気な顔で、女性を見た。しかし、ハティの不躾な視線を受けながらも女性の眼鏡の奥の瞳はどこか親し気にハティを見返していた。
「ミス・ポッターですか?」
見た目通り、彼女は流暢なクイーンズイングリッシュで訊ねた。まるでBBCのキャスターのようである。「ミス・ハリエット・ポッター?」
「はい、そうですが」
ハティは辺りを気にしつつ、小声で答えた。それから参考書をさっと閉じて、少しだけ椅子をひいた。なぜ見ず知らずの人が自分のことを知っているのだろうか。一抹の不安が胸を過り、じわじわと警戒心が広がっていく。いつでも逃げれるようにすべきだと少しだけ腰を浮かした。
「わたくしは、ミネルヴァ・マクゴナガル。貴方に会いに来ました」
「わたしに?」
「ええ。ご両親によく似ているわね。貴方のお母さまも勤勉な人でした。本当によく似ています……特に綺麗なグリーンの瞳がリリーにそっくりです」
マクゴナガルは目尻を緩めて微笑んだ。
親し気なその言葉に、ハティははっとして幾分か無意識に警戒をとき、立ち上がった。
「母を知っているのですか?」
思いのほか、大きな声が出たと気付いた時には周囲に視線を集めていた。我に返り、口元を手で覆うとマクゴナガルは辺りにさっと視線をやり、小さく囁いた。
「外に出ましょうか」
図書館を出た二人はプリペット通りに向かい、歩き始めた。最初に口火を切ったのはマクゴナガルであった。
「ご両親のことはどこまで聞いていますか?」
「どこまで……と言いますと?」
「貴方のご両親が亡くなり、伯母のダーズリー夫妻に預けられた経緯について聞いていますか」
すらすらと彼女の口から紡がれる内容に、ハティは面食らった。
名前を知っているだけでなく、両親が鬼籍に入っていて伯母のダーズリー夫妻に引き取られたことまで知っているとは。どうしてそんなことを把握しているのか。ハティは警戒するようにマクゴナガルを横目に見ながら、慎重に答えた。
「伯母から聞いているのは、二人がわたしを残して交通事故で亡くなったという話です。酷い事故で死体も残らなかったと。それから、両親は無職だったので建てる墓もなかったと聞きました」
伯母はそれだけハティに言い、追加の質問は頑として許さなかった。ゴシップ好きで、お喋りだがハティの両親の話になると途端に無口になるのだ。常々、そのことをハティは不審に思っていたが母方の親族は伯母のみであり、父方の親族に至っては出会ったことすらないので真相を確かめる術もない。
ふと隣を歩くマクゴナガルの足が止まったことに気付き振り返ると、マクゴナガルは「なんですって?」と呟き唖然としていた。
「ミセス・マクゴナガル?」
「貴方をダーズリー家に預けた時、わたくしの友アルバス・ダンブルドアは貴方の伯母に手紙を託しました。貴方はその手紙を読みましたか? 伯母さんから何も受け取っていないということですか?」
「誰ですか、その人。その……わたしが受け取るものがあったのですか?」
マクゴナガルはわなわなと唇を震わせ「思ったよりひどいわ……」とハティに聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「では、貴方が魔女であることは?」
「魔女?」
ハティは眉宇を顰めた。目の前のマダムが冒涜的な言葉でハティを侮辱しているとは思わなかったが、非現実な言葉に思わずハティはマクゴナガルを見返した。
「そうです。貴方のご両親は魔法族であり、貴方も生まれながらに魔女ではありませんか」
ハティは黙り込み、しばしの間天を仰いでいた。「確かに友達とは未だに魔法使いごっこをします。わたしの名前、セカンドネームはイオランテなんです。だから、友達はハリエットよりもヨランダ・ダンジューやルネ王の娘みたいに劇的な名前だって気に入っていて、魔女イオラって呼びます。だけど、真剣にそういったお話をするにはわたしはもう子どもじゃありません」
「つまり、どういうことですか?」
「つまり、魔法とか魔女のお話を信じるほどわたしは空想好きじゃないってことです。この十年間、本当に大変でした。伯父さん伯母さんにお仕置きされて、五日間水しか与えられずに物置部屋に閉じ込められた時も、殴られた時もフェアリーゴットマザーは助けに来てくれませんでしたし、周りの大人も知らないふりをしていました。だからわたし、ありえないことを期待して待ち続けるほど馬鹿じゃありません」
「なんて、なんてことなの……ハリエット・ポッターがそのような扱いを受けるなんて」
