ハリエット・ポッターの不思議な冒険 作:新参なめ子
「だからね、どう見てもスネイプに決まってるの! ねえ、ヒュー。あたしたち、しっかり見たよね!?」
「ああ、俺も見た。あいつ、杖を片手にイオラから目を離さずに、ぶつぶつ呪文を唱えてやがった」
ロニーの勢いに同調するように、ヒューは大きく頷いた。
それにうんざりした顔で頬杖をつき、異を唱えたのは、意外にもアクラムだった。
「だから、クィレルも杖を片手に呪文を唱えてたって、何回も言ってるじゃん」
グリフィンドールの勝利の余韻も冷めやらぬまま、ハティたちはハグリッドの小屋で熱い紅茶を啜っていた。
ウッドをはじめとするグリフィンドールのメンバーは「今日はパーティだ!」と小躍りしながらシャワー室に消えていった。ハティもその後に続く予定だったが、有無を言わさずロニーたちに連れられ、双方の埒が明かない論戦の傍観者となっていた。
ロニーとヒューは、試合中にスネイプがハティに呪いをかけていたと主張し、一歩も引かなかった。そこにのんびりと口を挟んだアクラムは、当初「まあ、どうでもいいけど」と言っていたものの、二人の剣幕に引くに引けなくなったのか、本来のアクラムなら到底足を踏み入れるような場所ではない、ハグリッドの小屋にまで腰を下ろしていた。
ハティは三人からそれぞれの持論を聞かされ、最初こそ「何ですって!? 呪い返ししてやりましょうか!!」と気炎をあげていたものの、ロニーたちの勢いはそれ以上だった。逆に冷静さを取り戻しつつあったハティは、すっかり傍観者と化していた。ハーミスもハティ同様、思案するように黙り込んでいたが、ふと口を開いた。
「あのさあ、三人とも少しは冷静になってくれないか?」
「俺は最初から冷静だけど?」
心外だと言わんばかりに、アクラムが間髪入れずに返答する。
これに激怒したのは、残りの二人であった。
「逆にあんたは、なんでそんなに冷静でいられるの、ハーミス?」
「イオラが殺されそうになったんだぞ!?」
怒りの形相をしたロニーとヒューの二人から怒声を浴びせられ、ハーミスは一瞬身を竦めた。しかし、渋い顔で唇をきゅっと引き結び、押し黙った。冷静さを欠いた二人に対して、これ以上何を言っても意味がないと思ったのかもしれないし、火に油を注ぐべきではないと思ったのかもしれない。いずれにせよ、ハーミスが沈黙を選んだのは賢明だった。
そんな中、小屋の主であるハグリッドが狼狽しながら五人の話に割って入った。
「殺すだって!? 教授がたがそんなことするわけないだろうが!」
「イオラはあの高さを箒で飛んでたんだぜ? あそこで呪いをかけられたらどうなるか、誰だってわかるだろ。殺そうとしてたとしか考えらんねえ。あんた、教授職についてれば誰もが聖人だとでも思ってんの?」
ヒューが苛立たしげに眩いベネツィアンブロンドの髪をかきむしりながら、ハグリッドを睥睨した。
これにはハティも口を挟まずにはいられなかった。ハティにとって、ハグリッドは今まで出会った中でも、類を見ないほど善良で優しい人だったからである。
「ハグリッドにそんな口の利き方しないで、ヒュー」
「同僚を疑いたくないのは、当然でしょ」
「言っとくけど、俺はお前のことだって平和ボケしてるって思ってる。今まで散々、スリザリンの奴らに殺されかけてるのに、なんで親玉のスネイプが真っ白だと思うわけ? 理解できねえ」
「殺されかけたことに関しては、マリーンたちが
「……それなりの報復ってなに?」
ロニーが青ざめた顔でハティを見つめた。
ハティ・ポッターは、どんなあくどい手を使ってでも敵を破滅させるであろうという予感があったに違いない。事実、ハティはマーカス・フリントを事故に見せかけて箒から叩き落としてやった。試合終了後のスリザリンメンバーのどよめきを盗み聞いたところ、フリントは英国でも屈指の大病院、聖マンゴ病院に搬送されたようだ。ざまあみろである。
ハティはちらりとハグリッドを一瞥し、「それはまた今度教えるね」と、ことさら明るい声で言った。ロニーは相変わらず蒼白な顔をしていたが、「でも、本当に怖かったんだよ」と呟いた。
「スネイプが何かを呟くたびに、ハティの箒が激しく暴れて、どんどん高いところに上っていったの。それから、ハティを振り落とそうと、ずっと暴れてた。あたし、ハティの自主練を見てたから、あんな風にハティが箒を飛ばせるなんてありえないって思ってた」
