ハリエット・ポッターの不思議な冒険   作:新参なめ子

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オリ主の見た目はリリーの幼少期にそっくりです。ただし、雰囲気と性格はジェームズ+ヴァーノンの傲慢さと暴力性が含まれた最悪の組み合わせになっています。それらをきれいさっぱり覆い隠しているのが日本人特性です


組み分けの儀式 3

 

 

 

 

 マクゴナガル教授に心のうちに秘めていた過激な思想を知られてしまった――ショックで口をポカンと開けていると、教授たちの席で何も知らないひときわ大柄なハグリッドはハティに向かって満面の笑みでサムズアップした。もしかして、グリフィンドールのOBなのだろうか。

 グリフィンドールに組み分けされたことに安堵が込み上げてきて、体からふっと力が抜ける。自分の脇を別の新入生が足早にスツールに向かいすれ違うのを横目に、ハティは転げるようにグリフィンドールのテーブルに向かった。グリフィンドールの席では赤毛の双子を筆頭に上級生たちが「ポッターをとったぞ!」と歓声を上げていた。

 

 金色に輝く「P」のバッジをローブにつけた女子の上級生——監督生(prefect)のPだろう――が席を立ってハティを出迎え、ハグをした。「ハイ、監督生のレイチェル・チャーチよ。ハリエット・ポッターと同じ寮生になれて光栄だわ。困ったことがあったら相談して」

「ありがとうございます」

 おずおずとハグを返してレイチェルと離れると「監督生のパーシー・ウィーズリーだ」と同じくPのバッジをつけたロニーの兄に握手を求められ彼は力強くハティの手を握って振った。

 ロニーの兄と握手を終え、きょろきょろとグリフィンドールの席を見渡し空席を探していると「こっちよ!」と弾むような声と共に一人の少女が笑顔でハティで手を振った。亜麻色の髪にアンバーの瞳、ハティよりも先に組み分けの選定を終えたフィリパ・ポップルウェルであった。フィリパは既に社交性を発揮しているのか彼女の周囲には男女の新入生が入り混じっており、フィリパの隣は二つほど席が空いていた。ハティはフィリパの善意に甘えることにして、ふらふらとおぼつかない足取りで向かった。

 

「ここ、座ってもいい?」

「勿論よ! ぜひ隣に座ってちょうだい。みんな、貴方と話したがってるんだから!」

 ハティはあけすけな物言いに、苦笑した。しかし、不思議とフィリパの口調には純粋な好意が滲んでいて不快にならなかった。

「貴方をホグワーツ急行で見た時から、格好いいって思ってたのよ。私はあんな風にパンジーに啖呵を切れたことがなかったんだもの!」

「パンジー・パーキンソンはお友達じゃないの?」

「幼馴染よ! でも、特別好きなお友達じゃないの。家同士の関係で仲良くはしていたけどね」

 そう言って屈託なく笑うフィリパは愛らしかった。

 フィリパ・ポップルウェルという少女はハティの人生で出会った少女の中でも非常に美しかった。生き生きとしており、型に嵌らない、魅力がある。亜麻色の髪は幽かな蝋燭の明りでも煌めき、アンバーの瞳は何百年も眠っていた琥珀のような上質な輝きがある。鼻は細くとがっており、格好良い。華やかに笑う唇は薔薇のように赤く、反対にシミ一つない肌は淡雪のように白い。亜麻色の髪を結い上げたリボンは糸とビジューで精緻な刺繍が施されており、一種の「芸術作品」のような質の良さがある。ハティは簡素な自分のベロア生地のカチューシャがたまらなく田舎じみて、野暮ったく見えているのではないか不安になった。

 しかし、席を移動するには時すでに遅くフィルはハティの手を握って内気さや打算の影すらない陽気でしたしげな微笑をこちらに向けていた。

 

 