マクゴナガルは硬直した。なぜかとんでもないショックを受けたように唖然としていた。ハティが一体どうしたことかと足をとめて彼女を見ていると、次にマクゴナガルは怒りと悲しみがない交ぜになった顔で目を真っ赤にして唇を震わせた。しばらくして彼女は我に返ると頭を振って、鼻をすするとスーツの中から一通の手紙を取り出した。
簡素な封筒には見覚えがあった。街の文房具屋で最も安価な封筒で、ハティが友人への手紙に愛用しているものである。そこには見覚えのある字で『敬愛する魔法使い様に宛てて』と記されている。
「貴方が先日、我々にあてて送ってくれた手紙です。貴方は以前、ホグワーツからの手紙を受け取りましたね。そして、返信をした。ここに学校に通う費用がない、そもそもホグワーツが何か知らない。手の込んだ完成度の高い悪戯だと書いてあって、わたくしたちはようやく貴方がホグワーツどころか魔法界のことも知らないのではないかと思い至ったのです。アルバス・ダンブルドアは、貴方をホグワーツに連れていくには少しばかり苦労するだろうと言っていました。ですがわたくしは今、少しどころではないと思っているのですよ。貴方には多くを説明する必要があるようですね」
確かにそのような手紙を受け取った。差出人の名前はホグワーツ魔法魔術学校と記されており、ハティは自身を親愛を込めて″魔女イオラ”と呼ぶ友人ヒューが差し出した悪戯かと思い、返信したのだ。しかし、その時の手紙は今しっかりとマクゴナガルの手の中にあった。
ヒューに宛てて出した手紙がどうしてマクゴナガルの手にあるのだろうか。ハティは吃驚して、手紙を凝視した。英国の郵便配達員が住所を間違える筈がない。では――。
「魔法で、そのホグワーツというところにわたしが出した手紙が届いたということですか」
「そうです。ホグワーツには非魔法族出身の子どもたちも通いますから、入学案内に関する手紙は自動的にホグワーツに転送されるよう英国全土に魔法がかかっています」
「貴方はじゃあ本当に……ま、魔女ということですか?」
ハティは信じられない思いでマクゴナガルを見た。
目の前の厳格そうな女性が荒唐無稽な嘘をつくとは思えない。何より、子どもであるハティよりも忙しい大人がとるにたらないハリエット・ポッターの為に悪質な悪戯をしかけるとも考えづらかった。
「わたくしはホグワーツ魔法魔術学校の副学長ミネルヴァ・マクゴナガルです。先ほども申し上げましたね? 貴方は生まれながらにして魔女なのです。貴方は魔法界で最も権威のある学校に、アルバス・ダンブルドアから招かれました」
「アルバス・ダンブルドア?」
マクゴナガルは鞄よりもう一つの手紙を取り出した。それはハティが先日受け取った羊皮紙で出来た分厚い封筒である。ハティは束の間逡巡し、それからマクゴナガルより手紙を受け取った。彼女の理性的な頭は今の状況を「非現実的だ」と否定していたが、少女の心は好奇心で満ち溢れており、今の状況に心を躍らせていた。
手紙はかなり分厚く重い。黄色みがかった羊皮紙の封筒に入っており、宛先はエメラルド色のインクで書かれている。切手は貼られていない。裏返すと紋章入りの紫色の蝋で封がされており、中心には大きくHと書かれていた。その周囲をライオン、鷲、穴熊、蛇が取り囲んでいる。マクゴナガルを見上げると「呼んでごらんなさい」というかのように視線で促した。ハティは恐々と手紙を開いた。
『 ホグワーツ魔法魔術学校 学長アルバス・ダンブルドア マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長 最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会長
親愛なるポッター殿
このたび魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。新学期は九月一日に始まります。七月三十一日着でフクロウ便でのお返事をお待ちしております。 副学長ミネルヴァ・マクゴナガル 』
確かに目の前の女性の名前が記されている。
重苦しい空気を破るように「なーん」と近くの民家の庭から猫が優雅に出てきた。近所のミス・フィッグの飼い猫のココであった。ハティによく懐いている猫で、時々こうして家を脱走してくるのだが、その猫はハティに挨拶するようにすりよってきた。
しかし今はいつものように撫でてやる気にもなれず、ハティは不信感を募らせながら訊ねた。
「その、アルバス・ダンブルドアってどんな人なんですか?」
「近代魔法史に名を残す偉大な魔法使いにしてホグワーツ魔法魔術学校の総長。そして、わたくしの最愛の友です」
「はあ……近代魔法史……その歴史をさかのぼるとマーリンとか、モルガンとかソロモンとかいるんでしょうか」