「ヒューの言う通り、スリザリンの報復なら、箒自体に呪いをかけることで発動できる。だけど、その場合はスリザリン生が直接箒に呪いをかける必要がある。そこはどうなんだ?」
アクラムの問いに、ハティは頭を振った。
「難しいと思う。箒は常にグリフィンドール寮のドミトリーに隠してたし」
「あんな風に遠隔で魔法ってかけられるものなの? ハグリッド」
ハーミスの問いに、ハグリッドは「うーん」と唸った。
この場にいる魔法族の中でも、最も呪いに精通しているのはハグリッドである。いくら純粋な魔法族の子どもが二人いるとはいえ、魔法学校に入学して数か月しか経っていない一年生の五人には、何の判断もつかなかった。
「間接的に箒に魔法をかけるなら、そりゃあ相当な熟練の魔法使いじゃないと無理だぞ。だから、例のあの人の信奉者も、直接呪詛をかけた呪いの品を贈りつけてたわけだしな。だから、間接的な呪いをかけるなら、対象の見える位置で、一切目を逸らさずに呪文を唱え続ける集中力がいる」
「つまり、二人が呪いをかけていた可能性が高いってことだね。同じような状態のクィレル教授をアクラムが見たってことは、二人とも同じ条件を満たしていたわけだし、容疑者たりえるってことだろう?」
「二人して呪いをかけてたってこと?」
ロニーは恐怖で顔を引きつらせ、ひっくり返った声をあげた。
「あるいは、もう片方が呪い返しを行っていたか、ってことか」
「二人が呪いをかけていて、呪い返しをしていた魔法使いが他にいる可能性もあるだろ」
鋭いアクラムの指摘に対して、ヒューは憮然とした顔で続けた。
「だって、イオラが言うには、勢いが途中で止まったらしいじゃん。誰かが呪い返しをしていたっていうのは、有力な説だな」
「でも、そんなこと言ってたらキリがないんじゃない? とりあえず、あたしとハーミスとヒューがスネイプの邪魔をした途端にハティが助かったんでしょ。だったら、犯人はあの二人のどちらかってことでいいじゃない。二人は隣り合って座っていたわけだし」
ロニーの発言に、アクラムが「賛成」と手をあげた。
「正直、判断がつかないしね。呪いをかけるのも返すのも、基本動作は同じ。とにかく、俺たち魔法族は目で視認することが重要になる。ほら、バロールの魔眼って神話にもあるだろ? 俺たち魔法族の目は、マグルと違って、ある意味で特殊な意味と力を持ってる。だから、同じ動作をしていたスネイプとクィレルが容疑者なのは間違いないけど、どっちがやったか証明するのは、今となっては不可能だしね」
「そもそも、ハティに呪いをかける理由がねえだろうが。スネイプにしてもクィレルにしても、ハティを殺して何になるってぇんだ?」
二人の教授を容疑者と断定した五人に対して、ハグリッドは困惑をあらわにしていた。
「相手は生徒なんだぞ」
「生徒といえども好き嫌いはあるだろ。それに、スネイプはずっとイオラを監視してる。俺にはわかるんだ」
「監視!? それってどういうことよ、ヒュー」
「そのまんまの意味だよ。スネイプがお前を見る目、気持ち悪い。お前を観察してるような、お前じゃない何かを見てるような……」
ヒューの発言に、ハティは血が凍るような気味の悪さを感じて、身震いをした。
「怖いこと言わないでよ!」
「本当にハティの言う通りだと思う。そんなところまで見てるお前が怖いよ、ヒュー」
アクラムが顔を引きつらせて続けた。
「大体、こういうのは外野があれこれ言ったって意味がないでしょ。俺は被害者の意見も聞きたいな。ハティはどっちだと思う?」
突然、話題を振られたハティは息を呑んだ。
「どっちって言われても……」
この場にいる全員が真剣に、あるいは心配そうにこちらを見ている。内心、ハティはどちらでもいいと思っていた。誰が呪いをかけていたとしても、フリントのように破滅させてやろうと、高慢なことを考えていた。しかし、いざ選択を迫られると、答えに窮した。
