ハリエット・ポッターの不思議な冒険   作:新参なめ子

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楽しいホグワーツ生活 3

 

 

 

 

 金曜日、ようやく一週間の終わりが見えてきて二人は溌剌とした身のこなしで大広間に向かった。

 

「よし、もうこのルートは覚えたぞ!」

 大袈裟に喜ぶロニーを、ハティは深い隈が刻まれたどんよりした目を向けて大鍋を背負いなおした。

 昨日はマクゴナガルの課題をフィリパとプリシラの三人で早々に片付けることができた。二人とも、読書家ということもあって勉強に対しても勤勉であり集中力が高かった。そのため、課題は正確かつすぐに終わったがその後が問題であった。

 プリシラの朗読会という名の布教が始まったのである。お菓子をつまみながらの愛読書紹介とフィリパのグットルッキングガイ談義は深夜にまで及び、ハティ達がベッドに入ったのは日付が変わってのことだった。おかげで今日は寝不足であった。

「今日の魔法薬学の教室への道順、わかる?」

 ロニーは笑顔のまま硬直した。そしてぐったりとグリフィンドールの席について、オートミールをたぐりよせた。

 ハティはミルクとフルーツ、フル・イングリッシュ・ブレックファーストを選んで無言で口に入れ始めた。

「知ってた? 今日の授業って、スリザリンの奴らと合同なの。スネイプはスリザリンの寮監だし、いつもスリザリンを贔屓するらしいよ」

「それ、レイチェルにも聞いた。監督生が下級生に愚痴を言うくらいなんだから、相当ひどいみたいね」

「マクゴナガルもスネイプと同じくらいグリフィンドールを贔屓してくれないと帳尻会わないよ」

 ロニーは嘆くように天を仰いだ。

 隣で聞いていたシェーマスが「そりゃあ、あり得ねえだろ」と諦めたように頭を振った。マクゴナガルの厳しさはグリフィンドール寮生にも定評があった。

 

「あ、郵便よ」

 誰かがそう言ったのを皮切りに、広間に数百という梟が飛び込んできた。

 入学してから数日、これは毎日の習慣で決まった時間に梟たちが一斉に大広間に飛び込んできて手紙や郵便物を運んでくるのだ。今のところハティは梟通信で注文した本やお菓子くらいしか受け取ったことはなく、未だに手紙は一通も来ていない。アルテミスはいつもほかの梟に混じって野花を口にくわえてハティの元にやってくると、それを荷物代わりに落としてはハティの髪を甘噛みしたり、トーストを齧る。そして飽きるまでハティと戯れ、ご褒美の梟フードをもらって、小屋へと帰っていくのだ。

 

 ハティに手紙を送ってくれる相手は誰もいないため、こうしてアルテミスが花を詰んできてくれるのはハティはとても嬉しかったが、今日はどうやら様子が違うようだった。アルテミスはオレンジジュースの瓶の手前に華麗に着地すると、ハティの黄金の皿の隣に手紙を二通落とした。一通目はハグリッドで、二通目は梟通信からのメールマガジンだ。

 

「手紙? 大量だね」

「あー、うん」

 ポリッジをかきこみながらロニーがちらりとこちらに目を向ける。一つ目の封を切って手紙を取り出すと、お世辞にも美しいとは言えない大きな字で走り書きがしてあった。

 

『親愛なるハティ

 金曜日の午後は講義がないはずだな。よかったら三時ごろお茶を飲みにきませんか。君の一週間がどんなだったか色々聞きたいです。アルテミスに返事を持たせてください。 ハグリッド』

 

 ハティは温かな文面に思わず笑みを零した。

「ハグリッドからの手紙だった。今日の午後、一緒にお茶をしませんか? って。ロニーも一緒にどう?」

「いいの? っていうか、あの人とそんなに仲が良かったの?」

「まだ一度しか会ったことない。でも、すごくよくしてもらったの。両親と仲が良かったみたいで、このアルテミスもハグリッドがくれたんだ。すごくおおらかですごく優しい人だよ」

「そんなにハティが言うなら、あたしも行こうかなあ」

「わかった。じゃあそう返事するね」

 鞄の中から硝子ペンとインク、そしてレターセットをとりだしてハティは返事を書き始めた。最初の一文字を書いた瞬間、ハティの耳元でシュッと風を切る音が聞こえた。驚いて顔を上げると、見覚えのないミミズクが行儀よくハティの肘の隣に着地し羽をふくらませていた。

 

「なに、この子。ロニーの梟?」

「違うよ! うちのはもっとよぼよぼだもん。あっ……この子、ハティ宛ての手紙を持ってるよ!」

 ロニーが慎重にミミズクの口から手紙を受け取って、ハティに寄越した。

 ハティは困惑しながら手紙を受け取った。封筒を裏返したハティは、そこに並んだ端整な文字の羅列を見て慌てて鞄の中に突っ込んだ。

 