「私、ホグワーツに入ったらそんなの関係なくお友達が欲しいと思っていたのよ。でもホグワーツは殆ど子供の頃からの持ち上がりじゃない? なんて嫌なところかしらと思っていたのよ。だから、本当はピレネーにあるボーバトンに行く予定だったの。ボーバトンに留学した兄弟が素敵なところだって言うんだもの――でも、今は心底ホグワーツで良かったと思っていてよ。だって、貴方を見た時に私は貴方を好きだと思ったし、貴方も私を好意的に見てるのがわかったんだもの。だからもう、お友達って言えるわよね?」

 思いがけない発言にハティは吹き出して、とめどなく笑った。フィルも鈴を転がすような笑い声をあげた。

 

「私のどこが好きなの?」

「そうね、貴方の瞳ってエメラルドみたいにとっても魅力的よ。それにジェットブラックの髪があいまって、血統書付きの美しい子猫が優雅に歩ているようだって思ったの。何より、貴方はパンジーを前にして勇気があってクールだった。私、貴方みたいになりたいって思ったのよ。そうしたら、グリフィンドールに組み分けされたわ。これって、運命的だって思ったわ。さっそくだけど、私のことはフィルって呼んでほしいの――煤の魔女のフィリパ・ポップルウェルよ」

「煤の魔女って?」

「ポップルウェルの魔法族はみんなフルーパウダーを開発したイグナシア・ワイルドスミスの子孫なの。彼女は尊敬を込めて煤の魔女とよばれていたわ。だから、フルーパウダーの製法を受け継ぐ私たちポップルウェルの魔女もみんな煤の魔女と呼ばれるわ」

「すげえ、フルーパウ社の社長令嬢ってこと!?」

 驚いたように声をあげたのはくすんだ茶色の髪と、ブルーの瞳をした少年である。ハティたちとは斜め向かいに座っている。ぴかぴかのローブを身に着けていることから新入生であることはわかった。

 フィルが「そうよ、知っているの?」と魅惑的な微笑をひらめかせ、まっしろな小さな歯を見せて笑うと少年は顔を真っ赤にして「そ、そうなんだ」と何度も頷いた。

 

 

 ハティが一体何のことだかわからない。という顔で目を白黒していると、少年は前のめりになりながら熱心にフィルを見つめて言い募った。

 

「俺、知ってるよ。ダイアゴン横丁にある大きな会社だろ? 母さんが運送業もやってる大企業だって言ってた」

「そうね、おじいちゃまが商才に長けてたから、そちらの方面でも大きく成長したんだってパパは言っていたわ」

 フィルが問うように小首を傾げると少年は「シェーマス・フィネガンだよ」と恥じ入るように小さな声で囁いた。

「フィネガン……アイルランドから来たの? 私はロンドンのハムステッド・ヒースから来たのだけど、エリンには縁があるの。私のママはエリン(アイルランド)の出身なのよ」

 シェーマスが爆発せんばかりに顔を真っ赤にした。

 ロンドンのハムステッド・ヒース、ロンドンの高級住宅街である。ハティはやっと自分の理解できる単語が出てきて内心で嬉しくなった。それにしても、魔法族はアイルランド本土をエリンと呼ぶのか……とハティが感心しながら耳を傾けていると、帽子が「グリフィンドール!」と高らかに叫んだ。顔を上げて壇上を見ると、ちょうどロニーが顔を真っ赤にしながらふらふらとグリフィンドールの席に転がってくるのが見えた。ロニーは赤毛の兄三人に熱烈なハグを受け、双子にひとしきり髪をぐしゃぐしゃにされた状態でハティの元へとやってきた。

 

「グリフィンドールで良かった、パパとママに怒られずに済むよ」

 ほっと安堵したようにロニーが肩の力を抜いた。

「グリフィンドールじゃないと、怒られるの」

「ウーン……確かに怒られたりはしないかも。でも、うちは両親も兄もみんなグリフィンドールなんだ。だから、あたしだけ別の寮に入ったら大問題だよ」

 そんなものかしら。とハティが怪訝に首を傾げていると、フィルが天真爛漫に笑った。

 