確かにスネイプは嫌な男だ。教職員の風上にも置けぬ、驕慢で贔屓の強い最悪な教授である。しかし、セヴルス・スネイプという男について振り返ったとき、ハティが不調に陥ったり、危機に瀕したりした際には、それとなく手を差し伸べてくれるのがこの男だった。ハティを窮地に追い込むスリザリンの寮監とは思えぬほど、何くれとなく世話を焼かれている気がする。そう思うと、ロニーやヒューのように、純粋にスネイプを嫌うことはできなかった。善良な人間とは思えないが、自身を陥れた犯人として扱う気にはなれなかった。
一方のクィレルは、当初、気弱で生徒にも侮られている教授という印象だった。しかし、フィルチに捕まっていたハティやロニーを逃がしてくれたりと、意外と芯の強い一面もある。規則や目の前のことにとらわれない柔軟さも、教員には珍しい資質だった。だから、ハティはクィレルを悪い魔法使いだとは思えなかった。
どちらを犯人として疑うにしても、ハティは二人に対して悪い感情を抱いていなかった。
「正直、わからない。どっちも生徒に呪いをかけるような人とは思えなくて……」
「嘘でしょ、ハティ! クィレルはともかく、一番怪しいのはスネイプでしょ! ハロウィーンの夜にあいつが何をしたか、ハティだって知ってるじゃない!」
ロニーはショックを受けたような顔で声をあげた。
その言葉に、ハグリッドが訝しむようにハティとロニーを交互に見た。
「スネイプ教授がハロウィーンの夜に、なんだって?」
以前、ロニーが本を取り返すために教務室に足を運んだ際、盗み聞いた内容を知っているのは、この場ではハティとロニー、そしてハーミスだけである。そのため、ヒューとアクラムでさえも、ハグリッドと同じように怪訝そうに眉をひそめて、ハティたちを見ていた。
ハティは三人の視線から逃れるように、ハーミスを見た。ハーミスはしばらく思索にふけるように黙り込んでいたが、ややあって我に返り、青白い顔でハティとロニーを見渡した。
「もしかして、口封じなんじゃないかな……。ヒューが言ってた通り、ハティ――君がロニーと仲の良いことをスネイプは知っている。だから、秘密が漏れるのを恐れたんだ」
「口封じって……ハーミス、何を言ってるの?」
ロニーはよくわかっていないのか、眉をひそめた。
一方のハティは、何となくハーミスが言わんとしていることを察して、ある種の妄想に近い恐れを抱いた。そして、それを我慢できずに、縋るようにハーミスに尋ねた。
「それって、ロニーの言ってたハロウィーンの夜のことを、わたしが誰かに告げ口すると思ったってこと?」
「僕はその可能性もあると思ってる……。可能性の域は出ないし、信じがたいけどね」
「それって、あたしがこの前言ってた話のこと? スネイプがハロウィーンの夜に禁じられた部屋に行って、お宝を盗もうとした挙句、三つの頭を持つ大蛇に噛まれた話」
ロニーの能天気な声に、ハグリッドは仰天してティーカップをソーサーの上に落とした。ガシャンッ! と耳障りな音を立てて、ティーカップが割れる。ハティたちも驚いて思わずハグリッドを見た。しかし、ハグリッドは自分のティーカップが割れたことに気づいた様子もなく、目を見開いて声をあげた。
「なんでルーンスプールのことを知っとるんだ?」
「ルーンスプールってなに?」
ロニーは怪訝そうに眉をひそめた。
「三頭蛇だ――可哀想なフラッフィーの代わりに、あの部屋を守るためにスキャマンダー先生がダンブルドアに貸したんだ」
「え? フラッフィーってなに? あの部屋には元々ケルベロスがいたでしょう……。待って、フラッフィーの代わりってことは、ロニーが言っていた通り、本当に三頭蛇がいるの?」
ロニーがスネイプとフィルチとの会話から盗み聞いた内容は、聞き間違いではなかったのだ。自分の中で欠けていたピースが、かちっとはまる感覚に、興奮したハティは早口で尋ねた。
「あの部屋には一体何があるの?」
ハグリッドは、そこでようやく五人の視線が訝しむように自分を見ていることに気づいたらしい。はっと我に返ったように息を呑み、激しく頭を振った。
「もう、これ以上は聞かんでくれ。大事な秘密なんだ、喋るわけにはいかねえ」
「だけど、その大事な秘密をスネイプが盗もうとしてたんだよ!」
ロニーの追撃に、ハグリッドは気圧されたように「馬鹿な……」と何度も繰り返した。その小さな瞳が動揺で揺れるのを、ハティだけでなく、他の四人も見ていた。
ハグリッドは当惑しきった様子で続けた。
「スネイプはホグワーツの教授だ。あの部屋に盗みに入るわけがねえ」