「誰から?」

 ロニーが身を乗り出すように聞いてきたので、ハティは慌てて頭を振った。

「知らない人」

「ラブレターってやつぅ?」

 ロニーがにんまりと笑って、ハティの顔を覗き込んできた。

 ハティは咄嗟に「そんなんじゃないよ」とロニーから目をそらした。それは全部嘘で、差出人はドラコ・マルフォイであった。ハティは後で手紙を読もうと思いながら、トーストをかじった。

 

 

 

 昼食後、二人は一旦グリフィンドール寮に戻った。ロニーが魔法薬学の授業に使用する巨釜やナイフを持参していなかったからだ。二人は肖像画に道順を尋ねながら、地下にある魔法薬学の教室へとなんとか到着した。

 そこは今まで二人が使用したどの教室よりもひんやりしていて肌寒く、壁際のキャビネットには所せましとガラス瓶が並べられていた。瓶の中には魔法動物らしきものや見覚えのない奇妙な形をした植物が浮かんでいて、マグルでいう化学の教室を思わせる。

 

 ハティはポーションを調合するという本格的な魔女の授業に心躍らせながら、辺りをじっくり見渡した。教室内の席はすでにほとんど埋まっており、空いているのはハーミスの隣だけだったのでハティが彼の隣に腰を下ろすと、ハーミスとロニーは嫌そうに顔を顰めていた。

 ハーミスは二人に一切口をきかずにむっつりと教科書を読みふけっていた。図書館でハティが恫喝した事件が未だに彼の中で尾をひいているようだったし、ロニーはホグワーツ急行で嫌味っぽく顔の汚れを指摘されたのを未だに腹に据えかねているようだ。ハーミスが本当にマクゴナガルに告げ口をしていないかハティは気になっていたが、ハーミスは暇さえあれば勉強をしていて声をかける隙がない。休憩時間になれば誰よりも早く教授のもとへ足を運んで質問をし、次の教室に足を運んで予習のために教科書をよみふけっている。昼も食事をそこそこに図書室や談話室の勉強スペースへこもり、監督生に就寝を促されるぎりぎりの時間まで予習復習をしているようだ。

 声をかける隙を見つけられないのはハティだけではなくて、今のところネヴィル・ロングボトム以外の同級生の誰もがハーミスとまともに話したことがないに違いない。というのは、彼を毛嫌いするロニーの弁である。

 

 

 ハティは小さく溜息をついて、辺りを見渡した。

 スリザリンとの合同授業なので、教室の雰囲気は最悪で、いつもは騒がしくお喋りや杖をふるっているグリフィンドール生はこそこそと囁き声を漏らしている。しかし例外はあって、社交的なフィリパはスリザリンの男子生徒二人と何やら額を寄せ合って内緒の話をしているようだった。

 大多数のスリザリンの生徒はそんなフィリパとスリザリンの男子生徒二人を居心地の悪そうな顔で見ている。彼らは自身の寮監が講義とするだけあって、自分たちが優遇されると信じているのか、余裕たっぷりとにお喋りに興じている。他の寮との合同授業はそうでもないのに、グリフィンドールとスリザリンという険悪な二つの寮が揃っているだけあって、寮ごとにきっちりと教室を二分して座っているのも特徴的だった。

 

 

「フィルは誰と話してるのかしら?」

「さあ」

 ロニーはちらりとフィリパを一瞥して、興味がなさそうに呟くと栗のように艶やかな褐色の髪を揺らして、前にの席に座っていたプリシラがくりると振り向いた。

「あの二人、フィルの幼馴染のジャスパーとディランよ」

 聞き覚えのある名前だと考えていると、隣でロニーが「ジャスパー・アリアネルとディラン・ファーンズビーだよ」と嫌そうに教えてくれた。「あの子、あの二人と仲がいいの?」

「ジャスパーもディランもフィルもダイアゴン横丁に親の会社があるの。わたしの家も含めてね。だから、家族ぐるみで交流があるし、仲良くなるのよ。二人にしてみればフィルがスリザリンに入ったのは誤算だったんでしょうけど」

「やっぱりあの二人ってフィルのこと好きなんだ?」

「報われない崇拝者ってやつよ」

 プリシラが飄々と肩を竦めた。

 幼馴染の男二人がフィルに熱を上げていることに関して、特に嫉妬はないらしい。むしろ、プリシラのことだから自分の小説の登場人物のモデルにさえしていそうだ。とハティは思った。

 雑談をしていると、ややあってスネイプは黒いローブを靡かせながら教室に入ってきた。

 陰鬱そうな見た目とは裏腹に、スネイプはローブの裾を翻し足早に教壇に立つと、挨拶もそこそこに生徒の名前を一人一人読み上げ、出席を始めた。

 ハティはマクゴナガルの授業と同じような居心地の悪さを感じた。生徒の雑談や、教授の意に添わぬ行動を許さない厳しさをスネイプから感じた。

 スネイプは他の教授と同じようにハティの名前までくると動きをとめて、名簿から顔を上げた。

 同じ黒い目でもハグリッドとは異なる、温かみがなく冷淡で、黒曜石のように底の見えない瞳がこちらをじっと観察するように見つめてくる。何を言われるのか、とハティが顔を上げてじっと待った。