「あら、うちの家はみんな寮がバラバラなのよ。パパはハッフルパフ、ママはスリザリン、双子の兄はグリフィンドールとスリザリンで、三番目の兄はハッフルパフ、四番目の兄はレイヴンクロー。そして私はグリフィンドールだわ」

「なるほど、兄妹で全寮コンプリートしてるのね」

「そうよ!」

 からからとフィルは笑った。

 ロニーの胡乱な眼差しを受けて、フィルは「私はフィル、フィリパ・ポップルウェルよ」と手を差し出してロニーの手を握った。ロニーはフィルの真新しいローブや華やかなリボンに視線を走らせ、我に返ったのか恥ずかしそうに耳まで真っ赤になりながらくしゃくしゃの赤毛を手で梳いてから、フィルの手を握った。

「あたしは、ロニー。ロニー・ウィーズリー」

「そうよね、燃えるような赤毛だからウィーズリー家の人だと思ったわ。貴方の兄弟のこと、私知っていてよ。グリフィンドールに入った兄のクレメントが貴方の兄弟のビル・ウィーズリーと仲良かったのよ。知らない?」

「ボーバトンに留学したっていう、クレメント? ビルがお金がなくてブラジルに留学出来なくなって、留学できたクレメントが羨ましいって言ってたのを覚えてる! じゃあ、あんたはお嬢様なんだ?」

「あら、びっくりするほどお金持ちってわけでもないのよ。クレメントは投資会社で頑張って働いてるし、パパは入学する前に贅沢をしたかったら勉強を頑張って良い会社か魔法省に就職しなさいって言ったの。父はママいわく、骨の髄までハッフルパフだから子どもである私たちに努力をさせたがるのよ。この私が就職の為に勉強を頑張るなんて、滑稽よね? ママは努力をすることが嫌なら、スリザリンに入ってお婿さんを見つけなさいって言ったけど、生憎と私はすごく頭がいいのよ」

「そうなんだ」

 ロニーが曖昧に返事をして、ハティにちらりと物言いたげな視線を寄越した。

 自信に満ち溢れた美少女を前に早くも劣等感と嫉妬という壁にぶつかっているようだった。

 壇上ではようやく最後の組み分けが終わったようだった。ハッフルパフに少年が消えていくのを最後に、マクゴナガル教授がてきぱきと巻紙をリボンで結んでスツールと帽子を持って大広間を出た。マクゴナガル教授が大広間に戻り、席につくと黄金の玉座に腰掛けた老人は重い腰を上げて鷹揚に手を広げて微笑んだ。まるで、生徒に会えるのがこの上ない喜びと言わんばかりに。

 

 

「新入生たちよ、ホグワーツ入学おめでとう! 歓迎会を始める前に、一言二言、言わせていただきたい。Nitwit(まぬけ)! Blubber(よわむし)! Oddment(はみだし者)Tweak(ひねくれもの)!」

 ダンブルドア教授は満足そうに腰を下ろして、大広間は生徒たちの拍手喝采に包まれた。

 ハティは手を叩くべきか、笑うべきか困惑して辺りを見渡した。上級生のパーシー・ウィーズリーが笑顔を浮かべてワクワクしている様子なので、ハティは呆れて訊ねた。

 

「これって子どもの悪態じゃない? 笑うところ?」

「勿論、笑うところさ! あの人は世界一の魔法使いで、天才だからね、ちょっとばかりお茶目なところはあるけどね、うん。それよりも君、待ちわびたディナーの登場だよ」

 ハティはいつの間にか黄金の大皿に食べ物が山盛りになっていることに気付いて仰天した。手元のゴブレットにも注いだ覚えのないオレンジジュースが並々と満たされている。ハティはこんなにたくさんの食べ物が並んでいるところは見たことがなかったので、思わず歓声をあげた。ローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、茹でたポテト、グリルポテト、フレンチフライ、ヨークシャープディング、豆、にんじん、グレービーソース、ケチャップ……と肉料理が多いように思えたが、少し離れたところにはサーモンウェリントン、フィッシュアンドチップス、サーモンとほうれん草のクリーム煮、スモークサーモン、ポーチチドサーモン、タラのスタッフィングハドックと魚料理が用意されている。