「……イオラたちが言ってることも、ハグリッドが言ってることもわかんねえ。けどさあ、じゃあなんでスネイプはハティを殺そうとしたんだよ」
怒りを押し殺したようなヒューの低い声が、小屋に響き渡った。コーンフラワーブルーの瞳が、冷ややかな怒りをたたえてハグリッド、ロニー、ハーミスを射る。その隣で小さく溜息をついたアクラムは、静かに言った。
「あのさあ、俺は純血で魔法族の家に生まれたから、一種の嗅覚を持ってる。だから、一目でわかるんだよね。そいつが呪いをかけているかどうか。大抵の魔法使い――弱い奴も強い奴も、呪いをかけるときは目を逸らさず、瞬きもせずに見続けるんだ。少なくとも、クィレルもスネイプもそうだったように思うよ、俺は」
「……お前さんらは何か勘違いをしとる。間違いない」
ハグリッドは少しばかり冷静さを取り戻したのか、力強く言い切った。
「なんでハティの箒があんな動きをしたのか、俺にはわからん。だが、スネイプは生徒を殺すような奴じゃねえぞ。五人ともよく聞け。お前さんたちは関係のないことに首を突っ込んで、見当違いのことを言っとる。そういうのは危ねえんだ。あの蛇のことも、蛇が守っている物のことも忘れるんだ。あれはダンブルドア総長とニコラス・フラメルの……」
ハティは聞き逃さなかった。なぜなら、その名前にはかなり聞き覚えがあったからだ。
「ニコラス・フラメルって、有名な錬金術師じゃないっけ?」
ハグリッドが悲鳴にも似た声をあげた。
鶏を絞めたようなその声は、言葉よりも雄弁であった。
────────
「ニコラス・フラメルって、フランスの伝説的な錬金術師よ」
ハグリッドの小屋を出た五人は、寮に帰る道すがら、大階段を上りながら小屋でのハグリッドの反応について議論していた。議論に最も積極的だったのはロニーで、「ニコラス・フラメルって誰なの?」と彼女が口火を切ったことで、ハティは端的にそう説明したのだった。
「彼って、賢者の石のおかげで長寿なの。マグルの間でも有名よ。賢者の石を錬成した偉大な錬金術師として、ジャパンのアニメとか漫画によく出てくるの。多分、経歴は合ってるはずなんだけど、魔法界ではニコラス・フラメルってどういう人なの?」
そう言って振り返ると、他の三人は目を白黒させていた。唯一、訳知り顔で頷いたのはアクラムのみであった。
「大体合ってるよ。賢者の石を使ってるから、今は六〇〇歳と少しだと思う。魔法使いの中には、ニコラス・フラメルの経歴がインチキだってケチをつける奴もいるけど、一三〇〇年代かな……。俺の遠い祖先もその時期にアンダルシアの大学にいて、ニコラス・フラメルと交流があったらしいから、間違いないよ」
「待ってよ、機密保持法があるのに、どうしてジャパンのアニメにニコラス・フラメルが出てくるのさ」
ハーミスが困惑顔でハティとアクラムを交互に見た。
「よく考えろよ、ハーミス。国際機密保持法が制定されたのは、魔女狩りが激化した一六九二年だ。それ以前に生きていたニコラス・フラメルのことをマグルが知っていても、おかしくない話だろ? 第一、錬金術なんてものは長い間、化学と混同されていたから、王族や国をあげて研究していたくらいだぞ。その中に本物の錬金術師が混ざっていても、おかしくない」
ヒューの鋭い指摘に、思案していたハーミスは大きく頷いた。
「なるほど、そういうことか……。だとしても、アクラムの祖先がアンダルシアにいただって? 僕は君のこと、中東出身だと思ってたよ」
「確かに、発祥はパキスタンだよ。一族はずっとスペインに住んでたけどね。その後、レコンキスタが激化したから、英国に逃れて、今の時代まで生き残ったのが俺の一族ってわけ。この体に流れているのは、殆どイギリスやフランスの魔法族の血だろうけどね」
「なるほどねえ……」
どうりで眩いブロンドの髪とブルーの瞳をしているわけである。
得心がいったようにハティたち三人は頷いていたが、ロニーだけは訳がわからないという顔をしていた。
「レコンキスタってなに? 言ってることがよくわからないよ」
「わからなくてもいいさ。ニコラス・フラメルには関係のない話だし」
アクラムは飄々と肩を竦めた。そんな彼の澄ました態度にロニーはむっとして、何か口を開きかけたため、ハティは慌てて二人の間に入った。