 スネイプは眉宇を顰め一瞬物言いたげな顔をしたと思うと抑揚のない声でハティの名前を呼んだ。そしてすぐに顔を背けてしまった。

 ハティはいつもと同じように真面目に返事をすると、スネイプは何も言わずにすぐに別の生徒の名前を呼び始めた。一瞬、理不尽な理由で減点でもされるのかと身構えたが何もなかったことにハティは拍子抜けをした。

 スネイプは淡々と出席を取り終えると、改めて生徒たちを感情の読み取れない目で見渡した。

 マクゴナガルの授業と同様に、教室内が水を打ったように静まり返り生徒たちに緊張感が漂う。

 

「この授業では、ポーションを調合するための繊細な化学と、精緻な芸術を学ぶ」

 低い声で淡々と話しているようだが、スネイプの声は静まり返った地下室によく響いた。

 

「ゆえにこの授業では、杖をふりまわすような愚かな真似はしない。これが魔法かと思う者もいよう。ふつふつと沸いた巨釜から揺らめく蒸気、人間の血管の中を這い巡る液体の精緻な力、心を惑乱させ、五感を狂わせる魔力……全員がこれらの魅力を真に理解できるとは期待していない。これから諸君に教えるのは名声を瓶に詰め、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする秘儀である。ただし、諸君らが今まで私が講義したぼんくらどもよりもまだましであればの話だが」

 そう言ってスネイプは目を眇めて生徒たちを見渡した。

 自分がぼんくらにあてはまる可能性は多いにあったが、ハティはスネイプのこの演説をかなり気に入った。これから学ぶ魔法薬学が繊細な作業であればあるほどやりがいがあり、楽しいのではないかと思わせる。

 なぜなら、アトリエシリーズを踏襲しているからである!!! 調合と錬成は乙女のロマンだ!!!

 

 ハティはにこにこしながら、教壇に立つスネイプが授業をすすめるのを待っていたが隣にロニーは「うへえ」と嫌そうに顔を顰めていた。反対にハーミスはというと、自分が今までのぼんくらと違うことを早く証明したくてたまらないと言わんばかりに、椅子の端に座り身を乗り出すようにしている。そんなハーミスをロニーは白い目で見ていた。

 

 

「ポッター」

 

 

 あ、目が合った。と思った。

 スネイプは再びハティを見ていた。ハティは咄嗟に唇を一文字に引き結んで「はい」と答えた。

 スネイプは厳しい顔つきでこちらを見据え、口を開いた。

 

「ニガヨモギを煎じた液体に、アスフォデルの根の粉末を加えると何になる?」

 教室中の視線がハティに集中する。ハティはまさか魔法薬学の問題を出されるとは思わず、一瞬顔を強張らせながらも必死に頭を回転させた。なんとなく、二つの材料には覚えがある気がした。

 隣を見るとロニーは顔を強張らせて降参とばかりに頭を振っており、ハーミスは天に向かって高々と手をあげていた。ハーミスが知っているのだから一年生の教科書に載っているのかと考えたものの、違うような気がした。

 

「わからないのか」

 ハティを黙ってみていたスネイプが冷ややかに目を細める。

 スリザリンの席から馬鹿にしたような笑い声がちらほら聞こえた。

 スネイプも黙り込んでいるハティに焦れたのか剣呑な表情になり人差し指で教壇を叩き始めた。ハティは急いで「思い出します」と答えて思考を巡らせた。

 あれは、確か――ハティが書店で購入した〈マグルの御伽噺と伝説から楽しく学ぶポーション学〉という本の、白雪姫の章だ。

 

 スネイプが何かを言おうと再び口を開きかけたその時、ハティは「わかりました」と口火を切った。

「えっと、アスフォデルとニガヨモギを併せると生ける屍の水薬になります」

 スネイプの教壇を叩く指がとまった。一瞬、呆気にとられたように口を開いたスネイプは「一応、予習はしていたようだな」と呟いた。

「はい」

 ハーミス・グレンジャーのように教科書を全て丸暗記しているわけではないので、質問に答えられたのは運が良かったに過ぎない。しかし、こんな質問にまで自信を持って手を上げられるとはハーミスの頭脳はどうなっているのだろう。

 スネイプは幾分か剣がとれた表情で小さく頷いた。

 

「調合する薬の名称は知っているようだが、用途と効能がわからなければ話にならん。答えたまえ」

「効能は睡眠薬の一種で、服用者を仮死状態の深い眠りに落とすポーションです。用途は外科的手術の導入麻酔の一つとして使用され、術中の痛みと意識を取り除きます」

「……ではもう一つ聞こう。ポッター、ベアゾール石の入手経路は?」

 ハーミスは再び手をあげたが、横目でハティを気にしているようだった。

 ハティは今度は必死に頭を働かせる必要はなかった。オタクならばマグルでも知っている知識だ。

 