 鼻腔を擽る美味しそうな匂いに、ハティはぐうぐうと自分のお腹が音を立てるのを聞いて急速に空腹を自覚した。

 

 そういえば、昼のサンドイッチとお菓子をつまんだのが最後だ。意識すると、口の中に唾液が滲んできてハティは金色の輝く皿を手に魚の方へと向かった。

 ポーチドサーモンとタラのスタッフィングハドックの両方で手を彷徨わせていると、急に後ろから伸びてきた手がハティの持っていた皿をとりあげた。

 

「そんなに迷ってるなら食べたいものを全部少しずつ食べればどうだい?」

「嫌いなものはある?」

 いつの間にか背後に現れていたフレッドとジョージがにやりと笑った。

 ハティは吃驚しすぎて小さく悲鳴をあげた。硬直していると、彼らは次々と料理を取り分けてハティの皿に盛りつけていった。

 

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 双子はハティに皿を押し付けると、ウインクをして友人たちの席へと戻っていってしまった。

 

「あいつらなんだったの?」

「料理を取り分けてくれた……」

「やだあ、あの双子が紳士みたいな振る舞いをしてるなんて!」

 ロニーは気味が悪そうに身震いをする。

 フィルは早速寮生との人脈を築くことにしたのか、料理を取り分けながら男女や年齢関係なく周囲の寮生と談笑しているようだった。先に食べることにした。ペチュニアの作るポーチドサーモンは生臭くて苦手だったが、このポーチドサーモンは下処理をしっかり行っているのかほんのりハーブの香りと味がして臭みがない。付け合わせの牡蠣もブイヨンの味が効いていて、何よりバジルソースがおいしい。ハティが頬を緩ませて舌鼓を打っていると「おいしそうな顔ですね」という悲し気な声が聞こえた。

 顔を上げると音もなくひだ襟服のゴーストが悲し気に座っていた。

 

「えーっと、食べられないの」

「かれこれ五百年ほど食べていません」

「五百年前……エリザベス一世の時代に生きていた人なの!?」

 そんなに昔の人なのか、とハティは改めて目の前のゴーストの全身に視線を走らせた。五百年前といっても、当時は身分の高い人物だったのだろう。ひだ襟服で盛装をしており、ここが魔法使いの城でなく王族の居城であったならば臣下の一人と見間違えたことだろう。

 

「まだ自己紹介をしておりませんでしたね。私はニコラス・ド・ミムジー=ポーピントン卿と申します。お見知りおきを。グリフィンドール塔に住むゴーストです」

「あたし、あなたのこと知ってるよ!」ローストビーフにグレイビーソースをかけていたロニーが顔を上げて口を挟んだ。

「兄さんたちから貴方のこと聞いてる! ほとんど首無しニックでしょう?」

 首無しニックは残念そうに頭を振って「呼んでいただくのであればむしろ、ニコラス・ド……」と言いかけたが「ほとんど首無し? 貴方はどうして首無しになったの?」と見知らぬ少女が口を挟んだ。

 ハティたちの向かいの席で濃いブロンドの髪の少女と仲睦まじく話していた少女だ。同じくコーカサスのようだが肌は浅黒く、黒曜石のように光沢のある黒髪と黒い瞳をしている。顔立ちは端整で華やかなパーツがそれぞれ絶妙な感覚で小さな顔に植わっており、どこかエキゾチックだ。耳もとには大振りのゴールドのジュエリーが揺れておりどこかコスモポリタン的な意匠であった。