どうもロニーは男兄弟の中で育った唯一の娘だったので、勝気な傾向にある。わからないことや、自分の気に食わないことがあると、黙っていられない性質なのだ。
「そうよ! どっちにしても、これでよくわかった。多分、あの部屋にはニコラス・フラメルとダンブルドアの研究成果が隠してあるんじゃないかな!」
「研究成果……それってすごい物なのかな?」
ロニーが小首を傾げる。
「多分ね。賢者の石って言ったら、黄金と不老不死を生み出す霊薬なのよ。そんな物を作り出せる錬金術師の研究成果なんて、きっと賢者の石を超えるものに決まってるじゃない!」
「へえー……黄金……」
ロニーは実感が湧かないのか、感心したように呟いた。
しかし、ヒューはハティが命を狙われた経緯について得心がいったのか、その目に鋭い光を走らせ、大階段に面した壁に掛けられた絵画を睨みつけた。その眼光の鋭さに、絵画の中のドレス姿の少女が悲鳴をあげて、額縁の中から消える。
「つまり、スネイプはダンブルドアを出し抜いて、ニコラス・フラメルの研究成果を盗み出そうとしたわけか。それは確かに、イオラの口封じに走ってもおかしくないな」
「御年六〇〇歳と少し。数百年の人生を経た錬金術師が作り上げた研究の産物なんて、魔法族の叡智の塊そのもので、想像もつかないよ」
天を仰いだアクラムが、乾いた笑い声をあげる。
それを聞いていたハーミスは、真剣な顔で「これで決まりだね」と言った。
「あの禁じられた部屋には、僕たちが想像もつかないようなニコラス・フラメルの宝がある。ハグリッドの言った通り、僕たちはあの部屋に関わるべきじゃなかったんだ。きっと、あの宝を狙ってるのはスネイプだけじゃない。世界中の悪い魔法使いだよ」
「つまり、ハグリッドの言う通り、あたしたちは関わらない方がいいってこと? そんなすごいお宝があるのに? だったら、なおさらその宝を守るために、あたしたちがどうにかすべきじゃないの?」
ハティは勇敢なロニーの発言に、頭を振った。
「どうにもできないから、このホグワーツで守ってるのかもね。だって、グリンゴッツだってこの夏に盗みに入られたわけでしょ。だけど、ここなら大人の悪い魔法使いは入ってこられない。この城に入れるのは、子どもだけだもの」
生徒の親でさえ容易に立ち入ることの許されないこの城は、ある意味で堅牢な砦といってもいい。それを見越して、ダンブルドアもニコラス・フラメルの宝を隠したのかもしれない、とハティは思った。
しかし同時に、ハティはこうも考えた。この仮定が真実ならば、逆に考えると、教授の中に宝を狙う犯人がいるかもしれない、と。
ありえない妄想かもしれないが、ハーミスたちもその可能性に思い至ったのか、深刻な顔をしてハティを見た。そして、ハティの考えていることを察したのか、ヒューが口を開いた。
「あのさあ、このことは忘れようぜ。多分、ハグリッドが言う通り、俺たちが関わるべきじゃない。現に、イオラは命を狙われた。次は箒から叩き落とすだけでは済まないかもしれない」
「そうだね、僕もその方がいいと思う」
ぽつり、とハーミスが独り言のように言った。そして、再び思案するように黙り込んでしまった。
ロニーはそんな少年二人に心底不満そうに頬を膨らませ、眦を吊り上げた。
「あんたたちって、どうしてそう臆病なの。ハティの命が狙われたからこそ、スネイプをどうにかすべきでしょ。戦うんだよ!」
「どうやって? そもそも、スネイプが犯人って決まったわけじゃないよね。あの禁じられた部屋が関わっていて、命を狙われたのかどうかもわからないし、一番俺たちにとって恐ろしいのは、犯人が誰かわからないことだよ。君、大人の魔法使いに勝てる自信ある?」
アクラムは辛辣な口調で答え、そのブルーの瞳に冷たい光を宿して、ロニーを睨めつけた。それ以上何も言うなと言わんばかりの冷淡な眼差しに、ロニーはうめき声をあげ、苛立ちと口惜しさをあらわに地団駄を踏んだ。
「ハティは? ハティはどう思ってるの?」
「ただの子どもの冒険で済みそうにないし、やめた方がいいかもね。それよりも、お城の探検の方が楽しそうじゃない?」
ハティはにやっと笑って答えた。しかし、ロニーは激しく赤毛を揺すって、不満をあらわに叫んだ。
「ぜんっぜん、楽しくないよ!」
合理的で現実的なレイヴンクロー気質が多いのでグリフィンドールの意見は却下されました