「胃の中で作られる石なので、山羊の胃の中から入手します」

「よろしい」

 ハティは即答できたことに安堵して肩の力を抜いた。

 ベアゾール石は魔法界でも実在するようで、万能薬として後学の値段で取引されているのをダイアゴン横丁で見かけた。解毒剤を使用するような状況にはならないと高をくくっていたので、わざわざ値の張る効果な魔法薬の材料は購入しなかったが。

 スネイプが教科書を手に生徒たちに背中を向けたので、ハティは質問は終わったのだな。と脱力して、机の下で足を組みリラックスしはじめた。その時だった。

 

 

「ではポッター、モンクスフードとウルフスベーンの違いは?」

 ハティはロニーと顔を見合わせた。プリシラやフィリパもこちらを心配そうに振り向いている。

 ハティは閉口した。ここが教室だったら、そんなことまでわかんないわよ! クソ野郎! とやけくそ気味に答えていたに違いない。こちとらチートではないのだ。ただの十一歳の人間なのである。

「違いは、わかりません」

 ウルフスベーンは和名にするとトリカブトであり、英国の魔法界ではその名の通り”ウルフスベーンポーション”と言い狼人間に対する薬として有名だ。近年、開発された薬の中でも画期的なポーションとして趣味で購入した魔法薬の薬として掲載されていたのを覚えている。

 隣りではいまだにハーミスが手を上げ続けており、ハティは「こいつこそ人生n回目なんじゃないか」と舌打ちでもしたくなった。

 スリザリンの席からは嘲笑ともとれる笑い声が上がっており、ハティは口惜しさと恥ずかしさで目蓋を伏せた。

 

「その様子ではスリザリンの諸君は答えを知っていると見える。誰か答えてみなさい」

 くすくす笑っていたスリザリンの生徒たちは、思わぬ展開に硬直して顔を見合わせた。それまで嘲笑し、隣の席に座った友人と馬鹿にしていた生徒たちは青白い顔で縮こまり、誰かが答えるのを期待するように自分以外の生徒に視線を彷徨わせた。

 スネイプは不機嫌そうに鼻を鳴らすと「パーキンソンは答えを知っているようだったな? 何故、手を上げて答えない?」とパンジー・パーキンソンに鋭敏な視線を投げた。

 パンジーは突然の指名に真っ青になった。助けを求めるように先ほどまで一緒に笑っていた隣の友人を見るも気まずそうに視線をそらして、俯いている。他の生徒たちも同様だ。

 ハーミスだけは限界まで高く手を伸ばし、ほとんど席から立ち上がっていた。

 

「パーキンソン、答えは?」

「……わかりません」

「嘆かわしいことだな、得点を獲得する機会を与えてやったというのに誰も答えらえないとは。無知が他人を嗤うことほど滑稽なことはないと私は思うが、このことをどう考える? スリザリンの諸君」

 スリザリンの生徒たちは水を打ったように静まり返った。ハティが質問に答えられないことを嘲笑していたスリザリンの生徒たちは、今や青白い顔で委縮して静まり返っていた。

 スネイプは自身の寮に属する子どもたちを見渡し「私は無知と愚か者が嫌いだ。諸君には、スリザリンの名に恥じぬ努力をしてもらいたいものだ」と吐き捨てた。

「グレンジャー、座りなさい」

 スネイプは不機嫌そうにハーミスに一喝すると教科書を閉じて「モンクスベーンとウルフスベーンの違いについて教えてやろう」と教室内をゆったりとした歩幅で歩き、滔々と説明を始めた。それに加えてハティが答えた二つの薬についても事細かに語り始めたので、ハティは急いでメモをとらなければならなかった。

 

 スネイプは確かに鼻持ちならない教授であったが、説明は非常にわかりやすかった。ほどなくして、スネイプは生徒たちが呆けたようにスネイプの説明を聞いているのを発見して、片眉をあげた。

 

「何故今のを書きとらない?」

 一拍置いて、慌てたように羊皮紙を羽ペンを取り出す音が地下室に響いた。その音にかぶせるように、スネイプは言った。

 

「ポッター、学校指定以外の文具を使うな。グリフィンドール一点減点」

 再び自分に注目が集まり、ハティは釈然としない顔で自身の手元に視線を注いだ。スネイプの底知れない黒い目はハティが握る硝子ペンを捉えていた。スネイプは再び教壇に向かった。

 ロニーが小声で「なによそれ、あいつ頭おかしいんじゃないの」とスネイプの背中を鋭く睥睨し悪態をついた。

 