 少女たちの無邪気な問いかけに、ニコラス卿が会話が自分の思惑とは違う方向に進んでいることに気を悪くしたように腹立たし気な顔で「それはですね、このように」と左耳をひっぱった。いかりを孕んだ顔はぐらりと左側に傾いて、蝶番のように肩の上に着地をした。皮一枚で繋がっているそこを直視したハティは、あまりの凄惨さに思わず盛大に噎せてしまった。

 

「ニコラス卿! 何をやってるんです……ほら落ち着いてこれを飲むんだよ」

 パーシーがハティの背中を摩りながらオレンジジュースを渡してくれたので、ハティは慌てて口腔内に溢れかえったクリームを呑み込んだ。

「食事中に見せるものでもないでしょう」

 パーシーに睨めつけられたニコラス卿は、肩を竦めてはす向かいに座るシェーマスたちの方へ滑るように逃げていった。

「全くあの人は……大丈夫かい?」

「平気です」

「ロニーも言葉には気をつけろよ」

「あたし、悪いこと言ってないもん」

「ごめんなさい、きっと私の質問がニコラス卿の気に障ったのね」

 申し訳がなさそうに少女が肩を竦めて「私、パールバティ・パチルよ」とハティにナプキンを寄越した。口の端にクリームがついていたらしい。とても恥ずかしい。慌てて口の端を拭って、ハティはパールバティに「ありがとう」と御礼を言った。

 

「素敵なピアスね」

「ああ……叔母のファティマがインドジュエリーの輸入から販売まで行っているの。だから、毎年ジュエリーを送ってくれるのよ」

 パールバティは自分はインドが英国の植民地だった頃に移民した魔法族の末裔だと語った。双子の妹がいて、彼女はレイヴンクローに組み分けされたのだと聞いてレイヴンクローの席を振り向くと確かにパールバディに瓜二つの美しい少女が理知的な笑みを浮かべてマンディ・ブロックルファーストと談笑していた。ポップルウェル兄妹といい、パチル姉妹といい血縁で必ずしも同じ寮に組み分けされるわけではないのだな。とハティは思った。

 パールバティは他の生徒同様、ハティが”生き残った女の子”と言うだけあって遠慮がちに「名前を言ってはいけない例のあの人を倒した時のことを覚えているか」と訊ねてきたが「覚えていないし、闇の帝王を倒したような不思議な力を自覚したことはない」と笑い飛ばすと、気が抜けたように彼女も笑った。

 

「貴方はもっと特別な人だと思っていたわ――勘違いしないでね、悪い意味じゃないの。もっと気位の高い子なのかと思ったけど、話しかけやすいし安心した」

 そう言って、隣の席に戻ってきたラベンダー・ブラウンをハティに紹介した。

 ラベンダーは輝くゴールデン・ブロンドの長い髪を美しく巻いており、ふっくらとした頬は桃色で熟れたように輝いていた。なだらかな眉の下の大きな目は鮮やかなブルーで、唇もぷっくりとしていて愛らしい。大振りのピンク色の花が装飾されたカチューシャをつけていて、どこか不思議の国のアリスのような雰囲気を漂わせていた。

 彼女はハティの存在に興奮しながらハティを質問責めにした。答えづらい質問は曖昧に言葉を濁し、苦笑を滲ませてラベンダーの質問攻撃を適当にいなしてロニーに振った。その頃には目の前に大量のデザートが広がっており、色んな味のアイスクリーム、アップルパイ、ヴィクトリアケーキ、レモンドリズルケーキ、苺タルト、バノフィーパイ、トリークルタルト、エクレア、ジャムドーナツ、ゼリー、季節のフルーツ、ライスプディングと数えきれない種類のデザートが山盛りになっている。

 ハティがイートン・メスを食べていると、ロニーは持ち前のコミュニケーション能力を発揮していつの間にかハティへの質問攻撃はやんで家族の話題に移行していた。

 

「私は母方の祖母がマグル生まれなの、だから混血だわ」

 とパールバティが言った。

 祖父母の誰か一人でもマグル生まれだならば、混血になってしまうようだ。それならば、魔法界における純血は珍しいのではないかと思っているとロニーが何でもないことのように続けた。