「ソロモン王は神代最後の魔法使い、そしてマーリンやモルガンは四世紀から五世紀——ホグワーツ創設以前に実在した魔法使いです。貴方が言いたいのはこうですね、全ておとぎ話だと。勿論、貴方がわたくしの説明だけで信じるとは思っていません。だから、実際に見せることとしましょう」
そういうと、マクゴナガルはバッグから一本の木の棒を取り出した。木製の棒にしてはピカピカに磨き上げられており、銀の精緻な装飾が施されている。まるで――魔法使いの杖のように。
「あの―」
ハティが意図を尋ねようとする前に、マクゴナガルは優雅に杖を一振りして、ハティの足元の猫へと向けた。
刹那、愛らしい艶やかな黒猫は一瞬にて肥え太った豚へと変貌をとげた。まるでハティのことなど忘れてしまったかのようにひくひくと鼻を動かし、周囲の地面を嗅ぎまわり始めた。ハティは思わず悲鳴をあげて豚から飛びのいた。
「ココが!」
「このように我々はキルケ―のごとく生き物を豚に変えることも可能です」
それからマクゴナガルは何度か猫に戻したり、豚に変貌させたり、ココを宙に浮かせたりしてみせた。
ハティはポカンと口を開き呆然とするという醜態をさらしながら、気付けば猫を抱えてふるふる震えていた。
「今のって、魔法使いならだれでもできるんですか……」
「勿論、熟練した魔法使いであれば可能です。そして貴方もそうなれる可能性が大いにあります。貴方も幼い頃に不思議な力を使ったことがあるでしょう?」
「……ええ、色々と」
ハティは苦虫を潰したような顔で頷いた。
超能力のような力ならば幼い頃から発揮していた。庭の薔薇の蕾を満開にしたり、いつの間にかベッドが浮いていたり。果ては従姉妹のダリアの隣でブランコを何回転もさせ、飛び降りた時にはペチュニアの鬼のような形相で罵声を浴びせられた。「ダリアが真似をしたらどうするのか、そのような人間離れした危険な行為は二度とするな」ときつく叱責され、ヴァーノンには「けったいなことをした!」と物置部屋に閉じ込められた。いつしか、ダーズリー家の前でハティが力を使うことはなくなり、ハティは余計勉強にのめりこむようになったのだ。
「魔法力のコントロールができない魔法使いの子どもには、往々にしてそういったことがあるのです。ホグワーツに通い、訓練を受ければ貴方はカボチャを馬車に変えることだってできるようになるでしょう」
「……本当でしょうか」
「貴方のお父さまも才能ある魔法使いでしたが、特にわたくしの担当する変身術においては比類なき才能を示しました。努力すれば、お父さまのような優秀な魔女になれるでしょう」
「父も……」
「ええ。お母さまはどちらかというと呪文学や魔法薬が得意なようでしたけどね」
「私の両親が」
口ごもりながらも、マクゴナガルの言葉を信じ始めたハティを見てマクゴナガルは満足そうに微笑み歩き始めた。ハティも彼女につられるようにして後を追う。
「さて、貴方の強情な養父母に会わねばなりませんね。案内してもらえますか?」
「はい」
ハティは呆然と頷き、気もそぞろに家路をたどった。
普段のハティならばその明晰な頭脳でダーズリー夫妻が怒り心頭し、マクゴナガルに無礼な態度をとることが予想できただろう。何せ、ハティは冬の寒い昼下がりに庭の桜の木に「枯れ木に花を咲かせましょう~」と花を咲かせただけでヴァーノンに殴られ、ペチュニアに物置部屋に閉じ込められたのだ。その後、ペチュニアは近所の住人に「四季咲きの桜なのよ」と嘘を言って回っていたが「そのようなバカげたことをするのは、とんでもないことだ。お前はまともじゃない」と一週間はヴァーノンに罵られ続けた。
しかし今となっては魔法を目撃した衝撃でハティの頭はいっぱいだった。
プリペット通り四番地に到着すると、既にヴァーノンは帰宅しているのか駐車場にヴァーノンに車があった。ハティは「伯父と伯母は家にいるみたいです」とマクゴナガルを振り返り、扉を開いた。そして大きな声で「伯父さん伯母さん、お客さん」と言い放った。
「客だと? 来客の予定なんぞ、なかったはずだぞ」
リビングからのっそりと巨漢のヴァーノンが顔を出した。ヴァーノンは値踏みするようにマクゴナガルを下から上へと視線を走らせた。マクゴナガルはヴァーノンの不躾な視線に眉宇を顰めつつも、顎をつんとあげて毅然とヴァーノンを見返した。
マクゴナガルの威厳と品に満ちた佇まいはヴァーノンの眼鏡にかなったのか、伯父は髭をひと撫でして胸を張った。
「どなたですかな?」
「ミネルヴァ・マクゴナガル、ホグワーツ魔法魔術学校の副総長です」
マクゴナガルの厳かな声は家によく響いた。そして、キッチンからは皿が割れる音が響き渡り、ヴァーノンは腰を抜かした。