「ちょっと違うペンを使ってただけで一点減点? 減点するなら、質問に答えられなかったパンジー・パーキンソンにでしょ! あれだけ馬鹿は嫌いだぁ、とか言ってたじゃない!」

 ロニーがハティのガラスペンを眺めながら怒り心頭していた。

 ハティも納得いかなかったものの、この短時間のスネイプとの関わりで反発をすれば一点どころか理不尽に減点されそうな気配を感じた為、奥歯を噛みしめて口惜しさを我慢することにした。

 

「とりあえず、マクゴナガル教授にもらった四点があるしまだマイナスにはなってない。でも、先が思いやられるなあ」

「この調子で授業に出るだけで減点されていくのかなあ」

「考えたくもないわ」

 ハティはうんざりして頭を振った。そして黒板に書かれた調合についての材料、諸注意、手順を羊皮紙に慌てて書き留めていった。

 

 

 

 ポーションの調合は二人一組になって行われた。

 スネイプの指定で席順で組まされていったため、ハティはロニーとペアになった。初めての魔法薬の調合は、さほど内容は難しく感じなかった。まだダーズリー家で作っていたレシピ本の方が難解だと思えるレベルで、材料の虫にさえ目を瞑れば余裕に思えた。

 

「ナメクジに虫に蛇の牙、こんなのは吹き出物を治す薬になるんだ」

「そうだよ。マグルだって、動物や虫を材料にしないの?」

「まあ確かにホルモン剤に動物とか、抗菌薬にカビは使ってる気がするよ」

「じゃあ一緒だよ」

 ロニーに呆気からんと言われると、本当にそんな気がしてきた。

 これが魔力のなせるわざなのだろうか。とハティはうねうねと体をそらして抵抗する蛞蝓をぐつぐつと煮えた巨釜に放り込み、蛇の牙をすりつぶす作業に入った。

 ロニーには蛞蝓の茹で加減を見張ってもらい、ハティも横目で確かめながら牙をすり潰していると「もっと粉末状になるように」とスネイプに注意を食らった。しかし、注意を受けたのはハティだけではなくスネイプはローブを翻して生徒たちの作業を確認しながら、ほぼ全員に的確な注意をして回っていた。

 

 中でもスネイプはマルフォイは最もお気に入りのようで、彼にだけは一度たりとも指摘をせずに、むしろマルフォイがどれだけ正確に蛞蝓を茹でられたかを褒めそやしていた。マルフォイはスネイプから唯一賛辞を受けたことがよほど嬉しかったのか、得意げな顔をして笑っていた。ハティは会心の笑みを浮かべるマルフォイと目が合ったものの、あまり羨ましいとは思えなかった。贔屓でスネイプに褒められるよりも、マクゴナガルに褒められる方が嬉しいと思っていたからだ。

 

 大人気ない人、とハティはスネイプに対して心の中で呟いた。

 

 ロニーに「そろそろ巨釜をおろして」と指示を出していると、突然シューという夜間が沸いたような異音とともに地下牢いっぱいに緑色の煙が広がった。

 

「いた……っ」

 驚いたロニーが巨釜を落としそうになって、煮えたぎった薬液がハティの手の甲にかかった。ハティは思わず身をすくませて、手の甲を見た。それはみるみるうちに発赤になっていった。

 異音の正体はどうやらネヴィルだったようで、シェーマスの巨釜を鉄の塊になるまで溶かしたようだ。石造りの床に零れた薬が徐々に広がり、周囲の生徒の靴を焼いて穴を開けた。生徒たちがキャアキャアと悲鳴を上げながら椅子の上に避難するのを後目に、スネイプは杖を一振りして薬を消失させると、薬液を大量に浴びて吹き出物だらけになり呻いているネヴィルを「この馬鹿が!」と怒鳴りつけた。

 ネヴィルは途端に火が付いたように泣き出してしまったので、スネイプは苦虫を潰したような顔になり、シェーマスにネヴィルを医務室へ連れていくように指示をした。周囲の生徒には「作業を続けるように」と調合を続行するように言い渡し、スネイプはじろりとネヴィル達の隣にいたハーミスを見た。

 

「グレンジャー、既に調合を終えていたようだが、なぜロングボトムに針を先に入れてはならないと教えてやらなかった? グリフィンドール一点減点」

 ハーミスはプリシラとともに誰よりも早く調合を終えていた。

 薬の出来をプリシラと確かめていたらしいハーミスが、あまりにも理不尽な言いがかりにショックを受けたように顔を強張らせた。プリシラも不服そうに顔を顰めていたが、二人のやり取りを見ていた生徒の一人が「出しゃばって、悪目立ちするからだろ」と吐き捨てるのが聞こえた。

 同じグリフィンドール寮生のケビン・エントホイッスルだった。他のグリフィンドール生もケビンにつられるようにしてハーミスを非難するような目を向けている。

 いつもは膨大な勉強量に裏打ちされた自信を携えているハーミスも、これには肩を震わせて俯いてしまった。プリシラが「気にする必要はないわよ、スネイプはスリザリン以外には意地悪なの」と慰めの声をかけていたがハーミスが取り合わずに頭を振っていた。そうして初めての魔法薬学の授業は後味が悪いままに終了した。