「あたしは純血。パパとママも古い家の生まれみたいだったけど、卒業して駆け落ちしたの。それで、あたしたち兄妹が生まれたってわけ」

 ラベンダーが口笛を吹いた。

「素敵、ロマンチックだわ! ご両親はもしかしてグリフィンドールとスリザリンだったのかしら?」

「残念だけど、どっちもグリフィンドール。でもママがお嬢様だったから、あんまり裕福じゃないパパとの結婚は許されなかったってママが言ってた。ラベンダーは?」

「あたしも純血よ。でもロニーみたいに両親にロマンチックな結婚話はなかったわ。きっと、あたしがマグル生まれと結婚しても駆け落ちするようなことにはならないと思う。勝手にそうしなさいって、パパは言うと思うわ。ねえ、今年のマグル生まれに格好いい男の子はいたかしら?」

 ラベンダーが目を輝かせて大広間を見渡した。彼はレイヴンクローに目をとめて「組み分け前にマルフォイと口論してたヒューとアクラムって子、良くない?」と口元にチェシャ猫のような笑みをひらめかせた。

「あたしの感性では、あの二人ってとってもイケメン(good-looking)だわ」

「それは私も思った!」

 パールバティも即座に同意する。

 ロニーを見やると彼女は「ビルには負けるけど、あたしもイケメンだと思う」と続くのでハティは焦って「マグル出身にハンサムな子がいたわよ」と気が付くと口を挟んで、シェーマスの隣で杖を振りまわしているディーン・トーマスを指さしていた。

「ディーン・トーマスよ。なかなかのイケメンだと思うわ」

「嫌よ、なんだかガキって感じ」

 ラベンダーは顔を顰めて一蹴した。

「えーっと……じゃあハッフルパフに組み分けされたティモシー・アーヴィングは?」

 宣言通りマグル生まれのティモシー・アーヴィングはハッフルパフに組み分けされていた。

 身なりの異様に整った品のある少年と談笑している。姿勢正しく席についているのを見て、ハティはやはり牧師の息子らしく行儀が良いと思った。

 

「まあまあよくないかしら?」

 とパールバディ。ロニーは「ちょっと……かなり真面目そうじゃない?」と小首を傾げた。

「だって、牧師の息子だもの」

「牧師の息子! いいわね、背徳的で! エロウェン・ウォーターストンの恋愛小説みたいだわ!」

 気に入った! と興奮するラベンダーにハティはほっと溜息をついた。

 少し離れた場所ではハーミスがパーシーと額をつきあわせて至極建設的な話をしていた。

 

「スネイプ教授には気を付けた方がいい。スリザリン至上主義で他の寮を目の敵にしているんだ。特にグリフィンドールは謂れのない理由で減点してくるから、自分がやらかしただなんて思いつめない方がいいよ」

「僕は馬鹿じゃないから、そのスネイプ教授に減点される隙なんか見せないよ。きっと。それに、授業で優れたところを見せれば加点してもらえるんだろ?」

「それはそうだけど、スネイプはその常識が通用しないんだって……スネイプはスリザリンの寮監だし、スリザリンの申し子みたいな——要するにかなり嫌な奴なんだよ」

 自信満々のハーミスにパーシーの忠告は響いていないようで、パーシーは困ったように頭を振っていた。

 スリザリンの寮監というスネイプ教授はそんなに評判の悪い教授なのだろうか、とハティは怪訝に思って教授たちを見渡した。教授たちは品よくデザートを楽しんでいるようだが、一体誰がスネイプ教授なのか見当もつかなかった。その時ふっと黒衣の魔法使いと目があった。