 

「ハーミス!」

 授業が終わった途端に、ハーミスは弾かれたように席を立って走って地下室を出て行った。

 ロニーは「あ……」と片手を上げて立ち尽くすハティに肩を竦めて見せた。「放っておけば? どうせまた図書館に行くんでしょ」

 医務室から戻ってきたばかりのシェーマスはロニーの言葉に同意するように頷いた。

 

「授業で挙手したり、俺たちに知ったかぶった知識を披露するために忙しいんだろ?」

「そうそう、マグル生まれで本の知識しか知らないくせに、なんで偉そうにあんなに俺らに話なんかできるんだろうな?」

 とケビンが吐き捨てる。

 同じグリフィンドール生でありながら、マグル生まれを見下すような物言いにシェーマスの隣にいたディーンが居心地が悪そうに身じろぎをした。

 

「あ、悪い。ディーンはマグル生まれだったな! でも俺らはディーンのことはいい奴だと思ってるから!」

「いや、いいよ」

 ディーンは苦笑したが、その顔が強張っているのがハティにはわかった。

 ハーミスはホグワーツ入学前からの友人なので、公然と友人を批判されて気まずいに違いない。それにディーンもマグル生まれである。どうして純血主義を批判するその口で、マグル生まれを見下すような言葉が出るのだろうか。とハティは不思議だったが、シェーマスやケビン、そしてハーミスに非難の目を向けていた生徒たちは純粋な魔法族出身の子どもばかりだ。自分たちは魔法族の子どもであるのに、マグル出身のハーミスが自分たちの知らない知識を披露するのが彼らにとっては癇に障るのだろう。

 

 

 ハティはもやもやしたものを抱えながら、巨釜をよいしょと背負った。純血主義というものはこういった些細な差別意識から生まれているのかもしれないな、とハティが考えているとスリザリンの席からパンジー・パーキンソンが不機嫌な顔をして取り巻きとともにこちらに向かってくるのが見えた。

「ちょっと有名人だからって調子に乗るんじゃないわよ、ポッター。あんたが有名なのは、あんたの親が死んだからで、あんた自体は大したことないんだから思いあがらないことね」

「こいつ……! 言っちゃいけないことと言い事の違いがわかんないの!?」

 ロニーがいきり立ってパンジーに殴りかかろうと拳を振り上げた。しかし、ハティはロニーが一歩踏み出したところで慌ててロニーの腕を掴んだ。スネイプはこちらに背を向けて生徒が作成した「吹き出物を治す薬」を観察していたが、教室内でスリザリン生と諍いを起こせば減点されることは目に見えていたからだ。それを理解していて、ハティに喧嘩をしかけたパンジーはなかなか悪辣であった。

 パンジーの隣でミリセント・ブルストロードをはじめとするスリザリン生たちに失笑が漣のように広がる。唯一。パンジーの背後で縮こまっているルビー・ダンクワースだけは委縮したように小さく体を丸めていた。

 

 ハティはロニー同様、スネイプの目がなければパンジーが気絶するまでヴァーノンしごみの体重の利いたパンチをお見舞いするつもりだったが、分が悪いのは理解していたのでハッ! とパンジーをせせら笑った。

 

 

「パンジー、そういうあんたはスリザリン生っていうアドバンテージがなかったら十点くらい減点されてたと思うわ。つまり、落ちこぼれのスリザリン生が他の寮生の前で寮監に恥を晒しただけってこと。あの時の教授の言葉、理解できた? 出来ていたなら、そんなでかい顔でわたしにちょっかいかけられるわけないわよね」

「わかってないのは、あんたよ。ポッター。あんたたち、混血と違ってあたしはお勉強を頑張って就職活動なんてする必要ないの。あたしは稀少な純血だし、いくらでもあたしを養ってくれる殿方はいるんですもの!」

 ここで会ったが百年目ェ! な殺気滾る視線が両者の間で火花を散らした。

 ハティたちを遠巻きにするようにグリフィンドール、スリザリンと両方の男子生徒たちは「うへえ」とドン引きした顔で遠巻きに去っていく。フィリパも今にも参戦したそうにそわそわしていたが、ジャスパーとディランの二人に「話は終わってないぞ、ピッパ!」と追い縋られて「私はもう話すことはないわよ! お願いだから、ダンブルドアに変な陳述書は出さないで!」と叫び、プリシラを連れて逃げるように地下室を出て行った。

 

「いいこと教えてあげましょうか?」

 ハティは赤い唇ににっこりと毒花のような禍々しい笑みをひらめかせ、パンジーに近づいた。パンジーは気圧されたように後退ったが、負けじと胸を張って「汚らわしいあばずれがあたしに近づかないで!」と叫ぶ。しかし、ハティは一歩もひかずにパンジーの肩に手を置くと間近でこの上なく美しく笑った。