 年のころは三十がらみ。暫く洗髪をしていないかのようなウェットな黒髪に、青白い肌色をしている。顔の中にはよく目立つ鉤鼻があり、厳格かつ陰気な顔つきをしている。しかし、その黒い目はハティを通して何かを思い出すように遠い眼差しをしていた。紫色のターバンを被った教授と話し込んでいたようで、ターバンの教授は丁度ハティに背を向けたところであった。ターバンごしにあった黒い目はすぐにそらされたが、刹那ハティの額の傷跡に鋭い痛みが走った。

 

「い……っ」

「どうしたの」

 丁度、レモンドリズルをとりにきていたレイチェル・チャーチが心配そうに顔を覗き込んできた。

「少し頭痛が。あの黒ずくめの教授はどなたですか」

「ああ……スネイプ教授よ」

 とハティの視線を追って、レイチェルが顔を顰めた。

「スリザリンの寮監で、ポーション学の教授なの。あの人には気を付けてね、グリフィンドールを目の敵にしているからグリフィンドール生はポーション学で減点されることが多いのよ。そしてその隣にいるのが今年、闇の魔術に対する防衛術の教授を務めるクィレル教授。あの二人は本当は仲がよくないのよ。スネイプ教授は本当はクィレル教授のポストに就きたかったらしいから」

「闇の魔術に対する防衛術ですか?」

「ええ、そうよ。名前の通り、闇の魔術に対する防衛を学ぶの。毎年、教授が次々と変わるからあまり実用的な授業ではないけどね。平和な時代だから、ダンブルドアも長く教授が続かないことをあまり気にしていないみたい」

「そうなんですね」

 ハティは気のない返事をして、ずっとスネイプ教授を見ていた。

 スネイプ教授がグリフィンドールの上級生から評判が悪いからではない。ハティを見るあの遠い眼差しが心にひっかかったからだ。しかし、ハティがいくらスネイプ教授を見つめても彼がこちらを振り向くことはなかった。そのうち、フィリパが女の子を一人連れて戻ってきたのでハティの意識は強制的に宴の席に引き戻された。

 

 とうとうデザートが消えてしまい、宴が終わるとダンブルドアは黄金の玉座から再び立ち上がった。大広間が水を打ったように静まり返る。ダンブルドアは一つ咳払いをして口火を切った。

 

「みな、全員よく食べ、よく飲んだことだろう。ではまた二、三言わせていただくとしよう。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある」

 ハティは欠伸を噛み殺した。襲い掛かる眠気と戦いながら、ダンブルドアの言葉を脳内で反芻した。

 敷地内の森は禁足地であるため立ち入りは禁止である、休み時間に廊下で魔法を使わないように――これにはハティは制限があるのかと驚いた。二週目にクィディッチの予選がある。

 

「最後に、非業の死を遂げたくない者は、今年いっぱい四階右手の部屋には立ち入らぬように」

 非業の死? ハティは耳を疑ったが、他の生徒を見渡すと疑問に思っている様子もなく変わらぬ表情で聞き入っていた。

 ただ一人、向かい側で真面目な顔をしたパーシーは顔を顰め、不満げにぽつりと呟いた。

「妙だな……立ち入り禁止の場所があるときは、必ず理由を説明してくださるのに……」

 ハティのもの言いたげな視線に気付いたのか、パーシーは付け加えた。

「森には危険な魔法動物がたくさんいるんだよ、大人の魔法使いも立ち入りを禁止されている。でもそれは誰でも知っていることだから、不思議じゃない。せめて僕たち監督生には訳を教えてくださってもいいのに」

「さて、寝る前に校歌を歌うとしよう!」

 背後の教授たちの笑顔が強張る。

 ダンブルドアが指揮棒のように魔法の杖を振り、生徒たちはばらばらの音程でメロディを歌い始める。ハティは、自分は歌うもんか。と頑として口を開かず、堂々と前を見た。教授たちは、あのマクゴナガル教授でさえ引きつった笑顔を浮かべ校歌を歌っていたが唯一スネイプ教授だけは呆れたように頭を振り、唇を引き結んで斜め下を向いていた。ハティの中で、仲間だ。と同胞意識が芽生えた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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