 

「パンジー。顔も頭も悪い女はね、売女にすらなれないの。あなたのその高貴な血を使って結婚できたとしても、政略結婚を継続させるためには双方の努力が必要でしょ? 頭の悪い女はね、いいように使われて終わるだけ。想像してみなさいよ。あんたがぼーっとスイーツのことを考えている間に、あんたの夫はマグルの美しい女に手を出してるの。それに気づいたあんたが追及しても”君の思い違いだろ? 僕が泥の血に手を出すはずがない”なんて夫は嘘をつくってわけ。頭が悪いとね、そういう女になるの。わかる?」

 パンジーは怒りで頬を真っ赤にして、大きな瞳に憎悪と殺意をぎらつかせながらハティの手を叩いた。そして何故か背後のルビー・ダンクワースを睥睨すると「ルビー、あんたのせいよ!」と叫んだ。

 

「あんたがポッターに付け入る隙を与えたの! あたしの巨釜と鞄を持って、早く大広間に消えなさい! ちゃんと全員分の席をとらないと、どうなるかわかってるわよね!?」

 ルビーは青白い顔で怯えたようにぶるぶると震えた。そして小刻みに震える手でパンジーの巨釜と鞄を受け取ると、ハティに物言いたげな視線を投げて転がるように地下室を出て行った。

 

「言っておくけど、あんたが生き残った女の子じゃなかったらドラコはあんたみたいな混血相手にしないんだからね」

「は?」

「さっさと退学しろ、このクソ女!」

 とんでもない捨て台詞を吐くパンジーにハティは呆気にとられた。

 まさか純血のお嬢さまが口汚く悪態をつくとは思わない。ハティが唖然としている間にも「お前が退学しろよ、このブス! 自分の顔を鏡で見た事ないわけ!?」とロニーは悪態の応酬に参戦して地下室の出入口に鼻息荒く向かうパンジーを走って追いかけた。ハティも慌ててロニーの後を追おうとしたが、その時低いベルベットのような声がハティを呼んだ。

 

「ポッター、きなさい」

 振り向くとスネイプが教室の奥へと続く扉の前に佇んでいた。

「あいつを怒らせる前に早く行った方がいいわ」

 通りすがりのエロイーズが同情するようにハティに言って、そそくさと教室を出て行く。

 一体どうして呼び止められたのだろう、早くロニーを追いかけなきゃいけないのに。ハティはじくじくと痛む手の甲を摩りながら、小走りにスネイプの待つ奥の扉をくぐった。

 そこはスネイプの研究室のようだった。

 室内は教室同様にひんやりとしており低い温度が保たれている。中は日光が差し込まず、明るい照明も使用していないので薄暗く、幽かな蝋燭の灯りだけでに照らされ、影が差していた。

 壁側には教室同様木製でガラス張りのキャビネットが設置されており、ずらりと魔法生物や薬草のホルマリン漬けが並んでいる。実験用の机には、巨釜やフラスコ、魔法瓶が出しっぱなしになっており、材料らしき萎びた薬草や鉱石を粉末にしたものが散らばっていた。ハティはフラスコの口から繋がる管と、底でふつふつと粟立っている色鮮やかな薬液の美しさに「わああ」と歓声をあげた。

 まるでフラスコの中で宝石を溶かしたみたいだわ、と思う。

 休憩時間だというのに、研究室には生徒たちのはしゃぐ声は一切聞こえない。あるのは、色鮮やかな澄んだ液体が蝋燭の火を浴びて煌めく姿。ハティはほんの少しだけ、スネイプが授業の冒頭に言いたかったことがわかった気がした。

 

 

「そちらに座りなさい」

 入口で研究室の様子に見惚れていたハティに、スネイプは冷たい声で部屋の端にある簡素な机と椅子を示した。

 こちらに背を向けて棚を漁っているスネイプを後目にハティが木製のスツールに腰を下ろしてそわそわしていると、スネイプは棚から攝子や鉗子の器具一式。それから綿のガーゼや平たい陶器の瓶を手に戻ってきた。

 

「右手を出せ」

 ハティはそろそろと右手を机の上に載せた。

 巨釜から零れた薬液で負った熱傷は赤みを帯びて水膨れにまで悪化していた。

「ロングボトムの薬がかかったのならば、なぜ早く言わない?」

「え?」

 ハティは口ごもった。

 これはネヴィルの失敗で受けた熱傷ではないし、何よりあの時ネヴィルの被害を受けた生徒は沢山いたが医務室行きを許されたのはネヴィルとシェーマスだけであった。ロニーの不注意でやけどを負ったので医務室に行きたい、と言おうものならば「不注意で減点」とさらなる減点が待っていたことだろう。言えるはずがない。

 ハティはむっつりと口を噤むと、スネイプは呆れたように溜息をついて「デブリードマンをする必要がある」と呟いた。

 

「デ、ブリ?」

「水疱を潰して壊死した皮膚を一部切り取る。でなければ治るまい」

 スネイプは言葉少なめに説明をして、綿のガーゼを薬液に浸してハティの創傷を消毒すると攝子で水疱を容赦なく破った。そして「大人しくしていろ」と低い声で命令すると、クリームタイプの薬を塗布しハティの皮膚に鉗子を入れた。ハサミのような器具で皮膚を切り取られる事態に、ハティは目を強く瞑った。皮膚を切り取られる気配がする――しかし不思議と痛くはなかった。

 

「鎮痛剤を使用している、痛みはないだろう」

 スネイプは不機嫌そうに目を眇める。そして別の軟膏を創部に塗布すると、ガーゼをあてて上から包帯を巻いて保護した。一連の動作は迷いがなくスムーズだった。手慣れた様子だったので、ハティはスネイプが魔法薬学の教授ではなくヒーラーなのではないかと錯覚するほどだ。

 

「毎日、石鹸と流水で洗ったあとこの薬を塗布しろ。それから使った分は実際に調合して返してもらう――つまり熱した薬剤が肌に触れないようにしろと言ったのに、それを守らなかったがゆえの罰則だ。作り方はこのレシピをみなさい。期限は二週間、質問は?」

 早口でまくしたてられ、ハティは目を丸くした。

 ハティは押し付けられた軟膏とレシピの紙を交互に見て、当惑したように視線を彷徨わせた。

 

「あ、あの……でも材料は?」

「材料は教室の棚にあるもので足りるはずだ。持ち出すことを許可する。器具は実験室の左の扉にある。授業時間以外であれば、この教室を使って構わん」

「はい……」

 ハティは視線で促され、そそくさと陶器に入った軟膏とレシピ本を鞄の中に詰め込んだ。

 一瞬、御礼を言いそうになって罰則を食らっている最中なのに感謝するのもおかしな話だと思いなおす。かといって、謝罪するのも何かが違う気がした。

 

「えーっと、あの、失礼します」

 結局、口ごもりながらそう言ってハティはスネイプの研究室を出た。

 扉を閉める際に背後から盛大な溜息が聞こえた気がしたが、分厚い扉に遮られてスネイプの息遣いはもう聴こえなくなっていた。

 何か、すごいことがあった気がする。

 レイチェルはスネイプをかなり悪質な教授かのように語っていたが、意外と教員としての責任感や面倒見のよさはあるのかもしれない。とハティは思い始めていた。

 

 しばらくぼうっとしていたハティであったが、ロニーを追いかけなければならないことを思い出し、がらんとした魔法薬学の教室で、あたふたとラベリングされた引き出しやホルマリン漬けの中から何とか材料をかき集めて教室の隅にあった計量器で測定し、必要分だけ貰うことにした。罰則といえど、実費で材料を集めずに済むのは助かった。

 

 材料を集めるとハティは地下室を出た。ロニーがそばにいないのはある意味好機だった。ドラコ・マルフォイからの手紙を読む機会がやってきたからである。

 マルフォイ少年からの手紙は良家の御曹司が使うレターセットなだけあって、上質な紙を使用しているようだった。仄かにウッディな香りが漂っており「子どものくせに手紙に香水を吹きかけるなんて、気障なやつ」とハティは顔を顰めた。封蝋はマルフォイ家固有の紋章を使用しているのか、Mの文字に緑・銀・黒で蛇とドラゴンが取り囲んでいる。

 ハティは慎重に慎重を重ねてまず「レベリオ」「アパレシウム」と順番に呪文を唱えた。何も現れないので。トラップの類はなさそうだと安堵してびりびりとハティは封筒を破ると、中身だけ取り出して封筒は鞄の奥底に突っ込んだ。

 

『親愛なる闇の女王へ

 命令の通り、パンジー・パーキンソンには君への傲慢な態度を改めるように言い含めておいた。

 だけど、不思議なことに彼女は余計意固地になって「あんな女のどこがいいのか」や「スリザリン女子総出でポッターを虐めてやるわ」と息巻いていた。余計、火に油を注いだような気がするんだ。以前は僕のいう事には二つ返事で頷いていたのに、ホグワーツに入学してからまるで自我が芽生えたようにパンジーは強情になっている。悪いが、この任務は難航しそうだ。

 スリザリンの男子は僕がしっかり統括しているから、安心してくれ。 ドラコ・マルフォイ』

 

 

 ハティは「うーん」と呻いた。もしかしてマルフォイの説得の結果、パンジーは逆上してハティに喧嘩をしかけてきたのではないか。という説が浮上してきた。逆効果にすらなっている。もしかしてパンジーは、マルフォイに恋でもしているだろうか。とハティの中で一つの考えが頭をもたげた。

 

「嫉妬? まさかね」

 

 

 

 

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